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第79話 対戦表

前回までのライブ配信。


アイリスがローマに帰ってきてから3日経ち凱旋式も終わった。凱旋式中、カトーの策略によってアイリスは筆頭マクシミリアスと特別試合を行うことになる。


凱旋式の翌日、反乱が一区切りついたことで、養成所での訓練も再開されていた。アイリスの成長を確認するためもあり剣闘士の上位であるカエソーと戦うが瞬殺する。


訓練中、付き人の診察のためにフィリップスがやってくる。そこにセーラも居る。セーラは猛獣と戦う処刑方法に決まり、最低限の戦い方をアイリスが教えることになったという。それを聞いたアイリスはセーラが猛獣を倒してしまってもいいのかと聞くのだった。

 セーラさんが猛獣を倒す許可は貰った。

 でも、その後が良くない。

 部屋がシーンと静まり返っている。

 ボクは間を持たせるためにナッタさんの診察をすることにした。


 彼の体内を丁寧に診ていく。

 首席副官――フィリップスさんを始め、全員がボクに注目しているのが分かった。

 そんな様子の中、セーラさんが小走りで近づいてきてボクの後ろに隠れる。


 診察を止めて、彼女の顔を見た。

 言葉はもちろん、表情に変化もないので何を思ってボクの傍に来たのかは分からない。


 ≫アイリスにママみ感じたのかな?≫

 ≫セーラちゃんていくつ?≫

 ≫20前半とか言ってなかったか?≫

 ≫えっ、アイリスより年上じゃん!≫

 ≫年下ママ……、バブみ……。ありだな!≫


 『あり』の意味が分からない……。

 もう1度集中してナッタさんを診察し、問題ないことが確認できた。

 変な空気もマシになってきている気がする。


「傷口が開いたりはしてないみたいです。回復してきてると思います」


 ≫そういやセーラはどうすんだ?≫

 ≫確かにどうやって勝たせるつもりだ?≫

 ≫ライオンとかに武器なしで勝てるのか?≫

 ≫昨日話してた、水を凍らせる魔術使うんだろ≫

 ≫闘技場に水なんてないぞ≫


 コメントではセーラさんが猛獣にどうやって勝つのかの話が活発になってきた。

 ボクが彼女を勝たせると宣言した本人なんだからちゃんと考えないと。


「どうした?」


「すみません。少し考え事を」


 ぼーっとしてるように見えたのか、首席副――フィリップスさんが声を掛けてきた。


「1つ言っておくが、ローマはローマの敵を許すことはない。そのことをよく考えて行動するんだな」


 ≫クレメンティアはどうしたw≫

 ≫つまり、どういうことだってばよ?≫

 ≫セーラにあんまり肩入れするなってことだろ≫

 ≫アイリスを心配してるんだろ。回りくどい≫


 なるほど。

 フィリップスさんらしいな。


「心配してくれてありがとうございます。よく考えてみます」


「し、心配などではない。――警告だ」


 ≫ツンデレキター(棒)≫

 ≫ツンデレのテンプレ≫

 ≫ツンデレとテンプレって似てね?≫


 その後、カトー議員からボクへの伝言について聞かされた。

 伝言の内容は「筆頭との戦いでは全力で魔術を使え」だ。


 女性が凱旋式に参加して英雄扱いだったことは、後に必ず反発されるらしい。

 だから反発の前にぶちかましておくとのことだ。


 でもこれってカトー議員は最初から反発になることを予測してたよね?

 それをボクに伝えずに英雄に仕立て上げたということか。

 彼に対して不信感が湧くな。


 この様子だと、魔術を全力で使ったら使ったで別の問題の火種になるんじゃないだろうか。

 分かってても、言うとおりにするしかないんだけど。


「分かりましたと伝えてください」


「伝えておこう。話は変わるが、次の闘技大会にロックスも出場することになった」


「――ロックス? 誰ですか?」


「忘れたのか?」


 フィリップスさんが視線だけを動かして周りを見渡した。


「スパイとして活躍してくれた彼だ」


「すみません。名前初めて知りました」


 反乱軍を裏切ってセーラさんのこととか話してくれた30代半ばの人だ。

 ロックスって名前だったのか。

 確かに彼は剣闘士なので出場することになってもおかしくない。


「では、また明日な」


「はい。お気をつけて」


 彼らを見送って、ボクはセーラさんを連れて訓練場に戻った。


「誰だよ、その綺麗なねーちゃんは」


 戻るなりゲオルギウスさんが声を掛けてきた。


「シャザードさんの従姉妹です。ボクが預かることになりました」


「え? 預かるって? 新しい剣闘士ってこと?」


 マリカが焦ったように話す。


「剣闘士って言えるかどうかは分からないけど、彼女が武器なしで猛獣と戦うことになってさ。それでボクが最低限の立ち回りを教えることになった感じかな」


「そういう刑罰があるってのは聞いたことあるけど……」


 マリカはセーラさんに気の毒そうな表情を向けた。


「任されたからには、彼女が助かるようにはするつもり。あと、彼女について皆さんに伝えておきたいことがあります」


 ボクは彼女に不幸が重なって話したり感情を出すことが出来なくなってしまっていることを伝える。


 それから、彼女がシャザードさんの従姉妹であることを周りに話すことと、シャザードさんを快く思ってなかった人の名前と特徴を教えてくれるようにお願いした。


「危害を加えそうな奴を事前に絞り込んでおくのか」


 ルキヴィス先生の言葉にボクは頷いた。


「なるほどな。確かに世話になったシャザードさんの従姉妹にゃ手は出せないか」


「なるべくボクが一緒にいるつもりですけど、目を離すときがあるかも知れませんから」


「それなら今ここで養成所の人間全員を魔術で驚かせてやったらどうだ? 竜巻みたいなの使えるって聞いてるぞ?」


「竜巻ですか!」


 ルキヴィス先生の話でクルストゥス先生が興奮し始めた。


「あれを使うと養成所全体に被害があると思いますので……」


「それほどまでの……いや、竜巻ならば妥当な威力というところですか」


「竜巻とは少し原理が違うので旋風の魔術と呼んでます」


 名前にこだわっているわけじゃないけど、クルストゥス先生のような研究者っぽい人には正確に言っておいた方がいいよね?

 するとすぐに、竜巻と旋風の違いについて目を輝かせて聞いてくる。


「あ、あとで説明します。そう言えばセーラさんは水を氷にするような魔術が使えます。クルストゥス先生はご存じですか?」


「水を氷にするというと凍結の魔術ですね。あまり使える者がおらず貴重な魔術です。私も水面に薄い氷の膜を作る程度はできます」


「先生も使えるんですね」


「私のやり方が正規の方法がどうかは分かりませんけどね」


「そうなんですか。ところで、凍結の魔術を戦闘行為で使うって話は聞いたことあります?」


「あまり聞いたことないですね。第八席の『魔術師』メッサーラが使っているのを見るくらいです。普通は食事や飲み物に入れる氷に使います。この魔術を使える奴隷は高価だと聞きますね」


 ≫奴隷を製氷機代わりにするってことか≫

 ≫古代ローマの奴隷は家電って言う人もいるな≫


 そういえば氷はメッサーラさんが使っていたな。

 空気中の水蒸気を水にして、それを更に氷にしたんだろうけど。

 ただ、あれはやることが複雑すぎてセーラさんには使えないと思う。


 そこまで考えて、マリカなら空気から水分だけを取り出すことは出来るんじゃないかと思いつく。

 水蒸気はH2Oだ。

 酸素原子が含まれているから酸素の魔術に特化した彼女ならいけるかも知れない。


「マリカ。ちょっと試して貰いたい魔術があるんだけどいい?」


「いいよ。どんなの?」


「空気から水だけを集めてもらえるかな? 具体的には――」


 酸素原子1個だけが使われている気体を集めて貰うようにお願いした。

 お願いの途中でマリカに質問する振りをして、視聴者に水蒸気の割合を聞いてみる。


 すると2%くらいだろうとのことだった。

 大体0%から4%で、10月のローマだと2%前後くらいらしい。

 2%の場合、1辺が1mの立方体に約10gの水が含まれているとも教えて貰った。


 話が終わるとすぐにマリカが水分子を探し始める。


「――1個だけ1個だけ。あ、これかな」


 マリカは魔術の範囲を一気に広げた。

 最初は水蒸気を集めるのに苦労していたみたいだけど、急に集める速度があがった。

 何かコツを掴んだんだろうか?

 そのまま一気に圧縮する。


 すぐに彼女の頭上に霧が現れ、一瞬だけの土砂降りとなってマリカを濡らした。


 シャツが濡れて肌に張り付き、透けてこそいないけど、ボディラインやブラやパンツの線がはっきりと分かる。


 ≫スクショスクショスクショスクショ!≫

 ≫これは良いものだ……≫

 ≫こういうのでいいんだよなあ≫


 何がだよ!

 心で突っ込みながら左目を閉じる。

 阿鼻叫喚なコメントが見えるけどスルーだ。


 身体を隠そうとしないで周りを睨んで威嚇してるのがマリカらしい。


「着替えてきた方がいいよ」


「そうする」


 それにしてもすごい水の量だった。

 1辺が10mとしても体積は1mのときの千倍だもんな。

 10gの千倍だから10kg相当の水だ。


 マリカの魔術の範囲はもっと広いからかなりの水を集めたんだろう。


「あれほどの量の水を一瞬で生み出すというのは初めて見ました。何をアドバイスしたんですか?」


「水には酸素の成分が含まれています。それをマリカに伝えました」


「水の中にサンソが……。ちょっと待ってください。混乱してきました」


「クルストゥス。もしかして四元素の枠組みで解釈しようとしてるんじゃないか?」


「ええ。(まず)かったでしょうか?」


「考え方に良い悪いはない。ただ、混ぜない方が理解しやすいものはあるだろうな」


「――そうですね」


 クルストゥス先生がそう言って笑った。


「ところでアイリスは水出せないのか?」


 ゲオルギウスさんが聞いていた。


 ≫はいはーい出せると思いまーす≫

 ≫水(意味深)≫

 ≫お前らの下ネタ反応速度w≫


「難しいですね。空気の中から水だけを見つけられません。マリカは特別です」


 そもそも、マリカは酸素と窒素との区別が付くのがおかしい。

 あ、でもよく考えたら窒素より水の分子の方が見つけやすいんじゃないだろうか。


「なんにせよ、ボクにとって一番優先順位が高いのはセーラさんですね」


 それから、しばらくセーラさんがどうやったら勝てるかを話し合った。

 視聴者のコメントでもいくつか案が出るので、それをボクが拾って話す。


 猛獣の足に抱きついて凍らせるとか、髪を濡らしてそれを凍らせて突き刺すとかいろいろなアイデアが出る。


 使えそうなアイデアとしては、目や鼻や口などの表に出てる粘膜部分を凍らせるというものもあった。


 確かに十勝みたいな寒いところでは目が凍るという話を聞いたことがある。

 目が凍ると、中に何か入ったような異物感があるらしいから、時間稼ぎくらいには使えるかも知れない。


「しっかし、よくそんなに次から次に思いつくな」


 呆れながらゲオルギウスさんが言った。


「いえ、あはは」


 アイデアを出しているのはボクじゃないので笑ってごまかしておく。

 その後もコメントでは、いろいろアイデアが出ていた。


 ただ、さすがに尽きてきたのか今のセーラさんが使えるかどうか分からないようなものが多い。

 猛獣に冷風を吹きかけて弱らせるみたいなものとか。


「アイリス劇場だな」


「魔術の専門家として居るのに申し訳ない」


「ま、俺たちじゃ無理だな。そもそも普通の魔術すらまともに使えないんだからよ」


 ボクも思いつけてないんだけど。


「何この空気。どうしたの?」


 マリカが着替えから戻ってきた。


 彼女に話し合いの内容を簡単に説明する。

 すると「それなら私たちで一晩考えてくるよ、ねっ」とボクに向かってウインクしてきた。


 ウインクは正確にはボクの左目の向こうにいる視聴者に向けてだと思う。

 コメントは大盛り上がりになっていた。


「それがいいな。クルストゥスは自主的に考えてきそうだが」


「分かりますか」


 2人が仲良くなったのが伝わってくるやり取りになんだか嬉しくなる。


「この話はここまでだな。さて、アイリスは俺と戦って貰うか」


「――え?」


「目を覚ますにはちょうどいいだろ」


「いや、そんな。いきなり――」


 心の準備が出来てない。

 でも、考えてみると心の準備なんて必要だろうか。

 戦うなら早めに戦った方がいいだろうし。


「――分かりました」


 覚悟が決まってそう言うと、ルキヴィス先生の口角(こうかく)が上がった。

 ボクも釣られて鋭くにやけてしまう。

 先生との間に、良い感じに張りつめた空気が漂い始めた。


能動的(アクティブ)な魔術はなしな」


「はい」


 ルキヴィス先生は木剣を取り、右手で持った。

 左腕に盾は付けずに片手だけで戦うみたいだ。

 右手だけで戦う先生に勝てなければ筆頭に勝てるはずもないか。


「じゃ、やるぞ」


 開始の合図と共に、先生がすっと前に出てくる。

 ボクは木剣を両手で構えていた。


 目前に迫る先生に思わず手を出したくなる。

 ボクは先生から攻撃の気配があるまで我慢する。

 でも最後まで攻撃はない。


 ぶつかる――と思った瞬間に先生はいなくなった。

 衝撃に耐えようと思ったボクは硬直してしまっている。

 直後に右から攻撃の気配が見えた。


 すぐに膝の力を抜いて回避した。

 回避直後に硬直が解けたので、倒れながら先生の胴体に木剣を向ける。

 先生はそれを木剣で受け止めた。


 ボクは地面を転がる勢いですぐに体勢を建て直す。

 硬直するのはマズい。

 もっと軽く、軽く。

 胸の重みを意識して力を抜いていく。


 先生は次も同じようにボクの方に歩み寄ってくる。

 今度は先生がぶつかる瞬間も力を抜くことが出来て、何歩か後ろに歩いただけだ。


 すぐに先生の追撃。

 重心の前に剣を置いて捌く。

 先生の速さはシャザードさんかそれ以上だけど、これなら大丈夫だ。

 すると、先生は左右に自在に動き始めた。


 動きながら攻撃してくる。

 攻撃を受けたと思うと、次の瞬間には別の場所に居る。

 攻撃する瞬間は分かるけど、素早い左右の動きに惑わされて重心の前で受けることも失敗し始めた。


 余裕がなくなり先生の姿も見失う。

 ただ、攻撃の兆しが分かるのでギリギリ防げてるにすぎない。


 このままだと追いつめられる。

 ボクは攻撃を受けながら、更に自分の力を抜いていった。

 重心の前に剣を置きつつ、受けるのに失敗する瞬間を待つ。


 そして、攻撃を重心の前で受けるのが間に合わずに剣が弾かれた

 その弾かれた勢いを利用して、片手で木剣を回し先生を攻撃する。


 ボクがカクギスさんに負けたときの技を見よう見まねで再現した。

 ただ、その攻撃は先生の木剣によって受け止められる。


 そして、いつの間にか先生の木剣がボクの喉元に触れていた。


「――降参です」


 ボクはなんとかそれだけ言うと、木剣を手放し地面に落とす。


「こんな感じか。それにしてもよくここまで強くなったな。結構、死線くぐったんじゃないか? シャザードにくっついてた9位の奴より遙かに強い」


 ルキヴィス先生はそう言ってボクから離れる。

 9位ってセルムさんか。

 そういえば彼はどうしたんだろう。

 捕まったのかな?


「おい、何やってるかさっぱりだったんだが……」


「私だって分からなかったよ……」


 ゲオルギウスさんとマリカがつぶやいたの聞こえた。


「そうか。でも分かるくらいはしてやれるぞ。努力次第では対処出来るようにもなる。そのために俺が居るんだしな。おっと、カエソーはアイリスに教えて貰えよ」


「ちょ、それって少なくとも9位並になれるってことに聞こえるんだけど」


「かなりざっくり言うとそうなるな」


 マリカの問いに先生が答えると周りの空気が変わった。


「……お、俺も?」


 フゴさんが興奮気味にルキヴィス先生の元に足を踏み出す。


「もちろんだ」


「……マジかよ」


 そう言ったのはゲオルギウスさんだった。

 興奮してるのか手が震えている。


「ところでアイリス。風以外の魔術は何が使えるんだ?」


 ルキヴィス先生がボクに話を振ってきた。


「風以外ですか? 水を二方向に吹き飛ばすこと電気、あとは空気を圧縮して熱くすることは出来ます」


「水を二方向に吹き飛ばす? どういうことだ?」


 ボクは川をせき止めたり、勢いよく噴射したり出来ることを説明した。


「さっきマリカがやったみたいに水を生み出すことは無理なんだよな?」


「はい」


「そうか。あのくらいの量の水を勢いよくぶつけられれば一泡吹かせられるんだがな」


「一泡ですか? それってマクシミリアスさんに一泡ってことですよね?」


「ん? ああ」


 先生はどうしてそれがマクシミリアスさんに有効だと分かるんだろうか。

 元々、剣闘士には興味なさそうだったけど。


「突風はダメで水なら通用するってことですよね? 先生はマクシミリアスさんについて詳しいんですか?」


「知らない仲じゃないな」


「――え? ええ!」


 い、いやでも知り合いということなら、ある程度の実力も知ってるのか。


「私も皇宮内で見かけたことがありますよ。アーネス殿下に剣術を教えていました」


 クルストゥス先生が思い出すように言った。

 ボクはマクシミリアスさんの顔も知らないし、アーネス皇子の顔も覚えてないのでその風景を想像することは出来ないけど。


 ともかく、ルキヴィス先生とマクシミリアスさんは皇宮内での知り合いとかそんな感じだろう。


「――おっと、闘技大会の対戦表が貼られたみたいだぜ」


 ゲオルギウスさんが親指を向けた場所を見ると人だかりが出来ていた。

 人だかりと言っても、反乱以前の半分もいない。


「アイリスはもう決まってるけど、他にも誰か載ってるかも知れないし、見に行こ」


「――だね」


 マリカが笑いながらボクの手を引いた。

 ボクはセーラさんに声を掛けて彼女の手を引く。

 なんか不思議な光景だ。


 先生たちとゲオルギウスさんもボクたちに続いた。

 カエソーさんは興味なさそうにその場から動いてない。

 そんな彼をフゴさんが誘ってる感じだ。


 人だかりにたどり着くと、ボクは少し離れた場所でセーラさんや先生たちと一緒に待っていることにした。


 マリカやゲオルギウスさんも貼り出された対戦表に載っているらしくて声を掛けられている。


 しばらく対戦表を見ていたマリカが驚いてボクの方に駆けてきた。

 驚いたことに、一緒に練習している全員が対戦表に載っているらしい。


 というか、この養成所のかなりの人間が対戦表に載っているらしかった。


 ボクが一番驚いたのは剣闘士9位のセルムさんも対戦表に載っていたことだった。

 捕まってないどころか、反乱軍扱いにもされてないんだ――。


「ここはシャザードが居た養成所だからな。目を付けられたか」


 ルキヴィス先生がそんなことをつぶやく。


「俺の対戦相手は嫌な奴だぜ……」


 ゲオルギウスさんはげんなりとした表情だった。


 彼の話によると、パロスの門番と呼ばれるロックスという人物が相手らしい。

 順位が上の剣闘士には弱いのに、下の人間にはやたら強いという人のようだ。


 そのロックスさんよりゲオルギウスさんは順位が下らしく、嫌な相手ということになるらしい。


「ロックス? どこかで聞いたような」


 ≫ロックスは首席副官にくっついてた奴だろ≫

 ≫反乱軍の裏切り者だけどなんか憎めない奴か≫


「あっ」


 そういえば、首席副官――フィリップスさんもロックスさんが闘技大会に出場するみたいなこと言ってたっけ。

 全く想像してなかった知り合い同士の対戦にボクは複雑な気持ちになるのだった。

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