第153話 空気を読む
前回までのライブ配信
アイリスは侍女として働き始め、魔術で仕事をこなし、他の侍女たちを驚かせる。特にヴィヴィアナという侍女と親しくなり、魔術の指導を約束する。次男クラウスに給仕を頼まれ、ヴィヴィアナに警戒するよう忠告されるのだった。
昼食の給仕をするために着替える。
裾の長いTシャツ――トゥニカの白く上品なものだ。
ただ、割とゴワゴワしてる生地のせいか、腰を紐で縛ると太って見える。
胸からお腹までが真っ直ぐになってお腹が出ているように見える。
少し考えた結果、幅広の帯を借りて、ウエストのラインを出すようにした。
化粧に関しては、ビートという植物のピンクっぽい口紅だけは軽く塗っている。
結っていた髪は下ろさせられた。
メリサさんは後ろで結っているので、誰かからの指示かも知れない。
私はその姿で昼食の部屋の端に立っていた。
隣にはメリサさんも居る。
――それにしても居心地が悪い。
ウァレリウス家の皆さんから、ちらちらと見られている。
特にクラウス様からは値踏みするように見られていた。
私は少し微笑みながら、メリサさんを真似して手を前に重ねて畏まっていた。
落ち着いた頃を見計らって、メリサさんがワインを注いでいく。
彼女は給仕をしながら皆さんに話しかけることはなかった。
見ていると決まった手順があるようだ。
目線を下げながら相手の右側から近づき、左手でカップの底を支えながらワインを注ぐ。
なるほど。
思っていたほど難しくはなさそうだな。
あとはワインがなくなるのを見て、給仕をするのか。
よし。
空間把握すれば問題ない。
メリサさんが戻ってくる。
アイコンタクトしてきてくれたので、「給仕は出来そうです」の気持ちを込めて頷いておいた。
部屋全体を見る。
相変わらず男性陣の視線を感じる。
特にクラウスは私に顔を向けて眺めてきていた。
うーん。
「どうしたの?」
男性陣に様子に気づいたリウィア様が声を掛けた。
ウァレリウス様は慌てたように家族を見渡す。
「神々に感謝を」
ウァレリウス様が言うと、食事が始まった。
彼が最初に前菜に手を着ける。
やっぱりローマって貴族でも指で摘まんで食べるのか。
貴族はナイフとかフォークというイメージがあったので意外だ。
≫まさかの手掴み。フォークないのか≫
≫古代ローマでは手で食べるのがマナー≫
≫はえー。時代変わればマナーも違うんだな≫
≫フォークの普及は意外と最近だぞ≫
≫イタリア半島でも15世紀前後だからな≫
≫ってことはパスタも手で食べてたのか……≫
≫マジか≫
夫人のリウィア様は、冷たいワインを飲んで顔を綻ばせている。
前菜を手で摘まみ、ナプキンで手を拭いてすぐにワインに口を付けていた。
単にお酒を飲んでるようにも見えるな。
しばらくすると、リウィア様のカップが空になった。
私はすぐにワインを運び、彼女の右後方から近寄って注いだ。
ワインの液体は私の魔術で飛び散ったりしないようにコントロールされている。
万が一にもこぼすことはないはず。
リウィア様は私に微笑み掛けると、カップを軽く掲げた。
私も微笑み返しながら下がる。
そのやりとりを見てか、メリサさんも頷いていた。
よかった、なんとか出来そうだ。
すぐに空間把握に意識を移した。
まだカップが空の人は居ないな。
≫カップの材質なんだろうな?≫
≫金色だから金?≫
≫金はメッキの可能性もあるぞ≫
≫鉛じゃないよね?≫
≫ワインが甘くなるけど鉛中毒になるやつか≫
コメントはコメントで盛り上がってる。
以前よりローマに詳しい人が多い気がするな。
っと、クラウス様のカップが空になった。
一気に飲み干したようだ。
私の方は向いてないけど、こっちに意識を向けているのは分かる。
私はすぐに彼の元へと向かった。
右側からそっと寄り、カップの底を左手を支える。
そして注ごうとしたとき、彼が動く気配を見せた。
注ぐ直前で手を止める。
彼の肘がテーブルにぶつかり、大きく揺れた。
「な、なに?」
リウィア様が驚く。
何か声を掛けた方が良いのだろうか?
迷ったので、メリサさんの真似をすることにした。
彼女は一瞬驚いていたけど、すぐに元の待機の姿勢に戻った。
私も何もする必要はないか。
隙をみてワインを注ぎ、そのまま下がる。
それにしても今のワザとだよね?
私にワインをこぼさせようとした?
それが彼にとって何の得になるのか分からない。
すると、すぐにクラウス様がワインを一気に飲み干した。
私の背後で。
――も、もう?
私はすぐに振り向き、カップの中を見る振りをする。
澄ました顔で右側からそっと近づく。
一瞬だけ驚いたクラウス様だけど、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
今度の彼はカップ近くの手を動かす準備をしている。
私が左手をカップの底に触れる。
彼の視線は前菜の方を向いているけど、意識は私の持っている容器の注ぎ口にある。
私が注ぎ口からワインが注いだ瞬間に、彼の手が伸ばされた。
腕がカップに向かう。
私はカップを僅かにずらして、その腕を避けた。
クラウス様が硬直する。
人間ってこれくらいの動作でも当たると確信してると硬直するんだな。
そんなことを考えながら、ワインを注ぎ終わった。
当然、一滴もこぼれてない。
私はすぐに元の場所に戻った。
その後は普通に給仕が行えた。
いや、クラウス様が私に身体をぶつけてきたことがあったか。
身体に対しての攻撃は自動的に避けてしまうので、忘れがちになる。
それにしても、私にミスをさせて何がしたいのだろうか?
あとで視聴者に相談してみよう。
ただ、私の中でクラウス様は完全に敵と認定した。
食事は長い時間掛かった。
デザートのブドウで終了する。
ブドウがあるならちょっと冷やせば良かったかな?
「ワイン、美味しかったわ。また、お願いするわね」
リウィア様が去り際に声を掛けてくださった。
良い人だ。
ウァレリウス様は何も言わないけど美味しそうに飲んでくださっていた。
悪い印象はない。
エミリウス様は俯き加減だったけど、何か一生懸命だった。
クラウス様の印象だけが悪いんだよな。
うーん。
こうして、昼食の給仕を無事に済ませた私は、自分たちの食事の時間になるのだった。
「――フィリッパちゃん、何かされなかった?」
食事中、声を掛けてきてくれたのはヴィヴィアナさんだった。
今、一緒に食事を摂っているのは、メリサさんとヴィヴィアナさんだ。
「ご心配ありがとうございます。特に何もありませんでした。クラウス様とぶつかりそうになりましたけど、大丈夫でした」
「ぶつかりそうに? ――大丈夫ならいいんだけど」
「フィリッパさんはちゃんと給仕をこなせていたわよ。私より早くカップが空になったのも気づいていたし。初めてとは思えないくらい」
「メリサさんより早く? もしかして魔術使ってるとか?」
「さすが、ヴィヴィアナさんですね。その通りです」
「やっぱり!」
「え? 魔術を使ってたって本当?」
「はい。もしかして問題ありましたか……?」
「問題じゃないわ。ちょっと驚いただけ」
「すごいでしょー!」
「いろいろなことに使えるのね」
「実は私自身もいろいろ使えて驚いています。仕事に生かせて良かったです」
「ワインも好評だったみたいだしね」
「それなら、私も早く魔術覚えないと」
「ちゃんと教えることを優先してね」
「はーい。じゃ、午後からちょっとだけいいよね。魔術の練習」
「ヴィヴィアナのちょっとは信用できないのよねえ……」
「そんなあ」
「フィリッパさん、貴女にお願いするのも変な話だけど、ヴィヴィアナのことよろしくね」
「は、はい」
「よろしく!」
こうして、私たちの昼食も終わり、午後の仕事の時間になるのだった。
すぐに仕事になるところを見ると、結構ハードだな。
「仕事前にトイレに行かせてください」
夕食の前に、視聴者と相談したいと考え、私はトイレへと向かった。
「皆さんに相談にのって貰いたいことがあります。よろしいでしょうか?」
トイレに向かいながら、周りに人が居ないのを確認して、視聴者に話しかける。
手のひらも左目に向けた。
質問のサインだ。
≫OK≫
≫何の話だ?≫
「ここの次男のクラウス様のことです。さっきの食事で、ワインを注ぐときに何度か意図的に私を失敗させようとしていました。何が目的なのか分かりますか? ちょっと意味が分からなくて」
≫そんなことがあったのか≫
≫全然分からんかった≫
≫なにされたの?≫
「ワインを注ぐときに肘をテーブルにぶつけたり、カップに腕をぶつけられそうになったり、体当たりされそうになったりですね。全部、避けたので分からなくて当然だと思います」
≫テーブルが揺れたこと、そういえばあったな≫
≫次男が原因だったのか≫
≫よく避けられたな≫
≫神話級の怪物と戦うことに比べたら……≫
≫まあ、目的は粗相させてお仕置きだろうな≫
≫お仕置き……!≫
≫GとIの間なやつだな!≫
≫えいちかw≫
≫Hはさすがにフィルタリングされてないぞw≫
そ、そういうことか。
――なんとなく分かった。
≫でもワインこぼしただけでHなの可能なの?≫
≫服にこぼさせれば可能だろう≫
≫なるほど≫
≫どうしてくれるんだ! ここを拭くのだ!≫
確かにその方向は可能か。
集合知すごい。
「ありがとうございます。よく分かりました。他に可能性はないのでしょうか?」
≫ないな(断言)≫
≫今のところそれくらいしか動機がなー≫
≫失敗を許して寛大さアピールという線もある≫
≫寛大さアピールなら別でも出来るからなあ≫
≫落ち込んだアイリスを慰めるとか?≫
≫どちらにせよロクな目的じゃないな≫
≫初手で奴隷かどうか聞いてきたしね≫
「なるほど、分かりました。助かります。今後も気をつけるようにします」
≫今回上手くいかなかったので激昂してるかも≫
≫もっと強硬な手に出てくるかも知れないのか≫
≫面倒だな……≫
≫対策は取らないのか?≫
「――次になにかあったら考えることにします」
≫お疲れ≫
それからトイレに行った。
トイレでは、防音の魔術を左耳にだけおくことで完全に音が伝わらないように出来ることを発見した。
これで楽できる。
今までは水流の音でいろいろかき消してくれたとはいえ、両耳を手で塞いでたからなあ。
魔術を生活に使うことで、QOLを高く保つことに繋がるのかも知れないなとふと思った。
「少し考えましたが、クラウス様の情報だけは集めておいた方がいいかもですね。いざというとき何か突けるところがあるかも知れませんし」
トイレから出てすぐに視聴者に話しかける。
≫その方がいいだろうな≫
≫うわっ、初手が弱点探りかよ……≫
≫クラウスくん、相手が悪すぎたな≫
≫戦略家らしくなってきたじゃないか≫
「ちょっと引っかかるところもあるんですよね」
≫引っかかるとこ?≫
「はい。ミカエルのところにテルティアさんを送り込んだのはクラウス様じゃないかと思いまして。ただの勘なので、他の誰かに話すつもりはないですけどね」
≫なるほど、あり得るな≫
≫夫妻がそういうことするとは思えないからな≫
≫いや、分からんぞ≫
≫長男がさせた可能性もある≫
≫次男ってことは長男が居るだろうしな≫
≫テルティアは三女という意味ですね≫
≫上に2人の姉妹が居るってことか≫
「テルティアという名前だけでもいろいろ分かるんですね。確かに長男や姉2人については何も知りません。もうちょっとウァレリウス家全体の情報を得てから、クラウス様のことは考えてみた方が良さそうですね」
≫皇帝の事件にも繋がるかも知れんしな≫
「はい。そうですね。仕事に戻ります。いろいろと参考になりました。ありがとうございます」
私は足早にキッチンに向かった。
ヴィヴィアナさんが居るはずだ。
「来たね、フィリッパちゃん。午後は部屋の掃除の続きからしよっか」
「お願いします。その前に魔術のことを少し話しても良いですか?」
「いいの? やった!」
「はい。まず、魔術というか空気についてですね。空気がどうやって出来ているかを知ることで風系の魔術が扱い易くなります」
「ほんと?」
「私がいろいろ扱えるのはそのことを知ってるからですね」
「そうなんだ……。誰もそんなこと言ってなかったから、なんか新鮮」
「それなら、ヴィヴィアナさんが魔術使える可能性があがりましたね。これから空気のことを知ることになるので」
「ぅう!」
力強く、手を握られた。
めちゃくちゃやる気だ。
「では話しますね。まず、小麦粉について話します。遠回りに感じるかも知れませんが聞いてください。小麦粉がたくさん入った容器に手を入れたことってありますか?」
「あるよ?」
「どう感じました?」
「うーん、何か冷たかったかな。あと、結構簡単に手が入ったよ」
左上を見ている。
そのときのこと思い出しながら話しているんだろう。
「水みたいだって思いませんでした?」
「あ! 思った!」
「そう考えると、水って粉で出来てると思いませんか?」
コクコク何度も頷いている。
「水を見てみましょうか」
「う、うん」
興味深そうに水道から流れる水を見るヴィヴィアナさん。
「不思議だねえ。今までそんなこと考えたこともなかったからすごく新鮮に見えるよ。これ粉なんだ?」
「はい。でも、水って沸騰するとなくなりますよね?」
「――ほ、ほんとだ! なくなるね! どこいったの? 不思議だね!」
「実は空気になってます」
「空気に?」
「はい」
「ってことは空気って粉なの? あ、小麦粉も舞うから空気の粉も舞うんだ!」
「その通りです。そこまで気づくなんて思いませんでした。すごいですね!」
「当たった! 嬉しい!」
≫上手いな≫
≫もしかしてアイリスって先生向きか?≫
「空気が粉というのは覚えておいてください。ただ浮いちゃうくらい軽い粉です」
「浮いちゃうくらい……」
「雲って水の粉から出来てるんですよ」
「あ、だから雨が降るんだ」
「はい」
「いろいろ繋がってるんだねえ。小麦粉が舞うのと雲って似てるんだ……」
「私もそれは気づいていませんでした。その通りですね」
「フィリッパちゃんでも分からないことあるの?」
「分からないことだらけです。ヴィヴィアナさんの方がいろいろ気づいちゃうかも知れませんね」
「ふふ、だといいなあ」
「さて、一番大切な話です。難しいですけど、聞いてください」
「――うん」
ヴィヴィアンさんはつばを飲み込み頷いた。
「沸騰しているお湯の様子をイメージしてみてください」
「うん、したよ」
ヴィヴィアナさんは目を閉じた。
「すごく激しく動いてないですか?」
「そうだね。グツグツしてる」
「その激しい動きがそのまま空気になります」
「――うん。うん?」
「空気ってたくさんの粉が激しく動いてるんです。激しく動いて粉がぶつかり合ってます。イメージできますか?」
「うーん……」
「では、目を開けてください」
「開けたよ」
「この拳が粉だと思ってください。こんな風にぶつかり合ってるんです」
私は、両手の拳を使って、なんども衝突しては離れるを繰り返すをやってみせた。
「空気の粉の一粒一粒でこれが起きてるの?」
「そうですね」
「はー、面白いね」
ヴィヴィアナさんって素直で好奇心旺盛だな、と改めて思った。
「ここからは掃除しながら、空気のぶつかり合いを見ていきましょう。埃が舞って、あっちこっちに動いてるのってこれが原因なんですよ」
「へぇー! 面白い。掃除するのがこんなに楽しみなのって初めてかも!」
こうして、私たちは掃除を始めるのだった。
しばらく掃除をしていく中で、ヴィヴィアナさんは空気の分子の衝突を見ようと頑張っていた。
でも、なかなか見えない。
埃が動いてるのは分かるらしいんだけど、それがなかなか分子の衝突――チカチカまでは見えない。
掃除を進めながら彼女を見ていく中で、私の中に1つの仮説が生まれた。
人は、必要のないものが日常にあるとそれを自動的に無視できるようになる。
慣れ、なんだろうな。
外食とかで家族と話しているときに、周りの会話が気にならなくなるような感じだ。
この世界の人たちにはそれが起きているのかも知れない。
私はこのローマに来た直後から空気がチカチカして見えていた。
今ではある程度無視することが出来るようになったけど。
でも、この世界で生まれ育った人たちはどうだろう?
物心つくまえに『慣れ』てしまって、チカチカを常に無視してしまっているんじゃないだろうか。
このことは、この世界で私だけが魔術の光が見えることとも関係している気がしてる。
元の世界に魔術がなかったから、私だけが見えるのかも。
さて、どうしよう。
慣れで無視してしまっているのなら、それはそれで方法はあるはずだ。
日常の状況が無視されるのなら、非日常の状況にしてしまえば見える、はず。
一通り掃除が終わり、ガッカリした様子のヴィヴィアナさんが居た。
「やり方を変えてみましょうか」
「――うん」
魔術が使えるという期待が大きかったのだろう。
反動で元気のなさがひどい。
心配になるくらいだ。
「夕食までにまだ時間はありそうですか?」
「フィリッパちゃんのお蔭で早く終わったと思う」
「では、外に行きましょう」
私は元気のないヴィヴィアナさんを引き連れて、庭に出た。
「あの辺りの空間を見ててください」
一瞬、ウルフガーさんに魔術を気づかれるかなと思ったけど、すでに掃除に使ってるし別に良いかと考える。
これまで風系統で何か反応されたこともないし。
私は、掃除に使うレベルに抑えて、空気を圧縮する魔術を使った。
領域は小さい。
ただ、割と強力に圧縮している。
「どうですか?」
目を細めてのぞき込むように見上げるヴィヴィアナさん。
それでも見えないみたいで「うーん」と唸っている。
――ダメか。
一晩寝てからチャレンジした方がいいのかも知れない。
「違和感もなさそうですか?」
「……ぅ」
今日はここまでにした方がいいな。
何かヴィヴィアナさんを元気づけるような話をして――。
そう思いながら、集めていた空気を一気に解いた。
パン! という音がする。
「戻りましょうか」
ヴィヴィアナさんに語りかけ、背を向ける。
――あれ?
彼女がついてこない。
それどころか固まってる。
というか、圧縮した空気があった場所を凝視していた。
「ど、どうしたんですか?」
呼びかけても反応しない。
「ヴィヴィアナさん?」
「――もう1回やって!」
「な、なにをですか?」
「あの、パンッてやつ!」
パン? あ、そういうことか。
私はすぐに空気を圧縮する。
「もう1度、パンッと鳴らします。3、2、1」
パンッ!
彼女は身動き1つしない。
ただ、その瞬間に目だけは見開いた。
「もう1回」
「はい。いきます。3、2、1」
パンッ!
「――み、見えたかも」
「え?」
「見えたかも!」
彼女が近づいてきて、私の身体を揺すった。
「それなら、もう何回かやってみましょう!」
「うん!」
それから何十回か圧縮と解放を繰り返した。
空気が外側の空気とぶつかるところが、見えているみたいだ。
それから、圧縮した空気ではなく、普通の暴風の魔術とかも見て貰った。
これもちゃんと見えたみたいだ。
少しずつ、威力を弱めていったところ、最終的には普通の空気でも見えるようにまでなっていた。
ただ、その頃にはすでに日が傾き初めていた。
「ヴィヴィアナさん、夕食の準備の時間って大丈夫ですか……。時間まずいんじゃ……」
「だ、大丈夫じゃないかも……」
「い、急ぎましょう!」
こうして私たちは慌ててキッチンに向かった。
ヴィヴィアナさんを中心に怒られることになったんだけど、彼女はたまに、にへらと笑い、それで更に怒られるのだった。
完全に私のせいだったので、しっかりと「頼まれていたのに気を抜いた私の責任」とメリサさんに伝えて、明日からは気をつけようと心に誓うのだった。




