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ある中学校教師の殺人事件簿  作者: 維己起邦
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 翌日。

 私は学校へ。

 校長たちはマスコミへの

対応やら何やらで。

 何しろ在校生が続けて五人も

殺害されたのだから。

 行方不明も一人。

 当然-----

学校も休校。

 とても授業どころの

状況ではなかった。

 先生方は全員

出て来ている。

 職員室で

首をうなだれ

ヒソヒソ話をする者も。

 「やはりあの尽川が

犯人でしょうか」

 「二年前の関係者が

こうも続けてですから」

 定年間近の教師たちが。

 「ですが私にはとても-----

あの子がこんな事をするとは」

 尽川がこの中学に在校していたのは

今から二十五年以上前。

 その当時を知る教師も

五十を越えた年齢。

 その記憶をさぐりながら。

 私はそっと、

その輪の中に入った。

 「昨日、尽川社長に-----会ったのですが。

 中学時代、

どういう人間だったのですか」

 「それがねえ。

 人付き合いが

あまりうまくなくてねえ」

 「それでよくイジメられていたよ」

 「誰に-----ですか」私は。

 「それは-----」言葉をにごした。

 「それで尽川君。

 どうだった」

 「元気にしてた」

 「はい。

 それは元気そうで」私は。

 「何か言ってた。

 今回の件について」

 「それは-----。

 私はやっていないと。

 早々に追い返されましたが」

 「なるほど」

 「人付き合いが悪いのは

変わらないか」

 「二年前のままか」

 がっかりと。

 その当時のアルバムを。

 昭和○○年度

卒業記念アルバム

という奴だ。

 「このアルバムは

我々の宝だよ。

 今にみんな立派になってね。

 戻って来てくれてね。

 先生の気持ちをね」

 そう言ってページを。

 「この子だよ」

 確かに

今の尽川社長の面影はある。

 「これは当庭先生?

 それに虹口刑事もいますね。

 野里校長が

当時の担任でしたね」私は

 「いや-----ね。

 それが-----

卒業してから何をしているのか。

 全く音沙汰なくてね。

 同窓会にも

全く出て来なかったしね」

 「親は小さな建設会社をやっていたしね。

 そのあとを継ぐという

話だったんだが」

 「うまくやっているかどうかね」

 「当時の同級生に聞いても

全くわからない、

という返事がね」

 「それで我々も

心配はしていたんだが。

 それが二年前

尽川の息子がこの中学に入った。

 それで親の跡を継いで

社長になっているのがわかり

我々も喜んでいたんだよ。

 本当に。

 それがあんな事になってね」

 「我々の努力も

報われなかったわけだ」

 「残念だよ。

 本当に」

 「何とかしてやりたかったんだが」

 くやしそうに。

 二年前の写真を。

 一年生の各クラスごとの写真だ。

 「この子だよ。

 あの六人も写っているだろう」

 私はのぞき込んだ。

 「それで同窓会は

毎年やっているのですか」

 私は-----

どうして今になって

彼が-----

あの五人を。

 もう一人

行方不明の子を

その理由を知りたかった。

 「いや-----

まあこの期の卒業生の中にね。

 そういう同窓会とかが

好きな子がいてね。

 不定期だが

何年に一度かはやっている。

 我々もそのたびに呼ばれるんだが

年々参加人数は減っていてね」

 しみじみと。

 「それで今年は」

 「ちょっと待ってくれよ」

 机の引き出しをゴソゴソと。

 「あった、あった。

 これだよ。

 今年の参加者のリストだよ」

 私はそれを奪うように。

 「当庭先生と校長先生は

出ておられますね。

 ですが尽川社長に名は-----」

 「校長先生は

当時の担任だったしね。

 他の先生方も

一応、できる限り

出る事にしているしね。

 当庭先生はここの教師だしね。

 出ないわけにはいかないだろう」

 「なるほど」

 確かにそうだ。

 「しかし-----尽川君は

一度も来た事はないんじゃないかな」

 「そういう事ですか」

 「この中に

尽川社長と親しかった者はいません。か。

 今も一応、親交がある者は」私は

 「それが-----」

 「さっきも言ったように尽川君は

人との付き合いがね。

 私たちも

二年前の事もあるしね。

 あの後

尽川君がどうしているのか

消息を知りたくてね。

 出席した子たちに聞いたんだが

誰も知らなかったよ。

 彼にも

心から信頼できる友達でもいればね。

 この中学にいた時も

他のみんなと

仲良くやっていけたんだろうが-----ね。

 あの当時のままだよ。

 もっとよく我々がね。

 親身になって指導していれば

彼もあんな風にはならなかったんだろうが-----。

 我々の指導力不足かねえ」

 しみじみと。

 「そういう友達もいなかったわけですか。

 当時から」

 「そう。

 それと-----ここだけの話だが

彼の息子が自殺した時も

一方的にね。

 学校が悪いと-----

すごい剣幕でね」

 「必ずあいつらをぶち込んでやるってね」

 「それは-----」私は。

 「もちろん彼の誤解なんだがね。

 彼の息子も

彼と同じで

クラスメートとうまくやっていけない

性格でね。

 友達と呼べる者もね。

 クラスメートにしろ

彼とは距離をね。

 わかるだろう」

 「我々も何とかしようと

したんだがね。

 やはり-----ダメだったよ。

 それであんな事に」

 「そうでしたか。

 ですが-----

もし尽川社長が犯人だとして

どうして今頃になって」

 私は率直に質問をぶつけた。

 「それは-----」

 「ここだけの話ね。

 当時のクラスメートにね

-----今の三年生だよ-----

話を聞いてまわっている者が

いたらしいんだ」

 「本当ですか」

 「ウワサだよ。

 ウワサ。

 当時のクラスメートに

 私たちがこのウワサを確認したところ

みんな知らないと口をつむぐしね」

 「この子たち全員ですか」

 私は二年前の写真を。

 この話が本当なら-----

動機は-----。

 どうして今頃。

 その理由がわかるのだが

 全員、否定とは。

 「これ、お借りしていいですか」私は。

 「君も探偵ごっこか」

 相手は笑った。

 「いえ-----

少し興味が。

 それと-----これも」

 私は二年前のクラスメートの名簿を。

 尽川社長、当庭先生、虹口刑事の期の

卒業アルバムを。

 「いいけど

ムダだよ。

 我々もね。

 それとなく

何人かには当たったんだが-----」

 「ここでこうしていても

仕方がないしね」

 「それで」

 「事件には関わりたくないという感じで

クラスメートも卒業すればね」







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