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第18話 成長

 カエソーさんに助けてもらったボクは、話の流れで彼ら3人と一緒に練習をしている。

 内容は、ボクの防御練習だ。

 カエソーさんは練習に参加しないでずっと見てるだけだけど。


「俺らの攻撃全部防げてるけど、まだやるのか?」


 一方的に攻めて貰っていたゲオルギウスさんが声を掛けてくる。


 ゲオルギウスさんとフゴさんには、交代で好きに攻めて貰っていた。

 さすがに楯で防御しているだけのボクは、体力の消耗が少ない。


 ゲオルギウスさんは、とにかくスピードが速い。

 マリカも速いと思うけど、それよりかなり速い。

 それだけ速いのにマリカと違ってフェイントも織り交ぜてくる。


 ただ、スピードこそ速いけど、攻撃の前の電子が見えるタイミングはマリカと同じくらいなので防御は難しくなかった。

 フェイントに関しては、そもそも見える電子の量が少ないのですぐに分かって無視できる。


 フゴさんは大きな身体と筋肉の通りに力が強かった。

 一撃一撃は強いけど動きは遅いので、前腕の真ん中を捕捉できれば対処は簡単だった。


 『前腕の捕捉』というのは、腕を振るときの筋肉の使用量がピークになる瞬間を見極めることだ。

 『真ん中』は腕を棒と見立てたときの、棒の軸と考えていい。


 そこさえ見極めれば、あとは前腕と同じ方向・角度から剣が振られるだけ。

 相手の前腕の軸に向かって、身体ごと間合いを詰めれば攻撃の威力もほぼなくなる。


 ボクには空間把握もあるので、視界が楯で遮られていても関係ない。

 この防御技術とボクの相性は良いと思う。


 最初は楯があっても怖かったけど、散々そればかりやってたので、今はなんとか使えるようになっていた。

 あとは攻撃を受ける一瞬にだけ、力を入れることが出来れば。


 ゲオルギウスさんとフゴさんに2回ずつ、計4回攻めて貰ったけど、一度も受ける瞬間にだけ力を入れるという完璧な防御が出来ていない。


 どうしても予兆が見えると楯を持つ腕に力を入れてしまう。


「もしゲオルギウスさんたちがよければですけど続けて貰えますか? また先生に言われたことを全然できてないので」


 その後も目を閉じてやってみたり、疲れた状態でやってみたりしたけど、完璧な防御はできないでいた。


 でも、攻撃を防ぐこと自体には慣れてきて、動き出すタイミングとか身体の使い方は上手くなってる気もする。


「俺がやる」


 更に何度目かの交代で2人が疲れてきた頃、カエソーさんが言った。


「待ってください。まだカエソーさん相手は早いんじゃ?」


「当てていいのか?」


 カエソーさんはボクの言うことを完全にスルーして言った。

 すっかり()る気で剣を振っている。

 楯は持っていない。


 前に彼がルキヴィス先生と戦ったとき、剣は通用してなかったし、剣の腕だけならゲオルギウスさんと同格ぐらいかもしれない。

 それなら、一度やってみるのも面白いかも。


「分かりました。当てるつもりでお願いします。魔術だけは使うのなしで」


 そう言って目が合った途端、腕の神経を流れる電子が見えた。

 ボクはとっさに楯を構える。

 防げればいいというだけの雑な防御。

 速い、そして重い衝撃がきた。


 気を強く持ち、次は腕の中心を捕捉しようと決意する。


 しかし、攻撃が来ない。


 どうしたのかなと思って、カエソーさんの様子を探ろうとする。

 探ろうとして動いた瞬間を狙われたのか、カエソーさんの攻撃の予兆が見えた。

 楯を構えて受け止める。


 やりにくい。

 予兆が見えてから攻撃に移るまでの時間が短い。

 攻撃も重く、当たる瞬間だけ力を入れるなんてとてもできそうにない。


 それでも不格好な防御だけは出来ている。

 やっぱり攻撃が来るタイミングが確実に分かるというのはかなり有利だ。


 カエソーさんの動きも読めてきて、対応に慣れ始めたころだった。

 かなり近くで攻撃を防いだ直後に、カエソーさんの身体全体に電子が張り巡らされる。


 なっ?

 焦りながらも、とにかく真後ろに飛び退く。

 訳が分からなくなった場合だけは後ろに引いていいと教わっている。


 そこに左から蹴りが通り過ぎ、その足がボクの楯に引っかかった。

 回し蹴りのような身体を回転させて横から足を振り回す蹴りだった。


 ボクの楯がカエソーさんの足に引っかかったことで、ボクの体勢が崩れる。

 そこに身体を回転させたカエソーさんが剣を振る予兆が見えた。


 まずい、楯が使えない。

 ボクは咄嗟に自分の持っている剣でその攻撃を流した。


「避けたか」


 ボクはその言葉に何も返さず、体勢を立て直す。


 ――強い。


 電子が見えなきゃ間違いなく避けられなかった。

 同じ攻撃が来たら、確実に避けられるとも思えない。


 すぐにカエソーさんが動く。

 今度の攻撃からは蹴りも攻撃に組み込まれている。


 マリカやゲオルギウスさん、フゴさんと比べると緩急があって間の使い方が上手い。


 攻撃が来ないなと思って、こちらが動いたところを打ち込まれたり、矢継ぎ早に攻撃されて打たれるかと予想してるところにフェイントを入れられたりする。


 更に近くにいると足を踏もうとしたり、ボクの踵側に足を置いてきたりした。


 普段の態度の大ざっぱさからは信じられないくらい、動きのちょっとしたところが繊細だ。

 なるほど、マリカやゲオルギウスさん、フゴさんより上位のレベルというのはうなづける。


 ボクはカエソーさんの動きに惑わされないように、電子だけに集中して動くことにした。


 すると、カエソーさんは普段は筋肉をほとんど使っておらず、攻撃の瞬間だけに力を使っていることに気づいた。


 だらだらー、パッ、だらだらー、パパパパッというように電子が見える。


 戦いながら、カエソーさんのこの電子のリズムを真似すればいいんじゃないかと思い当たった。

 歌の輪唱というか、英語のシャドーイングというか、力の使いどころだけを一拍遅れて何も考えず真似をする。


 これが驚くほどはまった。

 真ん中を捕捉するのは難しくなったが、ポイントポイントで力を入れるだけで防げるようになってくる。


 電子が見えてから、攻撃が当たるまでは大体同じ時間なので、それさえ掴めばほとんど最小限の力で防御できる。


 人によって、この時間は違うんだろうけど、その調整が済んでしまえば戦いは有利に進められるんじゃないだろうか。


「おいおい、やべえな」


 近くで見ているゲオルギウスさんの声が聞こえた。

 カエソーさんの動きも更に速くなっている。

 ボクはその動きに合わせて、防ぐときに最小限の力を使っているだけだ。


 空間把握で見ると、まるでダンスかのように見える。


 そうしている内に、どんな攻撃でも防げるという妙な自信が湧いてくる。

 ひどく集中できていて、起きること全てが捉えられる。


 ボクは攻撃を受けながらも、カエソーさんとの間合いを詰めていく。

 カエソーさんが下がり始める。


 そして、カエソーさんが大きく飛び退いた。

 すぐに目の前に膨大な光の球、球に出来る穴。

 ボクは自然とその中心に楯を構えた。


 突風。


「くっ」


 思った以上にその風は強く、ボクは身体を持って行かれそうになる。


 ドンッ。


 そこにカエソーさんの蹴りが飛んできた。

 そして倒れたところに剣を突きつけられる。


「はいはい、止め止め」


 小走りで駆けてきたゲオルギウスさんが、ボクとカエソーさんの間に入る。


「はは、魔術使っちまったか」


 彼はにやけながらカエソーさんを見た。


「ふん」


 カエソーさんは鼻を鳴らして腕を組みながら空を見上げた。


「ところでよ、アイリス。お前ほんとに素人か?」


 ボクに手を差し出しながらゲオルギウスさんが言った。

 その手を取って立ち上がる。


「ありがとうございます。そうですね、数日前まで剣すら持ったことありませんでした」


 ボクは右手の平を見せた。

 血豆が潰れ、そこが硬くなっている。

 細く白い指がそんな状態なので、我ながら痛々しい。


「ひでえな」


 ゲオルギウスさんは納得したように、目を閉じながら頷く。


「それにしても、マリカといいお前といい、どうなってんだ? やっぱりあの訓練士がいいのか?」


「そうですね。ボクに関しては先生のお陰です」


「いくら、あいつが化け物じみた強さと言っても信じがたいな」


 腕を組んで感心したようにボクを見た。


「そういや、ちょっとは訓練になったか?」


「はい。かなり勉強になりました」


「そいつはよかった。んじゃ、役に立ったついでに俺やフゴの欠点とか教えてもらえるか?」


「欠点?」


「例えばそこのパロス様のカエソーとの違いだよ。俺より遅くフゴより力ないのに、魔術なしでも俺らより強いだろ」


 顎でカエソーさんを指してボクに聞く。


「ボクなんかの意見でいいんですか? 他の人に聞いた方がいいんじゃ?」


「カエソーのせいで誰も協力してくれないからな」


「あー」


 なんとなく察する。

 誰にでもこの態度をとってれば関わりたくないと思うのが普通か。


「分かりました。参考になるかどうか分かりませんけど」


 ボクは、例としてフェイントのタイミングの違いを上げた。


 2人のフェイントは、こちらが安定している状態のときに攻撃や動きのフェイクを入れるだけ。

 対して、カエソーさんはこちらが動いた瞬間にフェイクを仕掛けてくる。


「おい、カエソー。お前そんな風にしてるなんて一言も言ってなかったよな?」


 ボクの話を聞いて、ゲオルギウスさんがカエソーさんを睨む。


「言ってないか?」


「言ってねえよ! あー、クソッ。アイリス、他に何か気づいたことあれば全部教えてくれ」


 ボクは、意外性のある攻撃やそこから生まれた隙をついてのコンビネーション、攻撃のリズムの緩急、攻撃するときにしか筋肉を使ってないことなどが違うと話した。


 そういえば、その辺りはマリカも弱い気がする。

 ボクも対人戦を考えるようになったら意識しないと。


 話しながら、自分でも考えがまとまっていくのを感じる。


「あんがとよ。しっかしよく見てんな」


 ゲオルギウスさんのその言葉に何か返そうと思ったら、目の前にカエソーさんが現れた。


「俺の女になれ」


「嫌です。無理なので」


 またそれかと思いながらカエソーさんから距離をとる。

 カエソーさんは迫ってくる。


「ちょおっと待ったぁ!」


 聞き覚えのある声――マリカの声がした。

 すぐに駆け込んできて、ボクを引っ張り後ろに下がらせる。


「なに、してんの!?」


 噛みつきそうな雰囲気でカエソーさんを睨む。


「口説いていただけだ」


「はぁ?」


「カエソー、お前はしゃべるな。話がややこしくなる」


 ゲオルギウスさんが、呆れながらカエソーさんの肩を叩いた。

 マリカは警戒を解かずにゲオルギウスさんを見る。


「アイリスと練習してたんだよ。疑うなら本人に聞いてみな」


 マリカがボクの方を向き、「本当?」と聞いた。

 ボクは頷いて簡単に4人組に絡まれたところをカエソーさんに助けてもらったところから説明した。


「くっ、そうなんだ。う」


 マリカは恥ずかしそうに顔を伏せる。


「ボクはマリカが助けに来てくれて嬉しかったから。ありがと」


 そう言うと、彼女はチラッとボクを見た。


「そ、それはそれとしてアイリスはちゃんと練習になったの?」


「なった。すごく」


「へ、へえ。どんな風に?」


 マリカは意外そうな顔でボクを見る。


「やってみれば分かるかも。いつもみたいに攻撃してみて?」


 ボクはゲオルギウスさんから木剣を借りて、マリカに渡した。


 マリカとボクは武器を構えて向かい合う。


「いいよ」


 ボクが言うと攻撃してきた。

 彼女は気持ちが練習モードになっていないのか、集中し切れてないみたいだった。

 それでもボクに何度か攻撃すると、顔つきが変わっていく。


 ボクは、マリカに対しても攻撃される瞬間にだけ力を使うということが出来るようになっていた。

 カエソーさんの動きを参考にしたというのが気持ちとして引っかかるけど。


「ちょっと、何? アイリスどうしたの?」


「いやだから3人と練習して上達したんだけど」


 マリカが剣を降ろして言った。

 彼女はボクを見てから彼らを見る。


「話をまとめる。アイリスは午前中までここまでの防御技術は持ってなかったってことか?」


 ゲオルギウスさんが首を傾げた。


「そういうこと」


「おいおい、天才かよ」


「いえ、先生に教えて貰ってできなかったことが、カエソーさんの動きを真似したら出来るようになっただけです」


 ボクがそう言うとゲオルギウスさんに失笑された。


「それを天才って言うんだよ。カエソーのせいでアドバイスが中途半端に終わったが、俺やフゴと、カエソーとの違いの実例を見せてくれると助かるんだが」


「もちろんお見せします。マリカにも見てもらいたいから、彼女に手伝ってもらいます」


 ボクは自分勝手に行うフェイントと、相手が動いた瞬間に行うフェイントをマリカで実際に試す。


 ボクの剣撃が稚拙なので全て防がれてしまったけど、それでも動いた瞬間に行うフェイントの方が体勢が崩れたのは明らかだった。


「俺にもやってみせてくれ」


 こうして、ボク、マリカ、ゲオルギウスさんとフゴさんの4人で攻守を交代しながらフェイントを練習し始める。


 全員が練習に没頭し、気が付いたら暗くなりはじめていて、周りに誰もいなくなっていた。


 いや、1人木陰で寝ているルキヴィス先生がいた。

 え? あの人なんであそこで寝てるんだ?

 いつから居た?


 途中からカエソーさんも参加させろと言ってきたので、1人が休むことになった。


 見ていてもカエソーさんはやはり強く、僕も含む4人とは動きが違った。

 それでも、ボク以外の3人はカエソーさんにフェイントが通用するようになっていたので間違いなく強くなっていた。


 そんな中でも、ボクは1人焦っていた。

 どんなに攻撃を上手く楯で受けることができるようになっても、巨人相手には通用しない。

 でも、避ける方は一向に上達しなかった。

 感覚がどうしても掴めない。


 ライブ配信の方もどうなっているか分からない。


 話したり練習してるときはいいけど、寝るときになるとどうしても考えてしまうことになるのだった。

次話は、明日の午前10時に投稿する予定です。

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