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第54話 二人の目標

久しぶりの更新となってしまいました。

待っていてくれた人がいたのならすみません……。

しばらく前書きにこれまでの主要人物の一部のキャラクター紹介を記載しておきます。


アイリス


主人公。19歳の男子大学生。心霊スポットのライブ配信をしていたところ、古代ローマに似た世界に転移し何故か女の子になってしまった。

ライブ配信は転移後も動作しており、視聴者のコメントも読むことができて助けられている。また、第一皇子に気にかけられたことで皇妃に目をつけられてしまい、様々な嫌がらせを受けている。

剣闘士として巨人やドラゴンを倒した後、皇妃の嫌がらせで包帯兵として反乱の鎮圧軍に派遣されることになった。


マリカ


アイリスと養成所で同居している17歳の女剣闘士。酸素を扱う魔術が得意。アイリスやルキヴィスと出会ったことで急激に剣闘士として成長していっている。


エレオティティア


皇妃。アイリスに様々な嫌がらせを行う。


ミカエル


美形の第二皇子。来たばかりのアイリスを襲おうとして失敗した。


ルキヴィス


アイリスやマリカの訓練士。電気の魔術を得意とする。左手がないが剣の腕は立つ。ミカエルの友人でもあり、アイリスが剣闘士として生き残るために訓練士としてやってきたと思われる。


クルストゥス


アイリスやマリカの魔術訓練士。皇帝付きの占い師の長男。魔術の探求を最優先としてしまう所がある。


カーネディア


22歳の女性でクルストゥスの奴隷。反乱で皇居から出られない状況のルキヴィスやクルストゥスと、アイリスたちの連絡役になっている。


シャザード


ローマ市の剣闘士で第五席だった。切断の二つ名を持っている。現在は反乱の首謀者。

 ボクが包帯兵として召集される当日の朝、カーネディアさんが迎えに来てくれていた。


「――それでは行きましょうか」


 前を歩いていたカーネディアさんが振り返ってボクを見る。

 彼女の先には養成所の出口があった。


「じゃ、マリカ。行ってくるから」


 マリカは今日もいつもの調子だったけど、さすがにボクが召集される日だからか見送りに来てくれている。

 彼女は何か考え事をしてるみたいだった。


「マリカ?」


 呼びかけるとボクを見る。


「――やっぱり無理」


 彼女はそう言って、ふわっと抱きついてきた。


「マ、マリカ!?」


「行かなきゃダメ?」


 いきなり抱きつかれて焦ったけど、すぐに冷静になっていく。


「――うん。ボクは奴隷だから行かないと」


 自分に言い聞かせるように声を張った。

 マリカがボクを見る。


「――そっか」


「うん」


「ちゃんと帰ってきてよ」


 マリカは言いながら(ひたい)を合わせてきた。


「分かってる」


「とにかく、危なくなったら逃げて。空飛んでも、敵味方全員吹き飛ばしても、何しても構わないから」


「うん――って、あれ? 敵はいいとして味方?」


「アイリスって敵味方区別付けられるくらい魔術コントロールできたっけ?」


「うっ」


 マリカはボクか離れて、くすっと笑った。


「うそうそ。危ないときに敵味方の区別なんて出来ないと思うし」


「マリカでも出来ない?」


「私? うーん、狙いつけるのに少し時間掛かるし、1人1人狙ってたらさすがに間に合わないかな」


「マリカでも無理か。それならもう全力で吹き飛ばすしかないね」


「……私が勧めておいてなんだけど、すごい光景になりそう」


 マリカが笑う。

 ボクもその声に釣られて笑った。


「じゃ、カーネディアさんも待たせてるし、いってくるから」


「うん。いってらっしゃい」


 マリカが笑いながらボクを送り出してくれる。

 でも、その笑顔にほんの少しだけ陰があるのが分かった。

 1カ月くらいずっと一緒にいたからか、微妙な感情もなんとなく察知できてしまう。


「――行かないの?」


 ボクが立ち止まっていたからか、マリカが聞いてきた。

 何か気の利いたことでも言えないかと考える。


 絶対帰ってくる、とか、帰ってきたら何々する、みたいなのは、フラグになりそうなので避けたい。


 フラグにはならずに、お互いのモチベーションになるようなのがいいけど何かあるだろうか?

 何か目標みたいなのがいいんだけど。


「――あ! マリカ。競争しない?」


「え? 何いきなり」


「目標あった方がやる気になるかなって。ボクも治療ばっかりだと戻ってきたとき戦えなさそうだし」


「戻ってきたときか。なるほどね。それでどんな競争?」


「どっちが八席になるのかが早いか」


「は?」


 ボクはマリカの目を見つめる。

 彼女は何を言われたのか分からないというように首を(かし)げてから、目を見開いた。


「――そういうこと!」


 不敵にボクに笑いかけ、頷きながら言葉を続けた。


「分かった。その競争に乗ってあげる。アイリスが帰ってきたとき、びっくりするくらい強くなってるから」


「それは楽しみ。ボクも負けないようにしないと」


 少し間マリカと視線を交わしてから、ボクはマリカに背を向けた。


 そして、カーネディアさんと門の外に出る。

 彼女と門を出るのは診療所に向かうときと同じだけど、しばらく戻って来られないと思うと寂しく思えた。


 しばらく2人で無言で歩いてから、彼女は周りを見渡した。


「――ミカエル様からお言付(ことづ)けを(たまわ)っています。配属される隊に味方となる人物を送ったと」


 言われた瞬間は何のことか分からなかったけど、すぐに意味が分かった。


 ――ミカエルが味方を用意した。


 たぶん、ルキヴィス先生のような人を兵士として紛れ込ませたんだろう。

 あのミカエルに、また借りを作ることになると思うと溜息が出る。

 それでも、助かると思ってしまうのが悔しい。


「伝えてくれてありがとうございます」


 ボクはカーネディアさんにお礼を言った。


「これも仕事ですから」


 彼女は柔らかい笑顔でボクを見る。


「ところで私もいろいろ探ってみたのですが、包帯兵であっても女性が兵士をするということは通常有り得ないようです」


「そうなんですか?」


「はい。ですので、設備も男性向けのものしか用意されないと思います。生活で必要になることは事前に目処をつけて置くのがいいかと」


 設備?

 野営のときの話だろうか?

 そういえば、トイレはどうするんだろう。

 やっぱり大地がトイレ代わり?


「あ、探ってくれたのってカーネディアさんの仕事外でですよね? ありがとうございます。助かります」


「――いえ、私もその、心配でしたので」


 取り(つくろ)うように話すカーネディアさんが可愛かった。

 彼女は慌てるように言葉を続ける。


「私だけではなくクルストゥス様やルキヴィス様も心配されていましたルキヴィス様などはアイリスさんに男装させれば面白いんじゃないかと話されていましたがクルストゥス様がすぐにそれを却下されて――」


「カーネディアさん早い早い」


 彼女は慌てると早口になることがある。


「も、申し訳ありません」


 深々と頭を下げてきた。


「そんな丁寧に謝らなくても大丈夫です」


「そう言う割には私が早口になったときは毎回止めるようですけど?」


 ()ねるようにボクを見るカーネディアさん。


「止めるのはお約束というか」


 ボクがそう言うと彼女は笑った。

 それを見てボクも笑う。


 診療所の行き帰りをしてる内に彼女とは少し仲良くなった。

 仲良くなれたのはたぶんボクがクルストゥス先生に対して好意的だからだと思う。


 クルストゥス先生って周りから変人扱いされて避けられてるみたいだし。


「それにしても、ボクは男装させられるかも知れなかったんですね……」


 この姿の上に男装とか、訳が分からなくなるところだった。

 ライブ配信の視聴者的には面白いかもしれないけど。


「アイリスさんのスタイルでは、すぐに女性だと気付かれてしまうと思います。もっとも、ルキヴィス様がどこまで本気だったのか分かりませんが」


「――先生は思いつきで話したような気がします」


 カーネディアさんは何も言わずに苦笑いだけしてた。

 そんな顔するということは、彼女もルキヴィス先生の性格をある程度分かってきたってことなんだろうな。


「クルストゥス先生とルキヴィス先生は皇居でも話したりしてるんですか?」


「はい。お2人でよくお話されています」


 嬉しそうにカーネディアさんが笑った。


「そうなんですか。気が合うんでしょうか?」


「そのようですね。クルストゥス様には、これまであまり親しいご友人がいらっしゃらないようでしたので、嬉しく思っています」


 2人ともタイプこそ違うけど、好奇心で動いているようなところがある。

 そういう部分の波長があったのかもしれない。


 友だちと言えば、マリカも友だちはいなかったって言ってたっけ。

 ボクも向こうではグループで遊びに行くような仲間はいたけど、何度も2人で遊ぶような友だちはいなかった。

 もしかして:ボクたちぼっちの集まり?


 あ、でもクルストゥス先生は結婚してたはずだ。

 先生の奥さんってどんな人なんだろ?

 聞いてみたいけど、カーネディアさんってクルストゥス先生のことが好きっぽいしな。

 なんとなく聞きにくい。


 ボクは彼女を盗み見た。

 2人の会話の様子を思い出しているのか微笑んでいる。


 彼女に、先生たちがどんな話をしてるのか聞いてみると、やっぱり魔術のことが大半らしい。

 ボクやマリカのことや、今起きてる反乱についても話しているらしかった。


「反乱についての新しい情報とかあります?」


 ボクが聞くとカーネディアさんは頭を振った。


「残念ながら。お役に立てず、すみません」


「あ、大丈夫です。何も分からないままで不安なだけだったので。十分、カーネディアさんのお陰で助かってます」


 ≫現時点で反乱軍について何が分かってる?≫

 ≫構成員が剣闘士ばっかりとか?≫

 ≫診療所では奴隷が集まってるって話してたぞ≫

 ≫今、何人くらいで反乱してるの?≫

 ≫ローマ軍に勝ったくらいだから増えてるだろ≫


 診療所でお手伝いしている間に、少しは噂も聞いたけどほんとに噂レベルだった。


 ローマ市民たち曰く――。


『既に街を1つ占拠したらしい』

『奴隷が集まってきて1万を超える反乱軍になっているらしい』

『元老院はハンニバルの再来と恐れているらしい』


 ハンニバルという人のことは初めて聞いたけど、コメントによると現代日本でも有名な人とのことだった。

 ローマを滅亡寸前まで追いつめた人で、現代でも戦術の教科書に載ってるレベルの人だそうだ。


 ――シャザードさんにそこまでの実績があるとは思えないから、剣闘士のときの人気もあって大げさに語られてるだけかな。


 ≫今回の軍の目的は聞いてみるしかないか≫

 ≫一兵卒に話してくれるか?≫

 ≫目的地とローマ軍の規模から推測かな≫

 ≫ミカエルの仲間に聞けば?≫


 なるほど。

 確かにミカエルの仲間なら、今のいろいろな状況も話してくれるかも知れない。

 ルキヴィス先生のときと同じように向こうから接触があるはずだし、それとなく聞いてみよう。


「――大丈夫ですか?」


 ボクが考えごとをしていたからか、カーネディアさんが心配そうに声を掛けてきた。


「あ、すみません。大丈夫です。どこから情報を得ようかと考えてました。とにかく、そのボクの助けとなる人に聞いてみることにします」


「そうですね。それがいいと思います」


 その後、召集地の近くに行くまで、彼女が調べてくれた現在のローマ軍の構成を話してもらった。


 軍隊のことについては全く知らないボクにとっては「そうなんだ」くらいの話だった。

 でも、軍事のことを分かっている視聴者にとっては重要な情報らしい。


 一方、ボクが思ったのは百人隊という名前なのに80人なんだという重箱の隅的なことだけだった。

 あまりにも知識がなさすぎるので、これを機にちゃんと知っておいた方がいいかもしれない。


「それから支援軍と言っても規律はかなり厳しいと聞きます。上官の言うことによく従ってください」


 それから城壁と門が見えてくる。

 城壁はかなり高かった。

 少なくとも学校の校舎よりも高い。


 ≫これがローマを囲んでるのか≫

 ≫すげえな≫

 ≫アウレリアヌス城壁か?≫

 ≫調べたら当時は高さ16mだったらしいな≫

 ≫セルウィウス城壁かもよ? 聞いてみて?≫


「カーネディアさん。この目の前の城壁の名前ってなんて言うんですか?」


「アヘノバルブス城壁です」


「アヘノバルブスですか?」


「はい」


 ≫聞いたことないな≫

 ≫検索したら人の名前としては出てくるな≫

 ≫ネロ皇帝も元々はその名前らしいな≫

 ≫ローマにそういう城壁はないだろ≫

 ≫アヘガオダブルピース城壁?≫

 ≫おいw≫


 どんな城壁だよ!

 思わず、両手でピースサインをして涎を垂らしてる彫像が並ぶ城壁を想像しそうになった。


「わ、分かりました。あ、ありがとうございます」


「どうかしましたか?」


「な、なんでもありません。ところでボクの待ち合わせ場所はどこですか?」


「門の近くの受付で聞くことになっています」


 門の傍には、武装した兵たちが何百人も整列している。

 集まってる人たちを眺めてみた。

 何百人じゃないな、千人以上くらいいるかも知れない。


 カーネディアさんによると、ここに居る兵たちは支援軍で、全員ローマ市民権を持ってないらしい。

 城壁の外には更に市民権を持った正規のローマ軍が居るそうだ。

 全体でどのくらいの規模なんだろう?


 ボクたちが近づくと兵たちにじろじろ見られた。

 それにしても見事に男だけだな……。

 養成所もそうだったので、ローマには男しかいないんじゃないかと錯覚しそうになる。


 受付の列に並ぶと、何人かに声を掛けられた。

 ボクが包帯兵として参加するというと驚かれる。


 それにしても、この好奇の視線のシャワーというか圧力にはいつまで経っても慣れそうにないな。

 カーネディアさんがそれを気遣ってか、何かと話題を振ってくれるのがありがたかった。


「右端から5番目に馬の頭の旗を持っている隊がある。そこが所属する隊だ」


 名前を告げて手続きを済ませると、受付の人がボクが入ることになる隊を示す。


「それでは無事を祈っています」


「助かりました。ありがとうございます」


 カーネディアさんと別れ、ボクはその5番目の隊へと向かった。

 一人になると、更に視線がボクに集まる。

 その中でも、一際強い視線が1人から放たれていた。


 ――敵意?


 彼は兵士として隊に並んでおらず、豪華な鎧を着ている。

 明らかに普通の兵士とは違う。

 偉い人なんだろうか?


 ボクは嫌だなあと思いながら敵意のような視線を避けつつ、目的の馬の頭の旗が目印の隊に向かった。

次話の更新は来週中に行う予定です。

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