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第117話 直前の重圧

前回までのライブ配信。


ゼルディウスは3回戦に勝利しアイリスを自分のものにすると宣言する。その後、心配になった皇子アーネスがアイリスの元を訪れた。そして、時は過ぎ、トーナメント最終日がやってくるのだった。

 準々決勝。

 最終日だからか、観客席は最上階までいっぱいだ。

 準々決勝の最初は私の対戦になる。


「始め!」


 慎重で隙の少ない相手だったけど、私が無防備に身体を(さら)すと攻撃してきた。

 彼の攻撃をカウンターからの連続攻撃に繋げる。

 それで勝つことが出来た。


 着替えてから急いで観客席に向かう。


 すぐにルキヴィス先生、カクギスさん、リーシアさんを見つけることが出来たので挨拶した。 

 次の対戦が始まる前になんとか席に着けたか。

 午前に4戦だけなのもあって時間に余裕がある。


「圧勝であったな」


 席に着くとカクギスさんが声を掛けてきた。


「早めに勝負がつけられて良かったです」


「慎重な相手が守りに入ると面倒だからな。ただ、ああも無防備に行くってのは自分に確信がないと出来ない。成長したな」


「あ、ありがとうございます」


 先生に褒められてさすがに嬉しくなる。


「ふむ。知らぬ領域の話だな」


「この辺りは戦い方の方向次第で必要になる技術も精神も変わってくるのさ」


「そういうものか」


「――始まります」


 皆がリーシアさんの一言でアリーナ中央の剣闘士2人に注目し始める。


 対戦が始まった。


 内1人はかなり大きな剣闘士だ。

 ゼルディウスさんよりも1回り大きい気がした。

 長いリーチからの攻撃の威力が凄まじく、岩をも粉砕しそうだ。


 もう1人の方は盾の使い方が上手い。

 身体は筋肉で厚みがある。

 凄まじい攻撃をいなしながら間合いを詰め、攻撃を放っている。


 2人ともスピードはある。

 ほとんど瞬間移動のように動いていく盾の人。

 その動きよりも激しく速く攻撃する大きな剣闘士。


 途中でたまに盾の人が攻撃をいなし切れてないことが増えてきた。

 どうも、大きな剣闘士が剣の軌道を途中で変え始めたっぽい。

 軌道変えるのは数回に1回くらいだ。


 盾の人は戦い方を変えた。 


 いなす方向から追いつめる方向だ。

 大きな剣闘士を左右に動けないように位置取りながら下がらせていく。

 上手いな。


 でも、その盾の人の動きが逆手に取られる。


 何度も強烈な斬撃(ざんげき)が盾の人の真上から叩きつけられた。

 盾ごと粉砕(ふんさい)するような勢いだ。

 盾の人は防ぐもののフラフラしている。


 その強烈な斬撃の1つを受け損ねる。

 見ると盾の上部が変形していた。

 盾の人が盾に隠れるようにする。

 そこへ更に強烈な斬撃が振り下ろされる。


 地面に叩きつけられる盾の人。

 叩きつけられながら、身体だけ起こそうとする。

 大きな剣闘士は剣を振り上げた。


 思わず息をのむ。

 心臓の鼓動が早い。


 そのまま剣は振り下ろされた。

 盾の人は再度地面に叩きつけられ動かなくなった。


 手足が遠く感じた。

 呼吸が乱れる。

 人が死ぬところも何度かは見てるはずなのに。


 闘技場全体から興奮した歓声が聞こえてくる。

 遠くなった手足が戻ってきた。


「次はあやつとだな」


「――そうですね」


 残酷さを突きつけられてショックだった。

 今、気づいたけどコメントでもショックの声がたくさん投稿されていた。


「だ、大丈夫なのですか?」


 リーシアさんが誰にとはなく声に出す。


「大丈夫とは言うのはアイリスがあやつと戦ってということか?」


「はい」


「見ていれば分かる」


 リーシアさんが私を見た。

 私はなんとなく彼女に頷いた。


「ジークベルト闘士の勝利!」


 身動きしない盾の人を救助していたからか、勝利宣言が遅れた。

 歓声が更に大きくなる。


 ≫ジークベルトってローマっぽくないな≫

 ≫北欧系なんじゃ?≫

 ≫ジークムントとかジークフリートみたいな?≫

 ≫ジーク・ジオン!≫

 ≫それは違うw≫

 ≫ジークは勝利って意味だからな≫


 次の対戦も白熱していた。

 やはり、準々決勝までくるというのはすごいことなんだろう。

 ただ強いだけでなく、何かその人ならではの戦い方を持っているような気がする。


 そして、今日の4戦目、あの男が姿を表した。

 『闘神』ゼルディウス。

 彼が出てくるだけで、今日一番の歓声が巻き起こる。

 身体も大きいが存在感が違う。


 一方、対戦相手はかなり小さかった。

 筋肉の厚みというものが全く感じられない。


「年齢50にて最盛期! ボスラ闘技場筆頭! 『達人』ホスロウ!」


 彼のことは覚えてなかったけど、『達人』という二つ名の紹介は聞いたことあったなと思い至る。

 ただ、戦い方が達人という訳でもなく、圧勝していた訳でもなかったので忘れ去っていた。


 2人の紹介が終わり、対戦が始まる。


「始め」


 いつものようにゼルディウスさんが対戦相手に向かって歩いていく。

 一方のホスロウさんは身体を固めて盾を構えている。


 そのホスロウさんに向けて剣が振られた。

 一見、雑に見える攻撃だけど、当たれば吹き飛ぶ威力を持っている。

 観客の一部はその瞬間を見逃すまいと身体を乗り出している。


 ガンッ!

 ゼルディウスさんの剣がホスロウさんの盾に当たる。


 そこには観客が期待していたであろう光景はなかった。

 ホスロウさんが、完全にゼルディウスさんの攻撃を受け止めている。

 ホスロウさんはそのまま剣でスッと突く。


 その剣は、ゼルディウスさんの盾で払われた。

 剣が落ちる。

 ホスロウさんは落とした剣に構わず、拳で突いた。


 でも、その拳での攻撃はゼルディウスさんが軽く首を(ひね)り避ける。

 同時にホスロウさんの胴体に向けてゼルディウスさんの膝蹴りがめり込んだ。


 ――と思ったけど、ホスロウさんはその膝に乗っていた。


「シッ!」


 彼は膝に乗ったまま盾の角で殴りかかる。

 その盾はゼルディウスさんに手のひらで受け止められてホスロウさんごと地面に投げつけられる。


 ホスロウさんは、地面にぶつかる前に魔術で集めていた空気を解放して受け身を取る。

 そのまま後ろに下がった。


 ただ、離れたのも(つか)の間、踏み込んだゼルディウスさんの蹴りが真っ直ぐにホスロウさんに向かう。

 ホスロウさんは盾で防ぐものの、そのまま吹き飛ばされた。


 宙に浮き、地面を転がっていく。


 ホスロウさんが立ち上がろうとする中、ゼルディウスさんは既に彼の目の前に居て、剣を振り下ろしている。


 ホスロウさんはそのまま立ち上がらずに転がるように盾で剣を弾いた。

 弾いた直後、ゼルディウスさんのサッカーボールを蹴るような攻撃がある。


 ホスロウさんがゼルディウスさんに向けて魔術で集めていた空気を放出した。

 ただ、その突風となった空気はゼルディウスさんが睨んだだけで勢いを失う。


 ホスロウさんに蹴りが当たった。


 彼の身体半分が弾けるように()()り、力なく転がる。

 そのまま動かない。


 数秒の間。


「ゼルディウス闘士の勝利!」


 高らかに宣言され、ゼルディウスさんの勝利が決まった。

 大歓声だ。

 これで、準決勝に進む4人が決まった。


「50にしちゃ頑張ってたな」


 ホスロウさんの年齢のことだろう。


「あのホスロウという者、恐らくこの対戦の直前まで力を隠しておったな」


「不意を突く方法としちゃ悪くなかったんじゃないのか? 実力に差があったから通用しなかっただけで」


「ゼルディウスさんは筆頭相手に遊んでるみたいでしたね」


「奴に遊ばれただけでもたいしたもんだ。他のやつらとか最初の攻撃で終わりだったからな」


「そういえば、ホスロウさんは最初の攻撃で吹き飛びませんでしたよね? なんだったんでしょうか」


「さあな」


「力か、あるいは技巧(ぎこう)か。すぐに動けたところをみると技巧なのであろうな」


 ≫あれは攻撃の瞬間、体重を増やしたんだろう≫

 ≫体重を増やす? どうやって?≫

 ≫体重計の針を動かす方法と言ったら分かるか≫

 ≫デジタル製は無理だぞ。昔のアナログのか?≫

 ≫歳がばれるな。もちろんアナログの体重計だ≫


 コメントが目に入った。

 確かに、一瞬でも重くなれば攻撃も弾けそうな気がする。


 ≫簡単な例を挙げるとブランコの立ち漕ぎだな≫

 ≫立ち漕ぎ? 体重となんの関係が≫

 ≫膝を抜き身体の落下を急停止して重くする≫

 ≫あー、なんとなく分かる≫

 ≫訓練すれば横隔膜(おうかくまく)でも出来る≫

 ≫防御だけでなく攻撃の瞬間にも使える≫


 攻撃にも使えるのか。

 攻撃? あれ? 何かが引っかかるな?

 いろいろ試してみたいんだけど、今はそれどころじゃないか。


 ――と、1つアイデアが思い浮かんだ。

 真上から自分の身体に突風をぶつけて体重を増やせないだろうか?


「どうした?」


「いえ、ちょっと攻撃のアイデアを思いついてしまいまして」


 私の言葉にルキヴィス先生が笑った。


「そのアイデアを試す気か。あんまり無茶はするなよ」


「もう練習する時間も機会もないので無茶になってしまいます」


 思いついたものは使ってみたくなる。

 使う機会は――次の対戦しかない。


「しょうがない奴だな」


 私たちは不敵(ふてき)に笑い合った。


「――この人たちは何の話をしているのですか?」


 リーシアさんがカクギスさんに話しかける。


「アイリスが次の対戦で何か新しい攻撃方法を試そうとしておるのだろう」


「実戦で試すということでしょうか?」


「『闘神』との戦いに備えるなら次の対戦しかあるまい。もっとも、思いつきを試してみたくて仕方ないだけかも知れぬがな」


 いろいろとバレてる。

 肯定するとリーシアさんに怒られそうなので、無言でやり過ごそう。


「――アイリスさん。そうなんですか?」


 そのリーシアさんに直接話しかけられた!


「――はい」


 何を言っても言い訳にしかならないので、素直に答える。


「そうですか。しかし次の貴女の対戦相手の戦い方は見ましたよね? とてもそんなことをしてる――」


 リーシアさんはそこまで言って何かを考え始めた。


「いえ、分からなくなってきました。貴女の戦いを見て判断することにします。失礼しました」


 彼女に怒られなくてほっとする。


「すまんな、アイリス」


 カクギスさんも彼女のこととなると少し様子が違うので面白い。


「いえいえ。結局、見てもらうのが一番早いですから。――さてと、そろそろ行ってきますね」


 そう言って私は立ち上がった。

 昼の休憩を挟んで準決勝が始まる。

 それに勝てば3位決定戦を挟んですぐに決勝だ。


 次、先生たちと再び会うことになるのは全ての決着が付いてからとなる。


「ああ。後悔のないように全部吐き出してこい」


「はい、先生」


「お主ならやれると信じておる」


「ありがとうございます」


 リーシアさんは一瞬だけ私に視線を向けて、すぐに逸らした。


「では、いってきます」


 私は先生たちに背を向けて立ち去ろうとする。


「――あの」


 その背中に声が掛けられた。

 リーシアさんの少年のような声だ。


「見てるので。――その、頑張ってください」


 彼女は上目遣いと地面に視線を落とすことを繰り返している。

 勇気を出して言ってくれたんだろうか。

 なんか嬉しくなる。


「ありがとう。頑張ってくるね」


「おい! 俺も応援してるぞ!」


「頑張ってくれ!」


「そこそこ賭けてるからな! 夢を見させてくれ!」


「そこそこかよ! 俺は別の奴に賭けてたが応援してるぞ!」


 急に周りから応援の声があがり始めた。


「皆さん、ありがとうございます」


 私が頭を下げると、歓声が起きた。

 不思議な力が()いてくる。

 その歓声に見送られながら、私は更衣室へと向かった。


 私は更衣室に向かう途中、『武術家さん』たち視聴者に相談していた。


 内容は重さで攻撃力を上げることだ。


 武術家さんの話によると、真上からの突風で体重を増やすというやり方でも攻撃力は上がりそうだった。

 運動エネルギーの公式や、作用・反作用の法則に基づいてのことらしい。


 細かい理屈はさておき、とにかく重ければ重いほど運動エネルギーも大きくなる。

 理論的には、重さが倍になれば運動エネルギーも倍になるということだった。


 ということは私を3倍の重さにすれば3倍の攻撃力になると考えて良い訳か。


 少し質問してみる。


「真上から突風を当てるとして、人ってどのくらいの圧力までに耐えられると思います?」


 ≫重量挙げとかどのくらいだっけ?≫

 ≫重量挙げは目安には使えないんじゃないか?≫

 ≫素潜(すもぐ)りとか?≫

 ≫素潜りも前後左右から水圧架かるから違うな≫

 ≫じゃ重力加速度のGとか?≫


 いろいろ案が出るが、決め手はなかった。

 結局、『人の骨の強度だと600kgの圧まで耐えられる』ことに落ち着く。


「体重の10倍はいけるということですか」


 さすがに私の10倍の体重の人は居ないだろう。

 50kgとしても10倍で500kgだ。

 それなら理論値で普段の私の10倍の力が出る。

 力負けすることはないんじゃないだろうか。


 コメントでの議論が続いていたので、私は更衣室に入った。


 いつもの女神っぽい姿にしてもらう。

 その後、対戦前の時間になったので、控え室に連れていかれた。


 控え室では1人だ。

 十分な時間もある。

 その時間を利用して、視聴者と話したり突風の魔術と攻撃のタイミングを合わせる練習をした。


 突風の魔術を使うタイミングは攻撃が当たる直前から触れてる間までだ。

 精密なコントロールが必要という訳でもないので難しくはない。


 あとは攻撃手段は重さを直接使える突きが良いとのことだった。

 でも、他の攻撃を使っても有効ではあるらしい。

 問題は、私自身の関節や握ってる手への負担が大きくなることだそうだ。


 ≫本当に実戦で試すつもりかw≫

 ≫ある意味狂ってるなw 嫌いじゃないがw≫

 ≫やっぱ止めといた方がいいんじゃ?≫


「ゼルディウスさんには攻撃が効かないかも知れません。そのために打てる手は打っておきたいです」


 ≫そういうことか≫

 ≫無理はしないで欲しい≫


「ありがとうございます。身体を壊さない程度にやってみるつもりです。通じなければ、いつもの戦い方に戻すつもりです」


 それから対戦のために呼ばれた。


 人力のエレベーターに乗り、円形闘技場に出る。

 観客席は満員。

 歓声もすごい。

 ついに準決勝だ。


 中央まで歩いていき、先に居たジークベルトさんと向き合う。

 さすがに大きい。

 2メートルはあるんじゃないだろうか。

 それに腕回りとか私のウエストよりも太そうだ。


「パワーは今大会でも随一! 圧倒的なパワーで対戦相手をことごとく粉砕した北欧神話トールの化身! アルル闘技場筆頭! 『雷帝(らいてい)』ジークベルト!」


 彼は筆頭だったのか。

 歓声に合わせるようにジークベルトさんは太い腕を(かか)げた。

 兜から出ている燃えるような赤毛と発達した筋肉も相まって強者の貫禄(かんろく)がある。


「対するはローマで最高峰の美しさと華麗(かれい)な強さを()(そな)えた奇跡! 『女神』アイリス!」


 大歓声が巻き起こる。

 なんか前口上(まえこうじょう)(ひど)くなってる気がする。

 そう思いながらも手を挙げた。

 一層の歓声が上がる。


 私たちは中央に歩み寄り、武器と盾を選んだ。


 ジークベルトさんはかなり大きな剣と楯を選択した。

 私とのリーチ差もあるしそうなるか。

 私は丈夫そうな片手剣と腕に取り付ける小さな盾を選択する。


 お互いが下がり構えた。

 私はいつものように胸の重みを感じ肩の力を抜き、(うず)()ける。


「始め!」


 まず、ジークベルトさんが動いた。

 渦の動きが私へと向かう。

 リーチの長さを生かした攻撃か。

 私は上空で魔術が使えるかどうかを試した。


 少なくとも上空には魔術無効(アンチマジック)が使われていない。

 今回のトーナメントではラルバトゥスさん以外には使ってないしな。

 あまり魔術は警戒されてないんだろう。


 身体に任せず、意識的に動くことにする。


 ジークベルトさんが剣を振ってくる。

 それに合わせて、私も片手剣を両手に持って振った。

 剣が当たる場所は自分の重心線の前。


 同時に真上から私の身体へ突風の魔術を放つ。


 宙を飛ぶときの倍くらいの強さなので、私自身の体重と合わせて150kgを想定している。


 ギンッ!


 ジークベルトさんの剣と拮抗した。


 直後に身体が地面に押さえつけられ、身体が安定する。

 地面にぶつかった風が土埃(つちぼこり)を舞い上げた。

 少しだけタイミングが遅かったか。


 でもいけそうだ。


 彼はすぐに剣を引いた。

 さっきと同じような攻撃を撃ってくる気配が見えた。

 ん? もしかして彼は神経に電流を使ってる?


 ともかく、気配と同時に突風の魔術を使う。


 ガンッ!


 剣と剣がぶつかった。

 私の剣がジークベルトさんの剣を(はじ)く。

 彼は一歩下がった。

 軽い攻撃なら撃ち勝てるな。


 彼はそのまま私の様子を見ながら攻撃を撃ってくる。


 やっぱりジークベルトさんは魔術を使って神経に電流を通してるな。

 攻撃が速く強い。

 私は真上からの突風の魔術を使い、彼の攻撃を弾き続けた。


 それから、彼は様子見を止めたのか、次は踏み込んで攻撃してきた。

 チリチリと彼の神経への電流が激しくなっている。


 私は真上からの突風の魔術の威力を倍にした。

 想定250kg。

 地面に強く押しつけられる感覚。


 彼の攻撃はいずれも弾くことが出来た。

 彼は神経への電流を激しく使いながら、連続攻撃をしてくるけど、真正面で全て弾いていく。

 弾けてるけど、攻撃は次第に速く強くなってきた。


 段々調子を上げてくるタイプかも知れない。


 そう思うと、ジークベルトさんは途中で剣の軌道を変えてきた。

 少し時間をずらして、神経への電流を通していたのか。


 でも、慌てることはなかった。

 軌道が変わることは前の対戦を見て知っていたし、何より私から剣を合わせてるので軌道が大きく変わる前に剣同士が衝突する。


 そんなことを繰り返していると、真上からの突風と攻撃の組み合わせにも慣れてきていた。


 私は少し前に出ることにした。


 苦もなくジークベルトさんを追いつめていく。

 彼は大きく下がった。

 追いかけることも出来たけど、私はその場に(とど)まる。


「クォオ!」


 彼が思いっきり突進して斬撃を繰り出してきた。

 神経への電流もこれまでで一番激しい。

 私は突風の強さを更に倍にした。

 想定450kg。


 グンッと全身が地面へ吸い尽けられる衝撃。

 鉛になったかのような安定感。

 同時に剣を受ける。

 完全に受け止めた。

 受け止めた衝撃は大きくない。


「クァ!」


 ジークベルトさんはもう1度、振りかぶると剣を叩きつけてくる。

 私は前に出て真正面からその剣に向けて横凪ぎに剣を振るった。


 真上からの強烈な風が私を地面に縛り付ける。

 ジークベルトさんが私の剣圧に押されて下がった。


 私はまた前に出る。


 彼は慌てて剣を振ってくるけど、私は止まらない。

 一歩ずつ、片足の状態で風を当て剣を振るい更にジークベルトさんを追い込んでいく。


 彼は倒れそうになりながら、間合いを外した。


 気を取り直すためか、その場で剣を1振りする。

 そして私の頭上を見た。


 すぐにジークベルトさんの攻撃。

 私の突風の魔術が使えなくなっていた。

 重心の前で受ける。

 軽い攻撃なので弾かれなかったけど、ギリギリだった。


 強烈なジークベルトさんの振りかぶった攻撃。


 私はモードを変え、渦に融け戦いを身体に任せた。


 神経に直接電流を送り込む彼の強烈な攻撃が、私の肩の防具を(かす)める。

 私は彼の剣の下に潜り込み、脇の下に剣を突き刺していた。


「ぐ」


 彼が勢い余って倒れそうになる。

 それでも楯をぶつけてこようとする。

 私は彼の楯に手を添え、その動きを上に誘導していた。


 ジークベルトさんの体勢が完全に崩れ、下半身もがら空きになる。


 隙だらけだった。

 私はしゃがみ、防具のない膝上に剣を突き立てた。

 確かな手応え。


 ジークベルトさんが足の神経へ電流を使った。


 無理な体勢からの蹴り。

 私はその蹴りも避けていた。

 避けると同時に、彼の太股の内側に私の剣が深く突き刺さる。


 それでも何かしてきそうだったので、すぐに離れた。

 剣を抜くときに血がほとばしる。


 体勢が崩れていたこともあり、彼はそのまま倒れた。

 荒い息で倒れたまま、顔を上げて私を睨んでいる。

 起きあがろうと手をつき片膝を立てた。


 でも、立ち上がれない。


 数秒の間、その時間が続く。

 ジークベルトさんは震えながら歯を食いしばるが、ふと身体の力が抜けた。

 彼は無造作に楯を横に(ほう)る。

 そのまま崩れるように倒れた。


「アイリス闘士の勝利!」


 その瞬間、私は決勝への出場を決めたのだった。

 観客席からはこれまで以上の大歓声が響いてきていた。

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