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第23話 VSベルグリサル[中編]

 ――リビングでテレビを見ていると、澄夏(すみか)が小学校から帰ってくる。

 ランドセルが身体よりも大きい。


「なんでお姉ちゃんじゃないの?」


「何度も言わせんな。男だからだろ」


「えー。だったらお姉ちゃんになっ、てい!」


 ボクがソファーに座ってるところに飛び込んできた。

 最近は母さんも、澄夏に乗って「お姉ちゃん」呼ばわりしてくるのでやりにくい。


 買ってくる服もなんか女の子っぽいのを買ってきてるけど、抵抗している。


「せっかくお姉ちゃんになったんでしょ、勝ってね」


 高校生の澄夏に言われる。

 勝つ?

 何に?


 ゾクッとした。

 目を見開いてみるけど、暗闇が広がっているだけだ。

 深夜に目覚めたのかと思ったけど、身体中が痛い。


 鳥肌の上に鳥肌が立ったような危機感。

 空間把握。

 頭上に振りかぶる巨人。

 盾が挟まって抜けない。


 ボクは盾から手を離し逃げようとする。

 でも、抜けない。

 考える前に手を離すだけじゃなく、肘を抜かないとダメなことに気付く。


 肘を抜きながら盾を蹴り転がった。


 ドゴンッ!


 地を転がる身体に轟音と砕けた岩がぶつかる。

 空間把握はできてる。

 巨人は棍棒を振り下ろした状態だ。

 ボクはまだ生きてる。


 ボクは勢いをつけて立ち上がると、周り込むようにして巨人へ駆けた。


 巨人がガレキの下を覗き込んでいる。

 ボクがどうなってるか確認しているんだろうか?

 岩が砕け、広い範囲に粉塵(ふんじん)が巻き上がっている。

 ボクはそこから飛び出す。


 そこまで来て攻撃の手段がないことに気付いた。

 剣も盾もガレキの下だ。

 とにかく。


「ていっ!」


 咄嗟(とっさ)に出た攻撃は跳び蹴りだった。

 巨人の左膝を横から、両足で跳び蹴りする。

 意表を突いたからか、膝立ちの巨人がバランスを失って倒れていく。

 巨人はそのまま、ドシンと横向きに倒れた。


 ボクはすぐに立ち上がってガレキに向かった。

 剣を探さないと。

 剣と盾はすぐに見つかった。

 粉塵が晴れていく中、巨人は起き上がろうとしていた。


 ボクは巨人の足元から近づき、見えていた足裏に剣を刺す。

 今日何度も使っている、ルキヴィス先生に教わった突きだ。


「あれ?」


 まるでタイヤに突き刺したような手応え。

 効いている様子もない。


 直後に電子の兆し。


 ボクはすぐに下がった。

 1秒後にボクが居たところに足裏での攻撃が通り過ぎる。

 危ないな。


 でもその意表をつかれた攻撃で確信が芽生える。

 意表をつかれても避けることは難しくない。

 それなら、巨人のどんな攻撃でも避けられるんじゃないかと。


 ただ、倒れている状態だと巨人が何をしてくるか分かりにくい。

 ボクは間合いをとってワザと巨人の視界に入るように顔の方に移動していく。


 するとまた涎を巻き散らしているのが分かった。

 またあの瓦礫(がれき)を投げてくるのか。

 一度、痛い目にあったので嫌だなと思う。


 ――大丈夫、焦らなくていい。

 1秒あるんだから、瓦礫の塊を投げられても避けることはできるはず。

 むしろ、あれを投げた瞬間は攻撃のチャンスだ。


 ボクは巨人を中心に周り込みながら意識を集中していく。


 巨人は身体を起こし、地面に手をやった。

 魔術の光が見え、その後、瓦礫の塊を地面から取り出す。

 あの塊を作り出すのに魔術を使っているのは分かるけど、唾液は必要なんだろうか?


 巨人は座った状態のまま、再び瓦礫の塊をボクに向かって投げてこようとする。

 さっきのダブルベッドサイズよりも小さい。

 ボクは投げる瞬間を捕捉して、巨人の手の甲を切りつけた。


 巨人はボクを見失ったようできょろきょろしている。

 それから手の甲が切られたことに気付いたのか、手を押さえて「グゥ」と言った。


 その頃には、ボクは巨人の背後に周り込んでいる。

 背後から巨人の二の腕を突き刺した。


 手応えはあったが、切っ先しか刺さっていない。

 ボクの力だとこんなものなのだろうか?

 そこまでボクが考えたところで、巨人が痛みのためかうなり声をあげた。


 棍棒を振り回し始めたので、それを避けながら、巨人から離れた。


 二の腕には攻撃が効かないのか?

 手の甲や膝裏だと攻撃は通ったのに。

 そこまで考えて、筋肉のある部分だと攻撃が効きにくいんじゃないかと思った。


 巨人の周りを歩きながら、立ち上がるのを待つ。

 結局のところ、立っている状態の巨人の膝に攻撃を加えるのが一番ダメージを与えられる。


 巨人が立ち上がると歓声が上がった。

 ボクはそれに合わせて巨人に近付く。


 斜め上からの棍棒の攻撃。

 神経の電子は見えていたので、攻撃は盾で(かす)らせる。

 棍棒が地面に当たり巨人の動きが止まる。


 『完璧な回避』が決まったとき、人も場合も動きが止まるけど、巨人の場合はその隙の時間が人よりも長いと思う。


 ボクは踏み出して膝に突きを入れた。

 まだ隙が継続しているので、腕の力だけで何度も何度も剣先を膝に突き立てる。


「グ」


 巨人はうめき声を上げ、足を引き上げた。

 やっぱり巨人は遅い。

 ボクは、冷静に剣を足のくるぶしに突き刺した。


 巨人はボクを何度も払いのけようしてくるが、全てが見えている。

 場所を変えながら筋肉のない関節部分に剣を突き刺していった。


 そして、膝裏に手応えのある攻撃が決まったとき、巨人は再び地面に膝を付いた。


 ボクは巨人から離れる。

 巨人の目は見開いていて信じられないものを見るようにボクに視線を合わせていた。

 怯えてる?


 ボクが一歩前に出る。

 巨人は膝をついたまま下がる。

 ボクの一挙一動から遠ざかろうとしているようだった。

 まるでボクの方が捕食者になったようだ。


 ボクと巨人の間には何も(さえぎる)るものはない。

 なのに気持ちがひどく落ち着いている。

 あの牢の前で意識まで失ったことが遠い日のように感じる。


 その後方にある観客席で、誰かが立ち上がった。

 ボクを見つめている。

 それは点のような大きさなのにも関わらず、誰の視線なのか分かった。


 ――皇妃。


 彼女は闘技場の最前列で立ち上がってボクを真正面(ましょうめん)から見ていた。

 向こうもボクと目があったと気付く。

 なぜかは分からないけど確信できた。


 彼女は慌てるように観客席を横切り、急いでどこかに行った。


 巨人がまた立ち上がろうとしていたので視線を移す。

 両膝が震えてうまく立ち上がれないようだった。


 どうする?


 攻撃はどうにでもなる。

 問題はどこに攻撃したら効くかだ。

 いや、効くというよりも殺せるか、か。


 嫌だなと思う。

 生きているものを殺すのはさすがに抵抗がある。

 巨人の四肢を壊してしまえば勝利になるんだろうか?


 いや、でも四肢が壊れている巨人を生かしておくとも思えない。

 迷ってしまう。

 でも、ボクに迷うような余裕はないはずだ。


 ――嫌なことはあとで考えればいい。

 覚悟を決めてボクは1歩進んだ。


 両膝と左手を地面につけた状態で、巨人は棍棒を振る。


 棍棒で攻撃するしかない巨人の攻撃なんて当たるはずもない。

 ボクは正確に盾を掠らせて、突きと何度かの切りつけで巨人の左肘を壊した。

 怪物は、体重を支えきれずに倒れる。


 ほとんど勝負がついた状態だ。

 巨人の首に剣を突き入れれば終わりだろう。

 嫌悪感しかないけど、考えたらダメだ。

 観客席から聞こえる歓声は最高潮にある。


 巨人は横に寝そべったような姿勢で、視線だけをボクに向けている。

 恐怖の感情は見えない。

 棍棒を持つ手に力が入っているのが電子で分かる。


 まだ諦めてないことに敬意を覚えたけど、それを利用させてもらおう。


 ボクは簡単な作戦を立てた。

 巨人に近づき、棍棒を振らせて『完璧な回避』を行い、首の後ろから剣を突き立てる。


 首の後ろからなら心理的にも攻撃しやすいし、一度で決まらなくても何度かは攻撃する余裕がある。

 一番良い選択に思えた。


「終わらせる」


 そう言いながら前に出ようとしたときに、遠くで何かがせり上がってくるのが見えた。

 右手の奥。

 巨人が出てきたエレベーターだ。

 空間把握を使い何が起きているのかを探る。


「なっ!?」


 そのエレベーターの空間には我先にと外に出ようとしている巨人たちがいた。

 何人いるか分からなかったので数えてみる。


 1、2――さ、3人。

 そんなに!?


 暴れながら隙間に殺到しているその3人から、知性は全く感じられなかった。

次話は、明日の午前10時頃に投稿する予定です。

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