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第28話

 ユリがうちに来てからもう数日が経った。


 やはり少女が増えるとロリコン的には嬉しいものであるのは疑いようが無いが、それ以上に三人娘が楽しそうにしているのが印象的だった。



 中でもナナはお姉さん精神をフルに発揮してユリの世話をするのを楽しんでいた。


 そんなナナに対し、ユリも大層懐いていて楽しそうに会話する様子はまるで本当の姉妹を見ているかのようであった。


 今日も今日とて夕食の後ナナはユリの世話を焼き、ユリはナナを慕っている。

 そんな可愛らしい光景を眺める事が出来た。眼福眼福。


 ……などと豊かな妄想を膨らませている間にどうやら時間も遅くなっているらしい。



 俺は三人娘及びユリに向かって言葉をかける。


「おい、お前ら。もう時間も遅い。早く風呂に入って来い」

「はいです、お兄様。ナナちゃん、ミーシャちゃん、ユリちゃん。一緒にお風呂入ってこよーです。メイド長様、お風呂はもう入っても大丈夫です?」


 台所に居る真弓に向かって尋ねるフィオ。真弓は作業の手を止めないままに、

「ええ。準備は整っております。どうぞごゆるりと」とフィオへ返事をした。

「ありがとうございます、メイド長様。では三人共、行くですぅ」

 そう言いながらフィオはお風呂へ入る為に自室へと着替えを取りに向かう。



 三人共、そんなフィオへと続いた。最近は大抵、四人でお風呂に入っている。

 時間を短縮出来るのもそうだが、四人で風呂に入った方が楽しいのだろう。


 そうして四人がリビングから出ていく際やっぱりと言うか、お約束通りにナナが俺へと振り返り、やたらと強い口調でこう言った。


「お兄ちゃん。いつも言っている事だけど…………絶対に、ぜーったいに! 覗かないでよね!」

「ん? そんな事は当然だろ。俺はここでコーヒーでも飲んでのんびりしているつもりだが?」

 俺はコーヒーを啜りつつ頷いてみせた。しかし、ナナは疑いの目を止めない。


「……お兄ちゃん。ここ最近毎日言っているけど……ユリちゃんが居るんだから本当アホな事は止めてよね。あたし、すっごく恥ずかしいんだからさ」

「恥ずかしい? ……いやいや。俺は恥ずかしい真似なんて一切した覚えはないぜ?」

「幾ら言っても覗きにくる変態を恥ずかしい存在だとしないなら一体何なのよ!」

「無謀に挑み続ける歴戦の戦士さ……」

「……正気とは思えないわね」


「ああ。むしろ俺は必死過ぎて完全にトリップしているからな」

「……狂気の沙汰ね」

 そんな俺を見て愕然とするナナ。


 まあ俺とて馬鹿じゃない。これ以上呆れられない為に少しばかり真摯な態度を見せて置こう。



「分かっている、分かっているさ。ナナ、俺がいついかなる場合にも真面目な男である事は知っているだろう? 故にのぞきなんて下衆な手法には手を染めんさ」

「よくもまあ白々しくそんな事が言えるわね。昨日よりも前の罪を何ら鑑みないその態度だけはあたし感心するわ」

「ナナ。一つ良い事を教えてやろう」

「……何よ」

「真の漢とは―――――後ろを振り返らないものさ。いつだって前を向き続ける」

「そんな事をさも良い事かのように言われても……」


「だから俺は何度だって挑戦し続けるのさ」

「それが覗きの場合、全く以て格好良くは無い……」

 ナナは呆れた顔を見せた後、「と、とにかく覗きはいけないんだからね!」と言い残して、リビングを出て行った。



 さてここまで綺麗なネタ振り(?)をされてしまって覗きに行かないのは俺の中での紳士道的にいかがなものかとも思ったが昨日五十倍倍率のスコープを使ってお風呂を覗こうとして、ミーシャによる『感情起爆砲』の餌食になったばかりなので、覗きには行かない事にする。


 覗きをする以上、こちらとしても最高のコンディションで臨まなければ覗かれる相手に失礼に値する、そう俺は思うのだ。よって今日のところは紳士的に辞退する。



 ちなみに女の子のお風呂を許可無く覗いている時点で失礼に値する、なんて事は俺の辞書には載っていないのである。都合の良い辞書は俺の真骨頂である。


「おや、カルラ様。今夜は覗かないんですね?」

 そんな風に一人黄昏ていると真弓が話しかけて来た。


 まったく失礼な奴だ……。彼女には俺がそんな事をする人間に見えているのだろうか。

 俺は肩を竦めつつ彼女に言う。



「まあな。ネタの天丼をし過ぎては飽きられてしまうだろうし」

「覗きをネタだと解釈している辺りさすがですね」

「俺はネタも人間も鮮度が大事だと理解しているんだよ。だから女性は少女こそが最も至高な存在だと理解している」

「何を上手い事言ったみたいな風気取っているんですか。非常に気持ち悪いです」

「…………」

 相変わらず容赦がないメイドである。



「そう言えばカルラ様。ここ数日、近隣の国々や村を周っていますが」

「ああ。昨日までは成果が無かったんだよな。今日はどうだった? ユリの家は見つかったか?」

「ええ。今日、ここから然程離れていない村に女の子が一人居なくなったという話を聞きました。女の子の特徴を聞いた所、ユリ様とほぼ一致しています。まず間違いないでしょう」


「……そうか。じゃあ」

「はい。明日、ユリ様をその村へとお連れしようかと思います」

「…………。ユリとの生活も今日で終わりか」

 ユリとの生活はほんの数日には違いなかったが、それでも一抹の寂しさは感じてしまう。


 だが、

「さて。どう言ったものかなぁ……」

 フィオやミーシャもそうだが、中でもナナにはどう言っていいものか……。



 ナナは人一倍、ユリを可愛がっている。ユリもそんなナナに懐いている。


 正直、言うのが億劫ではある。



「普通に言えば良いんですよ。カルラ様、この生活は終わるかも知れませんがユリ様とは決して今生の別れという訳では無いのです。言ったでしょう? 然程、ユリ様の家のある村とは離れていないと。半日車を飛ばせば到着する程度の距離です。これから暇があれば村へと行けば良いのです。ユリ様ならば歓迎してくれるでしょう」

「そうか。まあ、そうさな」

 俺は真弓の言葉に頷いた。


 ユリなら多分俺達を歓迎してくれる……だろう。


 ただ――――ただ俺は敢えて触れなかった。


 三人娘――彼女達が『新人類』である事。それには触れなかった。


 ユリは多分、知らない。俺達も当然、余計な事は教えない。



 あの微笑ましい関係性を崩したくないから。



 お風呂場から楽しげな笑い声が聞こえてきた。それを耳にしつつもう一度コーヒーを啜る。

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