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「社長。
ヒョットして疑われてるんじゃあ」
パートの女性事務員の来積が
いつものようにズケズケと口を開いた。
「どうして-----俺が」
堆村はコーヒーを片手に持ったまま。
「さっきも外で警察に呼び止められて
尽川社長の交友関係を
いろいろ聞かれたから。
マサカ社長」
来積は四十代。
パート事務員募集の張り紙を見て
応募して来てから
すでに十数年になる。
探偵社の内情にもくわしい。
もちろん経営状態にも。
「冗談はよしてくれよ。
どうして俺が殺人なんか」
「それじゃあ、
どうして刑事が」
「それは-----
一応、交友関係を調べるのが
捜査のイロハなんだろう。
それに尽川社長の会社は建設関係だし
そういう事を頼むのなら-----
もっと別に
いくらでもいるだろう。
そういう事を引き受けてくれそうな者が。
今度刑事に聞かれたら
そう答えておいてよ。
頼むよ。
俺が疑われるような事は
言わないでよ」
「わかっているわよ。
さっきもチャンと
そのあたりは心得た上で言っておいたから。
社長に限ってってね。
だから大丈夫よ」
「本当に大丈夫なの。
またある事ない事」堆村は来積に。
「失礼ね。
いつ私がそんなことを言ったの。
そんな風に言うのなら
もう弁護してあげないから」
「それは-----
そう言わずに頼むよ」
「わかっているわよ。
でも-----
尽川社長からは本当に頼まれなかったの。
その-----人を-----」
「どうして尽川社長が
そんな事をこの俺に。
それはないよ。
それに
そんなに信用されてはいないよ。
残念ながらね」
「下手に頼みでもすれば
逆にゆすられかねない-----って事」
堆村はニヤリ。
「まあそこまでは考えていないだろうが
引き受けるはずないしね」
「それはそうね。
じゃあ
だったら-----誰が-----
殺ったのかしら。
心当たりは」
「それは-----
わかるわけないだろう」
何か言いたそう。
「まあそうね。
でもあなた探偵でしょう。
テレビでも何でも
こういう時一番に乗り出して
事件解決のために-----」
来積は冗談めかしに。
「冗談はよしてよ。
その辺は良くわかっているだろう。
あれは映画やテレビの中だけの話。
我々の仕事は素行調査。
テレビのように
そんなにうまく
殺人現場に居合わせるなんて
めったにないしね。
そんな殺人現場に居合わせたなんて
経験のある探偵なんて
私の知っている限りでは
いないよ。
だから
そんな事を仕事にしていれば
すぐに干上がっちゃうだろう」
「なるほど。
それがわかっているんだったら
もっと仕事を取ってきなさいよ。
今月も-----」
いつもの事だ。
「それよりも社長。
知ってる。
火炎川君。
この前、尽川社長の会社の近くの喫茶店で
尽川社長と会っていたらしいわよ」
「火炎川君が。
まさか
誰からそんな話を」
「イエ、私のちょっとした知り合いがね。
あのあたりに勤めていてね。
その人が」
「どうしてあなたの知り合いが
火炎川君の事を知っているの。
それに本当に本人なの」
「それは-----。
でも-----
絶対マチガイないって
言ってたわよ」
「それじゃあ-----
ウチの会社の用事でだろう。
何か届け物でも-----
あったかな-----。
あそこからの調査依頼は多いし
あなたもよく知っているでしょう」
「でもそれならどうして-----
尽川社長と会う必要が-----。
私はてっきり
社長が火炎川君に頼んだのかと
思っていたんだけど」
疑わしげに。
「尽川社長個人の依頼を-----私が。
もちろん個人であろうが、なかろうが
何人かで調査をするんだし
当然だろう」
「でも-----
ここ最近はそういう依頼は
尽川社長本人からはなかったし。
それに社長。
一人でやっていたんでしょ。
依頼もされてないのに」
「どうしてそれを」堆村は-----。
「それは-----みんな知ってたわよ。
社長も大変だってね。
尽川社長はお得意様だし
ご機嫌をそこねてはね。
それで一人で-----」
「まあ-----そういう事だが。
依頼もされていないのに
みんなを使うわけにはね。
経済的にもね。
刑事さんには
おかしな事を言わないでよ。
変に疑われでもしたら」
「わかっているわよ。
こう見えても
口はかたいのよ」
堆村は-----。
“これは-----
早く-----しないと。
いや-----
もうすでに
目をつけられたかな”
「少し出かけて来る」
「どこへ-----」
「警察に疑われてるんじゃあ
仕方ない。
身の潔白を証明しないとね」
「じゃあ。
尽川社長の周辺を」
「いや-----そうじゃあ-----。
いや-----そういう事だ」
堆村は事務所を出た。
「んっ!」
刑事のような男が数人。
“マズイ
どうする”
堆村にはやらなければならない事が。
堆村は駅へ。
男たちも。
発車直前の電車へ飛び乗った。
男たちは-----プラットホームで
呆然と。




