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第82話 神の因子

前回までのライブ配信。


セーラが養成所にやってきた夜、アイリスはマリカや視聴者とともにセーラが猛獣を倒すための対策会議を行った。


翌日、訓練中にカクギスがやってくる。彼はアイリスたちの居る養成所に転属することになったと話した。その後、話の流れでカクギスはルキヴィスと試合をすることになる。


試合はルキヴィスの勝利に終わり、養成所に居た他の剣闘士たちもざわめくのだった。

 ルキヴィス先生がカクギスさんに勝利した。


 いくら先生とはいえ、あのカクギスさんに実力差を見せて勝つとは思ってなかった。

 周りのざわつきはかなり広がっている。


「おいおい、何者だよ。先生様よぉ」


 ゲオルギウスさんが半笑いでルキヴィス先生に声を掛けた。


「先生だからな。お前らに格好良い姿を見せたいのさ」


「言ってろ」


 2人はしばらく笑いあっていた。


「クックック。完敗とはな」


 カクギスさんが顔を上げる。


隻手(せきしゅ)(かせ)と言ったのは間違いだったな。撤回させてもらおう」


「誤解が解けて何よりだ。これで仲直りだな」


「直す仲どころか初対面であろう?」


「確かにな。じゃあこれからよろしくか」


「クク、そうなるな。俺はカクギスという。今日からここで世話になるつもりだ。お主は訓練士でいいのか?」


「ああ。ルキヴィスだ。そっちのクルストゥスも訓練士だな。魔術専門だが」


 クルストゥス先生も交えて、3人は簡単な挨拶を済ませた。


「で、だ。マクシミリアスが魔術無効(アンチマジック)を使ったことがないというのは確かなんだな?」


「人づてに聞いた限りではな。皆、『不殺』の弱点は魔術無効(アンチマジック)が使えないことだと噂しておる。筆頭を狙ってる者の間では有名な話だ」


「そういうことか。なるほどな」


「お主は『不殺』が魔術無効(アンチマジック)を使えることを知っているのだな?」


「ああ。って俺がバラすのは不味いか」


 ルキヴィス先生は全く悪いと思ってない風にヘラヘラと笑った。


「あれ? でも、この間の第八席のメッサーラさんとの戦いでは風を無効化してませんでしたか?」


「その戦いは私も見ていました。『魔術で風を起こせた』、それ自体が魔術を無効にしてない証拠です。魔術無効(アンチマジック)を使われると風そのものが起こせないでしょう」


「――そういえばそうですね」


「一応、それも説明しておくか。話が込み入っちまうが仕方ない。――おい! お前らは先に練習始めておけ。カエソーはマリカと組め!」


「分かったぜー」


「え゛」


 ゲオルギウスさんが片手を挙げて答える。

 嫌そうな声はマリカだ。


「それでマクシミリアスの風の無効化の話だがな。説明が難しいんだが、勝手に発動する魔術みたいなもんだ。あいつには風の魔術は効かない。どんな強風でもあいつの周りでは全てが弱い風になる」


「ほお」


「え、なんですかそれ」


「私も初めて聞きました。それは魔術ですか?」


 クルストゥス先生が身を乗り出した。


「たぶんな。はっきりとは――」


「ぬ、待て。その魔術、身に覚えがある」


 カクギスさんがボクを鋭く見た。

 ――あ。


 その視線で思い出す。

 ケライノ。

 ハルピュイアのケライノ。

 黒雲と言われる翼の生えた神、もしくは神に近い存在。


「ボクもそれに近い現象を見たことあります。ハルピュイアのケライノさんと戦ってるときに突風の魔術を使っても風の勢いを消されました」


「あ奴が激昂(げきこう)していたときだったか」


「そうです」


 確か空中でカクギスさんが翼を切ったあとのことだ。

 突風の魔術をケライノさんに向けたのに彼女の近くで風そのものの勢いが消えた。


「――まさかとは思いますが、ケライノというのは虹の女神イリス様の妹のことですか?」


「はい。はっきりと姉妹ということは聞いてませんけど、虹の女神のことは聞かれました」


 クルストゥス先生は絶句していた。

 ルキヴィス先生は特に驚いてないので、ミカエル繋がりでレンさんにでも聞いたかな?


「――ちょっと待ってください。虹の女神のことを聞かれた? まさか話したのですか」


「話しました。カクギスさんとボクとで彼女を倒してしまったあと、彼女が回復してから少しだけ。ユーピテル様には自分が傷つけられたことを言わないでおいてくれるみたいです」


「た、倒した……」


 クルストゥス先生は頭を抱える。


「倒しちまったものはしょうがない。本題に戻すぞ。そのケライノがマクシミリアスと似たことをしたって話だったな」


「そうです」


「思い当たる節がないわけじゃあない」


「ほう。今の話から思い当たる節があると。お主、ケライノは知っておるのか?」


「いや、神話(おとぎばなし)でしか聞いたことがないな」


「となると『思い当たる節』というのは限られてくるのお」


 カクギスさんは片目を閉じた。


「限られてくる、ですか?」


「人がその魔術を使える何らかの方法か条件がある。もしくは『不殺』が神に準ずる存在だということだ。ルキヴィス、お主は勝手に発動する魔術を使う方法を知っておるのか?」


 鋭い視線でカクギスさんがルキヴィス先生を見る。


「いや、俺は方法を知らないし使えもしない。使える奴を知ってる程度さ」


 微笑みながら先生は言った。


「であれば答えは絞られるぞ。普通の人間がその条件を満たすことは可能か?」


「難しいだろうな」


 先生の答えにカクギスさんは口角を上げた。


「『不殺』は神に準ずる存在か」


「おっと。残念ながらこれ以上は師匠たちに話すなと言われていてね」


「え、それってどういう――」


「お主の師もまた神か神に準ずるものということか。クク、その強さも道理よの」


「残念だな。それも話すなと言われている」


 は、話に付いていけてない。

 先生は笑っているだけし。


 ≫『話すなと言われている』が肯定の意味です≫

 ≫つまりカクギス氏の話を肯定した訳ですね≫


 えーと、どういうことだろう?


 カクギスさんの話を認めるということは、マクシミリアスさんやルキヴィス先生の『師匠たち』が神とか神に準ずる存在となる、でいいのかな?


 ――ちょっと待って。

 師匠が神って。


 ≫そこまで話を誘導した感じもしますけどね≫

 ≫ん? 丁寧語か?≫

 ≫はい。丁寧語です≫

 ≫丁寧語、お前生きていたのか!≫

 ≫丁寧語氏来た! これで勝つる!≫


 ――先生の師匠たちのことはとりあえず保留しておこう。

 それにしても丁寧語さん人気だな。

 ボクもコメントしてくれて嬉しいけど。


 気持ちの切り替えが出来たからか、余裕が出てきた。


「一つ聞いていいですか? その神に準ずる存在というものはローマにそれなりに存在しているんでしょうか?」


「ふむ。それを聞くということは、お主は神に準ずる存在に心当たりでもあるのか?」


「はい。あまり大きな声では言えませんが、あそこにいるマリカがそうかも知れません。彼女はケライノさんと同じような魔術の光が身体全体に見えます」


「なに、マリカが」


 今日、初めてルキヴィス先生が驚いた様子を見せた。


「彼女本人にも話してみましたけど、心当たりはないみたいですね」


「他にはいるのか?」


 ボクは後ろにいるセーラさんを少し見る。


「反乱軍を拘留所(こうりゅうじょ)に連れていくとき、襲われた話はしましたよね? カクギスさんにはしてませんけど」


「はい、確かに聞きました」


 クルストゥス先生が頷く。


「そのとき、セーラさんにすら危害を加えてきた人たちがいました。人数は数十人は居て、全員がパロスの下位くらいの強さを持っていたと思います。カエソーさんと同じかそれ以上ですね」


 反乱で2度戦った18位の人よりは強くなかった。

 でも、カエソーさんよりは強い。

 彼らの強さはそんな感じだと思う。


「セーラを襲ったか。残党とは考えにくいな」


「パロスの下位レベルってのは、剣闘士以外にそんなに居るものなのか?」


 ルキヴィス先生がクルストゥス先生とカクギスさんを交互に見た。


「すぐに思いつくのは親衛隊ですね。表に出せないような隊もあると聞きます」


「ふむ。俺も聞いたことはある」


 カクギスさんが頷いた。


「他にも軍関係なら思い当たりますが、さすがに親衛隊と敵対する真似はしないかと。下手をすると内戦になります」


「お主、クルストゥスと言ったか。えらく軍の内情に詳しいな」


「父が皇帝専属の占い師ですので、いろいろな情報は集まってきますし、私がお手伝いすることもあります。言えないことも多いですが」


「ほう。アイリス、(まこと)にお主は愉快(ゆかい)よの」


 え?

 なんでボク?


「結局、アイリスを襲ったその光ってる奴らに心当たりはないということでいいのか?」


 ルキヴィス先生がクルストゥス先生に聞いた。


「いえ、1つだけ心当たりがあります。私も噂レベルでしか知らないのですが……」


「焦らすのが上手いな、クルストゥス」


「焦らしてるつもりはありません。ただ、確証がなさすぎて、迷ってるというか」


 ≫俺も気になってきたw≫

 ≫はよはよ!≫


「いいから怪しい話含めて知ってることを洗いざらい話せ。不正確なのは承知の上だ」


「――分かりました。ローマだけの話ではないんですが、『(はち)』と呼ばれている暗殺集団の噂があります」


「蜂か。耳にしたことはないな」


 カクギスさんが太い腕を組む。


「親衛隊内部でのみ呼ばれている名称です。一般には知られていません」


 クルストゥス先生が語るには、彼らは報酬で殺人を請け負う集団なのだと言う。


 歴史は少なくとも100年以上、数は不明だけど少なくとも百人以上、これまでに親衛隊が疑わしい何人かを捕らえ、その中に市民権を持つものはいなかったという。


 他にも、集団の1人1人が魔術を使える。

 1人だけでも親衛隊員よりも強いと見なされているため、それらしい人物と遭遇したら単独行動せずに隊で対処するようにしろと言われているらしい。


 しかし、捕らえた『蜂』のメンバーは口が堅く、全貌どころかほとんどは推測となっている。

 『蜂』という名前も暗殺を依頼をした貴族から聞き出したものらしい。


「なるほどな。そいつらとアイリスがやりあった可能性があるのか。臭いっちゃー臭いな。どう思う?」


 ルキヴィス先生がボクに話を振ってきた。


「1人1人が強かったのは間違いないです。人に危害を加えるのに慣れてそうでしたし、連携も出来てました。撤退のタイミングも良かったので人を襲うことを仕事にしていてもおかしくありません」


 ただ、暗殺集団ということであれば気になることもある。


「彼らがその『蜂』だとすると誰が暗殺依頼を出したんでしょうか。ボクはもちろんセーラさんも狙ったとなると――」


 そこまで言い掛けてすぐに思い当たる。

 皇妃しかいない。

 ケライノさんも皇妃に気をつけろと暗に言っていたし、ボクを襲った怪物のことも気になる。


「俺も同じ人物を思い浮かべた。皇妃だろ」


「そんなところです」


 一応、濁しておく。


「なにゆえ皇妃が出てくる?」


「アイリスは皇妃から恨まれてるからな。剣奴にしたのも無理に討伐軍に参加させたのも皇妃様さ」


「ほう」


「エレオティティア皇妃は世の中が自分の思い通りになるものと思っていますからね。ことごとく思い通りにならないアイリスさんの存在をどれほど(うと)んでいるか……。現在の心中(しんちゅう)は想像したくもありません」


 クルストゥス先生がとんでもないことを呟く。


「いずれまたアイリスの元に暗殺集団が差し向けられるってことか。今のところはそういう気配はないんだよな?」


「ありません」


「仮に皇妃がアイリスの暗殺を依頼していたとしよう。そして失敗した。さて、話はそれで終わるか?」


「終わらんな。機会を(うかが)い隙を待つか、十分な戦力で殺しにくるのが妥当かの」


「そんな妥当は嫌なんですけど……」


「今まで通り経験の(かて)にしてやればいいのさ。ところで、カクギス。今日からこの養成所なんだよな?」


「そうだが、ここに泊まれというのは無理な話だぞ。娘がおってな」


「娘? 結婚してるのか?」


「いや、養女だ。俺も至る所で恨みを買っていてな。家を空ける訳にもいかん」


「そうか。なら仕方ないな」


「横からすみません。もしかして、カクギスさんにボクの護衛をしてもらう方向で話を進めてました?」


「ああ。さすがのアイリスも寝込みを襲われた上にセーラを守りながら戦うのは難しいだろう。マリカもいるしな」


 ≫すみません。1つ確認したいことがあります≫

 ≫皇妃が筆頭に頼み事できるか聞いてください≫


 丁寧語さんかな?

 その後もコメントは続いた。


 彼によるとボクが襲われる可能性が高いのは闘技大会後の夜だと言う。


 ボクを襲うときに特別試合で疲れ切っていたり、怪我をしていれば都合がいいからだ。

 それをマクシミリアスさんに頼むのではないかという話だ。


 なるほど、十分にあり得る。


「ひとつ質問があります。皇妃ってマクシミリアスさんに何か頼めたりしますか?」


「さあな。クルストゥス、どうだ?」


「アーネス殿下の剣を教えている関係から頼むことは出来ると思いますよ。皇妃の頼みであれば断るのは難しいでしょうね」


「そうですか。ありがとうございます」


「何ゆえ、そのような問いをした? 意図が読めん」


 カクギスさんが片目を閉じてボクを見てきた。


「理由を説明します」


 ボクは丁寧語さんの考えをそのまま伝える。


「そういえば、お主は計略の看破(かんぱ)も得意なのであったな」


 彼は一瞬だけセーラさんを見た。


「そういうことなら、私が皇妃の付き人にそれとなく聞いておきます」


 皇妃の付き人か。

 ユミルさんのことかな?

 ボクは皇妃に付き従っていた老紳士のことを思い出す。


「助かります。クルストゥス先生の立場が悪くならないように気をつけてください」


「ありがとうございます」


「闘技大会までの護衛は――、こっちで考えさせてくれ」


 こっち?

 嫌な予感がする。

 ルキヴィス先生のこっちというのはミカエルしかない。


「こっちってどっちですか? もうあの人に借りを作りたくないんですけど」


「ほう。珍しく感情が(あら)わだな」


「ひどい目に遭わされかけたので」


「あいつもそれを帳消しにしようとしてるんだろうよ。何をどこまで考えてるかまでは分からないが」


「死んでしまったら元の子もないので助けを借りておくのも手だとは思いますよ。もちろん、私たちが助けられるのなら助けます。しかし、私たちでは力及ばずということも当然出てくるでしょう」


 クルストゥス先生の落ち着いた声を聞いていたら、少しだけ憤りも収まってきた。


「すみません。気を使わせてしまって。それに十分助かっています。少し時間をください。明日まで何も思いつかなかったら任せます」


「ふむ。話が込み入ってるな。仕方ない。お主らのどちらかが責任を持って俺の娘を預かってくれるというのであれば、ここに泊まることも(いと)わんぞ」


 カクギスさんがそう言うと、ルキヴィス先生とクルストゥス先生は互いに目を合わせる。


「それは助かる。が、俺は無理だな。ただでさえ居候(いそうろう)の身だ」


「私の方は大丈夫だと思います。カーネディアに頼めば問題も少ないでしょう」


「カーネディアというのは?」


「私が信頼している奴隷です。重要なことを任せられる人物ですよ」


「ボクもカーネディアさんとは仲良くさせてもらっています」


「ふむ」


 カクギスさんはじっとクルストゥス先生とボクを見た。


「問題はなさそうだな。俺に恨みを持った人間がやってきたらどうする?」


「別邸とはいえ皇宮内です。賊の数人くらいは問題ありません。念のため秘密裏に来ていただければ問題が起きる可能性は更に減るでしょう。失礼ですがお嬢様はローマ市民ですか?」


「俺も娘もローマ市民だ」


「それなら全く問題はなさそうですね。明日の昼に手続きを済ませ夜には滞在できるようにしましょう」


「ああ。よろしく頼む」


 こうして、明日からカクギスさんも養成所で暮らすことになった。

 今日の夜は、ボクが徹夜すればいいと思う。

 久しぶりにボク1人でじっくり視聴者の人たちと話しておきたいし。


「よし、方向性は決まったな。お前ら! 一旦休め!」


 ルキヴィス先生がマリカたちに声を掛ける。

 そうか、訓練中だったな。

 ボクは気持ちを切り替える。


 さて、今日のカエソーさんの指導はどうしよう。

 カクギスさんも参加してくれれば、セーラさんの魔術の練習もできるんだけど。


 そう思ってカクギスさんに頼んでみたところ(こころよ)く引き受けてくれた。


 ちゃんと目を閉じて攻撃側の『支点』を見極める練習に付き合ってくれている。

 さすがに実力差がものすごいけど。


 これでボクはセーラさんの魔術の練習に集中できる。


 まずは、氷結の魔術の確認だ。

 氷にするための水は創水の魔術で作ることが出来るので、それを使って練習して貰った。


 セーラさんは今のところ話せないけど、水を氷にすることは出来るようだ。

 ただ、逃がした熱をコントロールすることは何度説明してみても出来なかった。


 ボクは言葉による説明はあきらめて、逃がす熱の方向をコントロールしたくなるような練習に切り替えた。


 具体的には、楯2個を繋げてから風力で浮かせ、片方の楯だけに水を入れるとかしてみた。

 こうすれば熱をもう片方の楯に逃がさないと氷にできない。


「あの楯に水が入ってるの分かる?」


 セーラさんは頷いたりはしないけど、ボクが話すと関係する場所に視線だけは向けてくれる。


「楯の中の水を氷にできる?」


 魔術を使うことになると工夫は出来るみたいだ。

 最初は楯の中の水を凍らせることは出来なかったけど、しばらくすると片方の楯からもう片方の楯に熱を逃がすことで水を氷にすることが出来た。


 こういう工夫を繰り返して、なんとか逃がす熱に方向性を持たせることだけは覚えて貰った。


 教えるのは教えるので難しいな。

 セーラさんも疲れてきたみたいなので、一旦休んで貰う。


 カクギスさんとカエソーさんの練習を見に行こうとしたとき、養成所の入り口の方が騒がしくなっていた。


 なんだろう?

 ふと意識を向ける。


 ――え。


 ボクは立ちすくんでしまった。

 大きな身体が何人かを引きずりながら歩いていた。

 まるで岩のような肉体だ。


 何より、その肉体が輝いている。

 あのケライノさんのような魔術の光だ。

 輝きはマリカよりも強い。

 マリカが月の明るさだとすると、あれは太陽だ。


 すぐに暗殺集団の可能性に思い当たる。

 鳥肌が立ち、ボクは身構えた。


 構えると同時にそれと目が合う。

 遠くからでも分かる張り付いた強烈な笑顔。


 その強烈な笑顔が向きを変えた。

 こちらに向かって歩いてくる。

 養成所の職員の人たちが何か言いながら止めようとしてるけど、引き倒しながらこっちにくる。


「――な。『闘神』ゼルディウス」


 ゲオルギウスさんが呟いた声が聞こえた。

 異常な状況に、全員が手を止めその人物を見ている。


「とう、しん……?」


 どこかで聞いたことがある。


「知らぬのか? 次席の『闘神』ゼルディウスを。ともあれ、奴めもお主のことが気になると見える」


 ゆったりと歩いてくる巨体は、魔術の光もあって揺らめいてみえた。

 ボクは身体が固まったままそれが近づいてくるのを見ていることしか出来なかった。

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