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第40話

「殺させないわ……殺させない……ッ。あたしが……居る、限り……妹には手出し……させないッ。だってあたしはお姉ちゃん……だもの……あの娘達のお姉ちゃん、なんだ……からッ」

「……静かにしておけ、ナナ。見苦しいぞ。それ以上、自分の名を汚す事は止めよ」

「そんなの……くそ、くらい……よッ! あたしは……武功……なんて、要ら、ない……ッ! 欲しく……ないッ! そんなものは……つまらないわ……」

「つまらない? ……ふむ。新人類は今、戦場くらいにしか居場所は無い。そう聞き及んでいたのだがな。それすらも貴様は否定すると言うのか?」

「……そうよッ」

 ナナは苦しさを覚えながら、尚続く痛みを覚えながら尚――笑った。



 力強く――――笑っていた。


「あたしは……理解し、た。ようやく……分かった……」

「…………」

「そんなものは……要らない……ッ! 要らないんだ! あたしに一番必要なのはあたしを認めてくれる……家族……ッ! あたしの存在を認めてくれる家族……なんだッ! 蔑まれる……事が……辛いと、思った。認めて……くれる事……を、嬉しいと思った……ッ。それは……嘘、じゃない! でもフィオと……ミーシャを……失えばそんなものは……泥、だ。ゴミだ。要らないもの、だッ! 失いそうに、……なってようやく……気付いた。あたしに必要なものはもう……ここにあった」

「……一時は猛将かと思ったが。武功より――名誉よりも命を欲すか。所詮は山猿だな」

「いえ、あたし……の、命は要らない……わ」

「……何?」

 イマレウスはナナの言葉を疑い、疑問を返した。



 ナナは言葉を続ける。


「あたしの命……あげる、から……。二人には手を……出さない、で……ッ」

「……交渉にすらなっていない。所詮は全員、死ぬのだ。貴様は最後に殺すがな」

「なら……あたしから……殺した、方が良いわ……よ。あたしが生きている間、あの娘達に手だししたらあたしが……あんたを、殺すッ! こんな圧しかかってくる重さ……なんて諸共せずあんたの喉元に噛みついて……殺す……絶対にッ」

「……噛みつきなど野蛮人のする事だ」

「……尊厳よりも、大事なのよッ! あの娘達の事がッ」

「……ナナちゃん?」「……ナナ、ねぇ?」

 二人の少女の声が戦場に響いた。



 それぞれ意識を取り戻したのかフィオーレとミーシャ、二人の目線は金髪の少女に注がれている。


「な、ナナちゃん!? 今、助けるですッ!」

「王座の顕現」

 イマレウスはそんな二人に気付き、古代兵装を発動させ動きを止める。



「ぐぅう……うう、うううッ」 

 ミーシャが痛みに呻く。先程負った腹部の傷も相まって彼女の意識をまたも奪い去ろうとする。だが彼女は懸命に意識を保っていた。


 姉がピンチとあっては――――そう簡単に気絶する訳にはいかなかった。



「ナナねぇ……助け、る……待って、いて……」

 ミーシャは息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。


 大事だから。彼女の事が大事な気持ちは誰にも負けない。



「…………」 

 そんな風に足掻く二人の様子を、ナナの身を案ずる二人の様子をイマレウスは静かに見下ろしていた。


 そんな彼はおもむろに右手を上げたかと思うと、

「……かッ!」

 ナナの背後に移動し、彼女を頭から地面に叩きつけた。



 その衝撃に耐えられなかったナナは意識を闇に没した。


「…………」

 その身体を『魔帝』は無言で抱え上げると肩に担いでフィオ―レとミーシャの姿を仰ぎ見る。



「……ど、どうする気……です!? ナナちゃんに一体何するですか!?」

「気が変わった。この童女は私が捕虜として連れ帰る」

「なッ!?」

 その言葉を聞いたフィオ―レは驚愕と焦燥に身を焦がされる。



 それはミーシャも同じ事だ。


「そんな……、させ、ないッ!」

「無理をするな、童女。私は貴様らを殺さないと言っているんだ。もっと喜んだらどうだ?」

「な、に……?」

 訳が分からないと言う風にミーシャの顔が歪んだ。


 イマレウスはそんな彼女に至極真面目な風に言った。



「貴様らは新人類だ。故に常人よりも遥かに強い。今は私の足元にも及ばないとは言え、いつかはそれなりの力を勝ち得よう」

「どういう……事です?」

 そう尋ねるフィオ―レにイマレウスは笑って見せた。


 純粋な狂気に染まってみせた。



「童女。私を恨むが良い。この『金色の悪魔』を奪った私を怨み、憎み、憎悪によって己を鍛え上げるが良い。そしていつかもう一度私に刃向ってこい。そうして育った芽を私は――摘む」

「その為に……その為だけにナナちゃんを連れ去る気です!?」

「御名答。ここでこの童女を血祭りにあげても良いが、憎悪は一滴の希望を混ぜる事によってより一層濃く黒くなる。貴様らは縋るのだ。もしかしたらこの少女が生きているかも知れないというつまらない希望に縋る事となる。そして狂気を覚え、憎悪に身をやつせ。これからは私を殺す為だけに生きろ。そうした輩を私は殺す。その意志を喰らい尽くす。ふふ……、血沸き肉躍る……。闘いの連鎖は続いていく」

「そんな事が……許される、わけッ!」

「許されるのだ。許されるのだよ、『冷血の凶報』」

 反論するミーシャにイマレウスは狂気で以て返す。



「戦場ではそれが許される。私は勝者であり、貴様らは敗者だ。どんなに荒唐無稽でどんなに筋の通らない事であっても勝者である限り敗者は従うしか無い」

「そんな……」

「生き残れ『冷血の凶報』。そして『微笑む絶望』。これより貴様らは私を喜ばせる為に生きるのだ。このイマレウス=マーチハウンドの野望を打ち砕いてみせよ。新人類の矜持を見せよ」

 そう言い残し最後にイマレウスは『王座の顕現』を振り翳した。



 最大の出力で放たれた重力の奔流を受け切れなかったフィオ―レ、ミーシャの意識は遠のいて行った。


 そして次に目が覚めた時、『魔帝』は勿論、彼女の――ナナの姿はどこにも無かった。




 雨は本降りへと変わっている。二人の少女から伝う涙は止めどなく溢れていた。


 ――――怨嗟が戦場を濡らしていく。

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