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第68話 アシスタント

 配信で相談に乗ってもらったおかげで方針は決まった。


 ただ、陣営監督官の補佐をすることになると、隊の包帯兵は出来なくなる。

 隊のみんなの意見も聞いておこう。


 まずカウダ隊長に相談すると、隊長は少し考えて賛成してくれた。

 その後、隊長と一緒に隊のみんなのところに行って、補佐として誘われていることを伝える。


 副隊長だけが納得いっていなかったみたいだけど、カウダ隊長が「隊が生き残る可能性を考えてみろ」と説得されていた。


 みんなには、「病院には顔を出すので怪我していたら優先的に治します」と伝えたら喜んでいた。


 ちなみにレンさんは目も合わせてくれなかったという。

 コミュ障かな?

 ミカエルとの関係を聞きたいんだけど。


 その後、すぐに陣営監督官の元に向かう。


 ヘルディウスさんや他の3人はボクの護衛としてずっと着いてきていた。

 3人は無言のままだけど、ヘルディウスさんは気さくに話しかけてきてくれるので助かる。


 陣営監督官には補佐の話を受けることと、隊の代わりの包帯兵のことをお願いする。


 快くお願いを聞いてもらった後、反乱軍の『ボクの排除』の可能性について話した。

 なぜボクを排除しないといけないのか、反乱軍が今後どう動くか、その対処法なども伝える。


「しかし、反乱軍は先日のアイリスにやられた1件だけでそこまで手を打てるものなのか?」


 一通り、ボクの話を聞いてくれたあと、陣営監督官は腕を組みながら首を(かし)げた。


「ボクも同じです」


「ほう? 本人が信じられないのに危惧する理由はなんだ?」


「第六席の行動です。ボクがあの竜巻のような旋風の魔術で反乱軍を吹き飛ばしても、彼は何もしてなかったみたいです。魔術無効(アンチマジック)でボクの魔術を無効化できるのにです」


「それは妙だな? 第六席は仲間なんだろう?」


「そこです。彼が反乱軍なら助けるために動いたはずです。でも実際は傍観した。このことから第六席はボク対策だけのためにあそこに居たと思ってます」


「なるほど。うーむ。他に説明はつかなさそうだな。しかし、その第六席はなぜそんな中途半端なことをしている?」


「少し会話した感じだと、反乱軍の『自分たちの国を作る』に賛同する人物とは思えませんでした。自分だけ好き勝手にできれば良いという印象です。反乱軍側に居るのは別の理由があるのかも知れません」


 好き勝手という印象は、彼がボクにアドバイスしてくれたからだ。


「第六席が反乱軍に居るのは反乱が目的ではないと?」


「そんな風に見えました。例えば、単純にお金で雇われたとか、反乱軍に身内や親しい人がいるとか。本当のところは聞いてみないと分かりませんけど」


「なるほどな。そんな人物に頼るということは、反乱軍も戦力が足りてないと見える」


「戦力が足りていないかどうかはまだ分かりません」


「ほう。その理由を聞こうか」


「はい。第六席がボクを殺すのではなく捕らえようとしていたと思うからです。捕らえるには第六席に頼るしかないかも知れないけど、殺すならどうでしょう?」


「――殺す方が簡単か。それで捕虜を脱走させてアイリスを殺すと」


「その通りです」


 一巡して話が戻ってきた。

 そこに知らない兵士がやってくる。


「首席副官がお見えになりました」


「通せ」


「はっ!」


 すぐに首席副官が入ってくる。


「話は聞いてる。ラールス陣営監督官、どういうことだ?」


 責めるような口調だった。

 話を聞いていると、ボクを補佐にしたことを問題にしているみたいだ。


 でも、そこは陣営監督官の年の功が勝る。


 陣営監督官の「どうしてアイリスにこだわりますか?」「若者の情熱は眩しいですなあ」などとボクへの執着を持ち出されて、首席副官は何も言えなくなってしまった。


 第一皇子のことを言えないだけに可哀想だけど、これを糧に頑張って欲しい。


 そして、さっきボクが話した内容を簡単に説明して、話は首席副官の報告に移る。

 報告というのは、捕虜に関するものだ。


 捕虜の中に剣闘士は1人しか残っておらず、その1人からも何も聞けなかったらしい。


 それ以外の捕虜は、農奴と元々街に居た奴隷だったと話した。

 最後に有用な情報は何もなかったと締めくくる。


 その1人の剣闘士には心当たりがあった。

 なので太股に突き刺された傷があるかどうか聞いてみる。

 すると、確かに太股に包帯を巻いていたらしい。


「その剣闘士は第18位らしいです」


 ボクを連続攻撃で追いつめ、風の魔術に何度転がされても立ち上がってきたあの剣闘士だ。


「となるとパロスだな。解放奴隷か。反乱軍に荷担(かたん)する理由はなさそうだが……」


 首席副官が腕を組みながら言った。

 剣闘士のパロスという階級になると、それまで奴隷だった者は解放奴隷となる。


 解放奴隷は奴隷ではないけど、ローマ市民でもないという身分だ。

 具体的には、自分の財産は持てるけど死後の財産は全て元々の主人のものになるらしい。


「会話してはいませんけどその第18位の彼とは戦いました。狂気を感じたので反乱軍のリーダーの信者のようなものかも知れません」


「昨夜、お前が話していた奴か。確かに狂気めいたものは感じたな。ただ、現在は太股の怪我のこともあって行動を起こすのは難しいだろうというのが私の見解だ」


 そのまま、捕虜や奴隷の今後の動きについて話を続けていく。

 結論としては、配信の結論とほとんど同じものになった。


 捕虜と奴隷を接触させないこと。

 カウダ隊長の住居のある建物は全て空にすること。

 夜は警戒態勢を取ること。

 更に、南門と西門の警備を強化すること。


 警備の強化は、もちろん捕虜の脱走に備えてのものだ。


 あと、ボクの住居が変わる。

 場所は陣営監督官の部屋の一室だ。

 陣営監督官は奴隷を連れてきてはいるけど、身の回りの世話は自分でしているらしい。

 だから部屋が余っているとのことだった。


 明日以降の作戦については、明日の朝までの状況を見て決めることになった。


 何も起きなければ街を包囲するための壁や塔の作成を行いたいという話だった。


 ボク個人としては反乱軍の軍師に対策を考えられてそうなので、あまり気が進まない。

 でも、その根拠は全くなかったし、そもそもその包囲がどういうものか知らない。


 知らないものは、打ち破る具体的な方法も思いつきようがないので黙っていた。


 こちらの戦略はともかく、反乱軍の戦略としてはやっぱりボクを排除することが一番な気がする。

 もう少し軍師についての情報が分かればな。

 そんなことを考えていると1つ思いついてしまった。


 捕虜に直接聞いてしまえばいいと言うことに。


 反乱軍の情報は話してくれないと思うけど、軍師の性格とかなら案外簡単に話してくれるんじゃ?

 リーダーであるシャザードさんとの関係とかも聞いてみたい。


「すみません。1つ知りたいことがあります」


「何だ? 俺の補佐なんだから遠慮せずに言ってみろ」


「はい。反乱軍の軍師についての確認です」


 ボクは、今日捕らえた捕虜と話して、軍師について聞き出したいと話した。

 首席副官の反対もあったけど、陣営監督官は賛成のようでボクの意見を尊重してくれた。


「分かった。私が同行することだけ認めて貰おうか」


「よろしくお願いします、フィリップス首席副官。安全を期して、捕虜の収容施設の増設が完成してからがいいでしょう」


「いつくらいに出来るんですか?」


 ボクが2人の顔をみると、首席副官は陣営監督官を見た。


「経験的には今日の夕方だな」


 陣営監督官が答える。

 相変わらずの建築チートだ。


「分かりました。それまでちょっと訓練したいんですけど、いいですか?」


「訓練だと? この状況でか」


 首席副官が声を上げる。


「第六席との再戦がありそうなので、その対策をしようかなと思いまして」


「想像以上の戦闘狂だな……。――大丈夫なのか?」


 ≫ここの『大丈夫なのか?』は皇子に対してか?≫

 ≫(こんな女に惚れて)大丈夫なのか?w≫


「まあ、良いではないですか。戦場ではいくら強くても邪魔にはならないでしょう」


「ああ、反対している訳ではない。こちらの話だ」


 ≫正解っぽいな。お前らの読解力やべえw≫


 そうして、一旦解散となった。

 ボクは日が傾く頃に戻ってくればいいらしい。

 正確な時計がないからこの辺は大まかだな。


 ボクはヘルディウスさんや他の3人と一緒に南門側にある訓練用のスペースに来ていた。

 目的はもちろん、『重心』と『握り』だ。


 『握り』については、視聴者さんたちによる激論の末にどう教えるかが決まったらしい。


 その結果、ボクは両手剣のみの『握り』について教えてもらうことになった。

 片手剣の握りは、訓練所に帰ってからルキヴィス先生に教えてもらった方がいいとの判断だそうだ。


 その両手の握りだけど、日本刀の持ち方をアレンジしたものらしい。


 右手が上で小指から中指で持つ。

 左手が下で中指から親指で持つ。


 これが基本。


 右手の親指と薬指は伸ばしていると剣で切られてしまうので、(つか)に軽く触れておくようにする。


 左手で剣先への遠心力を使うように振る。

 普段は軽く握って、剣が当たる瞬間だけ握る。


 そんな感じらしいけど、いきなりだと難しすぎるな……。

 慣れるにはかなり素振りをしないとダメそうだ。


「護衛に訓練につき合わせるとか、アイリスは相変わらず面白れーな」


 訓練場に来ると、ヘルディウスさんが仁王立ちでそう言った。


「――ヘルディウスさんはそのまま護衛の予定ですけどね」


「はぁ? おいおい。そりゃねーぜ」


「護衛ならさすがに誰かが見張ってる必要があると思いません? それならヘルディウスさんに任せるのがいいと思いまして」


 彼は、他の3人を見た。


「そりゃそーかも知れねえけどよお」


 ぐずるヘルディウスさんをなだめて、1人ずつ訓練に協力して貰うことになった。


 基本的には、ボクは長めの木剣(ぼっけん)を両手で使って防御するだけ。

 訓練につき合ってもらう護衛の人たちには一方的に攻撃してもらう。


 ヘルディウスさんによると、ローマ軍の兵士の戦い方は『楯で崩してから内臓を剣で刺す』が基本らしい。

 よって剣だけで戦うのは苦手とのことだ。

 でも、それなら今のボクにはちょうどいい。


 3人とも不満そうだったので、「気にくわないことがあるなら、晴らす機会と思って来てください」と言うと目の色が変わった。


 絡んできたときのこと、まだ根に持ってたのか。


 彼らはボクと副隊長に絡んできた6人の中の3人だ。

 絡まれてる途中でヘルディウスさんがやってきて、彼と試合することになって有耶無耶になった。

 不満がくすぶってるとは思ってはいたけど。


 でも、手加減されない練習にはなりそうなのでよかったのかも知れない。

 あとは、彼らの気が晴れればいいんだけど。


 そして、訓練を始める。

 相手は1人。

 回避せずに、重心線を身体の外に出さないようにして木剣で受けていく。


 よく見れば配信で言われた全部の指で剣の柄を握る『バカ握り』というのをしている。

 しかも、少しだけ電子が見え続けているので力をずっと使っているということかな。


 木剣を振るスピードもかなり遅い。

 その上、攻撃してくる場所もタイミングも分かるので木剣で受けるのは苦労せずに出来た。

 重心線を身体を出さない、というのも余裕があるからか難しくない。


 ただ、攻撃を受けたら足を踏み出して支持基底面を新しく作るというのがよく分からなかった。

 思ったより難しいな。


 相手をしてもらっていた1人が疲れたらしいので休憩を取りつつ、別の人に変わってもらった。


 そんな調子で休憩を挟みながら1時間くらい練習する。

 すると、木剣で受け流すようにした方が自然に足を踏み出しやすいことに気づいた。


 たぶん、ボクの身体の使い方だと、そっちの方が馴染みやすいんだと思う。

 それに気づいてからは、木剣を受けながら受けた衝撃分だけ足を踏み出す動作にも慣れてきた。


 発見したコツもある。

 支持基底面が狭い方が足を踏み出しやすい。

 最適なのは足幅が肩幅より狭いくらいだろうか?


 それから更に1時間経過する頃には、この新しい動きにもかなり慣れてきていた。


 身体をフラットな状態にしておいて、攻撃のタイミングと方向が分かったら、軌道に剣を置いて受け流し、衝突の分だけ足を踏み出す。

 それをひたすら繰り返して、感覚を身体に覚えさせた。


 そうしている内に正午になる。


 昼食は陣営監督官や首席副官と一緒にとった。

 新しい情報や捕虜たちの動きはないらしい。


 午後になって護衛が入れ変わる。

 ボクに絡んできた別の3人と知らない1人だった。

 全員同じ隊らしいので、ヘルディウスさんが副隊長をしている隊なんだろう。


 引き継ぎは行われているみたいで、ボクの練習にもつき合ってくれるとのことだった。


 午前中の復習をしてから、次は木剣を完全に避ける動きを加えていく。

 相手の攻撃をギリギリ避けると硬直が発生するので、少し難易度は下がった。

 なので2人を相手にしてみる。


 2人を相手にするとかなり忙しくなった。

 同時に攻撃がくることもある。

 そういうときはもう下がるしかない。


 重心線を身体から出さないというのは、思った以上に動きが制限されるなと思った。

 でも、ボク側に隙はほとんど出来ないし、動きがパターン化できるので練習を積めば強さは安定するかも知れない。


「次は3人同時にお願いします」


 護衛の3人が少しざわつく。

 2人相手でも、正面からの攻撃だけなら対処は難しくない。

 だから3人でもいける気がした。


 実際にやってみても、それほど難しくはなかった。

 攻撃される方向の精度はまだまだ甘いけど、タイミングは確実に分かる。


 訳が分からなくなったらとりあえずタイミングだけ合わせて1歩下がる。

 そして、訳が分からなくなる回数をなるべく減らしていく。


 あとは、体力を使わないことを心がけた。

 その内に全員の間合いを先読みして位置を調整することで楽になることを発見した。


 第六席と戦ってるときにも思ったけど、間合いは強い敵と戦うときこそ重要なのかも。


「次はボクを前後に挟むように3人でお願いします」


「まだやるのかよ……」


 半ば呆れられてる。

 休みながらとはいえ、ずっと練習してるからなあ。

 それでも、体力的にはまだ余裕がありそうなところはさすがに兵士だ。


 相手が前後にもいても、位置取りが少し変わるくらいであまり変わらない。

 見るのは電子と剣や身体のおおよその輪郭くらいだし、それなら目視よりも空間把握ベースの方が恐怖がないのでやりやすい。


「おいおい、無茶なことやってんじゃねーか……」


 前後含む3人にも慣れてきた頃にヘルディウスさんがやってきた。

 休憩中なのにボクたちの様子を見に来たみたいだ。


「もし興味があるなら、ヘルディウスさんもいかがですか?」


 4人を相手にしてみたかったので、そう声を掛ける。


「いいのか? 手加減はしねーぞ?」


「――はい」


 それでボクの戦いのスイッチのようなものが入った。


 ついに4人か。

 4人がボクの前後左右に位置取る。


「いくぜ?」


 配置された状態から、ほとんど同時に斬り掛かられる。


 避けやすい正面からの攻撃に真っ直ぐ向かってギリギリ避ける。


 多人数を相手にする場合は待ってギリギリ避けるよりも、攻撃に向かってからギリギリ避けた方がいい。

 正面の人はボクの動きに慣れてきたからか、硬直せずに木剣を横薙ぎにしてくるのが分かった。


 更に手元に踏み込んで木剣で軽く下に受け流す。


 続けて最初にボクの左にいた人が突いてくる。

 その突きに向かってからギリギリ避ける。


 そこにヘルディウスさんの真っ直ぐの斬り下ろし。

 攻撃そのものは方向含めて完全に分かっていたので、身体を回転するだけで避ける。


 横薙ぎ。

 下がる。


 後ろから突き。

 身体を回転させながら一歩踏み出して避ける。


 横からの突きと、正面からの斬り下ろし。

 更に一歩出て、身体を回転しながら正面からの斬り下ろしを避ける。

 斜めからの斬り下ろしは剣で受け流しながら前にでる。


 端から見ていると、ボクがクルクル回りながら四方八方から振られる木剣をかいくぐっているように見えると思う。


 4人相手だと、横薙ぎが最初くらいしかないのがありがたい。

 相打ちが怖いのでそういう風になるんだと思う。

 ほとんど突きや振り下ろしなのでかなり避けやすかった。


 あとは、重心線を身体から出さないようにしながら避けるには、身体を90度回転させるのも効果的だ。


 重心線を動かすには時間が掛かるけど、回転だけなら重心を動かす必要がないからか一瞬だ。

 掛かる時間に比べて、攻撃が当たる面積はかなり小さくできる。


 更に、身体の回転に合わせて木剣で相手の攻撃を捌くと、剣を振る必要がない。

 身体の回転だけで剣を振ったようになる。

 これはボクが攻撃するときにも使えそうだ。


「なんつーか。信じられねーな」


 対4人戦が終わったあと、ヘルディウスさんが肩で息をしながらつぶやいた。


「皆さんが不慣れな木剣での攻撃だから出来るだけで、楯を持たれたら囲まれて終わりでしょうね」


「よく言うぜ。空飛ぶわ竜巻起こすわ剣だけでもやべえ。親父が意見欲しがるぐれー頭もいいしな。俺も『鉄壁』なんて言われていい気になってたけどよお。このまんまじゃダメだな」


 彼の目が鋭くなる。

 それは今まで見たことないような真剣なものだった。


「――男の子なんですね」


「このデカい図体で、男の子はねーだろ」


「あ、失礼でした。すみません」


 思えば男としては気持ち悪い言葉だ。

 母さんとか澄夏に見られてると気まずいな。


「悪い気はしねーけどよお。まあ、俺がガキなのはそーかもな。今までは読み書き苦手で隊長なんかならなくていいかとか思ってたしよ」


 隊長は読み書きが必要なのか。

 そういえば、カウダ隊長も夜遅くまで報告書を書く音がボクの部屋にまで聞こえていた。


「『今までは』ってことは、これからは百人隊長目指すんですか?」


「そーだな。いいかもな」


 そう言ったヘルディウスさんは、照れたような、何か吹っ切れたような顔を見せていた。


「はい。とてもいいと思います」


 目指すことか。

 ボクにも目標っぽいことはいくつかあるけど、基本は生き残るためのものな気がする。


「副隊長、いよいよ隊長目指すんですか?」


 以前、ボクが絡まれたときに最初に声を掛けてきた人がヘルディウスさんに話しかけた。

 彼はやけに歯が白いので覚えている。


「目指すとは言ってねーよ。いいかもなってだけだ」


「分かってますって。俺ら全員期待してますから」


「ぜってー分かってねーだろ」


 全員が笑顔になっている。

 人望はあるみたいだし、良い隊長になるかも知れないな。


「アイリス。お前にも礼を言わないとな」


「――え? ボ、ボクですか?」


 急に声を掛けられたのでびっくりした。


「ああ。俺らはヘルディウス副隊長に隊長になってくれとずっと言ってたんだが、全く興味なかったみたいだからな。それを一発でその気にさせてくれたんだから礼くらい言うさ」


 元々そういう状況だったのか。


「一発ってことはないと思いますよ。皆さんがずっと言ってたからだと思います。あとはキッカケがあればこうなっていたんじゃないでしょうか?」


「そう?」


「はい。最後のキッカケがたまたまボクだっただけだと思います」


「それなら俺らも救われるね。――参るな、これでも恨んでたんだけど」


「今日みたいに皆さんが本気で訓練につき合ってくれるのなら、まだ恨んでくれてていいですよ」


「はは。もう恨むなんて思わないさ。俺も含めて他の奴らもね。レベル違いすぎてプライドもぽっきり折れたし」


「おい、おめーら何の話だ」


「副隊長が隊長目指してくれてよかったって話ですよ」


「だから違うっつーの」


 また、みんなが笑った。

 そういえば、他の人たちも表情も穏やかな気がする。


 全員に好かれようなんて考えてないけど、やっぱり雰囲気が良い方がボクは好きだなと思った。

 そして、いつの間にかボクも笑っていた。

すみません。執筆が遅れています。6/26水曜日くらいにはなんとか。

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