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第26話

 黒髪の少女はほどなくして目を覚ました。


 目を開けた後、キョロキョロと周囲を伺い状況を確認してから俺達の方を眺めていた。

 俺は少女の目線を見つめ返した後、周囲を少しだけ眺めてみる。



 真弓もそして三人娘も少女を眺めるばかりで何か行動を起こそうとはしていない。


 ……まあこの中で言えば俺が少女に尋ねるのが筋だろう。



「目、覚めた? 大丈夫か? どこか痛いところとかはあるか?」

「……ううん、無い」

 少女はか細い声で首を振った。


「名前は?」

「ユリ、……です」

「年齢は?」

「……七歳」

「そうか。俺の名前はカルラだ。ここは俺の家でこいつらはええと……この女性は俺の使用人で、この女の子達は俺の……家族みたいなものだ。ユリ、お前を見つけたのは俺の娘達で聞くところによるとお前はどうやら森で一人、倒れていたらしい。何があったか覚えているか?」

「……ううん」

 少女――ユリは力無く首を振った。俺は一息吐くともう一度訪ねる。



「そうか。なら何か覚えている事はあるか?」

「ええと……ううんと……」

「悪いな。そう急がなくても良いぞ」

 俺はまず少女が落ち着けるように声をかける。こういう時は警戒されない事が大事なのだ。


 俺だってかつて小さかったナナやフィオ、ミーシャと打ち解けた経験がある。こういう事に覚えが無い訳では無い。


 ユリは顔を顰めていると、急に「……あ」と言って目を大きく見開く。

 どうやら何かを思い出したらしい。



「ユリ、何か思い出したのか?」

「……うん。お家の周りで遊んでいた時、でっかい鳥さんが来たの」

「……鳥?」

「うん。それででっかい鳥さんがわたしを抱えて飛んじゃったの。それから……」

「……それから?」

「……ごめん、なさい。それから先は覚えてない」

「……そうか。ありがとな」

 俺はユリの頭を出来るだけ優しく撫でた。ユリは気持ち良さそうに目を細める。


 その後に俺はユリから離れ、代わりに三人娘が彼女へと寄っていった。



「ユリちゃん。えーと……あたしはナナ。宜しくね」

「フィオはフィオって言いますです」

「ぼく、は……ミーシャ、だよ」

「………ええと」

 ユリはゆっくりと皆を眺めていき、そしてゆっくりと三人ずつ名前を呼んでいく。


 そして、

「うん、……宜しく」

 にっこりと微笑んでみせた。



 やはり俺よりも近い歳の少女の方が警戒を解かせるのが容易なのだろう。無邪気な笑顔がとても可愛らしく見えた。


 その後、暫くユリは三人娘と共に朗らかに話をし始めた。


 それを横目で見ながら俺は真弓と共にユリについて話し始める。


「真弓。話は聞いていたな。どうする?」

「どうするも何も……決まっています。放り出す訳にもいきませんし、暫くは面倒を見る事にしましょう。それで私は買い出しついでに居なくなった娘が居ないか周辺の村や国に聞いてきます。ユリ様の特徴やユリちゃんから直接、家の近くの風景や村の名前なんかを聞き出せれば彼女の家を探すのはそう難しい事じゃないでしょう」

「まあ……当然、そうするべきだよな。ただ……」

「はい。大きな鳥ってのは……一体何の事を言っているのでしょう?」

「…………」

 俺は瞑目して暫く考えてみる。


 人間――それもユリよりも大きな鳥なんてのは珍しくも無い。大型の鳥類であればユリより大きな鳥は幾らでも居るであろうし、そして――幻獣種であれば大抵、ユリより大きいだろう。


 それより問題は一体どこからユリを攫ってきたのかと言う事である。



「まあ鳥だって言うからには鳥なのだろう。ただ移動距離によってはどれくらい遠くの国から攫ってきたのか……判断出来ないな」

 俺の言葉に真弓が答える。


「ええ。しかし考えたところで意味は無いですね。彼女自身がそれについて多くを覚えてないと言うからには聞き出すのは難しいでしょうし。私達がすべき事はまず周辺の国や村々を巡ってユリという行方知らずの少女が居ないか訊いて周る。それで見つからなければ……」

「その場合は遠くの村々を回る商人やロンドにも協力を仰ごう。それで遠くの国や村の情報もどうにか集められるだろ」

「それでも見つからなかった時は……どうするんですか?」

「そうさな……その時は」

 一度間を置いて、俺は腕組みしつつ言ってのける。


「その時は俺の娘が四人になるだけの事さ」

「また無責任な発言を……」

 真弓が深い溜息を吐いた。


「三人の娘の世話が四人になるくらいの事、大した問題でも無いだろ?」

「それこそよくもまあ平然と言ってのけますね。さすがは無職、言う事が違いますね」

「違うよ。お前ほどのメイドならそれくらい問題でも無いだろ。頼りにしているぜ、真弓」

「…………。主人の御意向なら私は従うまでです」

 大きく肩を竦めつつ真弓は言った。



「――――それよりカルラ様」

 ぎらり、と真弓の目が光る。俺はその眼光に少しだけ身体を強張らせた。


「彼女の生活費に関してはどうするんですか?」

「…………お金、無い?」

「いえ。今のところ少女一人をどうにかするくらいの蓄えは残しておりますが……、それでも危ないのは事実なのです。少女一人くらい面倒を見るのは構いませんがそれ以上にそれを支えるお金をカルラ様は一体どこから捻出してくれるのですか?」

「…………分からん。ただ――」

「ただ、何です?」

「少女に関して俺はロリコンとして一切の妥協をしない。どうにかしてみせるさ」

「まあ……カルラ様はそう言うに決まっていますよね」

 頼りにしていますよ、と真弓は口にすると夕食の準備に戻っていった。


 …………。お金、か……。どうしよう。


 内臓とか売れば……どうにかなりますかね? 腎臓とか二つあったよね、確か。


 そんな風に少女に関しては無駄に強気になってしまうところが俺の悪い癖だ。



 しかし――――


「ほらユリちゃん、見てごらん。このフィオって女は食いしん坊だからお腹の肉がこんなに! 摘まめる程あるのよ。ユリちゃんも食べられないように気をつけなさいね」

「な、ナナちゃん! 酷いです、肉を摘まむなんて……これでも本当に気を付けて……ッ! それに食いしん坊と言うからにはナナちゃんの方が圧倒的に食いしん坊です! この前も夕食前にご飯をつまみ食いしてメイド長様に怒られていたじゃないですか!」

「あ、あの話は忘れなさい! あれは……えと、あれよ! フィオの夢、そう夢よ!」


「ナナねぇ……ぼくも覚えて、るよ。だから夢……じゃな、い。ナナ、お尻叩かれていた……」

「み、ミーシャ!? ええと、うん……ミーシャとフィオは部屋一緒だから……その、一緒の夢見てたのよ! うん、そうに違いないわ!」

「斬新……な見解」

「ナナちゃんよくもまあそんな屁理屈でフィオ達を納得させられると思ったものです……」


「そ、それにフィオはあたしより食いしん坊である動かぬ証拠があるわ! ほら、この胸についた駄肉! これがあってあたしより食いしん坊で無い訳が無い! あたしなんて…………ううっ、あたしなんて……」

「……ああッ! ナナちゃん、大丈夫。泣かないで! ナナちゃんもいずれ大きくなるです!」

「今は……ぼく、より小さい……けどね」

「み、ミーシャちゃん!? ナナちゃんを傷つけるだけの事実確認は止めるです!」

「……でも、重要」

「ふっふふふ……上等よ、ミーシャ! 今日からあたしは牛乳を毎日三リットル飲んでやるんだからね! 覚悟しなさい!」


「そんなに飲んだらナナちゃん、牛になっちゃうです」

「……無理」

「牛でも良いもん! お胸が大きければそれで!」

「な、ナナちゃんが自暴自棄に! ミーシャちゃん、慰めてあげて!」

「ナナねぇ……あわ、れ」

「ミーシャちゃん!?」

「ミーシャ……良いわ。かかってきなさい……。あんたのそのあたしより大きいって抜かす微妙な大きさのお胸は即座に剥いで見せるから……。あたしより大きいお胸を持つ女の子は全員滅びれば良いわ!」


「それ、だと……女の子は全員……ユリ、だって」

「ミーシャちゃん、もう止めたげてぇッ!」

「ふふ……あははは! お姉ちゃん達、面白い……」

 そんな風に馬鹿なやり取りをしている三人娘を見て更に楽しそうに笑っているユリ。


 あの無邪気な笑顔を見ていれば俺の判断は決して間違いじゃなかったと分かる。

 そう思えるところが俺の唯一の美点だ。それは多分間違っていないのだろう。




 頬が自然と緩んでいた。俺は少女達が笑顔になれればそれで良かったのだ。

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