第38話
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巨躯の銃身から発射されたのは『怒り』の弾丸――赤き猛き狂う光線だった。フィオ―レとナナを傷つけるイマレウスへの爆発しそうな怒りを沸々と弾に注ぎ込みながら、ミーシャはようやくとばかりに感情を爆発させた。
「……ミーシャちゃん、の古代……兵装はその銃弾までも、……その一部。恐らく……は、防ぎようがありません、です…………」
「……成程。茶色髪の童女も古代兵装持ちに加え、もう一人の仲間が私の隙を虎視眈々と狙っていた訳だ。山猿にしては知恵を絞ったものだな」
イマレウスは赤々と自身を飲み込もうとする光線を眼前に見据えながらやがて――足先に縫い付けてあった装飾具が鈍く灯りをともした。
「……ぅ……え?」
自重で潰されそうな中、勝利を確信していたナナはイマレウスがいつの間にか地面に立っているのを見て疑問の声を漏らした。
「う、そ……」
スコープを覗き込むミーシャも同じく混乱する。何故、空中に浮いていた筈のイマレウスが今、地面に足をつけているのか理解出来なかったからだ。当然、勝機を信じて放った『感情起爆砲』の弾丸もイマレウスを飲み込む事無く、外れた。
「だが童女よ、少々考えが至らんようだ」
そう言ってイマレウスは遥か遠くミーシャが居るであろう方向へ目線を向ける。ミーシャの潜んでいるであろう場所の大よその位置をイマレウスは『感情起爆砲』の軌道から掴んでいた。
「く……バレ……てる? ……でも、これだけ……離れて、いれ、ば問題無い……ッ。近づいて……くる前に、殺れる!」
「――――とでも考えているのだろうが、射撃手よ。甘いな」
足先の装飾具がまたも光り始めた。
「……ッ」
スコープを覗くミーシャは唾を飲み込んだ。またもイマレウスの巨体が消えたのだ。それも先程のように高速で動いた結果、目線が追い切れなくなった訳では無く、文字通り煙のようにその場から消え去っていたのだ。
ミーシャは『魔帝』の姿を探す為、スコープの倍率を低くして、必死に視線を動かすが、見つからない。当然だ。
「射撃手――その姿形から察するに『冷血の凶報』と見受けるが、いかがか?」
「なッ!?」
スコープを覗き込んで見つかる筈も無い。何故ならイマレウス・マーチハウンドの姿はミーシャの背後にあったのだから。
「何故……? 貴方の……古代兵装、の能力……は重力、制御………」
「理解出来ぬか、童女。何故に一人一つしか古代兵装を使えないと思い込む?」
「……そん、なッ」
サーベルを振り上げるイマレウスを恐怖で見開いた眼で捉えたミーシャは腹部に感じる焼けつくような痛みを最後にして意識を闇に捉われた。
「――――何処に、何処に行ったの?」
ナナは忽然と姿を消した『魔帝』の姿を必死に探す。重力による身体への重みはイマレウスが消えたと同時に無くなった。身体に数ヶ所ダメージはあるものの動けないという程でも無い。
「ナナちゃん、今の内に逃げるべきじゃないです!?」
右肩を左腕で抑えながらフィオ―レはそう提案した。
「で、でも……さっきの射撃で恐らくミーシャの位置はイマレウスに割れている。このままだとミーシャが危ない!」
「それはそうですけれど……けれどミーシャちゃんはここから大分離れた場所に居る筈です。賢いミーシャちゃんなら場所が割れた時点で素早く位置を変えている筈です! ならばフィオ達も逃げるべき……ッ。どう考えてもここに留まっているのは得策では――――」
「――――何を話している」
相談する二人に重く響く声が突き刺さる。
ナナとフィオ―レはあまりの悪寒に腰が砕け散るかのようだった。
「誰一人、逃げる事など赦さんぞ! この私、イマレウス・マーチハウンドに立ち向かって、そして打ち倒す以外の道は認めない――――さも無くば」
「み、ミーシャちゃん!」
突如として姿を見せた『魔帝』、イマレウス・マーチハウンドが右腕で乱暴に掴んでいるのは腹部から大量に出血して気を失っているミーシャの姿だった。
「貴様らもこのように為りたくなくば――――私と戦え。剣撃を撃ち合い、お互いの血を舐め、そして勝者が敗者を蹂躙する。戦いとはそういうものだ。戦場とはそういう場所だ。戦争とはそういう駆け引きなのだ」
イマレウスはミーシャの身体を放り投げた。すかさずナナが地面に叩きつけられないよう受け止める。ミーシャへのあまりに仕打ちにナナはイマレウスを睨み付けた。
「あんた……あたしの妹に何をするのよ……ッ」
「その敗者は私に負けた。それが事実である以上、私がそいつに何をしたところで文句はあるまい。慈悲が欲しければ泣いてやろう、哀しんで欲しければ今宵の酒を捧げよう、安息が欲しければ眠る前に祈ってやろう、だが私は敗者に容赦をしない。敗者とは勝者に這いつくばる事こそが戦場での礼儀、なのだから」
「……何ですか、それは」
ぼそり、とフィオ―レは感情の無い顔で言葉を紡いだ。それと同時にミーシャの周囲の大気がまるで早鐘を知らせるように打ち震えた。
「何ですか、それは――――ッ!!」
フィオ―レは怨嗟を叫ぶ。呼応するように風の激流がイマレウスを襲った。
しかし、
「『王座の顕現』」
発動したイマレウスの古代兵装を前にしてフィオ―レが放った風は失速し、やがて雲散霧消する。結果柔らかい風がイマレウスの巨躯を撫でただけだった。
「貴様の古代兵装は風……いや、大気に命を下せるようだが、しかし風とて質量を持っている。質量を持つものなど私の『王座の顕現』の敵では無い。察するに――――」
無力化された自身の『風は詠う、童に聴かせる詩を』を見て意気消沈するフィオ―レを余所にしてイマレウスは言葉を続ける。
「『微笑む絶望』――いや、古代兵装を取り出した今となれば『風の踊り子』と称すのがふさわしいか。兎に角、貴様の古代兵装。自然現象への介入を見るにどうやら『有害武具』だろうが、それでも私に届くには些かばかり力が足りぬな」
「……有害武具?」
イマレウスの言葉を聞いて、ナナは反芻した。フィオ―レの古代兵装、『風は詠う、童に聴かせる詩を』を見てそう言ったらしいが、そんな言葉に聞き覚えは無かった。
「知らないのか、童女。まあ山猿如きの知識しか無いのであれば当然か。死に逝く貴様らには過ぎた知識かも知れないが冥土の鬼に会うには土産話くらい持っていた方が良かろう」
「そんなの必要――――――」
「座して聞け、敗者よ。貴様にはもうそれぐらいしか出来る事など無いと言うのに」
もう一度奮起し立ち上がったフィオ―レは圧しかかった重力に潰され、またも地に伏せた。あまりの怒りで目が血走っているフィオ―レだったが、やがて自重に耐えきれなくなり視界を暗くしていった。




