第7話
ロンドは暫くした後「先になるよ」と言って帰って行った。
三人娘を横目で見つつかなり名残惜しそうにしていたロンドだったが、最後に「あの娘達を幸せにしてやれよ」と言い残していた。
そんな事言われずとも幸せにしてやるつもりだよと返してやりたかったが、どうにも真に迫った表情だったので俺は言うに言えなかった。
ロンドが去って行った後、俺達も帰り支度を整え駐屯地を出た。しかし俺達は大量の食糧やら生活品を街で買い込んでいる筈の真弓の運転する車に乗って帰らなければならないので、もう暫く彼女が運転するボロ車のエンジン音が聞こえてくるのを待っていた。
真弓の迎えを駐屯地で待つ間、俺は「大丈夫」と言うミーシャを無理矢理にでも背負った。
「……これぐらいの傷、いつもだもん……別に問題、無いよ……?」
「ミーシャに問題無くても俺に問題があるんだよ」
「……問題? どう、して?」
「ミーシャが痛い思いをして立っているところを少しでも見てしまったら俺はもう駄目だ。心が潰れそうになっちまう。だから俺の為に俺はミーシャを背負っているんだよ」
「……じゃあ、良いの……かな?」
ミーシャの笑う声が後ろから聞こえてくる。
「ミーシャちゃんはズルいのです。フィオだって、出来ればお兄様におんぶして欲しい……」
「我儘言わないの、フィオ。ミーシャは怪我人なんだから。優しくされて当然でしょう?」
「でも、ナナちゃんだって内心では羨ましいと思っているの、フィオ、知っているよ?」
「そんな事ひゃいわよ」
「……ナナちゃん、分かり易いよね、ホント」
「何だ? 二人は俺におんぶされたいのか? なら言ってくれれば良いのに……。俺はいつでもどんな時だって喜んでお前らを背負ってやるぞ?」
「お兄ちゃんにそんな事、言ったら何されるか分からないよ……」
「俺ってば信用無い!」
自分の信用度の低さに涙が止まらないぜ……。
「だから、その、言わずとも察して欲しいんだけどなぁ……」
ぶつぶつと何やら言うナナだが、俺には何が言いたいのかサッパリだ。
――――まあ、それはそれとして。
今は己の幸福を最大限喜ぶべきだろう! だって今俺は念願の幼女の太腿の感触を堪能しているんだから! ぷにぷにする気持ち良さを今だけは自由に楽しめるのだから!
ひゃっほう! これがロリコンにとっての至福の一時! 時間よ止まれ! 出来るなら!
「ミーシャ。本当に怪我の具合は大丈夫なんだよな? 我慢しているならそう言ってくれよ?」
うおおおおおおおお!! 絶妙な肉の触り心地が堪らねえなぁ、ほんと!
「本当、大丈夫……だよ?」
「でもミーシャ、いやお前ら三人誰が怪我するのも俺にとって恐怖以外の何物でも無いし、ましてや無理して怪我が悪化したらと思うと俺は……。だから何かあったら言ってくれよ?」
この手は今やロリコンにとって国宝級の宝だろうな……。そう言えば良い匂いもするし。どうして少女ってこんなにも素晴らしい存在なんだろうね……。
「うん……分かって、る……」
「くんかくんか! すーはーすーはーッ! ああ……もっとこの心地良い匂いを嗅いでいたい! ミーシャの気持ちの良い重さを全身で感じていたい! この太腿に感じる柔らかな肉、そしてその下にあるコリコリした骨が何とも言えぬ触感を……」
でもミーシャが無事で良かった。ミーシャが笑顔でいれる事が俺には一番嬉しいからさ……。
「カルラ……多分、本音と建て前……逆、だよ?」
「くぅ――――ッ! この年代の娘よりも綺麗な足を持っている奴って本当に居ないよな! 正に奇跡の歳だよ、うん! ……うん?」
…………え?
うん? ちょっと待って? ミーシャの言葉――本音と建前が逆になっている?
取り敢えず俺は冷静に自分の口から飛び出ていた言葉を思い出す。
…………。やばい。
うわああああ!! 胸が高鳴り過ぎて選び取る言葉を間違ってしまったあああ!!
俺ってば『俺マジイケメン』ぐらいの言葉を口にしているつもりだったのに!
多分、すっげードヤ顔していた筈なのに!
単純ミスをしてしまったが為に俺の評価が崖から落ちる勢いで下がっている……。
「……取り敢えずすいませんでした」
「良い……よ……? カルラがそういう人だって前、から……知っている、し……」
「それはそれで困る!」
もうずっと前からミーシャの中での俺は変態、つまり最低評価らしい。
ナナを見ていても分かるが、どうやら変態は女の子にとって受け入れがたい生物らしい……。俺はどうやらとんでも無い失態を日常的に犯しているようだ。
「でも……カルラは、本当に……ぼく、の太腿が気持ち良い……の?」
「…………ええと」
ミーシャへ返す言葉によっては完全に俺の社会的地位が終わる爆弾、これを俺はどう処理すべきか逡巡を巡らす。……ここはどうにか嘘を吐くべきだろうか。
――――否。ロリコンである以上、ロリコンであるからこそ。俺は自分に嘘は吐けない!
「ああ! 大好きさ! むしゃぶりつきたいくらいだよ!」
「カルラ……エッチ……大胆……」
「……エッチですいませんでした」
勢いで言ってしまったものの、やはり自分でもどうかと思う。
でもさロリコンである以上、あまり褒められた性的嗜好で無いならむしろ俺は自分を韜晦する事を良しとしないのである。難儀な生き方だなぁ、俺……。
「しかしながら――――ミーシャ」
俺は一拍置いて、ミーシャに語りかける。
そろそろふざけるのも大概にして、逃げるのを止めて――――現実に向き直る。
…………。いや? 別にわざとふざけていた訳じゃあ、無いんだけどね?
ミーシャの太腿を堪能する事だって、それはそれで真剣だったんだけどね?
だが、しかし、でも。
ここからは少しばかり真面目な事に真面目にならなければならない。
「な、に……カルラ……?」
「今日の『仕事』は……どうだったんだ?」
「……どう、だったって?」
[武器は、何を使った?]
「……ライフル、かな」
「『アレ』は使ってない、よな?」
「……今日、は……持ってない。ロンドが、必要無いって……。カルラも、言って……た」
俺は息を吐く。そして恐る恐る――――訊いた。
「人は――――殺したか?」
俺は訊かなければならない。
親代わりとして。子供が、ミーシャが重石を背負ってないか、を。
「……ううん。ぼく、は……殺して、ないよ……。脚とか腕を狙って、動けなく、した」
「そうか……」
「カルラ、は……ぼくらが人、殺しだったら、……嫌?」
「…………」
「嫌い、……に、なる?」
「そんな訳無いだろう」
俺はミーシャの言葉を力強く否定する。
「で、も……カルラは……ぼく達に、出来るだけ……人は殺すなって言うよ? どうし、て?」
「ミーシャ」
「何、で?」
「俺は別に人を殺す事を罪と同義と思っている訳じゃない。お前らの仕事は言わばそういう仕事だ。時には人を殺さなければならないし、ましてや『新人類』、人を殺す事を躊躇しては生きていけない時もあるだろう」
――――だが。俺はミーシャ――子供達に言って聞かせている。
人を殺してはいけないと。人を理由なく殺すべきではないと。
そこから先はただの俺の我儘だ。俺の価値観であり、それは多分エゴなのだろう。
それでも俺は彼女に言い聞かせる。
「お前らには――子供にはあまり業を背負って欲しくはないんだよ、俺は。人を殺す、って事はそいつの人生を根こそぎ奪い取るって事だ」
「…………」
「そしてそれはな、ミーシャ。そいつの人生を考え、そしてその人生を背負わなければならないって事なんだ。少女にその重さは――――耐えられない」
「ぼく、達……力、持ちだよ…………?」
「そういう事じゃない。そういう事じゃないんだよ、ミーシャ。確かにお前達『新人類』は力持ちだ。俺よりもずっと力が強くて、それで居て頑強だ。でもそれは外側だけの強さだ。内側の――目に見えないところ。そこはお前らもずっと、ずっと――――弱い」
「弱い、の?」
俺はミーシャの消え入りそうな言葉に頷いた。
言葉を繋ぎあわせるように、どうかこの俺の願いが彼女に伝わるように言う。
「『新人類』だって子供だ。子供は――少女は心が弱い。脆くて、危なげで、それで居て――――とっても可愛らしい。その美しさは本当に奇跡みたいなものなんだ。ちょっとの事で壊れてしまう。そして戻らなくなる。飴細工のような甘さで、そして――――脆い。もしも人を殺してしまえばお前達が壊れてしまうかも知れない。俺はそれが怖いんだ……」
「カルラ、震えて、いる?」
ミーシャはその小さな手を俺の頬にかざした。
温かい……でも頼りない。そう反射的に思ってしまう程、小さな手。
「ミーシャ……ミーシャ、ごめんな。俺が頼りない奴で、父親代わりの俺が、駄目な奴で……」
「そんな……事、無いよ?」
ミーシャは言う。甘い香りが俺の肺を狂わせる。
「カルラ……頑張っている、もん…………」
「…………。そうだと良いな」
俺は頬を緩ませた。ミーシャの掌も俺の頬の動きに合わせて、動く。
「でもな、もう一つ。お前達には知っていて欲しい」
「な、に……?」
「何よりも大事なのは、自分自身だ。お前達自身なんだ。それは分かるか?」
「…………。むー……」
「難しい、かな?」
俺は多分、気持ちを伝えるのが下手だ。
心を配るのが、上手く無い。
だから矛盾を孕んだ正論をいう時はいつもたどたどしい文言になってしまう。
言葉は難しい。言葉はもどかしい。どうして文字は心を伝えるのに向いてないんだろう。
「ミーシャ。俺の可愛い――――ミーシャ。確かにお前達は心が弱い。それでも強い。その気になれば俺なんて簡単に縊り殺してしまえるだろう」
「ぼく、絶対にカルラ……殺したり、なんてしない……」
「ははっ、ありがとう。父親冥利に尽きるよ。でも例え話だからな」
「例え話、であっても、……嫌」
「……そうか。なら止めて置こう。でも話は続けるよ? そうさな。お前達『新人類』なら相手が『現人類』であるなら問題無く殺してしまえるだろう。心が弱く、力が強い。酷くアンバランスな存在だ。でもそのアンバランスなパーソナリティがあれば、心の弱さを力でカバー出来るだろう。心の弱さを見せないように、力の強さを見せつける。つまりは手加減、敵を殺さないように屈服させる。それがお前らには出来る」
「……うん」
「でも……もしもお前達が傷つきそうになったら。銃口を向けられ、ナイフを首に当てられ、首骨を折られそうになったら――――死にそうに、なったら。絶対に手加減するなよ? 全力で敵を殺せ。心を守るのは二の次、三の次で良い」
「ええと…………」
ミーシャは少しばかり言い淀んだ。
「それ、は…………カルラ。つまりぼく達の心は壊れても、良いの……?」
「んー……。そういう訳では無いけどな」
「カルラの、言葉、……難しい」
「ごめんな。…………自分でも何を言っているか、さっぱりだ」
でも伝えたい事がある。伝えなければならない事がある。
気持ちが先行して、それでいて言葉がついてこない、ただそれだけ。
ならば言葉が追い付いてくるように、気持ちを先行させ続けよう。俺は口を開き続ける。
「死んでしまってはどうにもならないからな。でも心なら、どうにかなるかも知れない」
「どう、にか……なるの?」
「かも知れない」
「なお、せる……の?」
「治して見せるさ」
詰まる所を言えば、俺は絶対にこいつらを見捨てない。
どれだけ血に染まろうが。
どれだけ心に闇を抱えようが。
例え、俺を殺そうとしたって。
俺はこいつらを――――永久に愛し続ける。
例えそれが一方通行の愛でも。
例え彼女達の心を感じ取れなくても。
「要するにお前達に余裕がある限り、例え敵さんであっても優しくしてやれって事さ。お前達は優しいから、それぐらいは出来る」
「……うん」
「それでいて。それでもお前らに余裕が無くなったら一気に頭を撃ち抜いてやれ」
「……うん」
「だから……ミーシャ。お前が右足に怪我を負う前には相手を殺したって誰も文句は言わないよ。敵さんよりもずっと、ずーっと可愛らしいお前らの方が俺にとっては大事だからな」
「……分かった。けれ、ど……カルラ。この怪我は戦って怪我、してない」
「……ん? どういう事だ?」
「ええと、その……」
俺が疑問を覚え聞き返すと、ミーシャは言葉を詰まらせた。
頬に宛てられた掌が少し、温度を増したように感じられた。
「……その、脚が縺れて……転ん、だ……それだけ」
「え……」
俺は少し言葉を理解するのに時間を置いた後、噴き出して笑った。
「か、カルラ……笑わない、で……恥ずか、しい……」
「はははは、はは……ごめんごめん。けど、おかしくてさ」
そうだよ、そうだ。
俺がこの娘達を少女だと盲信していなくても真実、この娘達は疑いようも無く少女なのだ。
戦場でどれだけの功績を上げようと。
戦場でどれだけの武功を上げようと。
戦場でどれだけの魂を奪おうとも。
この娘達は花も恥じらう、可愛らしくも愛らしい。少女に違いない。
それを再認識して、少し硬く考えてしまっていた俺は笑ってしまったのだ。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!」
笑い転げる俺は横からの声に気付き、顔を向ける。
そこには顔を顰めるナナとフィオの姿があった。何故か怒っているようにも見える。
「お兄ちゃん、さっきからミーシャとこそこそこそこそ、何の話をしているの!?」
「……仲、良さそうです。ミーシャちゃんとお兄様、すっごい仲良さそうに見える、です……気になって気になって割り込まざるを得ません……。一体何を話していたのですか?」
「ううん? 何の話? ええと、そうさな……」
俺は少しばかり考え込み、そして結論付けた。
「大事な話、かな? とってもとっても大事な話だ」
「大事な話……」
ナナとフィオは俺の言葉を反芻し、そして火をくべられた暖炉のように顔を真っ赤にする。
「そ、そそそれって……ッ!! み、みみミーシャ、一体何の話をしていたのか詳しく聞かせなさい! ズルいわよ、大事な話を自分一人で独占しようたってそうはいかないんだから!」
「…………」
「ミーシャちゃんが! したり顔してとっても嬉しそうです! 皆より一歩リードしたみたいな、そういう顔してるですぅ! ズルいですぅ――――ッ!!」
「……一体何の話をしているんだよ、お前らは」
それぞれがそれぞれによく分からない勘違いやら誤解をしているようだが……。
まあ三人のじゃれ合いは見ていてとっても癒されるので止めたりしないけど。
いやー……可愛いな、こいつら。
「カルラ様。大分顔が綻んで、崩れて、熔けかけの酷く空しさを感じる氷菓のような酷い顔をしておられますが、大丈夫でしょうか?」
「うお!? 真弓!」
いつの間に俺の横に立っていたのだろう、そこには真弓の凛とした姿があった。
「お前、車はどうしたんだ? あの車で迎えに来て居れば間違いなくエンジン音が聞こえる筈なのに……。いや、まさか!? とうとう奴も御臨終か!?」
「何を言っておいでなのでしょうか? 車などエンジン音が聞こえない所で置いてきて、ここまで歩いてきたに決まっているでしょう?」
「……さいですか」
なしてそんな面倒な事をしたの、このメイド。
「まったく……。私が居ない間、お三方にどう言った態度を取られておいでなのかたまには確かめておこうと思い立ち、歩いてきた次第では御座いますが……。相変わらず少女を相手にすると阿呆みたいな顔がより一層酷い顔になりますね。カルラ様はただでさえ中身が阿呆なんだから外面は取り繕う必要があると思うのですが。しかしカルラ様のような単純で無骨な輩には無理からぬ相談でしたね」
「マシンガンの如き罵倒の嵐!」
……たまーに俺はこいつの主人であるという立場を忘れてしまうよ。
「まあそれはそれとして……。どうやら皆様を待たせてしまったようですね。遅くなりまして大変申し訳御座いませんでした」
真弓はそう言って深く頭を下げた。
「だ、大丈夫だよ、真弓さん。あたし達、別に待ってないし。それにあたし達の為に買い出しに行ってくれていた真弓さんを悪く言う筈無いよ」
「そうです、メイド長様。ナナちゃんの言う通りフィオ達は迎えに来てくれるだけでも嬉しいのです。いつもお疲れ様です」
「……真弓、ありがとう」
「そうそう。こいつらの言う通り俺達は別に待ってなんていないぜ?」
「皆様、私の粗相になんて勿体無きお言葉。メイド冥利に尽きると言ったところです。……ただしカルラ様、貴方様は別に待たせていても私は一向に心が痛みませんので。悪しからず」
「俺だけ何故、特別待遇!?」
主人に対する深き愛に涙が出そうです。
真弓は泣きっ面を見せる俺にまるで路傍の石ころでも見るような目で見る。
……いや。ロリにその顔されればご褒美だけどお前にその顔されても俺はときめかないよ。だって俺は別にMじゃないし。
「だってカルラ様。今日はナナ様、フィオ様、ミーシャ様とは違い別に働いてないでしょう?」
「いやいや……働いたわ!」俺は憮然とした顔付きで胸を張る。
「成程。なら具体的に何をしましたか?」
「え? ……えーと三人娘が円滑に仕事を進められるようフォローしたり、他には無事を祈ったり……つまりプロデュース業に精を出したね!」
「プロデュース業……ですか。ならばロンド様とは違う方法で以て一体どんな方法を駆使し、ナナ様、フィオ様、ミーシャ様のプロデュースを為されたのでしょうか? ロンド様と同じ方法で何かを為したところでそれはもう二番煎じ……意味が無いのです。さてカルラ様は情報屋として名を馳せるロンド様とは違うどんな方法で何を為さったのですか?」
「……三人娘の緊張をほぐしたり」
「猿でも出来ますね。犬畜生だって芸を見せれば人をリラックスさせますよ」
「…………」
「良いですか、カルラ様。働くと言う事は人に出来ない何かをする、もしくは人がやらない何かをしてその分の代価を戴く事を言います。カルラ様のやっている事はカルラ様がやらなくても誰かが代わりにやってしまう事です。とてもじゃありませんが代価なんて貰えるものではありません。つまりカルラ様は働いてはおりません。そんな人を私はどうして労わらなければならないのでしょう。どうして私は貴方に尽くさないといけないのでしょう。私は頭を悩ませるばかりです」
「ごめん、俺、働いてなかった! だからもうその話、止めて!」
心の痛みは時に人の尊厳を破壊する。だから涙が止まらないのである。
「め、メイド長様! お兄様はきちんと働いてたです! えーと、その、あの……フィオはお兄様に頭を撫でられただけでも嬉しいです。それは誰にも出来ない事では無いでしょうか?」
「ふむ、フィオ様の言う事も一理あります。……カルラ様良かったですね。どうやらカルラ様はまだ働けるようですよ? 汗水垂らさずとも働ける環境があって羨ましい限りですよ」
「フィオ! フォローしてくれるのは大変嬉しいけども! そのフォローは俺が何も出来ない紐野郎である事を如実に表している!」
「良いじゃないですか、紐。カルラ様にぴったりの職業ですよ? 無能は無能らしく有能な少女に寄生していれば良いじゃないですか」
「悪かった! 紐する事しか脳が無くてすいませんでした!」
俺は膝と頭を地面に擦り合わせて赦しを請うた後、家まで「紐(笑)」と蔑み続ける真弓の隣で虚な表情をしながら車に乗せられていった。
いつもは騒音にしか感じられないボロ車のエンジン音が今日だけは真弓の笑い声を掻き消してくれていたので安らぎの音に聞こえてならなかった。