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第5話 夜の皇宮

「とにかく、この敷地から脱出します」


 窓を割ってからすぐに周りを確認して実況する。


 出口はどこだろう?

 敷地が広すぎて検討もつかない。

 道内の公立高校で一番の広さを持つ市函(いちはこ)よりも広いかもしれない。


 暗くてよく見えないけど、建物も庭も豪華だ。

 これが全部、皇帝の住居とか想像を絶する。


 ボクは静かに静かに移動していった。

 実際に警備がいて、それが自分を捕まえに来てるという状況は本当に怖い。

 心霊スポットとか比べものにならない。


 ミカエルに押さえ込まれて、力では全く抵抗できなかったのも影響しているかもしれない。


 あ、チカチカを使った空間の把握を使えば警備員の場所も分かるんじゃないだろうか?


「——警備の位置を探ってみます」


 そう小声で言ってから目を閉じる。


 ≫え? どうやって?≫


「脱出できたら詳しく説明します」


 周りの状況の把握は問題なく出来た。

 警備は近くにいない。


 出入り口がどこかにあるかも探っているんだけど、なかなか見つからなかった。

 門とかはあるんだろうか?

 警備員自体は何人かいることは確認できた。


 しばらく時間が経過して、警備が慌ただしくなり始める。

 声も聞こえてくるので、何かあったんだろうか?

 ボクが逃げたことが警備に伝わったというのがありそうな線だけど。


「警備の人たちが慌ただしくなってきました」


 ≫は? どうやって知った?≫

 ≫マジ探れるのか≫


「なんかこっちに来てから視野とは別に、周りの状況を把握できるようになりました」


 ≫マジか≫

 ≫便利だな≫


「なんで警備が慌ただしくなってきてるか思いつきます? 10人くらい集まってるみたいなんですが」


 ≫ラキピを探してるとか?≫

 ≫皇族の誰か帰ってくるのかもな≫


「なるほど。誰かが帰ってくる線もありますね。それなら集まってる理由も分かります。ボクを探してるという線も気にしておきます。ありがとうございます」


 ささやくような声で話しながら、同時に周りの様子も探る。


「誰かが帰ってくるなら、その近くに出口もありそうですね。その辺に隠れておいて、人がいなくなった隙に脱出っていう方向でいきたいと思います。どうでしょう?」


 ≫おk≫

 ≫OK≫

 ≫いいんじゃない?≫

 ≫んー、門が閉まるかも?≫


「あ、門が閉まる可能性は高いですね」


 周りが高い壁で囲まれているっぽいのに、門がないとは考えにくい。

 門があれば、誰かが帰ってくるときだけ開いて、それが終わったら閉じるだろう。


「……門がすぐ閉まるんじゃ、行っても無駄なんじゃないかと後ろ向きになってきました」


 ≫ダメ元で見に行くのは?≫


「そうですね」


 薄手の服のせいで寒いけど、我慢できないほどじゃない。

 最悪、朝に門が開くまで待機という手もある。

 夢なら目が覚めるかもしれないし。


「近寄れるだけ近寄ってみます」


 ボクは目視と空間把握を交互に使って、警備が集まっている場所に近づいていった。

 そこには大きな門があり、門は明るく照らされている。


 その門は三階建ての校舎より高いように見えた。

 元々なのか、今だけなのか、照らされてやけに明るい。


 門への明かりで、ボクが着ている服が反射してどうしようもなく目立つことに気づいた。

 周辺も含めると、警備の数は20人はいる。

 さすがに声を出すのは躊躇われ、実況もしてない。


 その状態で、周辺を探っていると警備が更に慌ただしくなり始めた。

 そして馬車のようなものが2台、門の外から近づいてくるのが空間把握で分かった。

 この能力は障害物があっても大丈夫らしい。


 門がゆっくり開いていく。


 今度は目視で門の辺りを見る。

 警備が道の両側に整列し、馬車を出迎えていた。

 この隙に逃げられないかな?


 ≫レイプ男はラキピの捜索してないのか?≫


 言われてみるとそうだ。

 逃げ始めたときは、当然、あのミカエルが追っ手を差し向けてると思っていた。

 でも、そんな様子は全くない。


「確かにそうですね。なんでなんでしょ?」


 門が開く音と馬車の音が聞こえてくる。

 それで声を出してみる気になったけど、かなり小声になっていた。


 ≫門の監視だけで捕まえられると考えたとか?≫

 ≫女連れ込んだことバレるとマズい?≫

 ≫本人にあまり権限がない≫


「ありがとうございます」


 いずれもありそうな話だと思った。

 ミカエルのことを話題にしたからか、あの男が襲ってきたときの様子を思い出してしまう。

 あのときの表情は吐き気がするくらい気持ち悪かった。


 思い出さないようにしよう。


 そうこうしている内に馬車が入ってきた。

 空間把握の通り2台ある。

 門の方に視線を走らせるが、門の近くだけでも4人くらいいて、脱出は難しそうだった。


 やっぱり朝まで待つ覚悟で、隙ができたところを抜け出すしかないか?


 そんなことを考えていると、また慌ただしくなったきた。

 こっちの方に指を指して、何か号令のようなものを掛けながら向かってくる。


 全身から血の気が引く。


「そこの不審者! 動くと射る!」


 ボクに向かって護衛が弓を構えていた。


 ボクは、今日何度目かの死を意識する。

 怪物の雑な殺意ではなく、いつでも殺せるという人の明確な殺意はまた別の怖さがあった。

 コメントが流れているが、頭に入ってこない。


「女?」


 こうしてボクは捕まった。

 両腕を捕まれ、馬車の前まで連れて行かれる。

 あまりに強く捕まれているので両腕が痛かった。


「どうした? 何かあったのか?」


 2台ある内の後ろの馬車から若い男が姿を現した。

 骨太な感じで、豪華な服が似合っている。

 ミカエルとは違い、真面目そうな雰囲気をしていた。


「はっ、殿下。皇妃様より不審な人物がいるとの助言があり、捜索いたしました。すると、確かにこの不審な者がおり捕らえました」


「そうか。そこの者。顔を上げよ」


 すぐに顔を上げる。

 そして殿下と呼ばれた男を見た。


「……」


 殿下は呆然とボクを見ている。

 ボクは居心地が悪くなり、目をそらした。


「アーネス殿下——?」


 アーネス殿下と呼ばれた男は、まだボクを見つめていた。

 しばらくして「そうか」とだけ声に出す。


「この者はなぜ捕らえられたんだ?」


 その一言で周りの警備もボクも「?」状態となった。

 潜んでいた不審人物として捕らえたとさっき報告していたと思うけど。


「はい。この不審人物が茂みに潜んでいたため、捕らえました」


「そ、そうだったな。それで、この者の処遇はどうなる?」


「まずは身分を取り調べることになると思います」


「なるほど」


 そう言って、彼は少し何か考え込んでいる。


「取り調べは私が行おう!」


 突然、声を弾ませたアーネス殿下が言った。

 声も大きくて驚く。


 ≫なんだいきなりw≫

 ≫大丈夫かこいつ≫


「なにをしてるの。不審者は?」


 アーネス殿下の後ろから女性の声がした。

 声だけで自信に満ちあふれているのが分かる。


「は! この者です」


「は? ただの小娘じゃない。なにを手間取っているの」


「は! 殿下がこの者を取り調べるとおっしゃっており——」


 視界に入ってきた女性が歩みを止める。

 彼女は大きく目を見開いてアーネス殿下を見た。

 歳はそれなりに見えるが、かなりの美貌だ。


「どういうこと?」


 ≫こわっ≫

 ≫やべえよやべえよ≫

 ≫殿下のかーちゃん?≫


「い、いえ」


 そう言って、アーネス殿下は黙ってしまった。


「この者の処遇は私が決めます。連れてきて」


「待ってください!」


 アーネス殿下の声だ。

 声は女性の背に向かっている。

 警備たちは息を飲んで見守っていた。


「なに?」


 女性は冷ややかな目でゆっくりと振り返った。

 アーネス殿下がチラッとボクを見る。


「どうしても私にやらせては貰えませんか?」


 押し殺した声でそう言う。


「二度は言いませんよ」


 据わった目と静かな声が怖い。

 無理。

 この女性に取り調べられるのだけは無理だと思った。


 ≫マジ怖ぇ≫

 ≫殿下、ラキピに一目惚れ?w≫


 アーネス殿下は一礼して下がった。

 緊張した警備たちもほっとしている。


「連れてきなさい」


 ボクはそのまま馬車に連れて行かれた。


 ≫どうなるんだよ?≫

 ≫馬車で取り調べ?≫

 ≫死なないで≫


 物騒なコメントが流れる中、馬車の近くまで連れて来られる。

 近づくとその豪華さがはっきりと見えてきた。


 コメントにあるように、確かに処刑されて死ぬ可能性もあるのか、と暗い気分になる。

 それとは別に妙に冷静な気持ちもあった。

 恐怖という意味では、さっき隠れていたときの方が上かもしれない。


 ≫先に馬車の中探った方がいいんじゃ?≫


 そのコメントになるほどと思い、目を閉じて馬車の中の空間把握を試みる。


「え?」


 思わず声にしてしまった。馬車の中に大きな犬みたいなのがいる?

 え? 犬? 人?


 下半身は犬みたいな胴体で座っているのに、上半身が女性のものだった。


「か、怪物!?」


 さっきの闘技場でのことを思い出してしまう。


「お前、今、何と言った?」


 女性が振り向いてボクを見ていた。


「は、はい。その馬車の中に——」


「怪物がいた? お前、蜂のメンバー?」


「は、ち?」


「そこの兵士、ユミルを呼んできなさい。ユミルがきたらこの者を馬車に入れなさい」


「はい」


 馬車の前にいた警備はすぐに走り出す。

 その女性は中から出てきた女性2人に手を引かれ、馬車に入っていった。

次話も1時間後くらいに投稿します。

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