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第23話

「ちッ!」

 舌打ちをしつつアトレアはミーシャによる『感情起爆砲』の弾丸――赤々しくアトレアを飲み込もうとする『怒り』――を見事な動きで躱す。


 だが躱してもナナ、フィオ―レの見事な連携による攻撃を避け切れず甘んじて受けてしまう。


「実際――実際しんどいもんやな。こりゃあ敵わんわ……しっかし」

 態勢を立て直した後アトレアは正面に構えるナナ、空中をたゆたうフィオ―レ、そして遠くの彼方に居るであろうミーシャを順番に睨めつけながら深い溜息を吐いた。


「こうも雁首揃えて現人類に味方をする新人類が居ると思うと情けなくて見てられんわ。自分らホンマもんのアホやな」

「……アホはどちらかしらね?」

「自分らに決まっとるやろうが『金色の悪魔』」

「何ですって」

 ナナはアトレアの態度に憤りを感じる。



 だがアトレアはナナの怒りなど構う事無く言葉を続けた。


「知らないとは言わさへんで? 現人類がうちら新人類にどんな仕打ちをしてきたのか? 

 自分らは知っている筈や。なのに何故世界を憎まない? 

 何故現人類なんてクソッタレな輩を守ろうとする? もっと暴れて良いんや、もっと狂ってええやろ? うちら新人類にはその力とその理由がある。仕返しをして良い理由は揃っとるんや」

「だから……。あたし達は世界の全てが敵では無い事を知っていて――」

「この能無しがッ!」

 アトレアは叫んだ。まるで慟哭しているかのように。



 その余りにも悲愴な顔にナナもフィオ―レもヒンメルもスコープ越しに見ていたミーシャも固まってしまう。


「敵や! 敵に決まっとる! 現人類は全員生かすべきやない! 蛆虫以下の存在や。そしてそんな輩がくだを巻いている世界は完膚無きまでに滅んでしまえばええ!」

「…………」

「直に分かる自分らも分かる! 必ずな……世界が腐っている事を!」

 アトレアの目は黒々と濁っていた。まるで墨汁でも垂らしたかのように黒々と。



 そんな彼女に言うべき言葉をナナもフィオ―レもヒンメルも当然ミーシャだって持ち合わせてはいなかった。


 郷愁に焼かれていたアトレアの表情はゆっくりと本来の姿を取り戻す。


 いつもの『戦闘狂』の顔を取戻し、ナナ達へと向かう。



「…………。まあ、ええ。その時までそうやって現実から目を背けていればええ。そんで取り返しの尽かない事になればええ。今日の所は退かせて貰うわ」

「逃がすと思う『赤き戦鬼』? それにあんたにしては随分と潔いじゃないの?」

「狂人、なんて後ろ指指されるうちかて生活がある。代金以上の働きをするのは、ちと骨身に染みるわ。それに『金色の悪魔』」

「……何よ」

「まさかうちがアンタらの弱点を理解していない――――なんて思わんよなぁ?」

「――――ッ! あんた、まさか!?」

 一瞬、動揺の色を浮かべるナナにアトレアはにやりと不敵な笑みを見せた。



 そしてアトレアが目を向けた先に居たのはこの場に居る唯一の現人類――ヒンメルだった。


「ひィッ!」

 『赤き戦鬼』の浮かべる肉食獣の如き凍った眼の色にヒンメルは小さく悲鳴を上げたまま、腰を抜かしてしまう。彼はどうにか彼女の視線から逃げようとするものの、足が言う事を聞かないらしく膝がガクガクと震えていた。



 アトレアは獰猛な笑みを浮かべたまま、右手を振り上げる。

 古代兵装『八俣刃』の一枚の花弁が彼女の右腕の動きに合わせるかのように、ゆらりと舞い、そして獲物を狩る蛇のような素早さでヒンメルへと襲いかかった。


 ヒンメルとアトレアの距離は十メートルに満たない。十分過ぎる程、アトレアの射程距離内だ。


「フィオッ!」

「分かっているです!」

 ナナの言葉に呼応するフィオ―レは古代兵装に力を籠める。直ぐに『風は詠う、童に聴かせる詩を』はフィオに応え、大気を震わせた。風がうねり、アトレアの放った花弁を叩き落とすべく猛威を振るう。



 結果、ヒンメルのわずか一メートル手前で風が花弁の行く手を阻む事に成功する。


「アトレアァ! あんた……よくもまあ下衆な真似をしてくれるわねェ!」

「心優しい新人類さんなんて矛盾した奴らは大変やなー……ほな助けてくれてありがとう、おっさん。ばいならー」

 言った直後、アトレアの周囲がまるで爆発したかのような衝撃音と共に埃と破壊された瓦礫の塵などで真白く覆われた。



 塵と埃で染まる地帯を覆い尽くすかのように、真っ青な光線――ミーシャの『感情起爆砲』による攻撃が突き刺さった。

 続いて強風が吹き、その場の埃と塵を吹き飛ばす。視界がクリアになったそこにアトレアの陰は少しでさえも残っていなかった。



「……まさかミーシャの攻撃であとかたも無く消し飛んだ……訳無いわよね」

 ナナは溜息を吐いた。フィオ―レは少し遠くで倒れ伏しているヒンメルに声をかける。


「あの……ヒンメルさん、大丈夫です?」

「あ……あぁ……」


 ヒンメルは態勢を立て直しつつ空いた口から漏れだすような息を吐く。そして、

「…………私は……本当に、たす……助かった……のか?」と心底肩の力を抜いた。




 それを見て、ナナとフィオが――――スコープ越しに覗くミーシャも胸を撫で下ろし、そして笑顔を浮かべた。

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