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「おい。ちょっと」
私は生徒の一人を呼び止めた。
学校は現在、休校中。
自宅まで出向き
わざわざ。
すでに何軒か当たったものの
この生徒も-----。
自宅へ向かう途中
都合よく、道で出くわしたのだ。
「えー。
先生、どうして。
また何かあったんですか」
驚いたように。
何とか顔だけは
覚えてくれていたようだ。
名前の方は-----
どうだろう。
覚えてくれているのか。
「少し聞きたい事があってね。
それでみんなの自宅を
一軒一軒まわっているんだが-----。
二年前の事なんだが」
生徒の表情がこわばった。
「先生。
二年前の事だったら
何も知らないですよ。
あいつとはあまり口もきかなかったし」
どこも同じ反応だ。
私は困ったという表情。
「他の先生にも言ったんですが」
「今まで誰かに
その事を聞かれたの」
「はい。
当庭先生にも、季末先生にも。
他の先生にも。
それに-----」
「それに」
「刑事さんたちにも」
ウワーーー。
これは-----
他も同じだった。
「それで-----
どう答えたんだい」
私は生徒の気持ちをやわらげようと
やさしく聞いた。
「ですから
何も知らないと」
「じゃあ
あの六人-----との関係は。
その子、仲が良かったの」
私の期の時も
クラスメートに自殺者が。
先生に聞かれても
他の生徒たちは-----
クラスメートは
このような反応だった。
下手なことを言って
今度は自分がイジメられるのが
怖いのか。
“この子はマトモな方-----
なんだけどな”
自分のせいにされるのが怖いのか。
考えすぎか-----な。
まあ、クラスメートといっても
仲が良ければわかる事もあるが、
別のグループの者となれば-----
わからないか。
自殺した尽川社長の息子と
親しかったクラスメートは-----
例の六人以外にはいない。
いなかったらしいし。
私の脳裏に。
私が中学時代に
自殺したクラスメートの事が-----。
あいつ-----
どういう顔をしていたかな。
よく考えてみると
あいつがどういう奴で
何をしていたのか。
金持ちの息子だとは聞いていたが
全くわからないわけだし。
やはりこれは
尽川社長の周辺を。
「そう言えば」
言おうかどうか
迷っている。
「何か知っている事があれば
言ってくれなきゃ。
このままじゃあ
また犠牲者が」私は。
その言葉に
迷った挙句。
「ニ三ヶ月前に
探偵のような人が」
「探偵?」
「僕は会っていないんだけど、
お母さんに
二年前の事を。
他のみんなにも聞いたら
何人かは
ウチにも来たって」
私は生徒の顔をマジマジと
「それが。
他の友だちが言うには
二年前にも事件について
いろいろ聞きに来ていた奴と
同じ奴だって。
先生にも言ったんだけど」
そう言えば
先生たちもそのような事を。
探偵が-----か。
そのような者を雇うのは
尽川社長-----
しかいない-----か。
「先生。
ボク急ぐので」
生徒は逃げるように
去って行った。
その後ろ姿を見ながら。
「尽川社長が犯人ならば
その探偵を使ってか。
この線ならば-----
いけるか」
私は思わず
つぶやいていた。
その皆山を
家の中から見送る
一人の影。
「おい。
今の誰だ。
また刑事か」
そう声をかけられたのは
さっきの生徒。
「違うよ、
父ちゃん。
最近、入った先生だよ」
「先生。
またか。
それで何を話してたんだ」
「それが-----」
「また二年前の事か」
生徒はコワゴワうなずいた。
「何も言わなかっただろうな」
「ウン」
「それでいいんだ。
あんな奴。
死んで当然だ。
オマエは悪くない。
社長だ。何だと言って
イバリ散らしているから
いけないんだ。
あんな奴ら
イジメられようが
半殺しにされようが
ゆすられようが
助けてやる義理なんてない。
あんな奴助けて
何の得がある。
そんな事をしても
一生
あんな奴らにこき使われるだけだしな。
それよりも
黙って見てりゃ
いいんだ。
泣きを入れて来るまでな。
荒れる子にイジメられても
ゆすられても
俺たちが助けてやらなきゃ
手も足も出ないしな。
それがわかれば
それにこりて-----
少しは世の中のありがたみが
わかるというもんだ。
それを
“教育”
と言うんだろう。
学校でそう教わらなかったか。
人の気持ちのわかる
いい人間にしてやるんだ。
ありがたく思え。
あんな奴らを。
そうなればいいぞ。
命令するだけで
あれもこれもしてもらえる。
そうなって欲しいだろう。
人の気持ちをわかって
オモチャでも何でも。
そのために教育はあるんだ。
そうして教育してやれば
必ずわかってくれる。
そうしてやって
わからない奴は。
そんな“人で無し”は
生きていても仕方ないってな。
そんないい人間になってくれると期待をして
生かして
教育してやっているんだ。
ありがたく思え。。
全く。
“ユスリ教育”とはよく言ったもんだ。
いや-----。
何でも-----。
勉強なんぞしなくても
ユスリさえしてりゃ
いいんだからな。
そうでもしなけりゃ
出世できない世の中が
悪いんだ。
かまう事はない。
あいつらは
金持ちだ。
社長だなどと
イバリ散らしやがって
少しは思い知ればいいんだ。
どうしてあんな奴らに
アゴでこき使われなければ
ならないんだ。
人の心の痛みを思い知れ。
あんな奴らかばってなんになる。
それよりも
荒れる子をかばって
あんな奴らに
人の心の痛みというモノを
わからせてやった方が
得だろう。
学校とはありがたいところでな。
クラスのみんなで
無視してやれば
荒れる子にイジメられようが
ゆすられようが
そいつの方が悪い事になるんだ。
性格的にクラスに溶け込めない
とか何とかでな。
そうなれば
ケイサツも手も足も出ないしな。
“映画の○○教師。
ありがとう”
といったところか。
あんな甘い教師がいりゃ
イチコロだろう。
どうとでもなる。
だから大丈夫だ。
黙ってりゃあな。
どうしてあんな奴らに
一生アゴでこき使われなければ-----。
そうだろう。
お前もそう思うだろう。
だから
オマエは悪くない。
悪いのはあいつらだ。
そのせいで
将来に希望をなくして
犯罪にでも走れば
どうしてくれる。
そうなって当然だろう。
学校でそう教わらなかったか。
だから
盗人をしようが
何をしようが
悪いのはあいつらだ。
そんな奴ら
ドツキまわそうが
何をしようが
悪いのはアイツラなんだ。
気にするな。。
思い知らせてやれ。
こっちは悪くないのに
どうしてブタ箱なんぞに。
世の中
キタナイからだ。
今に思い知らせてくれる。
だから気にするな。
今から教育してやって
立場というモノを
わからせてやれば
将来きっと
人の心の痛みをわかって-----
な。
だから
あんな奴ら
イジメられようが
ゆすられようが
助けるんじゃないぞ。
荒れる子が
警察にでも
捕まりそうになれば
逆にかばってやれ。
荒れる子の側に
ワシらがつけば
どうなるか思いしらせてやれ。
そうすれば
思い知って
今に泣きを入れてくる。
そうなれば-----
そう思って楽しみにしていたんだが。
自殺なんぞ
しやがって-----
大損だ。
それをアテにして」
尽川建設の下請けだ・っ・た・親は。
「だからオマエは悪くない。
しかし-----
世の中の奴らは
何もわかっちゃいない。
どうしてこのワシが
尽川なんぞの下で-----。
その心の痛みを
わかってくれないしな。
そんな奴ら思い知らせて何が悪い。
そういうのを
“人で無し”
と言うんだろう。
学校でそう教わらなかったか-----。
どうしてこのワシが。
尽川のガキなんぞ
ああなって
ざまあ見ろだ。
しかしそれを言うと
世の中の奴ら。
わかっているな。
あんな奴
死んで当然だ。
オマエは悪くない。
いいな。
だから
何を聞かれても
しゃべるんじゃないぞ。
尽川のようなクズは
バレれば
何をするかわからんしな。
そのせいで。
本音を吐けば。
あんな奴の下で
働く必要がなくなって
せいせいした。
そういう奴らだ。
あいつらは。
自分たちが悪いのにな。
わかるな。
だから上辺だけは
反省したフリでもしてろ。
尽川め。
ざまあ見ろだ。
今に見ていろ」
親は息子の顔を
ジッと見つめた。
「クソーーー。
学校でなら思う存分-----
尽川のような奴を
教育してやれるんだが。
ワシも子供の頃
ムナクソの悪い
金持ちのガキがいてな
よく教育してやったものだ。
イジメ殺されればおしまいのクセに。
イジメられても
手も足も出ないクセに
そういう立場がわからない。
ワシらが荒れる子をかばってやれば
いじめられようが
何をされようが
泣き寝入りするしか
ないクセに
逆らいやがって。
こちらの指導に従わない。
あいつさえ
家来になってくれていれば
今頃
尽川なんぞに
アゴでこき使われる事も
なかったのに。
あの時
もう少しこらしめてやって
教育してやっていれば。
今頃
尽川なんぞ。
こちらが
アゴでこき使ってやれていたのに。
それが-----
あの時はガキだから
わからなかったんだ。
オマエもそうなりたいか。
一生後悔するぞ。
このワシのように。
学校でならやれる。
今なら。
そうだろう。
今から教育して
立場をわからせてやれば。
イジメ殺されればおしまいのクセに。
将来必ず
人の気持ちをわかって
あれもこれも
してくれるようになる。
それが教育というモノだ。
ワシはまだ
教育というモノに
期待しているんだ。
うまくやれ。
いいな。
だから
あんな奴ら
助ける必要なんてない。
荒れる子の方について
一緒にこれしめてやれ。
そのほうが得だ。
オマエもあんな奴らに
一生コキ使われたいか。
こちらが
アゴでこき使ってやればいいんだ。
そうだろう。
学校でならやれる。
オマエのためだ。
あんな奴らを
アゴでこき使える
身分になりたいだろう。
そうなれば
いいぞ。
あれもこれもしてもらえる。
ああもこうもなれる。
いつも言っているだろう。
今、そうしないと
一生後悔するぞ。
大人になれば
教育なんかできない。
少しでも懲らしめてやろうとすれば
すぐにクビになる。
下手をすれば
ブタ箱行きだ。
一生を台無しにされる。
あいつらが人の気持ちを-----。
あいつらがしてくれれば
どんなにいいか-----。
どうしてあんな奴らに
アゴで。
それをわからないから
悪いのに。
そうだろう。
キタナイ大人の世の中じゃあ
助けてもくれないしなあ。
それどころか
あんな奴らをかばって
ワシらを
人で無し
盗人呼ばわりする。
そんなに社長や金持ちに
コビを売りたいのか。
そんなにあんな奴らの下で
出世がしたいのか。
下手に勉強なんぞできるからいけないんだ。
あんな奴らに媚を売って
自分だけ出世しようなんて輩が出てくる。
学校で勉強なんて教えるからいけないんだ。
だから自分勝手な
そんな奴らばかりになるんだ。
そうだろう。
バカな奴らだ。
立場というものがわかっていないんだ。
あいつらは。
それを分からせるのが教育なんだ。
勉強なんぞ教えて、
なんになる。
金持ちに媚びへつらうだけの
クズをつくるだけだということが
わからないんだ。
いや。
わかっていて。
だからあんな奴らを
かばうような奴ら
イジメてやれ。
そんな人で無しども。
そんな奴らがいるから
教育にならないんだ。
そういう奴らも
人で無し
と言うんだろう。
そういう奴らばかりの世の中を
キタナイ世の中。
人の気持ちをわからない世の中
と言うんだろう。
金持ちどもにコビを売りやがって
思い知らせてやれ。
そんな奴らのせいで
尽川のような奴らを
教育できないんだ。
人の顔をした世の中なら
一緒に懲らしめてくれて
当然だろう。
それを
あんな奴らにコビを。
思い知らせてやれ。
そんな奴らも
尽川と同じで
無視してやればいいんだ。
他のクラスメートも
そう言っているだろう。
それを大人の世の中は。
学校で何を教わってきたんだ。
オマエはそんな“キタナイ大人”にはなるな。
しかし大人の世の中
キタナイ。
そんな-----
金持ちや社長、力のある奴らに
コビるような奴らばかりだ。
だから絶対に
言うんじゃないぞ。
それこそ
あんな人で無しの世の中に
人生台無しにされてしまう。
何を聞かれても
シラをきってりゃいいんだ。
学校でならそれでとおる。
わかったな」
その父の言葉に
生徒はうなずいた。
「今に見ていろ。
尽川め」
父親の視線は
あらぬ方へ。




