第118話 VSゼルディウス[前編]
前回までのライブ配信。
アイリスは準々決勝、準決勝と勝利を収める。特に準決勝では身体が大きく力も強い『雷帝』ジークベルトに力で真っ向から戦い、決勝進出を決めるのだった。
ジークベルトさんとの対戦に勝利したのも束の間、決勝までの時間は少ない。
私はまた、視聴者と話し合うために地下の通路に来ていた。
「さっき更衣室で兜を脱ぐときに気づきましたが、手が微かに震えてます。あと小指が伸ばしにくいです。痛みはありません。これはなんでしょうか? 怖かったとかは全くありません」
≫全く怖くなかったのかよw≫
≫酷使しすぎとか?≫
≫剣同士の衝突の負荷が強すぎたんだろうな≫
「何か対処方法とかあります?」
≫安静にするのがいいんじゃないか?≫
≫素人判断だと悪化するかも知れないしな≫
「分かりました。ありがとうございます」
それから『重さ』を使った攻撃についての反省会をした。
『重さ』を使った攻撃というのは突風の魔術を真上で発動して身体を重くした上で行う攻撃だ。
重さが倍になると理論的には運動量も倍になる。
その重さは最大で450kgにしたつもりと伝えた。
視聴者からメリット・デメリットなどが挙がる。
手が震えるということは現在の私の筋力が足りてないということだった。
よって、重さを使う戦い方は控えた方が良いという話になる。
「――次はなるべく使わないように努力します」
≫最初は使ってもいいんじゃないか?≫
≫理由は?≫
≫さっきの相手が最後体勢崩してただろ≫
≫対戦中の画面は酔うから見てない≫
コメントによると、ジークベルトさんが体勢を崩したのは、私と剣を合わせると予測したからとのことだった。
よって、最初に強い攻撃が出来るのを見せておいた方が、多少有利に進められるかもという話だ。
≫で、どうして剣を合わせなかったんだ?≫
≫握力が限界だったとか?≫
「いえ、ジークベルトさんに魔術無効を使われたからです」
≫使わなかったではなく、使えなかったのか≫
≫自分で無効にしておいて空振りとかw≫
≫決勝で『魔術無効』は使われないのか?≫
「ゼルディウスさんはここまで魔術無効を使ってないと思います。だから最初だけならいけるかと」
『達人』ホスロウさんとの戦いで、睨んで突風をかき消したことはある。
でもあれは、魔術無効じゃない。
魔術無効ならそもそも突風を起こせない。
そういえば、ゼルディウスさんってマリカの水射の魔術も拳圧みたいなので弾いてたな。
≫なら魔術を使うことは出来るのか≫
≫魔術が使えるなら、突風で吹き飛ばせば?≫
「そうですね。どこかで全力で魔術を使ってみます」
≫全力ってどうなるんだ? 怖いなw≫
≫久々に竜巻が見られる訳か≫
≫一応言っておくが、竜巻じゃなくて旋風な≫
「効かない可能性の方が高いですけどね」
魔術の光――神の因子を身体に宿していると魔術での攻撃は届かない。
少なくとも、経験上は風系の魔術が効かない。
他の魔術は効くかも知れないけど。
ただ、私の魔術は下手に効かない方が良いかもとも思う。
下手に効くと、周囲に魔術無効を展開される可能性がある。
そうなると、『重さ』や霧の魔術で身体を濡らしてからの電撃攻撃が使えなくなる
その後も話し合いは続いたけど、特に新しい意見は出てこなかった。
「それでは、大まかな戦い方の方針です。まず、身体を重くしての剣撃で警戒させます。あとは捕まれないように立ち回り、魔術も使いながらカウンターを狙って戦います」
捕まれた場合はどうしようもない。
ゼルディウスさんは総合格闘技で負けなしだと聞いている。
私がどうこう出来る相手じゃない。
「そろそろ戻ります。相談に乗ってもらいありがとうございました」
私が更衣室に戻った頃、係の人がゼルディウスさんの勝利と決勝進出を伝えてきた。
いよいよか。
さすがに緊張してくる。
私は控え室に向かった。
控え室にたどり着くと歓声が聞こえてくる。
3位決定戦だろうか。
ジークベルトさんは酷い怪我だったのに出場しているということなのだろう。
それから私は集中するために思考に浸った。
ゼルディウスさんが戦っている姿で覚えているのは、やっぱりルキヴィス先生と戦っていたときだ。
素手同士だったものの、速くてついて行けなかった覚えがある。
今ならどうだろうか?
あれから、特別試合とはいえマクシミリアスさんと戦い、『蜂』と戦い、モルフェウスさんに勝ち、トーナメントも決勝まで勝ち抜いてきた。
差は埋まったのだろうか。
分からないけど自分の力を試してみたい。
日本に居た頃ならこんなことは考えようとも思わなかっただろう。
戦う技術や自分を信じられるようになった今は違う。
戦うことが待ち遠しい。
「アイリス闘士」
私は呼ばれて立ち上がった。
「今行きます」
そうして、控え室を出る前に小声で言った。
「これから皆さんに貰ったもの含めて全てぶつけてきます。これまでもこれからもありがとうございます」
≫頑張れ!≫
≫応援してるぞ≫
≫アイリスコールだ!≫
≫アイリス!≫
≫アイリスアイリス!≫
大量のコメントに後押しされながら、私はドアの外へと踏み出していった。
エレベーターが上がっていく。
再び明るい地上へ。
歓声の音量が凄まじいものになる。
その先にゼルディウスさんが居た。
身体に宿している魔術の光で眩しい。
近くで見ると、その存在が圧倒的ということがよく分かる。
一目で分かる強烈な笑み。
生物としての格が違う。
ただ、逃げようとは思わない。
怖さはある。
でも、怖さより私自身を試してみたいという気持ちの方が強い。
「待ちわびていたよ」
近づくとゼルディウスさんは笑顔のまま言った。
「――光栄です」
私は立ち止まって言った。
「私はずっと退屈していてね。『不殺』を見てやってきたんだが正解だったようだ」
≫やってきた?≫
≫総合格闘技から剣闘に移ったってことかな≫
「――買いかぶりではないでしょうか」
「ナルキサスから聞いたよ。私に匹敵する男を倒したそうじゃないか」
なるほど、ナルキサスさんからモルフェウスさんのことを聞いたのか。
それが私を自分のモノにするという迷惑な宣言に繋がったんだろう。
少しイラッとした。
「その男の人と貴方のどちらが強いか試してみましょうか?」
最大限に挑発する。
空気が変わった。
何もかもがゼルディウスさんの支配化に置かれたような緊張感。
大きな口が更に開き、獰猛な笑顔となった。
「いいとも」
風が吹いた。
鳥肌が立つ。
私たちはお互い武器を選び、定位置についた。
心臓が高鳴る中、いつものように胸の重さを感じ、肩の力を抜き、漂う渦を感じる。
「始め!」
開始の宣言の直後、流れる時間が遅くなる。
このモードがいきなり来たか。
歩んでくるゼルディウスさん。
私も真っ直ぐ歩いていく。
渦の乱れがほとんどない。
彼はただ風を切って歩いてくる。
試しに上空で突風の魔術を使ってみたけど、これは問題なく使えた。
いつの間にかゼルディウスさんの剣が私に向けて振られていた。
兆しが意識できなかった。
観客席から見ていたときより速い。
ただ、今は集中できているので反応できる。
真上から突風の魔術を発動する。
450kg想定。
身体を動かし、肩の力は抜いたままゼルディウスさんの剣を重心の前で受ける。
風が私の身体を鉛のように重くした。
ガンッ。
彼の攻撃自体が重く、継続時間も長い。
しかも剣の方向から魔術の光が漏れ、遅れて突風が吹いた。
髪がたなびく。
流れるようにゼルディウスさんの巨体が迫る。
真っ直ぐに盾で殴り掛かってきた。
はっきりと分かる巨大な渦の濁流。
――受けきれるか?
再び450kg想定の突風を発動する。
重心の前、今度は盾で受ける。
咄嗟に足はハの字、腕は三角にして盾を支えた。
ガッズン!
衝撃、拮抗。
ただ、何かが身体を通り抜けていく。
そのあとに魔術の光と強風。
強風が止む前に真横から恐ろしく大きな渦が迫っていた。
ゾクッとした。
回し蹴りだ。
盾はもう間に合わない。
腹筋に電気を通し、強引に身体を曲げて回し蹴りの回避を試みる。
ふと、彼の軸足が見えた。
私自身の動きを予測して、真上からの突風を発動する。
同時にゼルディウスさんへも突風の魔術を放った。
彼に向けた風はかき消された。
回し蹴りが私の肩から背中を掠めるように当たる。
思った以上に衝撃が大きい。
身体ごとブレる。
私は大きく踏み出すことになった。
そこに発動させた突風がやってくる。
450kg想定の風が私の腰付近に当たり、地面に縫いつける。
目の前にゼルディウスさんの剣があった。
地面スレスレから斜めに斬り上げた攻撃だ。
彼の剣を盾で弾く。
衝撃はあったけど、下半身の重さで受け止められた。
すぐに私は彼の太股に剣を突き刺しにいく。
これは彼の膝で弾かれた。
そのまま、前蹴りを撃ってくるのが分かった。
「ぅぷっ」
急に吐き気がした。
私は吐き気を我慢して突風を発動し、前蹴りを盾で防ぐ。
強烈な前蹴りだったけど、重さを併用したからか、数歩後ずさる程度で済んだ。
――吐き気が酷い。
なんだこれ。
突風の魔術を発動して5メートルくらい離れた。
「っぷ」
気持ち悪さで視界が歪む。
膝をつきそうになる。
内臓をかき回されたような不快感。
≫どうした?≫
地面を見ていたからか、コメントで心配する声が上がる。
そうしている間もゼルディウスさんは歩いて私に向かってくる。
私は集中して気持ち悪さを無視する。
彼を近寄せたくないので、突風の魔術を連発したくなった。
いや、止めよう。
万全な状態のゼルディウスさんに魔術を乱発しても意味がない。
時間稼ぎにもならないだろう。
私は歯を食いしばり顔を上げ、ゼルディウスさんに向かって踏み出した。
彼はふと気づいたように剣を横から振る。
私は真上から突風を発動した。
渦に乱れはない。
彼からの攻撃の兆しも見えない。
ただ、剣が私に向けて振られている。
その彼の剣を私の剣が受け止めた。
「フッ」
急に彼の剣が重くなり、身体ごと持って行かれた。
重心の前で受け止めていたので、何歩か後退しただけだ。
そこに強烈な濁流が迫るのが見えた。
濁流を避け、一歩踏み込み剣を彼に突き立てる。
彼の前蹴りが私の横を通り過ぎ、私の剣は彼の盾に弾かれた。
ダメか。
と、いつの間にか彼の剣が私の目前にあった。
膝の力を抜いてその攻撃を避ける。
すぐに回し蹴りの予兆。
真上からの突風を発動。
450kg想定。
膝の力で踏ん張り、風を同時に浴びた。
回し蹴りは盾で受ける。
衝撃は大きかったが受けきる。
そこに私を包み込むような濁流。
全身に鳥肌が立った。
飛び跳ねるように下がるとそこに膝蹴りが通り過ぎ、兜を掠めた。
こ、怖!
「真正面から私と打ち合ってくれるとはね」
ゼルディウスさんが対戦中にも関わらず話しかけてきた。
「やはり君は面白い」
言うと、彼は真っ直ぐ歩いてくる。
これまでの歩み方と違う。
イヤな感じだ。
気が付くと左右どちらにも動けない状況だった。
少しでも動こうとすると歩む位置を調整される。
私は身動き出来ないまま、彼の剣の間合いに入った。
攻撃の気配は全くないが、真上から突風の魔術を発動する。
同時に私は盾を重心の前に置いた。
いつの間にか、剣先が迫っていた。
見えているのに反応できない動き。
渦そのものになったかのような動きだ。
剣先が盾にぶつかる。
ガドンッ!
真上からの突風は間に合い、拮抗した。
でもそんなのは関係なかった。
身体の中で何かが蠢いた。
「うぷっ」
胃液がこみ上げる。
苦み。
熱さ。
それらが口に広がった。
「くは」
胃液を吐いた。
喉が焼けるような痛み。
マズい。
何が起きてるのか理解できなかった。
私自身がどういう状態かも分からない。
暴れたくなる不快感だけある。
更に近づいてくるゼルディウスさん。
魔術を使おうと思ったけど、集中できなかった。
いつの間にか地面に膝と片手をつけ、爪を地面に立て嗚咽を漏らしていことに気付く。
逃げたい。
本能のような感情に埋め尽くされそうになる。
ただ、私の中にある自信というか経験がそのネガティブな感情を塗りつぶす。
ゼルディウスさんが倒れてる私に剣を振るった。
「くぁ!」
起き上がりながら無策で剣を振るう。
ガンッ!
私はそのまま一瞬で叩き潰された。
強烈に地面に叩きつけられ、宙に浮き上がる。
地面に身体が擦り付けられ転がった。
胃液がこみ上げ口から地面に伝う。
ぐちゃぐちゃな感覚と思考の中で、私の好奇心は疼いていた。
気持ち悪くなるこの不思議な攻撃はなんだろう。
こんなことが意図的に出来るのか?
私はゼルディウスさんのことを確認した。
彼は私の様子を見ていた。
想像以上に今の私はボロボロなのかも知れない。
でも追撃がないのはありがたい。
このまま時間稼ぎをしないと。
気持ち悪くなる攻撃について視聴者に相談したい。
時間稼ぎをするには全力の魔術を使う必要がある。
それには集中することが必要だ。
集中するためにも、この体内の気持ち悪さをなんとかしたい。
体内の気持ち悪さ?
ふと思いついた。
似たようなことを経験済みで、更に対策済みだ。
そう、生理のときの対策がここで生きる。
気持ち悪さを我慢して、内臓へと繋がる神経に電気を発生させる。
生理のときに『鎮痛の魔術』と名付けた痛み止めの魔術だ。
優しさでは出来ていない。
割とすぐに動けるくらいにはなる。
ただ、少しの気持ち悪さは残った。
経験的にはそれも少し経てば減っていくはずだ。
まさか、生理の経験がここで生きるとは……。
私はゼルディウスさんの背後へ旋風の魔術を使った。
久しぶりだけど、真空の魔術の経験が生きてる。
直径10メートルくらいの円柱を想定し、一気にその中の空気を上空に飛ばす。
ゼルディウスさんがそれに気づく。
彼は私を見たあと、腕を組んで旋風が成長する様子を眺めていた。
旋風はすぐに大きく成長する。
円形闘技場の空気が真空の円柱に集まり、砂を舞い上げ、巨大な竜のような旋風になり、ゴオーという激しい音を発し始めた。
ゼルディウスさんは、その旋風に近づいていく。
視聴者に相談するなら今しかない。
私はすぐに真空の壁を作った。
うるさい風の音を消すためだ。
もちろん、完全に風の音は消えないけど、大声で話せば自分の耳には届くくらいにはなる。
「すみません。1つ聞きたいことがあります。さっき攻撃を受けたときに、内臓辺りが気持ち悪くなりました。こんな攻撃あるんですか? 何か分かる人は教えてください。方法や対策もあると助かります」
余裕がないため、直球で聞いた。
中国拳法で身体の内部に効く攻撃があるというのは漫画か何かで読んだことがある。
≫寸勁?≫
≫浸透勁ってやつか?≫
≫空手の裏当てとか? やり方は知らん≫
≫システマのストライクとかもあるな≫
視聴者のコメントが飛び交い始める。
方法や対策まではないけど、話題の流れは良い方向だと感じた。
真空の壁を解除する。
あとは私の発言がなくてもコメントで有用な話が出てくると信じる。
私はゼルディウスさんに集中しよう。
旋風の魔術は完成している。
ほとんど竜巻と言っていいほどの大きさだ。
創水の魔術からの水射の魔術で、ゼルディウスさんを攻撃する。
彼は軽快に剣を振り回しながら、水を弾いた。
たまに突風の魔術も混ぜるが、関係なく剣を振って吹き飛ばしていた。
――なんか、無茶苦茶だな。
≫武術家だ。俺が知る浸透の打撃なら教える≫
≫来た!≫
≫なんでも知ってるな、武術家≫
≫で、どういう打撃なんだ?≫
≫分かりやすく言うと、速い連撃だ≫
≫速い連撃?≫
連撃? ゼルディウスさんって、そんな攻撃してたっけ?
横目でコメントを見ながら、旋風に近づこうとするゼルディウスさんを魔術で牽制する。
一方、コメントは勢いを増していた。
≫マッサージなどで両手を重ねて叩くだろう≫
≫同じ要領だ。あれも浸透のため行う≫
≫なるほど≫
≫指開いて小指側で叩かれるのも気持ち良いな≫
肩たたきの話か。
手を重ねて叩くマッサージは美容院でされたことがある。
なんとなくイメージが湧いた。
もう少しコメントを見たい。
時間を稼ぐためにも、ゼルディウスさんに旋風をぶつけてみるか。
コメントを見ながら、私はさっき作ったものとは別に旋風の魔術を使った。
予備のためだ。
円形闘技場中の空気がかき乱される。
その上で、ゼルディウスさんに向けて最初に作った巨大な旋風を移動させる。
彼は立ち止まったかと思うと、急に静かになった。
剣や盾を地面に落とす。
彼に迫る旋風。
息を吸っているのが遠目でも分かる。
呼吸で上半身が膨れていくのに合わせて、彼の身体の魔術の光も大きく輝き始めた。
強風が何もかもをはためかせる。
ゼルディウスさんはそんな中、構えた。
パンッ!
踏み込みながら素手で突きを放つ。
強烈な光が旋風を包み込む。
その旋風の一部が消し飛んだ。
パンッ!
連続して突きを空に撃った。
残りの旋風が消し飛ぶ。
秩序を失った風は、四方八方に飛び散ってそして消えていった。
呆然としてしまう。
自然災害のような旋風を2回のパンチで消し去ってしまうとは。
本当に彼は人間なんだろうか。
その間も、コメントでは浸透する攻撃についての議論が進んでいた。
≫浸透する武器にはブラックジャックがある≫
≫ブラックジャック?≫
≫あーだから鉄球とか石入れるのか≫
≫そう。袋に砂と鉄球を入れる武器だ≫
≫昏倒させたり暗殺のために使うらしいな≫
≫これも砂の打撃のあとに鉄球が追撃する≫
≫連撃っていっても『ほぼ同時』なんだな≫
更にコメントではブラックジャックのような打撃を、人の身でどうやって行うのかが話されていた。
身体を上手く使い連撃する方法。
両手を使って連撃する方法。
手の形を工夫するなどして連撃にする方法。
≫つまり二重の極みか!≫
≫アー!≫
≫古すぎるw≫
≫ところで対策はあるのでしょうか?≫
≫完全な対策は難しいな≫
≫ただ連撃は難しくタイミングもシビアだ≫
≫万全で攻撃させず攻撃目標をずらすことだな≫
そういうことか。
対策できないという訳じゃなさそうだ。
私は左目に向けて親指を立ててお礼とした。
さて行くか。
覚悟を決めた。
ギャンブルになるけど、ゼルディウスさんの浸透する攻撃も武術家さんの言う『連撃』と決めつけて対処する。
そのゼルディウスさんは私に向かって来ていた。
もう1つの旋風も私がコメントを見ている間に消されている。
彼は剣と盾も拾ってちゃんと装備していた。
私も剣を重心の前に立てて、ゼルディウスさんに向かっていく。
向かいながら鎮痛の魔術を少しずつ緩めた。
気持ち悪さは我慢できるくらいになっている。
ゼルディウスさんの動きがさっきと同じになる。
私が左右に動けなかったあの動きだ。
私は集中力を高め、ゼルディウスさんの息遣いすら逃さないように渦の解像度を高める。
それでも気付けば彼の剣先が迫っていた。
咄嗟に突風の魔術を発動する。
発動させたのは2つ。
私自身は剣を立て、更に踏み込む。
チッと音を鳴らしながらゼルディウスさんの剣が私の剣を掠める直前、私に風が届く。
ブワッ。
私の身体は50cmくらい後ろに下がった。
前面からの突風だ。
ゼルディウスさんの剣先は私に届かない。
続けて真上からの突風が私を地面に押しつける。
強烈な渦が見えた。
剣先が一瞬だけ止まり、そこから鋭い攻撃になる。
鳩尾の上にきたその攻撃を私の身体は捻って逸らした。
同時に片手に持ちかえた剣を斜め下から振るう。
狙ったのは彼が防具を着けていない、二の腕。
伸ばした腕を下から斬り上げたので、死角からの攻撃になる。
コンッ。
でも、私の刃は彼の腕を切り裂けなかった
メルフェウスさんと同じ感触だ。
タイミングが甘くて魔術の光を集められたか。
剣を振った勢いを利用して間合いをとる。
ゼルディウスさんは私を追いかけて来なかった。
それどころか、何か腕を動かしていた。
なんだろう?
警戒しながら見ていると、彼の腕から何かがポタリと地面に落ちた。
「――血を流したのはいつ以来だったかな」
嬉しそうなゼルディウスさん。
地面に落ちたのは血だったのか。
皮膚1枚くらいは斬れていたということだろう。
「いつ以来かは知りません。でも、次はすぐです」
「ゾクゾクしてきたよ」
私たちは微笑み合った。
身体の内の気持ち悪さはない。
浸透する攻撃への対策は成功したかな。
武術家さんたち視聴者にはいくら感謝しても足りない。
これでようやくスタートラインな気がする。
私は細く息を吐き、闘争心を燃え上がらせるのだった。




