第100話 役割
前回までのライブ配信。
アイリスは男装し、ラピウスと名乗って皇子アーネスの護衛となる。皇妃に呼ばれて会うと気に入られ彼女の護衛になるように言われる。
その後、他の親衛隊と一緒に練習することになり全員と試合をする。アイリスはカウンターのコツを掴む。
養成所に戻ると移籍してきたロックスが居る。練習でアイリスがカウンターをやってみせると、彼女の上達の早さにルキヴィスが呆れるのだった。
アーネス皇子の護衛を始めて4日目になった。
「ラピウス。護衛には慣れてきたか?」
「はい。お陰様で」
皇子に聞かれて応える。
そろそろエレディアスさんと護衛を交代する頃だ。
正確な時間は決まってない。
時計がほとんどないらしいから当たり前だけど。
「私もラピウスが来てくれて助かっている。剣を褒められることが多くなってね。おっと、これは護衛とは関係なかったか」
「護衛から見ると、いざというとき戦えるというのはありがたいですけどね」
「はっはっは。そのような考え方もあるか」
護衛に慣れてきたというより、皇子と普通に話せるようになったというのが大きい。
「失礼いたします。エレディアスです。護衛の交代に参りました」
ドアの外で声が聞こえた。
「ああ。ラピウス、それではな」
「はい」
エレディアスさんが部屋に入ってきた。
そして私を見つめる。
私はそれに応えて頷いた。
彼が見つめてきたのは、今日『蜂』の隠れ家に攻め入ることを心配してのことだろう。
皇子にはこのことを話してない。
なので、言葉を交わす訳にもいかなかった。
護衛を交代し、私はアーネス皇子の邸宅をあとにした。
外に出て息を吐く。
魔術で止めていた痛みを解放した。
ガンガンとお腹を殴られる痛みが強くなってきたので、すぐにまた痛みを止める。
昨日から生理なんだよな。
身体もだるいし。
護衛は立ち仕事だし、痛みが止められなかったら無理だったかも知れない。
皇子の邸宅は暖房完備なので助かるけど。
気を取り直してカトー議員の邸宅に向かう。
そのカトー議員だけど、予定通り皇妃に嫌われることになった。
『ラピウス』が皇妃の護衛になる話を、全てカトー議員のせいにして断ったからだ。
話をつけたのはビブルス長官だった。
その間、私は「皇妃の護衛になりたかったなー」チラッチラッをしながら皇妃にアピールしてただけだけだ。
なお、私はまだ護衛の行き帰りにつけられている。
つけている『彼』は特定できてるけど、皇妃との繋がりは分からないらしい。
そんなことを考えて歩いているとカトー議員の邸宅に着いた。
中に入るとドゥミトスさんも居て挨拶した。
「男装も似合うのだな」
「ありがとうございます」
驚くこともなければ失礼なことを言う訳でもなくスルーする訳でもない。
紳士的だ。
そうして、カトー議員やドゥミトスさんと地図を見ながら今日の作戦についての話が始まった。
「まとめるぞ。今日の目標はこの位置にある集合住宅の2階、3階だ」
地図には印がついている。
印をつけたのは私だ。
マリカから『蜂』のサインが出ている場所を大まかに教えて貰って、私が直接行って印をつけた。
『蜂』の拠点は養成所の周りだけでも3カ所ある。
今日の攻略目標はその内の1カ所だ。
「基本的には、親衛隊の中隊相当で作戦を行う。人数的には約2倍、『蜂』の戦闘員だけなら5倍超。確かだな?」
「はい。昨日の夕方の時点の話ですが、魔術の光を持っていた『蜂』は30人ほどです。一緒に住む他の60人ほどは子供や女性のようでした」
中隊相当というのは160人だ。
『蜂』の子供や女性を含めても2倍弱の戦力で攻め入ることになる。
道はそんなに広くないから封鎖するような形になるんだろうか。
「ラピウスは自身の判断で戦え。ただし、今回の作戦は『親衛隊』が『蜂』を独力で制圧可能かを見ることも目的だからな。簡単に手を出すなよ」
「犠牲が出てもですか?」
「ああ。犠牲が出ても手を出すな。これは『命令』だ。命令違反はするなよ?」
何か納得できない。
「不満か? まったく視野が狭いな」
「何も言ってません」
「顔に書いてあるんだよ。いいか? 独力で制圧が出来ないなら親衛隊を立て直す必要がある。被害もなくお前が助けたら奴らは本気で変わろうとしない。それは親衛隊にとってもローマにとっても損失だ」
私は頷くことが出来なかった。
理解はしてるけど、感情が納得できない。
「直前までよく考えておけ」
「――ありがとうございます」
「あと、宙のサインを吹き飛ばすことは忘れるなよ。それがお前の一番重要な役割だ」
襲撃された『蜂』は他の仲間に連絡をとる可能性がある。
連絡は酸素を宙に浮かべたサインで行うはずだ。
その連絡を遮断する。
これが今回の作戦での私の仕事だ。
「オレとドゥミトス、マリカは離れた場所で待機する」
マリカが他の拠点の『蜂』のサインの形を見る役割だ。
カトー議員は分析。
ドゥミトスさんは2人の護衛だそうだ。
「俺たちは養成所に行ってから向かう。マリカのことは任せておけ」
「よろしくお願いします」
私はいつも尾行している男に見つからないように、裏口から出て行った。
皇宮に戻り、ビブルス長官や親衛隊の隊長2人と顔を合わせる。
隊長2人は騎士階級で親衛隊の中でも皇妃派という話だ。
2人とは顔を合わせるのは2回目だけど、「なんだこいつ」と思われているのが伝わってきた。
14、5歳に見えるだろうし仕方ない。
ビブルス長官がそれを意識してか「彼には重要な役割がある」と言ってくれた。
でも、その言葉は軽く流されている。
その後、私たちは目的の集合住宅へと向かった。
真っ暗闇の中、親衛隊の兵士が道や他の建物の屋上を埋め尽くす。
ここまで封鎖されたらさすがに逃げ道はない。
『蜂』の何人かが窓から顔を覗かせていた。
窓といってもカーテンだけで、窓ガラスはないんだけど。
更には魔術無効も使われている。
範囲は広い。
親衛隊の中でも使える人が何人かいるんだろう。
魔術の光を放つ『蜂』の彼らは2階の窓の近くに集まった。
飛び降りる気か?
「窓から来ます」
私は思わず言っていた。
大きな声じゃなかったけど響き渡る。
一斉に兵士たちが窓に注目した。
そのタイミングで、4つの窓から2人ずつ『蜂』が出てきた。
彼らは地面に着地すると同時に、近くに居た兵士に斬り掛かる。
ほとんど暗闇の上に動きが速いので防ぎきれずに何人かが攻撃を受けた。
兵士たちは足裏で蹴られて転がる。
私は彼らが傷ついたのを見て、熱いものが身体を駆けめぐった。
続けて窓から2人ずつ出てきて、最後にもう2人ずつ出てくる。
計24人。
スピードがあり、双剣なところは前に見た『蜂』と同じだ。
親衛隊は統制がとれていないように見えた。
盾も小さくて、攻撃を受け止める『壁』としての機能にも問題がある。
数では圧倒してるけど、不安が出てきた。
一方の『蜂』たち24人は、円を作ってゆっくりと時計回りに回転しはじめていた。
この隊形で突破するつもりか。
確かに時計回りなら左手に持ってる盾で防ぎにくいし。
「囲め! 囲め!」
親衛隊が混乱する中、指示があった。
でも、バラバラに囲んで斬り掛かっていっても返り討ちに遭うだけだ。
反乱軍との戦いで多数の農奴と私1人が戦ったことを思い出した。
バラバラの親衛隊と比べて、『蜂』側は動きに迷いがない。
親衛隊は少しずつ崩されていき、何人かの兵士たちが剣で突き刺される。
私は飛び出したくなる気持ちを堪えた。
ただ、1つ気になることもある。
進行方向と、その逆方向では戦い方が違う。
進行方向はワザと生かしているのに、その逆では躊躇なく殺しに掛かっている。
倒れたら邪魔になるからだろうか。
何かこれが突破口にならないか?
いや、ちょっと待て。
私は考える前に『蜂』の足下の空間から突風の魔術を使った。
『蜂』に対してではなく親衛隊の兵士に向けて。
当たるはずだった『蜂』の剣が当たらずに空をきる。
これだ!
突風の魔術で剣を避けさせる。
普通の魔術無効は足下まで届かないから、下からなら突風の魔術は使える。
カウンターのタイミングを使えば難しくない。
ただ、場所が多い。
見るだけじゃダメだ。
意識を全て戦いの前線に持って行く。
慣れてないけどやれるだけやるしかない。
流れる空気に身を任せて全体を把握し、攻撃が当たりそうなら兵士に突風を当てて避けさせる。
親衛隊にとっては余計なことかも知れないけど、これが私の妥協点だ。
ふと、空に魔術の反応が浮かんだ。
私はそれを思いっきり吹き飛ばす。
酸素のサインも来たか。
兵士の方が突風に飛ばされることに動揺が見られる。
『蜂』に動揺は見られない。
淡々と脱出しようとしている。
宙に魔術の反応が浮かぶ。
すぐに吹き飛ばす。
親衛隊の兵士が突風の魔術に動揺したのか攻めるのを止めた。
余裕ができたので私は場所を移動する。
24人の『蜂』が脱出する辺りで待ちかまえる予定だ。
その間も『蜂』たちは確実に進んでいく。
個人個人の実力に差があるとは言っても、『蜂』はよく犠牲も出さずに突破できるなと思う。
『蜂』がある程度進んだとき、動きがあった。
今まで建物の中に居た、特に強い魔術の反応を持った1人が兵士を蹴散らして出てきた。
「こっちだ。掛かってこい!」
大きな男だ。
身長はカエソーさんくらいか?
その男が大声を出す。
武器が双剣じゃない?
何か大きな武器を振り回している。
その後ろから魔術の光を放つ『蜂』が4人出てきた。
彼らも強い。
ただ、双剣じゃない。
新しく現れた敵に親衛隊が混乱する。
今度はこっちか。
再び、『蜂』の攻撃が当たる直前に突風の魔術を親衛隊に当て始める。
宙のサインも吹き飛ばし続ける。
そのギリギリの状態の中でも、24人の『蜂』が突破してくると思われる場所に着いた。
『蜂』の運動能力からいって、24人が包囲を抜けたら戦況が変わる。
私もバラバラに戦われたらフォローできない。
そのとき、ここではない遠くの場所の宙に魔術の反応があった。
すぐに他方でも魔術の反応が浮かぶ。
通信するかのようにそれらは反応し合っていた。
襲撃がバレた?
でも、こっちのサインは全て吹き飛ばせているはずだ。
なんだ?
あまり良い予兆には思えない。
――あとで考えればいいか。
私は剣を抜いた。
意識を今にも抜けてくる24人の『蜂』たちに向ける。
肩の力が入らないように必要ない筋肉を停止させた。
3。
2。
1。
『蜂』が私の目の前に現れる。
まず1人目。
私は1人の二の腕に剣を刺し、横凪ぎの剣を避けると同時にカウンターで逆の二の腕を斬った。
続けて別の『蜂』が斬り掛かってくる。
カウンターでワキを突く。
更に最初の1人が突いてくるのが分かったので、カウンターで前腕を切り裂いた。
『蜂』の防具は頭と胴体だけか。
次から次に私に向かってくるが、全てカウンターを叩き込む。
ただ、彼らに恐怖はないのか、多少の怪我では怯まない。
それでも戦闘不能になった『蜂』が親衛隊に少しずつ捕まり始める。
「同士討ちを防ぐために、囲んで盾だけ構えて密集してください」
従ってくれるかどうか分からなかったけど、私は指示した。
『蜂』に囲まれた私が攻撃し、外側を兵士で固める。
私は四方八方から攻撃されていた。
ただ、全てにカウンターしている。
さっき、兵士たちを怪我させないために突風の魔術を使っていたことが経験になっていた。
攻撃を集中させないように身体を踊らせるように動く。
全周360度、支点が見えた時点でカウンターを放つ。
たまに頬を撫でる剣風すら気持ち良い。
気持ち良くて涙目になってるのを感じた。
ドキドキする。
「――あ」
ふと気づくと私に向かってくる『蜂』は誰もいなくなっていた。
た、倒したのはいいけど、殺してないよね?
「え、と」
あっと、地声だった。
声を低くしないと。
「えーと。『蜂』の24人は生きて捕らえましたか?」
私が呼びかけても誰も返事をしなかった。
「24人、生きて捕らえました?」
「――はっ! 確認いたします!」
灯りに照らされた『蜂』たちが、1人ずつ数えられていった。
少し時間が掛かりそうだな。
遠くではまだ戦闘が続いている。
「『蜂』の残りの5人――」
そこでまた宙にサインが浮かんだので吹き飛ばす。
しまった。
戦っていたとき完全にサインのこと忘れていた。
大丈夫だろうか?
考えても仕方ない。
まだ戦ってるところに加勢に行こう。
「すみませーん。通ります」
私は一言断ってから、兵士たちを突風の魔術で数歩移動させて道を作った。
私自身にも風を当ててそこを駆け抜ける。
そのままの勢いで、『蜂』5人のところにまでたどり着き、光の強い『蜂』も含め倒した。
彼らは双剣でもないので、剣の軌道が見切りやすくカウンターを合わせ易かった。
武器を取り上げ、捕らえて貰う。
「クソ! ここで終わりか!」
5人もの兵士に捕らえられた魔術の光が強い人が叫んだ。
声からすると年齢は意外と高そうだ。
あと、この人ってさっき戦った24人と比べてなんか人間味があるんだよな。
何故だろう?
とりあえず、戦闘は終わった。
いや、まだか。
強烈な光が1つ、ここに向かってきている。
あれが到着する前に、可能な限り怪我人の止血をしておかないと。
「出血の酷い方はいますか?」
言いながら、焦点を赤血球に合わせる。
出血が酷い順に生きてる兵士の止血をした。
その間も強烈な光は想像以上のスピードで迫ってきた。
私は少ない量の出血は他の人に任せて出迎えることにした。
問題はどこで出迎えるかだ。
1人なら援軍というよりは、偵察な気がする。
偵察なら戦場まで来るとは限らない。
ここより遠くの場所で出迎えた方がいいかも。
ただ、偵察にしては強そうなんだよな。
私は隠れて、強烈な光が通り過ぎるのを待ち、止まった時点で後ろから声を掛けることにした。
すぐに場所を移動して待つ。
「うおぉぉぉぉ! 間に合えー!」
待っていると何かが猛スピードで通り過ぎていった。
――え?
そのあとをもう1人が同じくらいのスピードでついていく。
2人とも風の魔術を使っているようだった。
1人は魔術の光がない。
そして、強烈な光を放つ男がそのまま親衛隊に突っ込んでいった。
「ノクスの子供たちよ! どこだ! 助けに来たぞ!」
正面から? ほ、本気か?
しかも単身で突っ込むなんて。
慌ててその場でジャンプしながら、突風の魔術で浮き上がり、盾を足下に持ってきて宙を飛ぶ。
私は、男にすぐに追いつき、少し離れた場所に降りたった。
「――員無事か!」
「――ここに居る者は生きている」
「勝手に話すな!」
「仲間は返して貰う!」
状況が分からない。
でも、男が消えるようなスピードで突っ込んだ。
速い。
「うらっ!」
一振りで兵士がなぎ倒される。
「は!」
また一瞬で移動し、別の兵士の胴体に思いっきり両足を揃えてキックした。
何人かが巻き込まれて倒れる。
倒れることで出来た空間に突入し、双剣で円を描くように振り回した。
兵士が構えた盾や剣は弾かれ、防御できなかった者は倒れる。
「弱い! お前らじゃ俺には勝てねえ。死にたくなかったら仲間を解放しろ」
片方の剣を肩に担ぎながら言った。
周りは兵士に囲まれているのに。
余裕を見せているのか?
いろいろ意味が分からないけど強いのは確かだ。
それにもう1人はどこに行った?
――あと回しでいいか。
私は背中に突風の魔術を当てて、一気に男との距離を詰めた。
男が振り向き、私が飛び込むタイミングに合わせて剣を振る。
私は身体の横から突風を当てて剣を避け、足裏で男の胴体を蹴った。
「ふん!」
驚いたことに体重の乗った私の蹴りを耐える。
大男ってほどでもないのに。
あと、金属製の鎧を着けている。
「なんだ? 敵か?」
「貴方が『蜂』――いや、ノクスなら敵ですね」
「なら敵だな。寝てろ!」
言いながら私の懐に飛び込んできて同時に剣を振るう。
「寝てろ」と言ったときに支点が見えていた。
どんなに速くても力が強くても、それが見えたら意味がない。
私は彼の『振り』に合わせて右ワキに剣を突き刺した。
「ぐっ」
痛みに声を上げながらも左の剣を振るってくる。
これにもカウンターを合わせた。
真正面では勝てないと思ったのか、広く使って左右に飛び回りながら攻撃してくる。
「俺のスピードについて来られるか?」
言うだけあって、空間把握で姿が捕らえきれないほどスピードがある。
ただ、動きはよく分かった。
踏ん張ってから切り返すので、スピードが生かせていない。
いや、カウンターが分かる前だったらこんなに余裕はなかったかも。
私は攻撃の全てにカウンターを当てた。
でも、彼はタフなのか、諦めない気持ちが強いのか何度カウンターを受けても向かってきた。
「が……、何者だ。お前」
男が痛みに耐えながら言った。
「親衛隊の新人です」
腕や足にも剣を突き刺しているのに、それでも剣を振るってくる。
肉体の強さ以上に強い精神力だなと驚いた。
ただ、繰り返していても仕方ない。
支点が見えた。
剣の横凪ぎの振りに合わせて、前腕に剣の柄をぶつける。
パキッ。
骨が割れることで衝撃が逃げたような感触。
「ぐっ。うおっおお!」
男の胸が支点となり両腕が広げられる。
私は後方に避けながら男の脳天に剣を振るった。
皮製っぽい兜は着けているので死ぬことはないだろう。
彼はそのままうつ伏せに倒れる。
腕を使えなくしておいた方がいいかも知れない。
剣を男の腕に突き刺そうとすると、横から何者かが現れた。
思わず飛び退く。
「大事な跡継ぎなので、その辺りで許していただけますか?」
長身。
全く焦っていない落ち着いた話しぶり。
『蜂』の関係者なのに魔術の光を持っていない身体。
皇妃の実家で出会った『長身の男』だ。
顔は兜で見えない。
いつの間にか現れた彼に、私も他の親衛隊の兵士も呆気にとられた。
その隙に彼は倒れていた男を抱えて私から離れる。
「く……そ……。離せ」
「確認だけの約束でしたよね?」
「仲間が捕まってるんだよ」
「貴方まで捕まってどうするんですか」
「――うるさい」
「まったく。素直じゃないですね」
そう言いながら抱えていた男を降ろした。
「さて。これからどうするんですか?」
私は出来るだけ声を張って2人に聞く。
距離が少しあった。
警戒は解いてない。
いつでも動けるように身体の力は抜いている。
後ろで親衛隊が動こうとしたので、「危ないので動かないでください」とお願いした。
「子供……?」
「子供に見えますが『彼』を舐めてかからない方がいいですよ」
『彼』のアクセントが特徴的だった。
私が女なのでそういう言い方なんだろう。
やっぱり長身の男か。
「俺は油断してただけだ。ノクスの皇子がこんな子供に負ける訳にいかない」
「役割と実力は分けて考えてください。ノクスの皇子だろうが強い相手には負けます。頭では分かってますよね?」
長身の男に言われてノクスの皇子は何か話そうと口を開けた。
でも、彼は言葉を飲み込み口を閉じる。
「ひとつ聞いていいですか?」
長身の男が私に聞いてきた。
「はい。どうぞ」
「貴女は『蜂』の誰も殺してはいないですよね?」
「私だけじゃなくて親衛隊も殺してないはずです」
「だそうですよ。『蜂』とはノクスのことです」
何故か皇子と呼ばれた男がふて腐れてるのが分かった。
「お前の名前は?」
その男からいきなりそう切り出された。
「――ラピウスです」
素直に答えておく。
「俺はノクスの皇子、タナトゥスだ。ラピウス、次は必ず俺が倒すからな」
「は、はあ……」
「いくぞ」
こうして彼ら2人は去っていった。
なんだったんだろうと思いながらも、宙に酸素のサインが浮かぶのが見えたので吹き飛ばした。




