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ある中学校教師の殺人事件簿  作者: 維己起邦
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 光対《 こうつい 》中学。

 三年一組。

 中学生もこの時期ともなれば

高校受験をひかえ-----。

 今はもう十月だ。

 私はこのクラスの担任。

 当庭《とうにわ》善雄三十九歳。

 この道十七年のベテラン教師だ。

 中学校,

中学生

といえば

世の中どこでも同じだろう。

 校内暴力、

イジメ、

学業不振による-----

登校拒否、家庭不和

------等々。

特にこの中学は-----だ。

 万引き、引ったくり

他校の生徒との暴力事件も。

 つい数日前にも

生徒の一人が万引きでつかまり。

 幸い相手が教育に対し

理解のある方だったので、

何とか-----警察も-----。

 夜中にたたき起こされ

取るものもとりあえず

警察署に出むいたのだが。

 すでに校長も来ていた。

 その子の両親も

被害者にも会い-----

校長ともども。

 両親は泣いていた。

 「将来のある身ですし」

 「普段はいい子なんですよ。

 それが-----どうしてこんな事に」

 知り合いの刑事の口ぞえもあり

何とかその場は-----。

 何とかもらい受けて来たのだが。

 その生徒は今日は休んでいる-----。

 今日もか。

 数日前から。

 よほどショックだったのだろうか。

 その子の気持ちを思うと。

 思いあまっつて-----。

 どうしようもない絶望感から。

 これ以上何もしなければいいが。

 あいつはそんな事のできる子じゃないんだ。

 その事は教師の私には

良くわかっている。

長年の経験から。

 それを-----。

 この年頃の子供は

非常に繊細といおうか

壊れ易いというか。

 ちょっとした事で傷つき

それが心の傷となり。

 それが-----積りに積って-----。

 子供たちに四六時中接している

この私にとって

その気持ちは痛いほど-----

伝わってくる。

 ホンの少しの事で。

 ここで親が

大人が

クラスメートが。

 ほんの少しでいい。

 その気持ちを理解し、

わかってやってくれていれば

こんな事にはならなかったのに。

 中には教師にまで。

 教師にまで-----。

 そのような心に傷を持つ

子供たちの心を理解し-----

何とかしてやるのが

その勤めであるはずの

教師の中にさえ。

 子供たちの心の傷、さみしさ

言い知れぬ不安感。

 将来に対する不安感。

 大人の世界に対する不信感。

 言い知れぬものがあるらしい。

 それをわかってもらいたくても

わかってもらえないアセリ。

 言葉で言っても取り合ってもらえない。

 すぐに大人たちは

心の傷を持つ少年たちを○○あつかいする。

 どうしてそうとしか取れないんだ

大人たちは。

 これでは子供たち-----

もうどうしようもなくて-----。

 そうだろう。

 良く良く話しをしてみると

みんないい子たちなんだ。

 荒れる子という子供たちは

親身になってよくよく話をしてみると

とてもみんな

そんな事をする子とは思えない。

 気持ちさえわかってやれば-----

 泣きながら

-----これで救われると訴えてくるんだ。

 その子供たちがどうしてこんな事を。

 他の子供たちもみんなそうだ。

 原因は-----本人に問いただすと。

 教師として-----口が裂けても言えないが。

 クラスメートの一人が、その親が

心ない事をこの子に言ったらしい。

 はっきりとは言わないが-----。

 その子の事を-----その親を気にして。

 そうらしい。

 そこまで心やさしい子たちなんだ。

 かれらは

同僚の教師の中にも-----

そういう手合いがいた-----らしい。

 そんな奴がどうして教師を。

 せっかく立ち直ろうとしていたのに。

 友だちもできた。

 この友だちに人の気持ちをわかってもらえれば

もう荒れる事もない。

 先生にもわかってもらえた。

 これで立ち直れる。

 と、あんなに喜んでいたあいつが

どうしてこんな事を。

 原因はわかっているが。

 友人に-----友だちだと信じていたのに。

 親ならばと。

 先生ならば-----この先生ならばと。

 その信頼を-----。

 これ以上は-----教育者として口が裂けても。

 それを思うに。

 今は三時限目の授業。

 思いあまって-----私は

このクラスの生徒に-----

彼のクラスメートに-----

教え子にむかった。

 三年生の十月ともなれば

高校受験をひかえ大変な時期でもある。

 しかし-----もっと大事な事もあるだろう。

 それを教えるのが“真の教育”だ。

 このまま大人になれば-----

どのような人間になってしまうのだろう。

 教育者として不安に。

 私は子供たちを前に口を開いた。

 「みんなの中には知っている者もあると思うが-----」

 ”くわしい事は言うわけにはいかない。

 教師として”

 「あまり騒ぎ立てないように」

 子供たちを見まわす。

 一同、何の事やら。

 クラスには欠席者が-----六人もいる。

 不登校で三年の初めから出席していない

 一人を除いて。

 ”知れわたってはいないか。

まあいい”

 「私が常々君たちに言ってきた事は

おぼえているか。

 人間として一番大事な事は何か

 わかるか。

 琴川、答えてみろ」

 名指しされた生徒は-----。

 私は-----ため息を。

 「わからないのか。

いつも言ってる事だろう。

 人間というものは

いわば集団の生き物。

 一人一人では何も。

 このクラスだってそうだろう。

 クラスメートがいるから楽しいんだ。

 世の中だってそうだ。

 しかし-----

人が集団になると

いろいろな問題が生じてくる。

 いろいろな考え方の者もいる。

 中には-----

強欲な者、

自分の事しか考えない者、

金や出世のためなら

友だちであろうが何であろうが

平気で裏切る者。

 そういう者までいる。

 先生、君たちにはそういう人間に

なって欲しくはない。

 数学や物理や英語。

 そういった勉強も必要だろうが。

 もっと重要なものもあるだろう。

 君たちの中にも、

自分は勉強ができる。

 だからクラスメートが

どうなってもかまわない。

 クラスメートが困っても知らんぷり。

 そういう者がいないとも限らない。

 あるいは自分は社長の、金持ちの子供だ。

 だからクラスメートなど。

 そういう者もいるかも-----。

 いや、このクラスには

そういう人間はいないと信じたい。

 そのために三年間

先生は君たちに言い続けてきたんだ。

 人の心を持て-----と。

 人の気持ちをわかれと。

 例えばこのクラスにも。

 いや-----」

 “これはまずいか”

 「例えば-----どこの学校にも

心に傷を負い。

 小さな頃に

親に気持ちをわかってもらえなかった。

 あろう事か-----。

 それお先生に訴えても-----

クズあつかい。

 教師にまで-----

そんなあつかいを。

 さらには友だちにまで-----

わかってもらえなかった。

 それでそれが心の傷となり

荒れている子供たち。

 そういうかわいそうな子供たちを

先生は何人も見てきた。

 ここで温かく手を差しのべて

気持ちさえわかってやれば-----

それで立ち直れるものを。

 そういうチャンスは

何度もあったはずなのに-----。

 誰も手を差しのべる者がいない。

 先生に訴えても-----。

 クラスメートでさえ。

 そうなればどうなるか。

 その子の目に

世の中は、

周りの大人たちや-----

クラスメートは

どううつっているのか。

 その気持ちを思うと。

 私の時もそうだった。

 親に訴えてもわかってもらえない。

 先生に訴えても。

 危うく道を踏みはずす-----。

 そうならなかったのはやはり

 温かい手を差しのべてくれる者があったからだ

 いつかきっとわかってくれる。

 そう信じるにたる何かがあったから

 自暴自棄にならずにすんだんだ。

 だから-----

 そういう心に傷を負った者の気持ちは

 痛いほどわかる。

 だから荒れている子を。

 心に傷を負い-----目的もなく

 ひとの気持ちをわかって欲しくて-----。

 しかしわかってもらえない。

 それで荒れるしかない。

 キレるしか。

 そうでもしなければわかってもらえない。

 そういう子の気持ちは痛いほどわかる。

 中には 

 “先生、

 あんな奴らだけエコひいきして”

 “あいつらが影で何をしているのか”

 “何を言っているか知らないから”

 などと言う者もいるかも知れない。

 そうじゃないんだ。

 先生だってそういう時期もあった。

 君たちと同じ年頃の時もあった。

 だから

わからないわけじゃあない。

 その上で言っているんだ。

 どうしてそうとしか取ってやれないんだ。

 そういう人間を

 “人で無し”というんじゃないのか。

 先生。そう教えてこなかったか。

 そんな心に傷を負った子供たちを

見捨てておけるか。

 その傷ついた心を癒すには、

人の気持ちをわかってやるしかないんだ

 クラスメートだろう。 

 何とかしてやろうとは思わないのか。

 このままでは荒れる子はどうなる。

 そのせいで犯罪に走れば

 どう責任を取るつもりだ。

 今はまだいい。

 学校でなら先生方もいる。

 先生方の必死の努力で

何とか自暴自棄になるのを

犯罪に走るのを

思い止まらせている状態なんだ。

 しかしこのまま卒業すればどうなる。

 心の傷の癒えぬまま卒業してしまえば-----。

 大人の世界はキタナイ。

 そんな人の気持ちなど

 平気で踏みにじる者ばかりだ。

 もう誰も人の気持ちなど

わかってくれるわけわない。

 今しかないんだ。

 クラスメートだろう。

 友だちがどうなってもいいのか。

 それでも人間か。

 友だちが困っても助けない。

 人の気持ちさえわかってやれば

それですむのに-----

そうしようとしない

 面倒だから、

そんな奴の将来などどうでもいい。

 そういうことを言う者もいる。

 そんな者が-----

そのまま大人になればどうなるか。

 きっと自分勝手で、

他人の事などどうでもいい。

 自分さえ良ければ。

 わかってやれるのに-----

わかってやろうともしない。

 そのせいで-----。

 そういう“キタナイ大人”になるに違いない。

 そうだろう。

 今の世の中そういう大人ばかりなんだ。

 そういう世の中を

どうにかしようと思わないのか。

 君たちがそういう世の中を

変えていくべきなんだ。

 君たち一人一人が

人の気持ちの分かる人間になる。

 そうすれば世の中変わる。

 君たち一人一人が変わっていくべきなんだ。

 そうなれば必ずや世の中も変わる。

 人の気持ちをわかる。

 人の心を持ったキレイな世の中になる。

 そうだろう。

 そのために“教育”はあるんだ。

 教育とはそういうものでなくてはならない。

 そういう信念を持って-----。

 そういう信念の上に立って

先生はあえて言ってるんだ。

 試しに先生の指導に従ってやってみろ。

 そうすれば必ずわかる。

 わかってくれると先生信じている。

 世の中のすばらしさがきっとわかる。

 常々言っているだろう。

 そういうキタナイ大人にだけはなるなと。

 君たち一人一人が変わらなければ

世の中どうなる。

 人の気持ちをわかってやれ。

 荒れる子はさみしいんだ。

 人の気持ちをわかって欲しいだけなんだ。

 先生の時もそうだった。

 それさえわかってやれば

先生の教師としての長い経験から。

 そういう心に傷を持ち荒れている子たちと-----

何人も

いや何十人も接してきた経験から

よくよくそういう子供たちと話をしてみると-----

そいつら“いい奴”ばかりなんだ。

 教育にたいする深い理解も経験も知識も情熱も

何もない者に何がわかる。

 そんな者たちのせいで

教育はゆがめられてきたんだ。

 話をして-----その気持ちをわかってやれば

あの荒れていた子供たちが

泣いて喜ぶんだ。

 “先生に会えてよかった。

 これで荒れずにすむ。

 立ち直れる。

 人生台無しになるところだった。

 これで人を信じる事ができる。

 人を信じてよかった。

 先生に気持ちをわかってもらえてよかった。

 と、涙ながらに-----。

 先生が世の中のキタナイ大人どもを

 指導してくれれば-----。

 そんな世の中になればどんなにいいか。

 きっと立ち直れると-----。

 先生がそいつらを教育してくれればと。

 それを-----。

 あれほど喜んで-----

これで立ち直れるといっていた

あいつがこいつが。

 また-----とんでもない事を。

 その時のあいつらの気持ちを思うと。

 先生

くやしくてくやしくて。

 クラスメートの中に友だちができた。

 人の気持ちもわかってもらえる。

 そいつさえ友だちになってくれさえすれば

これで立ち直れる-----

と喜んでいたのに」

 当庭は込み上げてくる何かを抑えきれず。

 一瞬、遠くを見つめた。

 「君たちに先生お願いしたい。

 このとうりだ。

 クラスメートだろう。

 そういう子供たちと仲良くしてやって欲しい。

 気持ちをわかってやって欲しい。

 助けてやって欲しい。

 その子たちの気持ちをわからない者がいれば

その子たちのために説得してやって欲しい。

 先生、そういう子供たちを

立ち直らせてやりたいんだ。

 それが教師の使命だと信じて

先生になったんだ。

 そうすれば必ずわかってくれる。

 先生の気持ちを。

 そう信じてる。

 世の中もきっとわかってくれる。

 先生の気持ちを。

 先生

 そう信じている」

 そこで一呼吸-----私は。

 「みんなそうだ。

 人というものはたがいに支えあい助け合い

生きていくものだ。

 特に心にきずを負った子には

それが必要なんだ。

 それを教えるのが

“教育”なんだ。

 どうすれば支えあえるか。

 その方法を教えるのも-----

“教育”なんだ。

 こうすればわかってもらえると、

それを教えるのが“教育”なんだ。

 一人や二人じゃだめなんだ。

 もっと多くの者が支え合わなければ。

 そうなればどんなに-----。

 そうだろう。

 人間同士が互いの気持ちを

わかり合える世の中。

 おたがいの立場に立って

それぞれの立場で支え合う。

 そんな世の中にならなければいけないんだ。

 荒れる子だってそうだ。

 先生もそうだ。

 君たちも。

 みんなそうなんだ。

 自分は支えてもらわなくても大丈夫だ。

 そういう者もいるかも知れない。

 特に金持ちや社長、

力のある者、

できる者の中にそういう者は多い。

 自分は何でもできる。

 だから支えあわなくても、

助け合わなくてもかまわない。

 だから人が困ろうが-----

どうなろうが

知らない。

 荒れる子が-----

心に傷を持つ子が

どうなろうがかまわない。

 自分さえ良ければいい。

 自分は大丈夫だから

そういう者もいる。

 特に金持ちや社長、

力のある者-----

その子供たちには、多い。

 だが-----それじゃあ。

 それで

“人”と言えるのか。

 お互いを支えあい

信頼で結ばれる。

 何度も言うが

これこそ“人間”だ。

 すばらしいじゃないか。

 そういう心をはぐくみ育てるのが

 “教育”なんだ。

 本当の”教育“なんだ。

 そうは思わないのか

 お前たちは。

そうじゃないのか。

 数学だ物理だ英語だと

勉強の事ばかり言う者も多いが-----

世の中それで良くなったか。

 みんな各々が自分さえ良ければいい。

 他人などどうなってもいい。

 そういう自分勝手な者ばかりが増え

その結果

荒れる子が増え。

 校内暴力。

 自殺。

 イジメ。

 そんな事ばかり追い求めている

“教育”に。

 “教育”とやらに

 。何の未来がある。

 先生。

 何の未来も感じない。

 何の将来も見いだせない。

 そうだろう。

 そんなもの“教育”といえるのか。

 そうだろう。

 人というものは支え合っていくものだろう。

 たがいに気持ちをわかりあう。

 信頼の心でお互いを

しっかりとむすびつける。

 それを教えるのが“教育”じゃあないのか。

 それこそ“教育”

というものじゃないのか。

 苦しい事もあるだろう

 悲しい事も

 あるいは考えたくはないが-----

 またぞろ自分勝手な考えが出てくるかも。

 自分さえ良ければ

他人などという。

 しかしそれを乗りこえ

支え合う“心”をもつ。

 どうすればそうなれるのか

その方法を教えるのも

“教育”なんだ。

 そうだろう。

 物理や数学や英語がなんだ。

 本当の教育とはそんなものばかりじゃない。

 もっと重要なものがあるはずだ」

 私はそこで一息ついた。

 生徒たちの表情をじっと見つめる。

 “この子たちの中に一人でも

先生の気持ちをわかってくれる者がいれば-----

私も世の中も救われる。

 その一心で”。

 「だから先生、いつも言うんだ。

 人の気持ちをわかってやれ。

 荒れる子の気持ちを少しでもいい。

 わかってやれ。

 そうすれば立ち直って。

 先生の気持ちをわかって」

 生徒たちは。

 やはり-----ダメか-----

 このままでは-----。

 その時

 教室の扉がガラガラと音を立てて開いた。

 そこには校長の野里が

 青白い表情で。

 「先生、大変なことに」

 耳元でボソボソと。

 生徒たちを振り返り。

 「みんな、すこし用事ができました。

 大人しく自習しているように」

 耳元でささやかれた私は

血の気が引いていくのを感じた。

 “大変な事に”

 「校長先生のおっしゃられたように

 自習しているように」

 ロレツが回らない。

 あわてて教室をあとにした。



 











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