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第29話

 お風呂から上がった後、俺は居間にて少女達に真弓から聞いた事を伝える。


「え――ッ! 明日!?」

 それを受けてナナは悲しそうな声を上げた。



 ナナだけじゃない、フィオもミーシャも名残惜しそうな顔をしている。


「ああ。急だが親御さんも心配している。出来るだけ早く帰してやる方が良いだろ」

「……まあ、そうだけど」

 ナナはユリの方を見遣る。ユリはいきなりの事でどう反応して良いか分からない様子だ。



「……明日って? 明日の夜、帰るの?」

「いや。朝になったら直ぐに車で送る。ユリの家がある村まではそう遠くないとは言え半日はかかるんだ。家を出るなら急いだ方が良い」

「……そう」

「ナナ、別にこれで会うのが最後って訳じゃないんだ。車で半日行けば会える距離なんだぞ?」

「分かっているけど……」

 ナナの気持ちは分かる。


 数日ではあるものの、ナナはユリと本当の姉妹のように過ごしたのだ。


 それが明日、突然終わるとあって悲しい訳では無いだろう。でもナナは泣かないし決してそれを否定しなかった。決して駄々を捏ねるような真似もしなかった。


 ユリにはユリの生活がある事をナナは理解している。

 それにユリの前でナナは姉として情けない姿を見せたくなかったんだろう。



「急な話、です。けれどユリちゃんだって早く家に帰ってお父さんとお母さんに会いたいんです。仕方が無い事、です……」

「そう、だね。仕方、無い……」

 フィオとミーシャもそれぞれに割り切った言葉で無理矢理納得してみせた。


 彼女達は子供だが、それでもそこらの少女達よりかはよっぽど大人だ。

 基本的に我儘は言わないし、自立した考えをそれぞれ持っている。



 何故なら彼女達はそうならざるを得なかったからだ。

 でも偶には我儘くらい言っても良いのにな……。俺はそう思った。


「……カルラお兄ちゃん」

 気付けばユリが俺の裾を掴んで引っ張っていた。上目遣いでこちらを見上げている。


「数日かかっちゃったけど……ようやくお前を家に帰してやれるよ。どうだ? 早く家に帰りたいか? お父さんとお母さんに会いたいか?」

「――――あと一日」

「え?」

 か細い声で呟くユリの言葉を俺は汲み取る事が出来ずに聞き返してしまう。


 しかしユリは確かに先程よりも大きくはっきりとした言葉でこう言った。



「――――あと一日、だけここに居ちゃ駄目、かな?」

「……ユリ」

 彼女の祈るような表情を見て俺は少しだけほっとした。


 ユリも家に帰りたくない訳では無いだろう。それは彼女の目を見れば分かる。


 彼女の目からは背徳的な色が見て取れた。多分、そう言ってしまった事に対し――恐らくは父親と母親に対し――ほんの少しだけ罪悪感があるに違いない。


 だがそう言ってでも尚、ユリはここに残って三人娘と最後の時間を過ごしたかったのだ。

 それは言い換えればここでの生活を楽しんでいたと言う事。



 この生活を楽しんでいたのは俺達だけで無くユリも同様だったのだ。

 それは俺達にとって――三人娘にとって喜ぶべき事なんだろう。


 そして七歳の少女にそこまで言わせては俺とて言うべき事を言わざるを得ない。



「……そう言えば、真弓」

「はい。何でしょうか、カルラ様」

 真弓は俺の言葉に即座に反応してくれる。


 この辺で彼女に助けを求めるのが彼女自身分かっていたのだろう。

 本当、俺に仕えるのは勿体無いくらい優秀なメイドである。



「――車」

「はい?」

「車だよ、車。あのポンコツ相当ガタがきてるだろ? そろそろメンテナンスしないと止まると思うんだよ。ユリは客人だ。客人を送るとあっては大事があったらいけない。どうだろう? 明日はメンテナンスをするとして送るのは明後日にするのは……?」

 俺の言葉に真弓はふっと破顔して淀みなく答えた。



「そうですね。では明日は車の整備を致しますのでユリ様を送るのは明後日になります。ユリ様、それで宜しいですか?」

 ユリは真弓の言葉に嬉しそうに頷いて見せた。


「決まりですね。では皆様、明日はユリ様と最後の一日となります。名残惜しいですが精一杯楽しんで下さいませ」

 その言葉に三人娘とユリは嬉しそうに叫んでみせた。



「ありがとう、お兄ちゃん! 大好きだよ!」

「俺も好きだぜ、ナナ!」

「ばッ! い、今のは冗談よ、冗談! 勘違いしないでよね!」

 ナナは顔を赤くしながらもそれでも嬉しそうにユリと手を繋いでいた。


 

 それを見て俺も微笑む。


 ……しかし冗談か。一瞬、マジで喜んじまったのになあ。



「カルラ様はやっぱりロリコンですね。本当、骨抜きなんですから」

 少女達が喝采を叫ぶ中、真弓が小さく呟いた。



「お前もな、真弓」

「私はカルラ様のメイドですから。貴方様がサポートをするのが仕事なんですよ」

「…………」 

 彼女は嫣然とした笑みを残すと居間から去っていった。


 俺は彼女の消えた方を見つめた後、もう一度少女達の方へと目を向けた。




 夜が更けていく。少女達の姿を見ながら時の流れに身を任せる事を俺は心地良く思った。

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