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第112話 神気の血

前回までのライブ配信。


アイリスは『蜂』の本拠地を制圧後に睡眠を取る。起床してカトーの邸宅へと出向きマリカと話し、元気な様子で安心する。彼女はアイリスのために残りの『蜂』の制圧の手伝いをしたいと提案してくるのだった。

「カトー議員。マリカのお母さんに会ったことあるってどういうことですか?」


 タナトゥスさんのところへ向かう途中で聞いてみる。


「マリカが騎士階級の家の娘ということは知っているか?」


「なんとなくは」


「ま、そういうことだ。オレは立場上、騎士階級とは会うことも多くてな。その中の1人がマリカの父親、マリクス殿だった。ドゥミトスもマリクス殿とは会ったことがあるだろ?」


「はい。まさか彼女がマリクス殿の娘だったとは……」


「そういえばマリクス婦人は表に出ることが少なかったな。あれは『蜂』に見つかることを警戒してのことだったんだろうな」


「『蜂』出身者ってことは市民階級ですらないですよね? 夫婦になれるものなんですか?」


「珍しい話じゃない。ただ、マリクス殿が婦人を解放奴隷にする前にマリカが産まれたのだろうな。これは不幸という(ほか)ない」


 今のマリカを勝手に不幸扱いにされてイラッとしたけど我慢しておこう。


「どういうことですか?」


「解放奴隷から産まれた子は市民階級となるが、奴隷から産まれた子は奴隷という話は知っているか?」


「いえ」


「通常、奴隷と結婚する場合には、解放奴隷にしてから行う。産まれてくる子どもを市民階級にしたいからな」


「何かの事情でマリカが産まれる前に手続きできなかったと」


「そういうことだ。ま、立ち話もなんだ。入るぞ」


 カトー議員はタナトゥスさんが居る部屋に入っていく。

 私とドゥミトスさんは彼のあとに続いた。


「うおっ、アイリスじゃないか! 無事だったか? こいつら何も教えてくれなくてな」


 拘束されたまま、タナトゥスさんが立ち上がろうとした。


「大丈夫なので座っててください。カトー議員、彼にどこまで話してるんですか?」


「いや、何も。だって情報は話すなって言われてるし」


 口を(とが)らせて()ねてるように言った。

 この人は……。


「私はどこまで話していいんですか?」


「全部話していいんじゃないか?」


「全部って」


 言いながらカトー議員の顔を見る。

 にちゃあとイヤな笑みを浮かべていた。


「その笑み、どっちなんですか? まさか私をハメようとしてませんよね?」


「オレってそんなに信用ないのか。なんか悲しくなってきたんだが」


 彼は棒読みで言った。


「信用はしてますよ。ただ、私をハメてから強引に結果良ければ全て良しに持っていくのか、全てお見通しの上で長官にちゃんと許可取ってるのか判断できないだけです」


「思ったより理解されてて、なんか嬉しくなってきた」


「良かったですね。で、どっちなんですか?」


「後者だ」


 つまり、ちゃんとビブルス長官にも許可取ってるってことか。

 それなら、タナトゥスさんとも気兼ねなく話し合える。


 任されたとも言えるので責任重大かも知れないけど。


「ありがとうございます。では、タナトゥスさん。聞きたいことがあるので良いですか?」


「いいけどよ。そっちの貴族とは仲良いのか?」


「え? いえ、特には?」


 いきなりどうしてその質問?


「おいおい、アイリス。オレら仲良しだろ。傷つくぞ」


「ニヤニヤしながら言われても説得力ありません」


「そうか。ま、ともかくだ。今のはこいつが嫉妬で言ったんだろ。かわいいとこあるじゃないか」


「――ああ、そうだよ。惚れた女だぞ。嫉妬しないでどうする」


「えらくまた直球だな。どうだ、アイリス。ときめいたんじゃないのか?」


「いえ。全くときめいてません。それより、今は『(ノクス)』のことでしょう?」


「だ、そうだぞ。タナトゥス。惚れた女の願いくらい聞いてやれ」


「――なんか調子狂うな。ま、いいだろう」


「ありがとうございます。では、まず基本的なことから。タナトゥスさん。貴方が住んでいた拠点は制圧されました」


「な!?」


「貴方の言う『親父たち』と思われる2人も捕らえました」


「――嘘だろ。信じられねえ」


 その言葉で、カトー議員とドゥミトスさんがアイコンタクトを交わす。


「自由に発言していいぞ、ドゥミトス」


「はっ!」


 一度間を取ってからドゥミトスさんが話し始めた。


「捕らえたのは事実だ。リーダー格の2人はソムヌスとモルフェウスと言ったか。既に収容(しゅうよう)を終えている」


 それを聞いてタナトゥスさんは絶句していた。


「――仲間は何人死んだ?」


「『仲間』による。『蜂』の仲間ということであれば死んだものはいない。『蜂』以外の雇われた者であれば15人の死亡を確認している」


「信じられねえ。どうやったんだ?」


「どうもこうもないだろ。お前の惚れてる女がやったんだよ。まさか、こいつが言ってたこと忘れたとか言わないよな?」


 カトー議員が(あお)る。


「いや、忘れてねえ。でもよ、あの人が負ける姿が想像できねえ」


「あの人ってのももう良い歳なんだろ? じゃ、時代の移り変わりってやつだ。前世代の最強も今世代の最強に破れるのさ」


 タナトゥスさんはハッと顔を上げ、目を見開いたまま私を見た。

 そのまま固まっている。


「――なんですか?」


 居心地が悪くなって間をとってしまった。


「ほん――。いや、違うな。まとまらねえ」


「理解と感情が一致しなくて混乱してるんだろうな。ところでアイリス。聞きたいことなら今聞くといいぞ。この状態は隙だらけで警戒力が落ちてる」


 そうなのか。

 でも、本人の前で言うかな。


「――戦いの方で生かせそうなので、そっちで使わせて貰いますね」


 混乱中に本人が意図に反して話させる、というのは信頼を作っていくのにヒビを入れそうな気がする。


「そうきたか」


 カトー議員は楽しげに笑うと、イスに座って足を組んだ。


「で、戦いは良いとしてこっちの方はどうするんだ?」


 どうしよう。

 でも、タナトゥスさんの感情が理解に追いつくのを待つというのも時間が読めない。

 カトー議員だって忙しいだろうし。


「カトー議員。時間ってどのくらい取れます?」


「任せる」


 食い気味に一言だけ。

 一番困る答えなんですけど。


「分かりました。タナトゥスさん、最初から話しますので聞いてください」


「――ああ」


 私は、モルフェウスさんとソムなんとかさんを倒して捕らえるまでのことを5分くらいで話した。


 ≫ソムヌスなw≫


 そ、そっか。

 そのソムヌスさんについてはあまり印象に残ってないことを話す。

 戦っている最中に後ろから斬り掛かってきたのを返り討ちにしただけだし。


 あと、モルフェウスさんには私の攻撃が効かなくて、私自身、死を受け入れたこと。

 その後、攻撃が効くように工夫して倒したことを伝える。


 話していて気付いたのは、具体的にどう戦ったのか全く覚えてないことだった。

 特に空気の『渦』を意識してからはまるで記憶にない。


「――聞いていいか? 最初は攻撃が効かなかったと言ってたな。どうやって効くようにした?」


「ほんの僅かに攻撃が通じる瞬間があります。その隙を狙いました」


「隙か。あの人に隙なんてあったんだな」


「はい。隙があってよかったです」


「ほー。モルフェウスってのはそんなに強いのか」


「強いなんてもんじゃない。俺なら剣を()(くぐ)ることすら出来ねえ。2振りで終わりだ」


「お前……」


 カトー議員は哀れみの表情を向けた。


「哀れむんじゃねえ! 俺は仲間の中でも強い方なんだって! なあ? アイリス」


「あっ、そうですね」


 私は目を逸らして応えていた。

 タナトゥスさんをそこまで強いと思ったことがなくて後ろめたい。


「あーあ。よりによって惚れた女を困らせちまったよ。それともあれか? 好きな子にはいじわるしたくなるってやつか?」


「違うわ! っていうか、何か? 俺って実は弱いのか?」


 誰も何も言わない。

 不自然な静けさが辺りを支配する。


「だー! 何か言ってくれよ!」


 ≫うるせえw≫

 ≫こいつ面白いぞw≫


 結局、モルフェウスさんの強さは、ローマ中に居る『(ノクス)』全体よりも彼1人の方が強いというところで収まった。

 私もそれに賛同しておく。


「『蜂』の兵隊って千は居るよな? それより強いってことか」


「ああ。強ええ」


「アイリスも同じくらい強いってことか?」


 カトー議員が私を見る。


「モルフェウスは無尽蔵に体力があるからな。1対1で勝ったのかも知れねえが、数が多い場合はまた別だろう」


「ほー、確かにそうか。意外と頭回るな」


「意外は余計だ」


「ちなみにアイリスは単身で万の敵と戦ってるけどな」


「はぁ? 万?」


「私の話はいいです。ところでタナトゥスさん。1つ良いですか?」


「お、おう」


「貴方のお兄さん――ナルキサスさんのことです。彼と女王候補が兄妹という可能性はありますか?」


「兄妹? ん? ああ、なるほどな。そういう繋がりか」


 タナトゥスさんが足を鳴らした。


「どういう繋がりですか?」


「いやな。どうして今頃になって女王なんて出てくるんだ? って思ってたんだよ。少し考えれば簡単だったな」


「今になって? もうちょっと詳しくお願いできますか?」


「いくらアイリスの願いでも、仲間以外に話すのはな」


「話せる範囲でいいので」


「話せる範囲って言われてもな。俺は話せることと話せないことを、いちいち分けて考えられる方じゃねえ」


「話しても問題ないぞ。大体のところは分かってるからな」


 カトー議員がずいっと前に出てきた。


「女王の血筋が絶えたと思ってたところに、急に候補が現れたから驚いたんだろ? 考えてみたら実はその女王の血筋が生き残ってて子どもを産んでたって訳だ」


「てめえ、誰から聞いた?」


「推測だよ。そのくらいのことは今ある情報で分かる」


「そうか。でもよ。言われてみると少し違うな?」


「ほー。どんなところがだ?」


「元々、神気(エーテル)を扱える女は男に比べてめったに産まれねえんだよ。血筋っつたらそうかも知れねえが」


「なるほどな。それなら辻褄が合うか」


 カトー議員はうんうんと頷いている。

 当たり前の顔で情報を引き出してるな。

 『(ノクス)』の存続に関わりそうだし、秘密のことな気がする。


「って何を言わせてんだ! おい、今言ったこと忘れろ」


「どうしてた?」


「俺が、怒られるんだよ」


「え? そうなの? うわー」


 白々しくカトー議員はおどけてみせる。


「で、話すと誰に怒られるんだ?」


 彼はにこやかにタナトゥスさんへ顔を近づけた。


「誰って親父――。いや、待てよ?」


「お前の親父は既に捕まってるな。他に怒られる存在は?」


「――いねえ」


「じゃあ、話せるだろ」


 カトー議員が私を見てきた。

 私も目だけ合わせておく。

 しばらく無言の時間が続いた。


「いや、やっぱりダメだ。あの親父がこのまま大人しく捕まったままとは思えねえ」


 ≫押せばいけるタイプだな、これ≫

 ≫そうなのか?≫

 ≫わざわざダメな理由を挙げてくれてるからな≫

 ≫理由を潰して言い訳を作ってあげれば良い≫


「脱走したらこの女神様がまた捕まえてくれるだろうよ。な?」


「な? と言われましても。結局、私が捕まえることにはなるんでしょうけど」


「ずいぶんと簡単に言うな」


「この女神様にはお前ら『(ノクス)』が光って見えるんだとよ。しかも鳥のように空を飛べるらしい。だから逃げられない。話を聞く分には、お前の親父の剣の腕では相手にならないだろうしな」


「はぁ? なんだよそれ? 空を飛ぶって風の魔術でだよな?」


「もちろんだ。大体、お前をここに連れてきたときも、彼女がお前を飛ばしてきたんだぞ」


 タナトゥスさんにまじまじと見られる。


「まさかとは思うが、人に化けた神とかじゃないよな?」


「だからさっきから言ってるだろ。『女神』だってな」


「女神? いや、言われてみるとそうか。納得するしかねえ」


「納得しないでください。それに私のことはどうでもいいです。話を戻しましょう。タナトゥスさんはお父様に怒られるの嫌で秘密を話したくないんでしたよね?」


「――そうだな」


「そのお父様は捕まってる状況です。逃げても私が捕まえる。その上で、タナトゥスさんは話すのか話さないか、ですね」


「分かったよ。ガキみたいに駄々こねててもしょうがねえ。話す。ただし、こっちの話も聞いて貰おうか」


「話は聞きますけど、私じゃ何もできないですよ?」


 カトー議員を見る。

 でも、彼は口元で軽く笑っただけだった。


「はぁ? なんでだよ?」


「私はただのお手伝いです。『(ノクス)』だってお手伝いが誰かに命令することは出来ませんよね。例えばナルキサスさんとか」


 ナルキサスさんは強いし『蜂』トップの息子だけど、魔術の光を宿してはいない。

 恐らく、『蜂』の内での立場は弱かったんじゃないだろうか。


「オッサン、どうなんだ?」


「アイリスは親衛隊の手伝いだな。ただ、話と引き替えに頼んでおいて損はない」


 カトー議員がまた私になんか無茶なことさせようとしてる。


「損はないってどういう意味だ?」


「頼んでしまえばなんとかしてくれるってことだ。彼女の正義に反しないことならな。ま、お前の無害な仲間の安全って話なら大丈夫だと思うぞ」


「オッサン、お前はどうなんだよ?」


「オレは別にお前と取引きして得になることなんて何もないからな。それとも何か? オレにお願いでもあるのか? あるなら聞いてやるぞ?」


「あってもお前にだけは頼まない」


「そいつはありがたい」


「いちいちムカつく野郎だな。まあいい、アイリス。俺に分かることならなんでも話す。その代わり、助けられる仲間は助けてくれ」


「約束は出来ませんよ?」


「努力はしてくれるんだろ」


「はい」


「それならいい。こいつに頼むよりはマシだ」


 タナトゥスさんはカトー議員を睨んだ。

 睨まれたカトー議員は軽く笑った。


「分かりました。親衛隊の偉い人に話してみます。タナトゥスさんも話して良いと思ったらでいいので、話を聞かせてください」


「話して良いと思ったら? 言ったろ? 話を聞いてくれたら話すって」


「いいんですか?」


「ああ」


「こいつも惚れた女に良いところ見せたいんだろ」


「黙ってろ。あとお前とお前は出てけ」


 タナトゥスさんは腕を縛られてるので、顎でドアを指した。


「――立場を(わきま)えろ」


 ドゥミトスさんが低い声で言った。


「まあまあドミトゥス。んじゃ、オレらは外に出てるからな。アイリス、あとは頼んだ」


「よろしいのですか?」


「もちろんだ。護衛の諸君らもほらほら」


 いつもの軽いノリで、入り口の護衛2人を引き連れ出て行く。

 もちろん、ドゥミトスさんも連れてなので、私とタナトゥスさんだけが残される形だ。


 ≫本当に出て行きやがったw≫

 ≫さすカト≫


 空間把握で部屋の外を探っても、部屋の近くには誰もいない。

 判断の早さと思い切りの良さはさすがだな。


「あいつ、何を考えてるんだ?」


「タナトゥスさんが私に秘密の話をしやすいように、場を作ってくださったんだと思います」


「は?」


「私に『(ノクス)』のことを話してくださるんですよね?」


「ああ。それはどうだがもう1度いいか?」


「はい?」


「本当にアイリス、お前がモルフェウスを倒したんだな? 納得するためにもちゃんと言ってくれ」


 真っ直ぐに見つめて聞いてくる。


「はい。私が倒しました」


 真っ直ぐに見つめて答える。


「分かった。前にも言ったが、モルフェウスは人が勝てるとは思えない化け物を殺している。どうしてもモルフェウスが倒されたことが信じられねえ」


「そうでしたか」


「ただ、お前の口からはっきりと聞いた。これをケジメにする」


 ケジメ?

 気持ちの区切りみたいなものだろうか。


「分かりました」


「で、最初にその化け物の話をするが、俺の母親だ」


「タ、タナトゥスさんのお母さんですか?」


 それから聞く話は壮絶だった。

 タナトゥスさんのお母さんが、マリカの両親を殺したあとに火に包まれて帰ってきたと言う。


 その姿は完全に人ではなく、『蜂』の精鋭たちもことごとく殺されていった。


 剣を刺しても死なない。

 その彼女を苦もなく殺したのが、モルフェウスさんだったという。


 暴走というとケライノさんのことを思い出す。

 魔術の光を宿していることが関係しているんだろうか?


「とにかくそれで、俺はモルフェウスを倒せるやつなんてこの世にいないと思っていた訳だ」


「なるほど」


 その後も話は続いた。

 私もマリカのお母さんのことを聞いてみる。


「ノーナ? ああ、ナルキサスの母親のことか。あいつは俺たちを裏切ったからな」


「裏切ったとは?」


「女王の立場と仲間を捨てて、ノクスを出て行ったということだ。その後、どこかの貴族だかと夫婦になったと聞いた」


「貴族じゃなくて騎士階級じゃないですか?」


「ああ、そうだったかもな」


 これでマリカとナルキサスさんが兄妹ということは、ほぼ決まりか。


「タナトゥスさんって、ノーナさんのことを覚えていますか?」


「いいや。俺が産まれたときには既に裏切ったあとだったからな」


「そうですか。ところで、女王はそんなに生まれにくいんですか?」


「ああ。10年に1人生まれるかどうかってとこらしいな」


「産み分けの方法みたいなものはあるんですか?」


「両方の親とも神気(エーテル)の扱いが上手いと産まれやすいって話だな」


「女王候補を産むには、母親に女王の資質が必要ってことでいいんですか?」


「大体はな。ごく稀に関係なく産まれてくるらしいが」


 今現在、女王の資質を持っているのはマリカ以外にいないという話だったはずだ。

 『蜂』が彼女を(さら)ったのもそれが理由ということで間違いないだろう。


 あとは『蜂』のメンバーが普段何をしてるのかとか、構成員は全員家族なのかとか聞いた。

 メンバーには捨て子なども多く含まれているらしい。

 それに普段は普通の仕事をしているらしい。


「男性は酸素(エーテル)使える人が多いですよね? どうしてですか?」


「男の場合は、母親が女王じゃなくても産まれるからな」


「なるほど。あ、でもそれなら『(ノクス)』の存続には女王は必ずしも必要じゃないですよね?」


「女王から産まれた男の方が、力の強さも神気(エーテル)使う上手さも段違いで上だからな。統率役を作るためには必要だ」


「そういうことですか」


 私の前に居るタナトゥスさんは他の『蜂』よりも魔術の光が強い。

 彼が女王の子だからだろう。


「ナルキサスさんみたいに女王の子どもでも酸素(エーテル)を使えないことはあるんですか?」


「稀にあるらしな。それでノーナは親父に責められたという話だ」


「そうでしたか……。聞いて良いことかどうか分かりませんが、ノーナさんのことを貴方に話してくれたのは誰ですか?」


「モルフェウスだ。3人は同じ拠点で育ったらしくてな」


 3人ってソムヌスさん、モルフェウスさん、ノーナさんか。


「3人が兄弟ってことはないですよね?」


「ああ。兄弟は親父とモルフェウスだけって話だ。ノーナは女王の子、親父たちは捨て子だった」


「捨て子って。女王から産まれないと力が弱いんじゃ……」


「それは分からねえ。ただ、親父たちは別格だ。本物の夜の女神(ノクス)の子とか言われてたらしいしな」


「まさか」


「じゃあ、俺たちの神気(エーテル)を使う力はなんだ? どのくらい前から知らねえが、俺たちの先祖には夜の女神の血が入ってるんじゃねえか? 親父たちが女神の子でもおかしくないだろ」


「言われるとそうですね」


 夜の女神(ノクス)かどうか分からないけど、彼らに神の血が入っていてもおかしくないと感じ始めていた。

 となると彼らの背後には、なんらかの神が居る可能性もある訳か。


 『蜂』に関してはほとんど終わったと思っていた。

 でも、終わってない可能性がある。

 何事もなければ放置して大丈夫なんだろうけど。


 ≫女神を見た人が居るかどうか聞いて≫

 ≫さすがに居ないんじゃないか?≫

 ≫それをクリアにするため≫


「仲間の中で、誰か夜の女神(ノクス)を実際に見たりした人は居ます?」


「いや。ただ、親父がこの手の話を聞くときは意味ありげに笑ってるんだよ」


「それって何か知ってそうな感じですか?」


「ああ」


「モルフェウスさんはどうですか?」


「捨てられたとき、まだ赤ん坊だったらしいからな。さすがに拠点に来てからの記憶しかないそうだ」


「そうですか」


 鍵はソムヌスさんか。

 でも、なんか面倒な人っぽいんだよな。

 話が出来るなら、先にモルフェウスさんかな。


「ありがとうございます。大体、聞きたいことは聞けました。タナトゥスさんの仲間のことは頑張ってみます」


「頼む」


「はい」


 私は部屋を出た。

 すぐにカトー議員たちを呼びに行く。


 タナトゥスさんから聞いた話を、カトー議員やビブルス長官に話すつもりはない。

 ただ、視聴者のみんなには相談してみようと思っている。


 近くに居た人にカトー議員の居場所を聞くと、すぐに案内してくれた。


「聞きたい話は聞けたか?」


「おかげさまで」


「話せるようになったら話してくれ」


 カトー議員もタナトゥスさんからの話を聞きたいはずなのに待ってくれるのか。

 なんのかんの言って、私のことを尊重してくれてるんだと思った。


「ありがとうございます」


「なんの礼には及ばんよ。利用できるものを効率よく利用しているだけだからな」


 ニヤケながら言う。

 照れ隠しには見えない。

 この性格悪そうな一言がなければいいんだけど。


 私は脱力しながら彼らとタナトゥスさんの居る部屋に戻った。

 その後の話は特に進展することはなく、ビブルス長官の帰りを待つことになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字:|夜の女神{ノクス}のルビが正しく反映されていませんでした。 流れを察するに蜂の特殊性は神の血が入っているからなんですねー。実質半神半人の相手に勝ったアイリスマジ女神!
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