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ある中学校教師の殺人事件簿  作者: 維己起邦
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 光対こうつい警察署。

 光対中学のある地区の

所轄の警察署だ。

 捜査本部もここに置かれたらしい。

 本庁から百人近い捜査員が

派遣されて来ているらしい。

 受付に。

 校長も当庭も-----

勝手知ったる。

 親たちもすでに何度か来ている。

 私はそのあとをスゴスゴとついて行った。

 小さな会議室へと通される。

 私は-----

生徒たちが警察のごやっかいになった際

教師として

どのように対応すればいいのか-----と

興味津々-----。

 失礼。

 教師としては-----。

 真剣な面持ちで見入っている。

 何せ、校長も当庭先生も。

 ウチの中学は

この手の問題も多い。

 言わばベテランだ。

 いつもこの所轄の刑事とは。

 それで-----。

 しかし今度は

本庁が相手。

 勝手が-----だ。

 二時間も待たされただろうか。

 相手が現れた。

 肩書きは

警部

警部補、

その他にも

四十歳あたりか。

 若い刑事もいる。

 親の一人がその姿を見るなり。

 「刑事さん。

 ウチの子をいったいいつまで

こんな所に」

 相手の刑事は。

“またか”

という表情。

 「親御さんも

ここは私たちにまかせて」

 校長がとめた。

 刑事は席へ。

 「今日はどういう御用ですか」

 刑事-----警部だ。

 「もちろん。ウチの生徒たちの件です。

 いったいいつまで

警察はあの子たちを

留置しておくつもりですか」

 校長が物静かに。

 「何度も言うように重大事件。

 殺人事件の容疑者ですから

“はい、そうですか”と出すわけには」

 「君。警部だろう。

 日堀にちぼり君。

 そこを何とか。

 それに-----

まだ容疑者と決まったわけではないし」校長

 「ですが野里先生。

 そう言われましても。

 ああ、今は校長先生でしたね」日堀警部。

 校長は優しそうにニコリと。

 「日堀さん。

 私は

あの子たちが犯人だとは

とても思えません。

 きっと犯人は他に。

 もっとそのあたりを良く調べてくだされば」

 「しかし-----当庭先生。

 他に真犯人が

と言われましても。

 それにあの子たちは事件当日

被害者の少年になぐるけるの暴行を。

 何度も言いますがこれでは-----

どうしようも」

 「私どもとしては

あの子たちがとても殺人などという

犯罪をするとは思えませんし。

 暴行といいましても

まあ、大変な事には違いありませんが

何かの感情の行き違いで。

 それで」当庭。

 「そうです。

 そんな風に取る人がいるから

子供は救われないんでしょう。

 良くある子供のケンカか何かでしょう」親の一人が。

 「そうですわ。

 それを-----。

 殺人犯呼ばわりするなんて

間違いだったらどう責任を」

 「まあ-----親御さん」当庭が。 

 「しかし警察は

単なる子供同士のいさかいを、

ケンカを

暴行だなんて。

 そういうつもりであの子たちを」校長。

 「全くどういう教育を受けて来たんだ。

 子供たちが荒れても

そういう風に取ってはいけないと

教わらなかったんですか。

 そんな者がいるから

子供たちは荒れるんですよ。

 それが教育界の常識です。

 これではあの子たち

救われない。

 それに日堀さん。

 あなたも人の親なら

この親御さん方の気持ちも 

わかるでしょう」

 当庭はタメ息まじりにつぶやいた。

 「それは先生が

事実関係を知らないから」刑事の一人が。

 「人が殺されていますしね」

 「あの子たちは今どうしています」校長。

 「それは。

 素直に取調べを受けていますが」警部。

 当庭はどう言ったものか。

 「何か確かな証拠でもあるのですか。

 あの子たちがやったという。

 私にはとても信じられません。

 あの子たちが人を

それも二人も殺すなんて事は」

 「それは言えません」

 「守秘義務-----ですか」当庭。

 「マサカ見込み捜査で-----

ウチの子を」

 「冤罪だったらどうしてくれる」

 「あの年頃の子供たちは

非常に繊細で壊れやすいんですよ。

 ホンのちょっとした事でも

それが

“心の傷”

となり

それが原因で荒れ出す。

 将来の人格形成にまで

大きな影響をおよぼす。

 我々大人の責任は重大です。

 それがこうじてくると

犯罪にまで手を出すようになる。

 そうなれば誰が責任をとれるんですか。

 それを-----。

 あの子たちは確かに

問題行動を起こしてきたかも知れない。

 警察にも何度もごやっかいに。

 その事実と暴行事件をもって

あなた方は

ひょっとしてあの子たちが犯人だなどと」当庭。

 「それは-----」警部も。

 その脳裏には

熱血教師モノの映画のワンシーンが。

 “そういう事もあるのかな”

 “ここで釈放しなければ

ひょとして大変な事に”

 プレッシャーが。

 マスコミに吊るし上げられて

大変な事になった者。

 「そんな事で

確かな証拠もなしに

逮捕だなんて」当庭。

 「逮捕ではなく任意で

あくまでも任意ですので」

 「でしたら早く帰して下さい。

 相手は何と言っても

まだ子供ですよ。

 それを確かな証拠もなく

何日もこんなところへ。

 そんな事許されると思っているのですか。

 いくら警察でもそんなこと。

 こんなところへ何日も泊められて

刑事さんに小突きまわされれば

あの年頃の

傷つきやすい子供たちは

どうなってしまうのか。

 あなたたちは

教育というモノをわかってはいない。

 あの子たちは

“人の気持ち”を

わかって欲しいだけなんだ。

 それで。

 そのせいで問題行動を起こすこともあるでしょう。

 そのせいで警察のごやっかいになる事も。

 しかしそれはあくまで-----

そうでもしなければ

人の気持ちをわかってもらえず。

 やむなく-----。

 子供の頃

親のかまってもらえなかった。

 友だちに冷たくされた。

 信用していた者の裏切られた。

 オモチャを買ってもらえなかった

 -----オモチャが欲しいんじゃ。

ないんですよ-----。

 かまって欲しかっただけなのに。

 どうしてそう取るのか。

 それをクズあつかいされる。

 そんな事が重なり

積りに積もり-----

ついには荒れ出すんですよ。

 そういう症例が

数多く報告されているんですよ。

 荒れる子たちの話を

よくよく聞くと

みんな口をそろえてそう言うんです。

 なかなか心を開かないあの子たちも

こちらが親身になって話をすれば

涙ながらにそう言うんですよ。

 その子たちを何とかしようと

この私も

校長先生はじめ、他の先生方も

ここにいる親御さんたちも

それはもう必死で。

 何とかあの子たちを立ち直らせようと

努力して来たんですよ。

 それをもう少しで立ち直れるところで

今回のような事件に巻き込まれ。

 もちろん

ウチの生徒が二人も殺害されています。

 その真犯人は挙げてもらわなければ。

 しかし

どうしてあいつらが犯人なんですか。

 私は教師として

あいつらが犯人ではないと信じています。

 もう少しで立ち直れるところだった

あいつらが

どうしてそんな怖ろしい事をするんですか。

 そうでしょう。

 これで立ち直れるとあれほど喜んでいた

あいつらがどうして。

 これで人の気持ちをわかってもらえると

泣いて喜んでいた

あいつらがどうして。

 日堀さん

それをわかりますか。

 刑事さんたちだって

あの時

気持ちをわかってくれてさえいれば。

 そういう気持ちになった事はあるでしょう。

 そうでなければ

そんな者

人間じゃない。

 そういう時に

手を差しのべてくれる

誰かがいなければ

ヒョットして大変な事に。

 それは先生だったかも知れない。

 親だったかも。

 友だちだったかも。

 大人だったかも。

 警察官かも-----。

 そのおかげで

今の自分があるんだ。

 あの時-----もし

手を差しのべてくれる者がいなければ

どうなっていたか。

 そういう経験をお持ちじゃないですか。

 今があの子たちにとって

その時なんです。

 もう少しで立ち直れるという

この時期に

たまたまこのような事件に

巻き込まれてしまって。

 せっかく

先生たちや親御さんたちの努力によって

ここまで来れたのに。

 こんな事で。

 そうでしょう。

 何年か前にもありました。

 そうでしょう。

 校長」当庭。

 「そうです」校長も。

 警部たちは嫌な表情を。

 “アレか”

 “それを言うか”

 “言って来るだろうな”

 「何年か前にも

 自分はやっていないと言っているのに。

 あれほど訴えているのに。

 あの子を犯人あつかい」

 「あの時は」刑事たちも。

 「万引きした少年を-----。

 確か

数人で脅して-----

無理やり万引きさせたとかで

何人か逮捕されたとか」警部。

 所轄のやった事だし-----

まあ記憶にはある。

 万引きといっても

がくも大きく、

常習性も。

 「その時の子供たちは

何と言っていたか。

 あなた方は知らないかもしれないが。

 みんな知らないと-----涙ながらに。

 そのせいで自殺未遂をする生徒まで」

 「あの時は-----」警部。

 散々たたかれた。

 「後で万引きをした子が

 “あれは自分が勝手にやった。

 いい格好がしたくて。

 友だちに構って欲しくて。

 万引きをした金で”

 -----」当庭。

 刑事たちは-----ニガイ表情。

 「万引きをした子を

責めるつもりは全くありません。

 あの子だって

私の大事な教え子です。

 友だちに構って欲しくても

どうしようもない。

 さみしくて

悲しくて。

 あの頃の子供たちは

非常にむつかしいですし。

 それをあんな風に

虚言へきがあるとか、何とか。

 それはあくまで-----

人の気持ちをわかって欲しくて

他にどうしようもなくて。

 それをどうして-----

あなたたちはそのように取るのですか。

 親が親の権威をひけらかし。

 世の中もそうだ。

 力のある者が

その権威を振りかざし-----

人の気持ちを踏みにじろうとする。

 そういう者こそ

人の気持ちを分かるべきなのに。

 それを子供たちは許せないんです。

 しかし-----

他にどうやって。

 それが心の傷となり

荒れ出すんです。

 あなた方も

そういう経験をお持ちではないですか。

 どうしてわかってやれないのですか。

 世の中-----どこまで

子供たちの心を踏みにじれば

気が済むのですか。

 やればできるのに。

 ゴマかそうとする。

 そんなゴマかし

いつまで通用するとお思いですか。

 今に大変な事に。

 人の気持ちさえわかってやれば

済むのに。

 子供たちは

そんな大人のゴマ化し

キタナさを

とうに見抜いているのですよ。

 それを-----

いつまで。

 そうでしょう。

 それで-----

そのような事が積もり積もり

心の傷に-----。

 そうならない子供がいると思いますか。

 そうでしょう。

 他の子たちも-----

皆-----子供の頃に

心に

人には言えないような傷を」

 「先生。

 あなたはそう言いますが、

あいつら

あの後、仲間内で何と言っていたか

ご存知なんですか。

 万引きした少年の事を

チクリやがって。

 出て来たら承知しないぞ

とか-----。

 捕まったのは

 その子がヘマをしたからだ。

 もっとうまくやってりゃいいものを

そのオモチャを-----金を-----

アテにしていたこちらはどうなる。

 全く。

 それが心の傷になって

荒れ出すんだろう。

 学校でそう教わらなかったか。

 あの野郎。

 どう責任を取るつもりだ。

 人の信頼を裏切りやがって。

 うまくやると期待してやっていたのに。

 この落し前をどうつけるつもりだ。

 ドツキまわされたくなければ

また親から金でも取って来させてやる。

 パシリのクセに。

 その上

吐きやがって。

 自分が全部かぶればいいものを

俺たちの名を出してどうするんだ。

 とか。

 自分が勝手にやった事にするまで

教育してやる。

 とか。

 周囲に散々-----

言いふらしてましたし」刑事の一人が。

 「それは-----」当庭も。

 「それはあくまで-----。

どういうつもりで言ったのかは

本人に聞かなければわかりませんが。

 警察に呼び出されて

それで動揺してそのような事を。

 あの年頃の子供が

こんな所へ連れて来られれば

よくある事ですし。

 それにその子たちが

脅してやらせたなどという風に

言っているのですか」校長。

 「イエ-----そこまでは。

 聞き様によっては

そう聞こえますがね」

 刑事もしぶしぶ。

 「そのような取り方をする者がいるから

教育にならないんですよ。

 心に傷を持った子供が

人の気持ちを

わかって欲しくてやっているんですよ。

 その気持ちさえわかってやれば

問題行動など起こさなくなります。

 それはこの道十数年の

この私が断言できます。

 あの時は

私たちも大変でした。

 どうして自殺未遂などをしたのか。

 万引き事件も

マスコミに漏れてしまいましたし」

 当庭はしみじみと。

 「ですが-----」警部も。

 別のところからも

上層部に圧力がかかっている。

 「何とかあの子たちに

立ち直りのチャンスを。

 今が一番大事な時なんです。

 何とかあいつらを救ってやりたい。

 あいつらがそんな大それた事

できるわけもありませんし。

 本人たちも

やっていないと言っているのでしょう。

 もしそれが本当なら

ここで誰かが手を差しのべてやらなければ

どうなってしまうか。

 あいつらを

ここで見捨てるのは簡単です。

 しかしここで

我々教師があいつらを見捨てては。

 あの時

見捨てずに教育指導しておけば

何とかなったものを。

 まだ何とかなったものを。

 それが一生心に残り

一生後悔する事にも。

 子供たちだってきっとそうだ。

 心の傷になって-----

それが原因で墜ちていく

あいつらの姿を思うと-----。

 まだ立ち直りのチャンスはあります。

 それがある限り-----

私はあきらめません」

 当庭。

 その表情には-----。

 「先生のお気持ちはわかりますが

当方といたしましても」日堀警部。

 「あいつらに会わせてもらうわけには」

 「それが

今は取調べ中ですし」

 「しかし私どもも

ここで引き下がるわけには。

 ここであの子たちを見捨てるわけには。

 それでもし

後で無罪となった日には。

 “先生

やっていないとあれほど言ったのに

信じてくれなかったじゃないか”

 その後はもう

誰の言う事も聞かない。

 何をするかわからないでしょう。

 そうなった時に

その責任は誰が取ってくれるのですか。

 警察が取ってくれるのですか」当庭。

 刑事たちも。

 私はそれを聞きながら

“たいしたものだ”。

 いつの間にか双風もいる。

 虹口刑事も。

 その時  

ドアが開いた。

 一人の刑事が入ってきた。

 警部の耳元でボソボソと。

 「何。課長が。

 しかし-----。

 ちょっと失礼」

 警部は部屋をあとにした。

 数分後。

 「先生。

 あなた方の勝ちだ。

 連れて帰ってけっこうですよ」

 三人の子供たちをつれて

警部が現れた。

 「ですが警部」若い刑事たちは。

 それを日堀警部が制した。

 「いいんだ」

 「ありがとう」

 校長が警部の両手をにぎりしめた。

 「これでこの子たちも

 きっと立ち直れます。

 ありがとうございます」当庭。

 「オマエたちも先生方によく礼を言うんだな。

 さもなければ

今夜もここで」警部が。

 子供たちは。

 私たちは三人を連れて

逃げるように警察署をあとにした。

 “気でも変わられては”

 それを見送る警部たち。

 その後ろから紋味もんみ課長が。

 「すまなかったな。

 こちらも上の方から

やいのやいの言われてな。

 どうしようもなくてな」

 「残念です」警部。

 任意ではこれ以上は。

 「確かな証拠でもあればな」刑事が。

 「叩けば凶器のありかくらい

すぐに吐くと思ったんですが。

 なかなか」

 「とにかく証拠だ」紋味。

 ニガニガし気に。

 三人の子供たちは

親たちに連れられ帰って行った。

 私たちは学校へ。








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