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第135話 逃飛行

前回までのライブ配信


アイリスが湯船に浸かっている間に着替えを隠される嫌がらせに遭い、犯人に直接警告する。眠っている彼女のもとに女神たちが押し寄せ、男装しているのがアイリス本人であることを突き付ける。アイリスはこれを認め、直後に空へ逃げ去るのだった。

 空は夕焼けの少し前といったところだろうか。

 私は暴風の魔術で空を飛んでいた。

 追っ手もかなりのスピードだと思うけど、私の方が速い。

 そのためか余裕も出てきた。


 まだ飛ぶことに慣れてはいないものの、上下が分からないほどではなくなっている。

 ただ、暴風の魔術はコントロールが難しくて真っ直ぐには飛べていない。


 移動方向も変えているのに、追っ手は正確に追いかけてくる。

 何か見通す力でもあるのか?


 しばらく考えていたけど、すぐに暴風の魔術を使っていることが原因だと気づいた。

 強力な風を使っていれば、風系の魔術の使い手には分かるか。


 だからと言って地上に降りてしまうと追いつかれる。


 少しの間だけ地上に降りよう。

 そして、視聴者にアイデアを出して欲しいとお願いしてみよう。

 彼ら彼女らには頼りっぱなしだな。


 私は降りやすい街道を探して、地上に降りた。


 ≫お、降りた≫

 ≫逃げられたのか?≫


「すみません。急いでいます。また、頼らせて貰ってもいいですか?」


 ≫おけ≫

 ≫もちろんいいぞ!≫

 ≫任せろ!≫


「ありがとうございます。私は今、何者か――恐らくイリスさん――に追われています。スピードは私の方が速いのですが、暴風――風系の魔術を使っているからか位置が正確に把握されています。風系の魔術を使わずに彼女から逃げるアイデアが欲しいのですが……」


 ≫了解!≫

 ≫それを考えて発言すれば良いんだな?≫

 ≫配信ブレーンストーミングの始まりだぜぇ≫

 ≫分かった。はよ逃げろ≫


「助かります!」


 私は再び飛んだ。

 一瞬、以前の突風の魔術を使おうとも思ったけど、今となってはコントロール可能かどうか分からない。

 結局、暴風の魔術を使う。


 慎重に飛び上がり加速していく。

 それでも安定しない。

 中庭から飛び立ったとき、良く無事だったと思う。


 フリアエとの戦闘をきっかけに、少しだけ暴風の魔術に慣れたお陰かも知れない。


 暴風を当てる量や角度を調整していく。

 移動するときと同じように暴風と身体を一体化するようにもしてみる。

 その状態で、浮力と重力が拮抗するやり方が簡単で安定する。


 試行錯誤している内に追っ手が迫ってきていたので、スピードを上げた。


 コメントでもアイデアがいくつか出ている。

 中でも、川を見つけて入り、水をコントロールして逃げるというものがいけそうな気がした。


 追っ手が水系の魔術を使えないなら、察知されずに逃げられるかも知れない。


 このアイデアには他の視聴者も好意的なようだ。

 川に入った場合の注意事項などが列挙されていく。

 追っ手がイリスさんなら察知される可能性もあるけど、やってみる価値はあると思う。


 更にスピードも高度も上げて大きな川を探した。

 相当な速度が出ているのだろう。

 あっという間に、山や盆地などの景色が流れていく。


 すると湖が見えた。

 大きい。

 この高さじゃなかったら、海と見間違えていただろう。

 近くに建物も見える。


 ≫湖か≫

 ≫でかいな≫

 ≫ローマ近くならブラッチャーノ湖ですね≫


 私は指を伸ばし湖に向けた。

 降りることを伝えたつもりだ。


 ≫ここに降りるってことか?≫

 ≫広いし障害物もなさそうだし良いかもな≫

 ≫調べた。湧き水由来の湖らしいな≫

 ≫じゃあ、入っても問題ないか≫


 どちらにしても入るしか選択肢がなかったけど、綺麗な水というのはありがたい。

 私は陽動のため、別にもう1つ暴風を起こしつつ、スピードを落として湖に入った。


 完全に沈む。

 水の中だ。

 音も水中の()もったものになった。


 水流を操作して身体を持ち上げ、顔だけを浮かび上がらせる。

 原理としては、暴風で飛ぶのと同じだ。

 液体で不確定性関係が使えるかどうか試していないので、水分子同士の反発を使っている。


 湧き水由来だからか、元々波もなさそうだ。

 今はそこそこ荒れてるけど。

 さて、もう1度くらい陽動のために暴風を使っておくか。


「聞いてください。これから暴風の魔術を全力で使います。追っ手を混乱させるためです」


 ≫追っ手を混乱?≫

 ≫どこかに飛んでいったと思わせるんだろ≫

 ≫なるほど≫


「音量注意です。魔術は10秒後に使います。10、9、8……」


 大きな声で、視聴者に話しかける。

 カウントダウンを開始すると、なぜかコメントでも数字がたくさん流れた。

 妙な一体感がある。


「ゼロ!」


 ≫0!≫

 ≫零!≫

 ≫ゼロ!≫


 カウントすると同時に私は可能な限り上空で、暴風の魔術を使った。


 ゴゥー!


 凄まじい音が響きわたる。

 すぐに余波の風と衝撃波がやってきて、水面を激しく揺らした。

 最初に使ったときより威力が増している気がする。


 波が収まるのを待ってから、近くの岸に向かった。

 魔術を宿した追っ手が湖に近づいてくる。


 視線は向けない方がいいだろうな。

 注目していると意外と分かってしまうものだ。

 近くに白鳥らしき鳥が居たので、私はそれらに近づいていった。


 様子を見る。

 追っ手は湖の前で停止しているようだった。


 背を向けたまま追っ手の魔術の光を感じる。

 こうしてみると光はかなり大きい。

 邸宅でみたときよりも遥かに大きいので、ある程度は意識的に変えられるのかも知れない。


 しばらくすると追っ手は高度を上げた。

 私を探しているんだろう。

 少なくとも、水に対する魔術は察知できないようだ。


 私は白鳥につかず離れずの距離と保って移動していく。


 追っ手は10分くらい湖の周辺に居ただろうか。

 さすがに探すあてもないからか、去っていった。


「ふぅ」


 思わず声が漏れる。


「追っ手はようやく去ってくれました」


 ≫よかった!≫

 ≫結局、イリスだったのか?≫


「正確には分かりません。ただ、大きな魔術を宿らせていたので、女神の誰かだとは思います」


 それから岸のある場所まで移動して湖を出た。

 かなり寒い。

 身体も震えてきた。


 魔術で温風を出そうと思ったけど、風系の魔術は察知されるかも知れない。

 光曲(こうきょく)の魔術なら大丈夫かな?


「寒いので光曲の魔術で暖まります。温風だと気づかれるかも知れないので」


 ≫もう応用してるのか≫

 ≫焦げないようになw≫


「ありがとうございます」


 位置を調整して湖の反射をこちらに向けた。

 暖かい。

 というより熱い。


 瞬間、去ろうとしていた大きな光が増した。

 急激にこちらに近づいてくる。


「すみません。追っ手に察知されたみたいです。逃げます」


 考えるのはあとにしよう。

 私は再び暴風の魔術を使って飛んだ。


 ≫西に向かってください。海があります≫

 ≫光曲の察知は虹の女神だからかも知れません≫

 ≫虹は光の屈折が原因だからか!≫

 ≫なるほど!≫

 ≫なんつー分かりにくい罠≫

 ≫にげてー≫

 ≫イリスの可能性が高くなったな≫


 寒い。

 でも、それどころじゃない。

 風の中に居ると言っても、重力と釣り合うだけの強風には曝されている。

 風速30kmくらいだろう。


 身体を震わせながら丁寧語さんの言う通りに西の海へ向かう。


 ――海か。

 寒そうだな……。

 あ、でも海面があるし光で暖まれるか。

 日が暮れる前にとにかく暖まりたい。

 私は覚悟を決めて最大限の加速をした。

 Gにさえ気をつければ速度自体はかなり出せる。


 私は速度を落とし、追っ手を確認できるギリギリの距離を保ったまま太陽が沈む方向へと進んだ。

 それから10分くらい飛んだだろうか。

 死を予感させる寒さだったので、飛ぶのに関係なさそうな場所の風を無風状態にした。


 空気の圧縮で暖まりたかったけど、飛びながらは難しくて出来なかった。

 寒さに身体の震えが止まらなくなった頃に、海が見えてくる。


 ≫もう着いたのか!≫

 ≫海まで40kmはあるはずなんだろ?≫

 ≫時速250kmくらいってことか≫

 ≫速すぎないか?w≫


 思ったよりスピードあるな。

 途中から追っ手を見失わないように合わせていたので、彼女も時速200kmくらいで飛べるのか。

 ただ、今の私が本気を出せば、倍近くのスピードは出せる。


 暴風の魔術を身につけていて良かった。


 ≫更に西に向かうとコルシカ島があります≫

 ≫ナポレオンの出身地か!≫

 ≫約200kmなので近くはありません≫

 ≫東京からだと浜松くらいか≫

 ≫今のスピードだと1時間近く掛かる計算だな≫


 200kmだと函館から札幌よりも遠い。

 皇帝の護衛のこともあるし、そこまで行くつもりない。


 高度を落とす。

 波のせいで反射の効率は悪いけど、身体を暖めるだけなのでちょうど良かった。

 日の光を集めて暖まる。


 暖まるといっても、身体が濡れているのと暴風はそのままなので、暑いのと寒いのがごっちゃになった。


 ≫板でもあれば乗って移動できるのにな≫

 ≫氷の板は作れないのか?≫


 氷の板は難しいと思う。


 そういえば、シャザードさんは包囲網を突破するときに海を凍らせたんだっけ?


 大規模な魔術から、剣を合わせただけで低温脆性(ていおんぜいせい)利用して刃を割るような細かなコントロールが必要なものまで使いこなしていた。

 相当な魔術の使い手だったんだな。


 私も低温脆性が使いこなせるようになるのだろうか?

 ――よし。


 まずは出来そうなことからいこう。

 暴風を最小限にして飛んでみようと思い立つ。 

 上手くいけば追っ手に察知されなくなるかも知れないし、体温が奪われることは減るはず。


 でも、もう少しだけ暖まってからにしよう。

 私は真夏並の日光を浴びながら、服が乾くのを待つのだった。


 海が続いている。

 日は水平線に沈みかけていた。

 綺麗だ。


 日光を集めたお陰で服のほとんどは乾いている。

 死を感じるほどの寒さではなくなった。

 追っ手はまだ追いかけてきている。


 私は明るい内に暴風の魔術を最小限にすることを試してみようと考えた。


 いろいろ試していくと、腕を真下に伸ばし手のひらに暴風を当てて、足を組んで空気椅子のような体勢で飛ぶのが良かった。


 空気椅子といっても、お尻に暴風が当たっているだけなので筋力は使わない。

 本当に空気の椅子のようだ。


 方向の微調整は手のひらで行い、スピードは鎧の部分に暴風を当てて押す。

 結果として、偉そうな態度で飛ぶことになった。

 姿を誰にも見られてないのが救いか。


 更に通り過ぎた暴風は、無理矢理ブラウン運動させて緩やかな風にしている。

 これで追っ手に察知されなくなったかな?


 私は飛ぶ方向を西から南に変更した。


 南に向かってからしばらくしても、追っ手が近づいてくる様子はなかった。

 更に南に向かい続けても近づいてくる様子はない。


 いや、追っ手の動きが止まってる?

 私を見失ったんだろうか?


 速度だけ上げて南に向かい続けた。

 完全に私を見失ったように見える。

 暴風を最小限にしたのは正解だったかな。


 そうして日が暮れる。


 私は進む方向を東に変える。

 追っ手は私を探すのを諦めたようで移動を始めた。

 着いていけばローマに戻れるのだろうか。


 ただ、戻る前に視聴者と話しておきたい。

 安全を考えてローマの外壁に入ってからの方が良いだろうか?


 考えている内に海が終わり陸が見えてくる。

 暗いので、なんとなくというレベルでしか見えない。


 私は降りられそうな場所に着地した。

 空間把握を使いながら話せば危険はないはず。


「皆さん、いろいろありがとうございました。お陰様で追っ手から逃げることが出来たようです」


 ≫結局、どうなったんだ?≫


 私は暴風の魔術を最小限にして飛んでいたことを簡単に説明した。


 ≫最小限にすると気づかれないのか?≫


「少なくとも見失ったようです。あくまで追っ手が遠くに居たからだと思いますけど」


 ≫これからどうするんだ?≫


「ローマに戻ります。ラデュケたちが気になりますし、ミカエルの邸宅自体もあの後どうなったのか知りたいです。マリカと護衛の交代もしないと」


 ≫護衛の交代? 正体バレてるのにか?≫


 そうか。

 私がラピウスってもう知られてるのか。


 ≫そもそもなんで正体がバレたんだ?≫

 ≫確かに不思議だな≫

 ≫メリクリウスがバラしたとか?≫


「それは違う気がします。メリクリウスさんは隠れて彼女たちを監視していたくらいです。今も彼の存在は女神たちに知られてないと思います」


 ≫バレた原因はメリクリウスくらいだからな≫

 ≫あの女性が女神ミネルウァならどうですか?≫

 ≫ミネルウァ?≫

 ≫戦略や知恵の女神ですね≫

 ≫ギリシア神話だと女神アテナです≫


 あの女性。

 私に「アイリスか?」と問いかけてきたあの美しい女性のことだろう。


 ≫確かに人妻感はなかったな≫

 ≫ユーノではないということか……≫

 ≫踏まれたい度が高かった!≫

 ≫(ののし)って欲しい!≫

 ≫犬になります!≫

 ≫お前ら……w≫


 言いたいことは分かるけど触れないでおこう。


 ≫でも、なんでそんな大物中の大物が?≫

 ≫ユーノだって大物だろ?≫

 ≫ユーノは嫉妬モードだと見境(みさかい)ないからw≫

 ≫まあな≫

 ≫そういや身体に魔術は宿してた?≫


「いえ、身体は普通の人間でした」


 ≫人間に変身してるのか……≫

 ≫でも女神を二柱(ふたはしら)従えてたんだろ?≫

 ≫ユーノではなさそう。クールすぎる≫

 ≫ユーノだったらヒステリー起こすイメージw≫


「えーと、はい。おしゃる通りイリスさんやフリアエを従えていたことから見ても、彼女は上位の存在だと思います」


 ≫そうですね≫

 ≫やっぱりミネルウァの可能性あるな≫


 どういう話から彼女の正体が女神のミネルウァって話になったんだっけ?

 ――あ。

 私の正体がどうしてバレたのかっていう話からか。


「少し話を戻します。どうして、私の正体が分かったかという話です。丁寧語さんは、彼女がミネルウァさんなら私の正体を自力で見抜いてもおかしくない、と言いたかったんですか?」


 ≫フォロー助かります。その通りです≫


「ミネルウァさんなら知恵の女神ですし、私がラピウスと特定するところまでたどり着くということですね」


 ≫はい。人物を置き換えてみましょう≫

 ≫例えばカトー議員ならどうですか?≫

 ≫彼になら正体を見抜かれると思いますか?≫


 あ、なるほど。


「――必ず見抜かれると思います。皇帝を治療した2人と、護衛している2人のことを考えるだけで簡単に推測できます」


 マリカとアイリス。

 ノーナとラピウス。


 名前こそ違うけど、同一人物と疑われてもおかしくない。


 ≫そう言われりゃそうか≫

 ≫見抜けない方が無能なのではという気が……≫

 ≫精査する人でないと難しいとは思います≫

 ≫ただ、知恵の女神は人間より上の存在です≫

 ≫下手すると人類最高の天才より上か≫

 ≫カトー議員以上と思った方が良いでしょうね≫


「カトー議員以上ですか……」


 出し抜ける気がしない。


 ≫しかしなんでミネルウァが? 偉い神だろ?≫

 ≫想定と違うことがあったのかも知れません≫


「例えばどんなことですか?」


 ≫例えば、女神フリアエを翻弄(ほんろう)した等です≫

 ≫あー≫

 ≫アイリスの実力を見極めに来たのか≫

 ≫対鉄の巨人のためだけにか?≫

 ≫神の面子に賭けても負けられないんじゃ?≫

 ≫情報は力ですからね≫


 私にそこまで?

 いや、実際に鉄の巨人だろうがなんだろうが倒すつもりでいた訳だけど。


 それにしても私を知るためだけに上位の神が自ら行動しているかも知れないのか。

 油断どころか隙すら見せられないな。


 ≫もう1つ気になっていることがあります≫


「なんでしょう? 教えてください」


 思わず食い気味に発言してしまった。


 ≫では、お言葉に甘えて≫

 ≫彼女は貴女の正体を話さないのではないか?≫

 ≫そういう可能性です≫


「私の正体を話さない?」


 ≫彼女が女神ミネルウァだったらの前提ですが≫


「それは彼女たちが対立してるからですか?」


 女神ユーノと女神ミネルウァの対立。

 メリクリウスさんもそんなことを言っていた。

 神話だけの話ということではないのだろう。


 ≫そうですね≫

 ≫彼女の目的にもよりますが≫

 ≫目的が『貴女の敗北』なら話さないでしょう≫

 ≫女神ユーノに話すと途中で邪魔されます≫


 ユーノが闘技会前に何かしてくるということだろうか。


「――あり得そうですね」


 ≫あり得そうというか、必ず何かしてくるなw≫

 ≫そこそこ恨み買ってるしな≫


「ミネルウァさんが他の女神たちに黙っている可能性はどのくらいだと思いますか? 丁寧語さんの感覚で構いません。もちろん、他の視聴者も意見があればお願いします」


 ≫2、3割くらいですね≫

 ≫五分五分はありそう≫

 ≫ありそうではある≫

 ≫40%≫

 ≫50!≫


 更にいくつか予想するコメントが並んだ。

 50%前後が多いだろうか。


「皆さんありがとうございます。私もあり得る話だと思います。正体が言いふらされていない前提で、ミカエルの邸宅に戻る価値は充分にあると思っています」


 ≫戻ってみる価値はあるでしょうね≫


「思えば、私が彼女に問い詰められたとき、イリスさんに声が聞こえないよう配慮していたような気がします。女神なので人間より耳が良い可能性もありますけど」


 ≫そんなことがあったのか≫

 ≫戻るのは良いけど気をつけろよ~≫

 ≫逃げ道の確保が最重要だな≫

 ≫スピードならアイリスの方が上だからな≫


「ありがとうございます。いつでも逃げられるように気を配りつつ戻ってみます」


 ≫はい。気をつけてください≫

 ≫相手にミネルウァが居る前提でな≫


「あ、そうですね。ありがとうございます。カトー議員を相手にしてるつもりでいきます」


 辺りは既に真っ暗闇だ。

 イリスさんが宿している魔術の光はもう見えないが、消えた方向は分かる。

 その方向が恐らくローマだろう。


 空を見上げる。

 水平線から昇っていきそうな天の川が見えた。

 方向的に西のはずだから北はこっちか。

 私は北斗七星とカシオペア座を見つけてから、北極星の位置を確認した。


 こういうところは元の世界と同じなんだな。

 いや、ローマと函館の夜空は同じはずか。

 不思議な感じだ。


 ここからだと、ローマの位置は東南東(とうなんとう)というところだろうか。


 私は、最小限の暴風の魔術を使いながら浮き上がり、追っ手が消えた方向へと飛んでいくのだった。

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