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第5話

 夕刻。太陽が赤く染まり始める中、俺は頭を低く下げて目を瞑り祈っていた。


 少女達の無事。それだけを祈っていた。

 途中、ロンドの声が聞こえたような気がしたが、俺は意に返さなかった。



 ――――いや。今もロンドは俺の名前を呼んでいる。


「カルラ」

「……どうした?」

「心配なのも分かるし君の気持ちは僕とて痛い程知っている。けれどあまり根を詰めない方が良いよ。もう長い間そのままだろう? ろくに飯だって食べてない」

「……あいつらが辛い思いをしているのに、俺だけ呑気に飯なんて食べて居られるか」

「それで身体を壊して心配するのは一体誰だと思っている? お嬢ちゃん達だろう? これは君の為だけに言っているんじゃない。君はお嬢ちゃんにとって文字通りかけ替えのない存在なんだ。分かったらスープだけでも飲んでおきなよ。少しは気持ちも和らぐだろう」

「…………。悪いな。じゃあ戴くよ」

 俺はロンドの持って来た固形スープをお湯で溶かしただけのお手軽品を喉に流し込む。


 即席インスタントスープとは言え腹の空いた最中に飲むスープはとても美味しかった。塩見の強い野菜スープで、息を吹きかけ少し冷ましつつ飲み干した。



「旨い、な」

「まあスープなんて基本的には何だって美味しいもんだよ」

 ロンドは自分もスープを少しずつ飲み干しながら言う。


「現金なもんだよね。どんな気持ちであったところで腹は減るし飯を食べれば旨いと思う。僕達人間はそういう風に出来ているんだ」

「なあ、ロンド……。あいつらも――『新人類』だってそう思うんだよ。腹は減るし、飯を美味しく食べられる。当然だよな」

「知っているさ」

「今日も俺はあいつらと一緒に旨い飯を食べるんだよ」

「そうだね」

「……怪我をしていなければ、良いな。笑顔で帰ってきてくれれば、良いな。絶対に、死んでいない、よな?」

「それは分からない」

 ロンドは力無く首を振った。



「あの娘達が出ているのは戦場だ。死んでいない、という保証は僕には出来ない」

「……ロンド。今回の戦場は、危ないのか?」

「危ないさ。戦場で危なくない場所なんて無い。ここだって戦場に出た奴らが大敗すれば、攻め込まれても不思議じゃない場所だ。戦場はここより十キロ以上も離れた場所だが、それでも安全の保障は出来ない。なら当の戦場で危なくない場所がある訳ないだろう?」

「そういう事じゃない。激戦かそうでないかぐらいは判断出来るだろう?」

「そうだね……」

 ロンドは懐からマッチと煙草を取り出して咥えた煙草に火を点けた。


 普段煙草を吸わないロンドだが、時折落ち着きたい時は煙草を吸う。



「今回の戦場は状況として然程酷くは無い。こちらの戦力が厳しい訳でも無ければ、あちらさんが背水の陣って訳でも勿論無い。どちらも様子見みたいなものだよ。あまり深く攻め入るような事はしないだろう。あの娘達が行った場所は最前線だそうだが、それでも九割方無事に戻ってくるに違いない。あの娘達、『新人類』ならね」

「九割方、か……」

「君のオーダー通りだ。『酷い戦場には決して送らない』。それは僕が彼女達に仕事を紹介する条件だからな」

「その辺は助かっているよ。毎回、毎回、生傷は幾つかこさえながらも三人共、無事に帰ってくる。笑顔を見せてくれる。それでも――――」

「一割は、保障出来ない。こんな仕事を紹介している内は」

 口に咥えた煙草を右手で掴み、そして白い煙を吐く。


 煙は空中を彷徨った末に、その姿をくらませていった。



「…………」

「カルラ。酷い事を言うようだけど君が願ったところで、君がそうやって神だか何だか知らないが得体の知れないモノに祈ったところで状況はどうにもならないよ。それよりも少しは意味のある事をして待った方が良いとは思わないか?」

「意味の……ある事?」

「笑顔の練習をしとけって事だよ」

 ロンドは俺の口元を強く引っ張った。



「君が浮かない顔してちゃ、あの娘達が帰ってきた時に素直に喜べないだろう! 飯もちゃんと食べろ! きちんと心配かけないようにしてろ!」

「わ、分かった。分かったから……。頬を引っ張るのは止めろ。痛い!」

 俺はロンドの手を払いのける。


 それで空になったスープの他に何か食べるモノは無いかと聞いた。

 ロンドはそれを聞いてニカっと笑うと、パンが有る筈だと言い踵を返して視界から消えた。


 ロンドの加えていた煙草が俺の横に残されていて暫く火を点していたが、やがてゆっくりとたゆたう赤色を薄めていった。

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