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光対中学校。
そう看板のかかった校門の前
双風レムは一人-----。
警察官になって五年余り。
大学を出
警視庁へ。
刑事になれたのは幸運だったのか
そして去年、本庁へ。
今度の事件。
何か違和感が。
まあよくある事だが
たいていは思い過ごし-----だ。
当初は中学生同士の-----で
決まりかとも思われたが。
今もみんなは-----
他の刑事はそう思っている。
たいていの事件は-----
それで決まり。
しかし中には。
被害者の親は資産家だ。
その交友関係
を洗っている者もいる。
しかし、その場合
普通、
親本人を-----となるのでは。
まあ、その子供をというケースも
あるかも知れない。
二年前に自殺した生徒の親では
という刑事もいる
当初
中学生同士の-----で決まりかな。
そう言っていた虹口も、
先輩の刑事だ、
今ではそちらの方に
力を入れはじめている。
まあ、全て当たって
一つ一つ潰していくのが捜査だそうだ。
双風は
もう一度教師たちの話を聞こうと。
“あれ?
皆山君。
今は皆山先生か”
驚かせてやろうかと
後ろからそっと近づいた。
誰かと電話を
携帯で。
「はい。
あの三人、釈放されました。
いえ-----
まだ警察は疑っているようです」
“誰と話しているんだろう”
双風は立ち止まり
聞き耳を立てた。
「あの三人は
何も知らなかったようですし
どうしましょう。
はい。
ではそのように」
皆山と-----
眼が合った。
振り向いたのだ。
皆山は驚いたように-----
双風を。
「その件でしたら
そのように。
はい、はい。
ではのちほどあらためて
連絡を差し上げますので」
皆山は携帯を切った。
「双風さん。
どうしてここへ」
「どうしてって-----
もちろん捜査よ。
それよりも-----
今、誰と話してたの」
「いや-----
引っ越したばかりでね。
それで。
その関係でいろいろとね」
「そう。
そうは思えなかったけどね。
あの三人がどうとか」
皆山は。
「いや-----
引越しの業者さんがね。
この中学の教師だとわかった途端
いろいろ聞いて来るものだから
困っていたんだよ」
「ほんとに」レムも。
「それより
もう一人の刑事さんはどうしたの」
「それが
おいてけぼりをくっちゃって」
「こっちもだよ。
当庭先生が
例の二年前に自殺した
生徒の親に会いに行くと言うものだから
一緒に行こうとしたんだが-----」
「じゃあ、追いかけたら」
「それが-----場所が。
住所は引き返して
調べてきたんだがね」
「連れて行ってあげようか
自動車で」
「エッ
どうして。
それはありがたいけど
まさかパトカーで」
「そうじゃないわよ。
覆面よ」双風。
「いいの。
そんな事して」
「さあ。
だいじょうぶじゃないの。
いざとなれば
皆山君。
挙動不審か何かで
つかまった事にしてあげるから」
頭をかかえた。
「護送されるのか」
レムはニコリと。
二人は近くの駐車場に停めてあった自動車へ。
「自宅の住所はわかる」皆山。
「自宅?
今は自宅にはいないわよ。
きっと会社よ」
「会社?
そうだね。
サラリーマンか」
「社長よ。
尽川建設」
「尽川建設?」
聞いた事は-----ない。
「そう」
初耳だったようだ。
いくら記憶をさぐっても。
自動車は出発した。
「それで-----皆山君。
今までどういう仕事してたの。
確か
昨日教師になったばかりだって
言ってたけど」
自動車のハンドルを握りながら
レムが。
「エッ!
サラリーマンだよ。
タダのね。
営業関係。
小さな会社でね。
名前を言ってもわからないだろう。
それが-----
どうしても教師になりたくてね。
そこで働きながら
毎年毎年
都の教員採用試験をね。
他県のも何度か受けたんだが
なかなかね」
「今は教師になるのも
大変じゃないの。
競争が激しくて」
「そうなんだよ。
それでやっとね。
それもあの中学に欠員ができてね。
それでやっとね」
「フーン。
大変だったんだ」レム。
「双風さん。
君の方は」
「私。
私は-----何とかうまい具合に
大学卒業と同時にね。
ノンキャリだけどね」
「それで刑事に」私は。
「違うわよ。
警官からよ。
それからいろいろあってね。
去年やっと
本庁の刑事になれたわけ」
「なるほど。
大変だったんだ」
「そうよ」
「それで-----事件の件だけど」私は。
「ダメよ。
守秘義務があるし。
それよりあなたの方はどうなの。
何か知っている事があれば
教えてくれない。
例えば
教師同士のウワサだとか
生徒の話とか。
みんな口が重くて-----」レム。
「それは-----
言えないだろう。
こちらにも-----」
私は口が重くなるのを。
「守秘義務ね。
でも-----
あの先生たちにも-----」
「あの三人の子供たちの事かい」
「そう。
あの後、大変だったのよ。
“あの三人。
逮捕状を取って
しょっ引いてやる”
なんていう人もいるわ-----」
「ウワー。
それで」
「それがね。
さすがにそこまではね。
上の方は
はっきりとは言わないんだけども。
どうもどこかから
圧力がかかってるんじゃないかってね」
「どこから」
「だから-----。
少年法もある事だし
教育委員会か。
文科省か。
それとも-----。
そのあたりでしょうよ
よくはわからないけどね。
課長も相当
頭にきてたわよ。
それで
何としても証拠を挙げろ。
それでおしまい」
「それで。
警察は誰が犯人だと。
まだあの三人が犯人だなんて。
あいつら犯人じゃないし」私は。
「それは
あの三人が第一容疑者だし、
教師として
あの子たちを信じてやりたい-----
なんて言うつもり
で・し・ょ・う・ね・。
それとも何か証拠でもあるの。
あの三人が犯人じゃないという」
レムは私の表情をジッと。
上辺だけで
そう言う教師も多いが-----
皆山君の場合は-----
どうだろう。
「そんなものないよ。
一応、教師だしね」
「なるほど。
それとね。
第一の被害者の
峰月の親の線ね。
あれはダメよ。
金に困ってむしんしていた
親類の男ね。
二日とも
何か暴力事件を起こして
警察署の留置場の中にいたのが
わかったの」
「そうなの。
でも我々が峰月の親の線から
容疑者を。
真犯人を追っているって
誰から」私は。
「虹口さんからよ。
あの人。
お宅の当庭先生とね。
仲がいいから」
「そういう事か。
虹口刑事からか。
でも峰月の親は金持ちだし
他にもいたんじゃないの。
ウラミを持っている者が」
「それは-----」
その件は別の刑事が当たっている。
「それで双風さんは
二年前の-----
尽川があやしいと」
「それは-----
わからないわ。
でも一応
全員当たらないとね。
気持ち的に
納得できないのよ。
それでね」
自動車は-----ビルに。
十階くらいはあるか。
何階建てなんだろう。
そうは思っても
私はビルを見るたびに
その階数を数える趣味は-----だ。
玄関を入り
受付へ。
双風が用件を。
私も名乗った。
すぐに返事が来たようだ。
案内役の社長秘書が降りてきた。
中へ通される。
エレベーターへ。
表示を見る。
このビル
十五階建てだ。
十五の上はRとなっている。
エレベータが来た。
乗り込む。
目的の階のボタンを押す。
扉が閉じる。
開く。
その度に人の出入りが。
そして扉が開く。
「こちらへどうぞ」社長秘書が。
社長室と書かれた扉が。
ドアが。
「どうぞ」
そこは秘書室のようだ。
「今、来客中ですが-----」
私の顔を。
「光対中学の
当庭先生とおっしゃられる方が」
秘書が私の表情を探るように。
「イエ。
私は当庭先生を
追いかけて来たものですから
通していただいても
大丈夫だと思いますが」
「そちらの刑事さんは」
双風は首をかしげた。
わからないというように。
「少々お待ちを」
秘書がインターフォンを。
「社長。
当庭先生の同僚の方で
皆山様という方がお見えに。
それと警察の方も。
女性の刑事の方で
双風様とおっしゃられる方ですが、
お通ししてもよろしいでしょうか」
むこうが何か言っているようだ。
「はい」秘書が。
「どうぞ。
お入り下さい」
社長室へと通してくれた。
中には四十前後の男が。
そして
当庭もいた。
来客用の豪華な革張りのイスに
腰を掛けている。
当庭先生。
置いてけ堀はヒドイですよ」
私はそう言った。
「イヤー。
スマンスマン。
だが君は-----
一人でここへ。
虹口は一緒じゃないの」
当庭は双風に対して。
「私も置いてけ堀をくった口です。
虹口さんは
ヒョットしてここかとも思ったのですが」レム。
「なるほど。
私も今しがた
来たところでね。
少し待たされたし」
社長は。
尽川はニヤリと。
「当庭-----先生の同僚の方。
それと女性の刑事さん。
どうぞ、お座り下さい」尽川。
あまり歓迎されているという
雰囲気ではない。
私は室内をキョロキョロと。
双風も。
“立派な社長室だ”
「私。
光対中学の教師で
皆山と申します」
私は握手を求めた。
しかし相手はそれを無視し。
「先生のような方
おられましたかね。
あの中学に。
息子の件で
何度もおじゃましたのですが」
「いえ。
私は昨日
あの中学へ赴任したばかりですので」
「昨日。
そうですか。
なるほど」
少し表情がやわらいだようだ。
しかしすぐに元へ。
教師などどうせ
どいつもこいつも。
眼がそう言っているように-----。
「私。
本庁捜査一課の刑事で
双風と申します。
今日はおたずねしたい事がありまして」レムも。
「また例の殺人事件ですか。
あの件は
この前来られた刑事さんたちに
話しましたが」
社長も迷惑そうに。
「それは-----そうでしたか。
ですが-----そうおっしゃらずに。
事件当日のアリバイの件ですが」
「それは-----。
この前も言ったとおり
社用で会議があり
二日とも静岡のホテルにいました。
確認はもう済ませたのでしょ」
「はい-----。
一応は」
裏はすでに取れている。
「その日の行動は。
それをお聞きしたいのですが」
「えーと。
メモメモ-----と」
尽川は席をはなれ
机に。
これも豪華な造りの。
社長の机といえば
高そうな葉巻か何かが
置かれてあるのかと思えば
クリスタル製のライターもない。
この尽川
タバコは吸わないらしい。
書類用のケースが。
その他にも。
「これだこれだ。
いらないところは
飛ばしていいですね。
当日は午後五時にホテルへ。
それから風呂へ入り
七時から宴会。
九時にそれがお開きになって。
それからはむこうの支社の幹部と
マージャンを。
二時くらいまで。
翌日はゴルフ-----でしたので
早めに切り上げて。
次の日のゴルフの後
ホテルに帰ったのは
やはり五時くらいですか。
その後はまた宴会で。
今度は十時くらいから
朝までマージャンを
心置きなくです。
そして翌日の昼頃
東京の本社へ-----。
ですか」
「それを証明する人は」
私は-----。
まあ、いくらでもいそうだな。
「ですからむこうの-----。
静岡の支社の連中に
聞いてもらえれば」尽川。
私はレムの方を。
その裏も取れているようだ。
「その間
席を立たれた事は」
「小用に行くくらいで
とても静岡から東京までの
往復はできませんよ」
尽川はどうだという表情。
「しかしヘリをお持ちだとか」双風。
「はい。
ですがあのヘリは
ずっと東京に駐機させてありました。
ウチの秘書に聞いていただければ」
「そうですか」
裏ももちろん。
「失礼ですが。
殺害された
二人の子供たちには
どのような感情をお持ちでしたか」私は
「それを私に聞くのかね。
今言うと
誤解をまねくかも知れないが-----
はっきり言って-----ね」尽川。
「殺してやりたいくらい-----
ですか」私は。
「もちろん-----
そんな事はしないがね。
しかし殺されたと聞いた時には。
いや。よそう」
「尽川。
まだそんな事を」当庭が。
社長は-----露骨に。
「あの子たちは心を病んでいたんだ。
それであんな事を。
幼少期に
親に。
友だちに。
周囲の大人たちに
かまってもらえなかった。
人の気持ちをわかってもらえなかった。
それで荒れだすんだ。
それが心の傷になって。
その子供たちを立ち直らせるには
大人たちが
教師が
クラスメートが
人の気持ちをわかってやるしかないだろう。
どうしてそう取ってやらない。
それでは教育にならないだろう。
それを
クズあつかい。
盗人あつかいする。
どうしてオマエたちは
そうとしか取れないんだ。
これではあの子たち救われない。
教育者として
見過ごすわけにはいかないだろう。
あの子たちがどうなってもいいのか。
“私さえガマンして
あの子たちの気持ちをわかってやれば。
あの子たちは立ち直って。
そういう優しい気持ちはないのか。
それでも人間か。
そんなだからオマエは
中学時代にも
みんなに相手にされなかったんだ。
それを-----。
まだそんな事を。
尽川。
お前の子供と
お前の間に
何があったかは知らないが。
それもきっと。
人の気持ちをわかって欲しくて
何か訴えていたんだろう。
それを受け止めてやれなかった
この私にも
確かに責任はある。
もっと良く指導しておきさえすれば
こんな事には。
今考えても悔やまれる。
あの時に
尽川。
それにオマエは
何かカン違いをしているぞ。
オマエの息子が自殺したのは
あの子たちが原因ではない。
あいつらのせいではない。
それは教師としてはっきりと言える。
成績不振かも知れない。
こういう事を言うのはコクだが。
オマエ自身
子供の気持ちをわかってやれなかった-----
という事もあるんじゃないのか。
オマエは子供の頃からそうだった。
よく胸に-----手を当てて。
反省すべきはオマエ自身じゃないのか。
どうしてそれがわからない。
教師の指導に従っておけば
こんな事には。
そう思う事はないのか。
いや、よそう。
今日はこんな事で
言い争いに来たんじゃないしな」
当庭は-----。
何とかわかって欲しい
その一念で。
今さらそれを言っても。
ここまでになれば-----
わかってくれないか。
子供たちの事を。
自らの事を。
これ以上罪を-----。
ダメか-----。
その話を聞く内に
尽川の手が小刻みに震えだした。
「あいつら
ウチの息子に何を言っていたのか
知っているのか。
ウチの息子をパシリあつかい。
『親から金でも何でも取って来い。
できなきゃ
万引きでも何でもして
用意しろ。
イジメられたくなければ
そうするしかないんだ。
訴えてもムダだぞ。
そんな事をすれば
どういう目に合わされるか
わかっているな。
約束しろ。
明日までに金を持って来い。
ドツキ回されたいのか。
もし約束を破れば
どうなるかわかっているな。
もし約束を破れば
“学校”では
イジメ殺してもかまわないんだ。
人の信頼を裏切ったんだからな。
そんな奴生きていても仕方ない。
そのせいで
荒れる子が犯罪にでも走れば
どう責任を取る。
警察もそうなれば
手が出せないんだ。
人の信頼を裏切った
お前が悪いんだからな。
先生にそう教育されなかったか』
-----。
そういうつもりでいるんだぞ。
あいつら。
それをどう考えれば
そう取れるんだ。
ウチの息子を-----。
それが教育だと思っている。
まるで奴隷あつかいだ。
-----まさか-----
そんなつもりで教師に」
「それは-----。
まだそんな事を。
オマエという奴は
まだわからないのか。
そんな事はしていないと
あいつらは言っていた。
私は教師としてそれを
その言葉を信じたい。
私が信じてやらなければ。
あの年頃の子供の心理というモノは-----
人格形成をされる時期でもあり
複雑なんだ。
お前たちが
世間一般が思っている以上にな。
ここで教育をあやまれば
どうなるか。
数々の事例が
それを証明している。
犯罪に走る子もいる。
自殺する子も。
自暴自棄になる子も。
そうならなくても-----。
今は-----だ-----。
大人になって
大変な事になる子も。
そんな事
知らないだろう。
その時の
その子たちの親御さんのなげきが
わかるか。
オマエも人の親だろう。
それをどうして
そう取るんだ。
オマエの息子の死んだ時の
悲しみを思い出せ。
その親御さんも同じなんだ。
親にしろ。
子供が荒れて-----。
その気持ち。
オマエならわかるだろう。
犯罪に走る子。
自暴自棄になって
何をするかわからない子。
自殺する子もいる。
そういう子を持つ親の苦しみが
わかるか。
今のオマエになら
わかるだろう。
息子が死んで
オマエもどれ程-----。
その気持ちは
私もよくわかるつもりだ。
そういうオマエだから
あえて頼んでいるんだ。
それをどうしてわかってやれない。
どうしてそう取るんだ。
そこまでひねくれているのか。
オマエは。
あいつら
人の気持ちをわかって欲しくて。
それは。
そのために行き過ぎた事もあるだろう。
奴隷あつかいと思われる事も。
彼らはそんなつもりで
やっているのでは
決してない。
教師として
それは断言できる。
それはあくまで
そうでもしないと
わかってくれないから-----。
あいつらみんなそう言っている。
そうでもしないと
人の気持ちをわかってくれない
-----と。
そうじゃないのか。
それをそんな風に
どうしてわかってやれないんだ。
あの子たちの事を。
あの子たちは-----
補導された三人にしろだ。
どんなつもりで
冷たい留置場で何日も過ごした事か。
それが心の傷となり
さらなる犯罪に。
それがわからないのか。
オマエは。
それを何とか。
警察に何度も出向き。
親御さんたちがだ。
それで何とか
釈放されたんだ。
その子たちの
今の気持ちを思うと」
「あの連中
釈放されたのか」
「そうだ」当庭は。
尽川は-----。
「あの連中が
仲間割れか何かで」
「そうじゃない。
私は
真犯人は他にいると思っている」
「それで」
「それで。
マサカ-----
とは思うが
オマエが」
「マサカって」
尽川の顔がこわばった。
「マサカ。
この私があの二人を」
「-----」
「いいかげんにしてくれ。
そんなつもりなら
帰ってくれ。
二度と来るな」尽川は-----。
三人とも追い返されてしまった。
女性刑事の双風も。
双風は帰る際
机の上をチラリと。
何か?
おかしい。
最初見たときと様子が。
尽川を-----。
しかし
まあ、気のせいか。
会社をあとにした。
尽川はそれを見送るや-----
何かを思う-----
かのように。
“あの野郎”
「やっぱりだ」
電話を取り上げた。
「私だ。
尽川だ。
また折り入って
頼みがある。
報酬はいつもの通り。
-----。
あの三人は今警察に。
-----。
いや釈放されたらしい。
-----。
よろしく頼む」




