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雑居ビルの二階の小さな一室。
金属製のドアに張られた
古ぼけたプレートには
“堆村探偵社”
とあった。
そのドアを開けると
真向かいに大きなデスクが。
そこに堆村は
腰を下ろしていた。
中学生五人の連続殺人事件は
連日マスコミが書きたてていた。
テレビなどは朝から晩まで。
尽川が任意で呼び出された事も。
まだ任意であるため
名前こそ伏せられてはいるが-----
事情を知る者に取り
それは誰だか明らかだった。
インターフォンが鳴った。
堆村が取る。
「エッ!
警察」
社員の一人
火炎川と眼が合った。
「少しお待ち下さい」
インターフォンを切る。
「何の用だろう」堆村。
火炎川が出る。
そこには虹口刑事と閏部刑事。
そして当庭がいた。
「どうしてあなたたちが-----」堆村。
火炎川も-----とまどったように。
「私たちの事をご存知で」虹口刑事。
「いや-----」堆村。
どう言ったものか。
一瞬迷ったように。
明らかに動揺しているのが見て取れる。
虹口はニヤリ。
「まあいい。
今日うかがったのは
尽川社長の事で-----」
「尽川社長?-----
ねえ-----」堆村。
「尽川社長の会社とは
取り引きがあるとかで」閏部。
「はい、一応。
人事の綱里部長には
いつもお世話になっていますが」
「人事の綱里部長ね。
それで尽川社長本人とは」閏部。
「尽川社長本人ですか。
それは-----。
刑事さん。
我々にも一応
守秘義務のようなものがありまして。
わかるでしょう。
あまりおかしなことを言うと
次から仕事の依頼が-----」
「あなたも例の
中学生の連続殺人事件は
ご存知でしょう。
その捜査で来たのですが。
そう言わずに
ご協力願えませんか」閏部。
「やはり-----あれですか。
協力するのはいいのですが」
「それで尽川社長とは」閏部。
「はい-----
一応-----個人的に調査依頼を受けまして」
「どのような」
「ですから
何か二年前に息子さんが。
その関係で-----」
「その時からの付き合いですか」
「はい。
そうです」
「それで
どういう調査を」閏部。
堆村は当庭の方を。
「それは-----
ここでは」
「あなたが
ウチの生徒やその親に
いろいろ聞いて歩いていた事は
我々もすでに
承知しているんですがねえ」当庭が。
「いえ-----それが-----。
その件については
みんな口がかたくて
要領を得ませんし。
尽川社長も不満だったようですが」
「あなたが調査して
尽川社長に渡した資料は-----
。我々が押収して
一応読ませてもらったんですがねえ」虹口。
堆村の表情をさぐるように。
「そうです-----か。
尽川社長が警察に-----提出なさった」
「いえ-----
家宅捜査をしまして
押収したわけですが」閏部
「家宅捜査?
では全てご存知で。
それなら私に聞く事は
ないのでは。
それに
尽川社長の許可を得ないと」
尽川が逮捕
-----まだ任意か-----
それは知ってはいるが。
それを言って疑われては。
堆村は慎重に。
「尽川社長は今-----
警察ですよ。
任意で事情を聞いているところです」閏部。
「テレビでやっていた
重要参考人とは
やはり尽川社長でしたか。
ですが-----
どうして尽川社長が」
「イエ、一応。
事情を聞いているだけですので」閏部。
「しかし-----
この前会った時には
アリバイがあると言っていましたが。
何か事件当時
社用で静岡に」
「尽川社長に会われた。
それはいつですが」閏部。
堆村は都内のバーで
会った事を告げた。
「そこでどんな話を」
「それは-----
二年も前の事ですし。
再調査の依頼があって。
ちょうどもう一月になりますか。
調べたのですが。
二年前の調査以上の事は
わかりませんでしたし。
その事を-----
尽川社長は残念がっていましたが。
その資料は-----
押収したんでしょ」
「エエ-----
まあ」
「お読みになった」
「一応は-----」
「だったら-----
それでまた同じ調査を-----
ですから-----。
まあこちらは仕事ですし
やれと言われれば-----
やりますが。
尽川建設はお得意様ですし。
それの報告ですよ」
「なるほど」
「それで
例の中学生殺人事件については
何か言っていませんでしたか。
尽川の奴」当庭。
堆村は身構えた。
「ですから
さっきも言ったとおり
自分はやっていない
アリバイもある-----と」
「他には何か」閏部。
「何でもいいんですよ」当庭も。
「殺害された五人に対しては、
何か」
「それは-----」
「尽川社長ですが。
一月ほど前に
その殺害された五人が
話しているのを立ち聞きして。
それでまたあなたに
調査の依頼をされたとか。
その事は」虹口。
「それは-----
もちろん聞いていますが。
あの連中が
そういう事を言うのは
二年前も同じでしたし。
それを聞いたからといって
今になって尽川社長が
殺人をなどとは-----
思えませんし」
「どういう事を言っていたと
言っていましたか」当庭。
「一ヶ月前に調査を依頼された時と
今回で-----
何か違いはありましたか。
何でもいいのですが。
気づいたことがあれば
言っていただかないと」閏部。
「気づいた事と言われても-----」
「例えば中学生の二人が
殺害された後はどうでした。
三人がさらに殺害された後は」
「それは-----。
私どもに連絡が
再調査の依頼があったのは-----。
確か-----
三人が殺害される前日でしたし-----」
「電話でですか」
「はい」
「その時の様子は
どうでした」閏部。
「いえ。何も変わった様子は。
電話越しですが
いつもどうり-----
ですか」
堆村は何か言いたそう-----。
「その殺害された二人については
何か言っていましたか」
「それは-----。
そのとき電話でそれとなく
“例の二人が殺害された-----ようですね”
と水を向けてみたのですが-----」
「それで尽川社長は何と」
「自業自得だ-----と。
まさか
尽川社長がやったのでは-----と
こちらから聞けるわけありませんし
だまっていますと。
自分はやってはいない。
アリバイはあるし。
刑事も来たが
そう言っておいた-----と」
「尽川の奴。
まだそんな事を。
自業自得などと」
当庭がくやしそうに。
「しかしおかしいじゃないですか。
二人が殺害されて
その上で
どうしてあなたのところへ
調査依頼などを。
どういう理由でまた」
「それは-----
こちらではわかりかねます。
とにかく至急調べ直してくれと」
虹口も閏部も-----。
「ですが
アリバイがあるんでしょう。
尽川社長には。
じゃあどうして捕まるのですか。
疑いはとおの昔に晴れたのでは」
「ええ-----。
まあ」閏部。
ハンカチの事は
伏せておく事になっている。
「尽川社長に-----
誰がやったと思われますと
三人が殺された後
バーで聞いたのですが-----」
「それで」
「全くわからない-----と。
君こそ
あの連中の周辺を
調べてくれていたんだろう。
心当たりはないのかと
聞き返される始末で。
あの連中
方々で悪さをしていましたし。
ですが-----
殺害されるほどではないですし。
その事を尽川社長にも
言ったんですが。
それより当庭先生。
あなたあいつらの担任だったんでしょう。
あなたに方こそ
心当たりはないですか」
当庭は急に聞き返されて
とまどったように。
「それは-----
全く」
当庭はくやしそうに。
「そうですか」
「アイツらに限って
人にうらまれるような事は-----。
ただ尽川のように-----
誤解して-----」
「行方不明の衛山については
何か言っていましたか」閏部。
「いえ-----何も。
ですが-----
まだ見つからないのですか。
その行方不明の-----その-----子供は」
「我々も捜しているのですが
まだ」閏部。
「その時の様子に
不自然なところは」虹口。
「なかった-----
と思いますが」
「そうですか」
「それと堆村さん。
文科省の事について
何か聞いていますか」閏部。
「文科省?
何ですか。
それ」
「ですから
今回の殺人事件に関して
裏で何かあるとか-----
そういう話は。
尽川社長
していませんでしたか」
「-----」
堆村は-----さっぱり。
「文科省-----ですか。
しかしどうして」
「いえ、わからないなら結構です。
それと堆村さん
あなたのアリバイは」
「アリバイ。
私の。
どうして」
「いえ、単なる確認のためですよ」
「アリバイ-----ですか。
アリバイといっても
私どもは依頼主の依頼で
出ている事が多いですし-----。
わかるでしょう。
ですから」
「そうですか。
どうも」閏部。
刑事たちは。
当庭も引き上げて行った。
「尽川社長。
本当に犯人なんですかねえ」火炎川が。
「まさか。
アリバイもあるそうだし」
「それじゃあどうして警察に」
「それは-----」堆村。
火炎川は真剣そのもの。
「火炎川。
君が心配しても仕方ないだろう。
それとも尽川社長と
何かあるのか」
「私が-----
マサカ。
そういう風に聞こえましたか。
何もないですよ」
「内緒で個人的に
尽川社長から依頼なんて
受けてないだろうな」
「それは-----
あるわけないですよ」
火炎川。
歯切れが悪い。
「まあ-----あまり深入りしない事だ
下手に首でも突っ込んで
疑われでもしたら-----」
「それはそうですか。
-----
それより尽川社長からの
依頼の件の調査はどうしますか。
もう金ももらっていますし」
「それは-----もちろん。
まあすぐに出て来るだろうし
尽川社長も。
その時にクレームをつけられるのも
何だしな。
続けようと思う」




