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ある中学校教師の殺人事件簿  作者: 維己起邦
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 「どういう理由で

文科省のキャリアの君が

中学校の教師になったのか

我々にも納得できるように

説明してもらいたいものだ。

 そうしてくれないと

帰れないよ」日堀は言った。

 「これはもちろん-----

任意の取調べ-----ですか」

 「いや-----

取調べというほどのものではないよ。

 まだ-----ね。

 少し話を聞きたいだけだよ。

 それでどういう理由でだ」

 「いえ-----ただ単に-----

中学校で

中学生が殺害された。

 それで我々も

独自に調査をしようという事で

動いていただけですよ」

 「君-----正体が。

 素姓がバレても

動揺しないね」日堀。

 「いえ-----

そんな事はないですよ」

 「そうかねえ。

 まあいい。

 それで誰の指示で」

 「それは-----

言えません」

 「局長の枠沢わくさわの指示かね」

 私は-----

その情報も入っている。

 「枠沢局長は

例の汚職事件でも

名前のあがった人物だ。

 それは君も知っているね。

 その局長が、どうして君を-----。

 まあ中学校は文科省の所管だし

それの-----殺人事件とはいえ-----

調査に-----

キャリアをスパイとして

送り込むなどという話

我々も今まで聞いた事がない。

 前例などないだろう。

 それをどうして-----」

 「スパイというのは言いすぎです。

 単なる調査ですし。

 最近イジメ問題が

世の中の注目を集めていますし

それをどうにかしようとして。

 たまたま私が

あの中学の卒業生でしたし-----

教員免許を持っていましたので

それで-----という事です」

 「中学校の実態調査に

キャリアをかね。

 そんな事誰が信じる」

 「ですが-----

本当にその通りですし」

 「それなら

どうして文科省の人間が

尽川社長の周辺にまで

張り付いていたんだ。

 どう考えてもおかしいだろう。

 それについて

どう説明するつもりだ」

 「アレは-----

調べていく内に

尽川社長の名が出たものですから

それでそちらの方も-----

そういう事です」

 「堆村も-----かね」

 「堆村探偵社の事を知ったのは

あなた方と同じ

あのバーでですよ」

 「それまでは知らなかったと」

 「そういう事です」

 双風も-----

そう言っていたが。

 例のバーでこの男はそのように。

 わからん。

 どういう事だ。

 「しかし-----。

 どうして尽川社長の周辺を

君たちが-----。

 一人や二人じゃないだろう。

 動いているのは」

 “実行犯について-----。

 堆村が実行犯である事を

尽川が文科省に

告げていなかっただけだろうか”

 「それは-----」

 組織の人間はつらい。

 言えない事も多い。

 「文科省内のいったい何人くらいが。

 どこの部署がこの件に関わっているんだね。

 そのくらいなら

教えてくれても良いだろう。

 どうかね」

 「それは-----

私の口からは-----。

 わかるでしょう」

 日堀はニヤリと。

 「尽川建設だけでなく

尽川社長の自宅にまで張り付いている。

 他はどこに張り付いているんだ」

 「他と言われましても

我々はあくまで今回の殺人事件。

 ヒョットして

信じたくはありませんが

イジメ

が原因ではと。

 それの調査ですし」

 「汚職のモミ消しではない-----と」

 「汚職のモミ消しならば

もっと他のところも-----。

 いえ-----

それは調べてもらえれば」

 “確かに。

 汚職に関わったとされる

尽川建設の他の者たちは

一応調べては見たが

全くノーマークのようだし-----

わからん”

 「だから汚職の証拠か何かを握られて

その該当者のみを-----

という事じゃないのか」日堀。

 「だったらどうして

尽川社長を見張らなければいけないんですか」

 「その理由を我々は聞いているんだが。

 どういう理由で尽川社長を」

 「ですから

二年前の尽川社長の息子さんの自殺。

 それが今回の事件に関係があるのではと

それでですよ。

 それに汚職、汚職といいますが

あの件は

全くのデタラメだったという事で-----

終わったと私は聞いているんですがね。

 なんだったら

当時の捜査の担当者に

聞いてみてください」

  「だから今その件は

二課に問い合わせている最中だ」

 “こちらの方へは

伝わってきていないわけか。

 その理由はわかっているが”私は。

 “二課の連中

どうして-----。

 “上”からの圧力という事らしいが 

どうもはっきりとしない。

 “上”からの圧力。

 どうして“上”が

文科省の片棒をかつぐ必要があるんだ。

 それにいつもなら耳打ちしてくれる

二課の知り合いも

にがりきった表情で

あれはマチガイだの一点張り。

 捜査の見直しをした方がいいのでは

と言ってくる。

 どういう事だ”

 日堀。

 どう言っていいのか。

 “ウチの“上”と文科省が

裏でつながっているとすれば。

 これをコイツに言ってもいいのか

どうだか。

 どうするか”

 そのあたりも今

捜査はしているのだが。

 誰とつながっているのか。

 攻め方を変えるか。

 「それで-----君たち文科省は

今回の事件をどう見ているんだ」

 「我々がですか。

 それは-----

尽川社長が人を雇って。

 そう見ていますが。

 その線で調査をしていますが」

 私は打ち合わせどうりに。

 あまりいい気はしない。

 それが表情に出たのか

どうだか。

 まあ大丈夫か。

 「じゃあ、どうして虹口まで。

 校長もだ。

 殺されなければいけないんだ」

 「それは-----わかりません-----

が-----」

 「が-----なんだ。

 校長にしろ

あんない・い・先生が死んで。

 殺されたんだぞ。

 それを君はどうも思わないのか。

 本当の事を言ってくれ」

 「ですから-----私は何も

それに文科省も全く関係ありませんし-----」

 私は-----。

 言えない事もある。

 「じゃあどうして」

 「犯行現場を見られて

それで脅されてやったとかは」私は。

 「校長先生がそんな事なさるわけが。

 それに虹口さんは刑事です」

 レムが割って入った。

 「双風さん。

 例えば-----だよ」

 私は-----口まで出かかった言葉を-----。

 「脅されたわけか。

 それでは

やはり校長は-----

汚職の何かをつかんだ。

 それで-----かね。

 そういえば校長のメル友に

文科省の人間もいたそうだね」日堀。

 「どうしてそう取るんですか」私は。

 「じゃあ、どう取って欲しいんだ」

 「ですから

犯人が犯行現場を見られた。

 そう思って-----

じゃないですか」

 「尽川社長がかね。

 それとも堆村か。

 いや火炎川の方かね」

 「それはわかりませんが。

 んっ!

 火炎川?

 誰です」私は。

 日堀は。

 “コノヤロー”

 「知らないのか。

 知らなきゃいい。

 しかし-----」疑わしげに。

 「尽川が起訴という事にでもなれば

奴がいつまでも黙っているとは

かぎらんだろう。

 文科省の事も。

 それに君だって

尽川と以前から面識があったんじゃないのか」

 「いえ-----

私は全く面識は」

 「しかし-----尽川建設とは」

 「私は部署が違いますし」

 「確かに。

 それはそうか」

 日堀は考えて。

 「尽川が吐き出せば-----」

 「ですから汚職の件は。

 その件は-----。

 全くのデタラメですよ」私は。

 「ではどういう理由で人殺しを-----」

 「それは-----。

ですから我々はやっていません」

 「じゃあ誰が殺ったんだ」

 「それを調べるのが

あなたたちの仕事でしょう」

 日堀は私をニラミつけた。

 「犯人たちは

次に誰を狙うと思うね。

 君は」

 日堀-----心を落ち着かせようと。

 「それは

わからないでしょう。

 私には。

 わかっていれば-----」

 「わかっていれば。何だ」

 「止める事もできた-----かも。

 そうでしょう」私は。

 「なるほど。

 止める事ができた-----か。

 まるで君は

犯人を知っているような

口ぶりだねえ」

 私は-----。

 「まさか-----」

 「文科省の人間か。

 それとも尽川か」

 「考えすぎですよ」

 日堀は。

 「それで今度は

誰が狙われると思うね」

 「それは-----

私にわかるわけが」

 「我々は

今度は当庭先生が危ないのではと

にらんでいる。

 さっきも言ったが」 

 日堀はどうだと言わんばかりに。

 「当庭-----先生ですか」

 「そうだ」

 「どういう理由で」私は。

 「だから

彼は虹口と行動をともにしていた。

 虹口が殺されたのは

何かをつかんだからだろう」

 「だったら当庭先生本人から

聞けばいいことでしょう」

 私は日堀と-----ニラミあった。

 「もう当庭先生には話を-----

聞いたんですか。

 それで先生は何と」

 「それが-----何も

思い当たる事はないと」

 「それが当庭先生には珍しく

少し落ち込んだ様子で」レム。

 「そうですか」

 私は-----どうするか。

 「心当たりはないと-----

ですか」

 「当庭先生の事だ。

 誰かをかばっている事も

考えられるしな。

 それは

元教え子の“君”かも知れんしな」日堀。

 私は-----。

 「それはないですよ。

 私は犯人ではないですし」

 「その当庭先生を

文科省はどうするつもりだ」

 「ですから」

 「ですから-----

何だ」

 私は詰まった。

 “どうするつもりだろう”

 日堀は-----その様子に。

 「とにかく当庭先生には

ウチの刑事を張り付かせてある。

 これで犯人も手が出せないだろう」

 日堀はニヤリと。

 「それで-----

当庭先生はそれをご存知で」

 私は少し

あわて気味に。

 「いや-----

どうして」

 「いえ。

 そうですか」

 「やはり当庭先生。

 何か知っているのか」

 「何をですか」

 「だから汚職についてだ。

 校長なり何なりから

尽川社長は同級生だったし。

 虹口も。

 それで」

 「あの先生は何も知らないでしょう。

 汚職の件はデタラメですし」

 知っていれば-----

こんな事には。

 「それは文科省の考えかね。

 それとも君個人のかね。

 皆山先・生・」

 「私個人ですが」

 「そういう事か。

 しかし-----

どうしてあんたのような奴が

先生なんだ」しみじみと。

 「校長先生や当庭先生のような

先生ばかりなら

学校もきっと良くなるだろうに。

 イジメなどもなくなってな。

 そうなれば文科省も

大助かりだろうに。

 そうは思わないかね。

 君。

 もし

文科省に知り合いでもいれば

そこのキャリアどもに

その辺のところをね。

 といてやってくれよ」日堀。

 どう答えていいのか。

 「そういえば君は

確か-----文科省の

キャリアだったね」

 私は無言で-----。

 「まあいい。

 言っても仕方が-----。

 じゃあ聞くが

だったら犯人は

当庭先生が何かつかんでいる。

 そう考えている可能性も

あるわけか」

 「それは私には-----」

 「皆山君。

 知っている事があるなら

話してくれなきゃ。

 虹口さんは殺されたのよ。

 校長先生も。

 あんな良い人たちがどうして。

 今度は当庭先生が狙われているかも

知れないんだし。

 もし当庭先生に何かあれば

どうするつもり。

 何とも思わないの」

 レムが思わず。

 「双風さん。

 だから私にはわからないよ。

 それと-----

虹口-----刑事は

やはり殺されたんですか。

 自殺ではなく」

 “どういうことだ。

 トボケているだけか。

 虹口が殺されたのか

自殺なのかに

どうしてそこまでこだわるのか”

 日堀は。

 「それは今日中にはわかるはずだ。

 しかしどうして

自殺か他殺かに

君はこだわるのかね」

 「いえ-----別に」私は-----。

 その時

取調室のドアが開き

刑事が一人-----入って来た。

 日堀に耳打ちを。

 「何!

 堆村が」

 日堀は私の方を。

 「堆村が見つかった」

 「それで-----」私は-----。

 「死体でな。

 いったいお前たちは

何人殺せば気が済むんだ」

 「我々は人殺しなどしていない」

 「だったらいったい誰が。

 他に誰がいる」

 「だから私は知らない」

 日堀は大きく深呼吸。

 気持ちを落ち着かせようと。

 「これで中学生が五人。

 校長と虹口。

 そして堆村。

 合わせて八人だ。

 もし文科省が関わっていたとなれば

どうなるかわかっているのか。

 前代未聞の大量殺人だ。

 マスコミも黙っていないぞ」

 私は-----。

 この事は連日マスコミも。

 文科省の名もチラホラ。

 いったいどこからの情報か

誰がリークしたのかは知らないが。

 私は日堀をジロリと-----。

 「我々ではない」

 「君がもし。

 皆山先生。

 直接手を下していなくても

ただではすまないぞ」

 “まあその通りか。

 “上”の方は

どうするつもりだろうか”

 これ以上-----

手をこまねいていては。

 もっと早く手を打っておけば。

 「堆村はやはり実行犯だったのか。

 それで

口封じのために」

 「ですから

我々が堆村の事を知ったのは

例のバーからですし-----」

 「じゃあ。こういう事か。

 文科省は全く知らなかった。

 尽川社長が勝手に探偵を使って

汚職のモミ消しのために殺人を。

 それを知った文科省があわてて。

 そういう事か」

 「だから尽川社長は-----いや-----

汚職の件は全くのデタラメですし。

 尽川社長にしろ

汚職のモミ消しなど

する必要は-----ないでしょう。

 あるとすれば

息子さんの件くらいですし」

 全く話にならない。

 「では聞くが。

 ここにいる双風君が

例の中学生三人が殺害された深夜

偶然に

君と文科省の人間が

喫茶店で会っているのを目撃したんだよ。

 相手の男の名もわかっている。

 その時

その男は言ったそうだね」

 私は明らかに動揺を。

 レムの方を。

 「それで」

 「はっきり聞いたわよ。

 あの三人をどうとか。

 震えが止まらないとか。

 組織のため-----とか」

 「その後すぐ

例の中学生三人が殺害され

いや死体が発見され。

 それもその喫茶店の

すぐ近くにある光対の森でね。

 これをどう説明するつもりだ。

 君は」

 「相手はこの写真の男だね。

 称見しょうみというそうだ。

 君と同じ文科省の」質石が。

 「なんだったらこの男も呼んで

聞いてもいいんだ。

 そうすれば-----」日堀。

 私は-----

その情報は入っていなかった。

 「三人とは誰の事なんだ。

 例の殺害された

中学生三人以外には考えられないだろう。

 君が命令して

この男にやらせたのか。

 それとも他の誰かが」

 「ですから

私はそういう命令も

何も出してはいませんし。

 もちろん文科省もです」

 「だったらどういう事なんだ。

 どうして三人が

殺された事を知っていた」

 私はどう言ったものか。

 「あの三人が殺されたなんて

知りませんよ。

 あの時点では。

 それは-----

あの三人を警察からもらい受けて来る時に

いろいろあって-----

それを-----

言っただけですよ」

 「そんな言い訳

信じるとでも思っているのか」日堀。

 「信じる信じないは

あなた方の勝手ですが。

 今回の件は-----

あまり深入りすると

あなた方のクビも危ないですし-----」

 私は腹をくくった。

 「どういうつもりだ。

 我々を脅すつもりか」日堀。

 「イエ。そういうつもりでは。

 ですが本当に-----

警察からあの三人を

もらい受けて来た時の事を

言っていただけですし。

 信じてもらわないと」私はシラを。

 「バーでもいろいろ

言っていたそうだな。

 尽川と堆村の会っていた」

 「それも双風さんが」私は。

 レムはうなずいた。

 「“手を引きたがっている者がいる”とか。

 内部告発する者も出かねない-----とか。

 尽川社長には気の毒だが-----とか。

 やってしまったものは仕方がない-----とか。

 手を引きたがっているのは-----

警察だ-----とか。

 もっと早く手を打っておけば-----とか。

 はっきり聞いたのよ」レム。

 一言づつ、くぎって-----。

 「警察のいったい誰が

関わっているんだ。

 汚職に警察関係者も

関わっていたのか。

 それで汚職の件はウヤムヤに」日堀。

 「ですから汚職は

関係ないですし。

 そこから離れられませんか

あなた方は」

 「だったらどういう理由で

ウチの“上”と文科省が。

 これは殺人事件なんだ。

 それを-----

文科省だけならまだしも

どうしてウチの“上”が

それに関わっているんだ。

 ウチのいったい誰が。

 いったい何をやったんだ。

 オマエたち。

 尽川には気の毒とは

いったいどういう意味なんだ」

 私はだんまりを決め込む事にした。

 「やはり尽川は

何か知っているのか」

 「皆山君。

 しゃべって

このままでは当庭先生も」レム。

 私は-----ニヤリと。

 もっと早く手を-----。

 「当庭先生までが。

 当庭先生がどうなってもいいの」

 「君も教師だろう。

 同じ教育者として

あんな良い先生。

 見殺しにしてもいいのか」

 私は-----。

 日堀は-----その目には。

 「さっきクビ云々と言っていたが

それはどういう事だ」日堀。

 「事件の真相がわかれば-----。

 いや-----

何でも-----」

 私は-----。

 “言い過ぎたか”

 「どういう事だ。

 やはり文科省が-----

あの八人を」

 「我々は殺ってはいない」

 「じゃあ誰なんだ。

 やはり尽川が」

 「君は犯人を知っているんだろう」

 「どうして-----私が」私は。





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