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第25話 結果

 巨人たちとの戦いで疲れ果てているはずなのに、身体に力と熱が残っている。


 ライブ配信のコメントは流れが速くてほとんど読めない。

 観客席の歓声なのか怒号なのか分からない音の揺れも、収まる気配がなかった。


 ボクの近くに係の人と強そうな兵士が10人くらい現れる。

 彼らのことを兵士だと思ったのは、単純に動きの規律が整っていたからだ。

 動きに乱れというか緩さがない。


 係の人が、観客席に何か合図を送った。


「これより敗者の巨人を殺害する」


 観客席側からそんなアナウンスが次々と聞こえてくる。


「え?」


 殺害ってどういうことだ?

 その思考がかき消されるように、観客席中から興奮の雄叫びがあがる。

 声には「殺せー」というものも含まれているようだった。


 ≫うわっ≫

 ≫処刑ショー?≫


 巨人たちには既に足枷、手枷が着いている。


 目を覚ましたらしいボクと最初に戦った巨人が、しばらくこちらを見つめていた。


 その、覚悟を決めたような、悲しげなような、それでいてボクを真っ直ぐに見つめる瞳は初めてみた。

 彼はどんな想いでいるのだろうか?

 それが知りたいと思った。


 ≫生き物を殺すのって配信していいんだっけ?≫

 ≫怪物だろ? CGとか言っとけば問題ない≫


 そういう視点もあるのか。

 いざとなったら目を閉じるけど。


 ボクは係の人に近付いていった。


「すみません。質問なんですが、巨人たちは4人とも殺すんですか?」


「ん? ああ、闘技に負けた怪物が生きていた場合は、全て殺害することになっている」


 ≫残酷だな≫

 ≫向こうもラキピを殺そうとしたし仕方ない≫


 闘技に負けたもの、か。


 ボクが負けて生きていた場合はどうなったんだろう?

 罪人だからやっぱり殺されてたんだろうか。

 負けていた場合はやっぱりそうなったんだろうな。


 そうなると1つ気になることがあった。


「前回、女性の剣闘士がキマイラリベリと戦った顛末は知ってますか?」


「それがどうした」


「あの闘技ってどちらが勝ったことになったんですか?」


 ボクやユーピテルの存在であの闘技は無効になったはずだ。


「あの闘技は無効になった。勝者はいない」


「理由はどうしてなのか分かりますか?」


「詳しくは知らないが、乱入があったからだろう?」


 ≫何の話?≫

 ≫乱入したのってラキピのこと?≫

 ≫どういうことだってばよ?≫


 ボクはそのまま黙った。

 今回も巨人3人の乱入があったので、無効になってもおかしくないはずだ。

 ボクが闘技に負けていても、無効を主張すれば処刑は保留にされていたんだろうか?


 もしボクが負けていたら、同時に巨人に殺されていたと思うけど。


 ただ、今、それをボクじゃなくて巨人に当てはめると別の意味を持ってくる。

 巨人の処刑を取りやめにできるかも知れないという選択肢だ。


「——もういいかね?」


 ボクの胸元を覗きながら係の人が言ったのが分かった。


 男だから胸を見てくるのは仕方ないなという気持ちと、またかという脱力感。

 変な話だけど、この視線でローマの日常に帰ってきたんだと思ってしまった。


 冷静に考えると、今のボクは露出が激しい。

 それなら見られてもしょうがないのかな。

 そういえば、皇妃もすごい格好してたけど、あの人はそういう男の視線とか楽しんでそうだ。


 そういえば、巨人を乱入させたのはやっぱり皇妃なんだろうか?

 99%間違いないとは思ってるんだけど。

 そんなに恨まれるようなことはしてないのに。


 でも、ボクを騙して娼館に売ろうとしたり、素人だったボクを巨人と戦わせようとしたり、不利になったら巨人3人を追加で投入とか普通じゃない。

 しかも楽しそうにしてたし。


 まさか、今回も乱入を指示して起きながら、ボクが勝ったという結果を無効扱いにしたりするとか?


 ――間違いなく無効にするな。


 ため息が出る。

 でも、それなら巨人たちが処刑されたら殺され損になるんじゃないだろうか?


「どうした? もう話はないかと聞いているんだが」


 係の人がボクに聞いてきた。


 ふう。

 巨人たちの生き死にが懸かっている。

 それも後味が悪い。

 言ってしまおう。


「今回も闘技中に乱入があったので、無効になりませんか?」


「――なに? 無効だと?」


「はい。本来この闘技は1対1だったはずですよね? それなのに勝負がつく前に邪魔が入りました。無効扱いになってもいいと思います」


 ≫無効?≫

 ≫無効になるとどうなるの?≫


「無効扱いにするとかそういう話は聞いていないが?」


「確認をとってもらえますか?」


「――それがどういう意味か分かっていっているのかね?」


 急に係の人が真剣な顔になってボクに問いかける。

 なんのことだろう?

 重い至らなかったので素直に反応する。


「いえ?」


「分からないなら教えてやろう。今回の闘技が無効となれば、お前は再び罪人として闘技に参加させられる」


「それって今と変わらないってことですよね?」


「ああ」


「ええと」


 何か問題があるんだろうか?

 また敗者が殺されるみたいな戦いをするのは嫌だけど、どうせこれからも剣闘士としては戦うことになる。


 今のマリカとボクの扱いには、ほとんど差がない。

 剣闘士になると、勝ったときにお金がもらえるみたいだけど、外に出る機会もほとんどないから意味がない。


「どうだ? 素直に勝利者になっておけ。んん?」


 じろじろ身体を見られながら提案されるのが不快で、少しだけ腹が立ってきた。


「いえ、それで大丈夫です。無効扱いとなるように言ってきてもらえますか?」


「――知らんぞ」


 係の人はそう言って、すぐに駆けて行った。


 ≫うお?≫

 ≫マジか……≫

 ≫おっとこ前!≫


 しばらくして係の人が戻ってくる。

 そして、今回の闘技が無効であることを宣言した。

 その宣言が観客席側にいる復唱する係の人によって広がっていく。


 罵声を浴びるかと思っていたけど、歓迎の雰囲気だったので思わず首を傾げる。


 ≫なんか盛り上がってるw≫

 ≫騒げればなんでもいいんじゃ?w≫


 巨人たちは、拘束されたままエレベーターに連れて行かれた。

 ただ1人、最初に倒した巨人だけが、震えながら立ち上がって二本足で歩いて戻っていった。


 最後に彼が振り向いてきたので目が合う。

 ボクはその視線を受け止めるだけにした。


 また、彼と会うことがあるんだろうか?

 闘技場の地下の牢にいた巨人は、他の3人の内の1人だったんだろうか?

 歓声の中、ボクは巨人を全く怖がっていない自分に気付いたのだった。


 その後、帰りのエレベーターに乗っても、やっぱり元の世界に戻ることはなかった。


 エレベーターのあった地下から、女性用の更衣室に向かう。

 今までが眩しい陽の下だったからか、かなり暗く感じた。


 ≫ここどこ?≫

 ≫ダンジョンっぽい≫


「闘技場の地下です。女子更衣室に向かってます」


 ≫キター!≫

 ≫女・子・更・衣・室!≫

 ≫●REC≫

 ≫全裸待機≫


 荒ぶるコメントに苦笑しながらも、いつものノリに安心したところでドアの前に着いた。

 結果を無効扱いにしたことは、マリカから怒られるかもしれない。

 そんなことを考えながら、更衣室に入る。


「あれ?」


 見渡しても着替えを手伝ってくれる女性が2人いるだけだった。


「マリカ――ボクと一緒にいた剣闘士はもう闘技前の控え室ですか?」


「はい。少し前に出て行きました」


「そうですか。ありがとうございます」


 再度、更衣室を見渡す。

 試合――闘技前に来たときと変わらない。

 外と比べて暖かいのも変わらない。

 それは少し冷え始めた身体にはありがたかった。


 ≫ラキピ、今ビキニアーマー来てる?≫

 ≫マジか≫

 ≫見せろ。すぐにだ!≫


 部屋に金属面積の少ない防具しかなかったからか、目ざとく気付いた視聴者がいるようだ。

 ボクは無言で目を閉じた。


 ≫なん、だと!?≫

 ≫光を! 光を!≫

 ≫まだだ! まだ諦めるな!≫


「お怪我や気持ちが悪かったりすることはありませんか?」


 部屋に居た女性がボクに問いかけてきた。

 そう言われてボクは目を開け、手足をチェックする。


 ≫エロい≫

 ≫キター!≫

 ≫うひょー≫


「特にないみたいです」


 コメントが騒ぐ前にすぐに目を閉じた。


 ≫ああ!(血の涙)≫

 ≫目が目が!≫

 ≫絶望の闇と希望の光、か≫


「着替えはいかがしますか?」


「お願いします」


「血なども落としてもよろしいですか?」


「はい」


「まず腕を広げてください」


 両手を横に広げるとカチャカチャと取り外す音がする。


 ≫なんだ? 何が起きてる!?≫

 ≫鏡ないと着替え姿見えないんじゃ?≫

 ≫細けぇことはいいんだよ≫

 ≫ふっ、見えない方がえろい≫

 ≫上級者がいるなw≫


 全ての防具を外される。

 胸の防具を外すと、乳房への締め付けがなくなり開放感があった。

 開放感と同時に、その胸を他人に見られていると思うと恥ずかしいと思う心もある。


 そのあと、汚れているところにオイルを塗られた。

 たぶんオリーブオイルだろう。

 もう裸同然なのでスースーする。


 オイルを塗られたのは主に腕からお腹、太ももの辺りだ。

 その後、ヘラでオイルを削ぎ落とされたあと、濡れた布で顔や身体を拭かれた。


 最中に、闘技場からと思われる大きな歓声が聞こえる。

 勝負がついたのかな?


 下着と服を着せられる。


「終わりました」


 そう言われたので、目を開ける。


「へ?」


 目の前には美少女がいた。


 驚くと、目の前の少女もボクと同じ動作をする。

 すぐに鏡と気付いた。

 そういえば、ミカエルの部屋に置いてあった鏡でも同じ姿だった。


 ≫かわいい≫

 ≫これアイリスちゃん?≫


 まずっ!

 そう思ったけど、手遅れでコメントが乱れ飛びはじめる。

 慌てながらも着替えをしてくれた女性2人に変に思われないように取り繕う。


「か、鏡はしまってください」


「魂などは特に取られませんよ?」


 それは分かってるんだけど、ああ!


 ≫なぜ目を閉じない?≫


 乱れ飛ぶ中で、目の端に入ってきたコメントを見てなるほどと思う。

 すぐに目を閉じた。

 そうすると更にコメントが多くなって収拾がつかなくなる。


「着替えありがとうございました」


 もう観戦に行ってもいいはずだ。

 ボクは更衣室から出て廊下に出て行った。

次話は、4/5木曜日の午前6時頃に投稿する予定です。

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