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第18話

 カルラが待つ駐屯地よりおよそ十数キロ地点にて。


 規則的な足音が周囲を埋め尽くしていた。その度に巻き起こる砂塵、それを秋風が運び、周囲は少しだけ煙たくなる。


 張りつめたような空気がそこら中に蔓延していて、そこにいる人間達の血を冷たくする。

 数分後に恐怖と恐怖が激突する恐怖に戦慄を覚える。


 銃弾が飛び交い、爆撃が入り乱れ、血が咲き乱れる瞬間を想起し、各人が顔を更に強張らせる。



 カラッとした雲一つ無い良い天気の筈なのに、何故か曇天のような鬱屈とした靄が周囲にかかっているかのようだった。


 千に近い数の人間がゆっくりと正確に行進していた。

 皆が皆、何かしらの武装で身を固め、誰一人として口を開く者はいない。


 目指す先は数十年前に廃都となった瓦礫地帯。このまま進めばそこが戦場となる予定だった。


 多くの血が流れ、多くの怨嗟が管を巻く場所。誰が死ぬかも分からない、誰が生き残るとも知れない――――そんな中で一体誰が緊張感を持てずに居られるものだろうか。


 当然のように目先の恐怖に怯える者が居ても、目先の恐怖に酔い痴れる者が居たとしても、それを笑う者は居なかった。



 ――――文字通り命を賭けていたから。



「全隊止まれぇ!」

 何処からか怒号のような声が聞こえ、それに合わせて行進が止まる。

 視界には廃都が見えている。城壁に隠れて見えないが、ここの反対側ではまた多くの人間が居る事だろう。そして、その人間達とここに居る人間達は今から殺し合う。



 戦争という名のお題目を掲げ、それでいて血を流し合う。



 この戦争は詰まる所、人間のエゴに始まり、人間のエゴに終わる戦争だった。


 十年前――近隣諸国をその支配下に置いていた『帝国』が革命によって潰れた直後始まった、多くの国による覇権争い。

 その中で生き残り突出した二つの国――軍事国家『トルテミア』と神聖国『プレステュード』。

 ひいてはこの戦争もそうした二つの国による覇権争いの一つだった。


 しかしながらこの一回で全ての勝敗が決するという戦いでは勿論無く、お互いの余力を削り合うだけの、それ程重要度は高くない――そんな戦争。



 だが戦争に出る人間にとってはそんな事は関係無い。

 自分達の命を代価として、それを国の覇権争いの餌にされるだけの戦い。


 そんな事を納得している人間は少なくとも全員では無い。



 この戦争に参加する人間には実に様々な事情の元にいる。

 

 国によって派遣された兵士達、強制的に参加させられている奴隷または捕虜、そして金の為に働く傭兵達など――――全員が全員国の為に死のうとしているような、そんな者達では無い。


 むしろそんな人間は少数派だ。多くの人間が何処とも知れぬ国の為になんぞ死にたくは無い。

 誰とも知れぬ人間の野望の餌になる事なんぞ御免だったが、それでも殺し合いの世界に身を投じなければならない。


 それでも殺し合わなければならない。



「全隊進軍! 城壁を潜った後は各隊に別れ、廃都の中を散らばりながら進軍! 敵に遭遇した際は各個撃破に入れ! 見敵必殺! 見敵必殺だ! 我が国トルテミアの底力を見せてやれ! 我が国こそ頂点を極めるに優秀な国だと言う事を知らしめてやるのだ!」

 またも怒号のような声が響いたかと思うと進軍が始まった。


 またも巻き上がる砂塵が乾いた口の中に入り込み、咽るような気持ち悪さを多くの人間が覚える。


 しかしながら彼らも分かっていた。これから先もっとむせ返るような、もっと吐き気のするような泥沼を味わう事になる。



 それでも――――それでも彼らの足は止まらない。

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