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第17話

 分かってはいた事だけれども、やはり時は残酷なもので一週間などあっと言う間に過ぎ去った。


 日を追う毎に顔が強張っていく三人娘を目の当たりにして俺はやはりロンドの依頼を受けた事を後悔せずにはいられなかった。三人娘の傭兵仕事の前はいつもこうだ。頭でどれだけ納得していたところで結局は間違っているんじゃないかと疑問を抱いてしまう。


 結論を何度と無く出したところで、もう一度同じ疑問が却ってくる。堂々巡りも良いところだ。



 俺は全く以てつまらない葛藤と闘いつつも三人娘との一週間を堪能している間に時が疾風のように過ぎ去っていく。嵐のように消し飛んでいく木の葉を掴み取ろうとしてもそれらを捉えるのは非常に難しく、苦労して捉えようとしてもそれらは掌から零れ落ちていくばかりだった。 


 

 時間とは得てしてそのようなものなのだろう。


 三人娘の傭兵仕事当日。この日は前回と同様天候に恵まれた。

 少し乾燥しているものの雨などの心配は無い曇り一つ無い青空が広がっている。


 そんな天気の眼下で俺達一向はいつも通りボロ車に乗せられて平原の中を移動した。

 車内の雰囲気は緊張なんて感じる事無く、いつも通り三人娘が無邪気に会話を弾ませる和やかな雰囲気だった。それでも目的地が近づいていくに従って口数は否応なく減っていく。仕方の無い事だった。



「ここだ、カルラ」

 集合場所として指定されていた場所には駐屯地が設営されていて、その中で三人娘を引き連れて彷徨っていると、ロンドが俺達を見つけて声をかけてくれた(真弓は俺達を下ろすと街へ買い出しに出かけた。前回もそうだったが、目的地が街に近かった場合、真弓はついでとばかりに買い出しを済ませる事が多い)。




「ロンド。約束通り来てやったぜ」

「……今日はいつにも増して不機嫌そうだね、カルラ。まーた、この一週間悶々として過ごしていたんだろう? 別にそれが悪いとは言わないが、いい加減吹っ切れなよ。君が不機嫌になる中、お嬢ちゃん達に仕事を紹介している僕の身になってくれ。本当に何処か悪い事をしているみたいでこのままじゃ胃がきりきりと締め上げられてしまうよ」


「分かっていてもどうしようも無い事があるだろう」

「……どうしようも無く、僕は胃酸過多で苦しむのか」


 まあこんな仕事している以上はストレス抱えるのも止むなしか、とロンドは諦観の面持ちで呟いた。

 こいつも苦労人だなー、と俺は呑気にも斜に構える。


 いつもは兎も角として今回は全部が全部俺の責任なのだが、まあ良い。

 ロンドはロンドでこうなる事を分かりきった上で仕事を依頼している筈だから。

 

 ……まあ俺が自身を顧みないのもどうかと思うけど。



 三人娘はロンドとの挨拶もそこそこに直ぐにロンドに連れられて軍部の人間と顔を合わせにいった。

 今日は割と時間が押しているらしく、前よりもよっぽど忙しなく感じられた。


 まあこんなところに来てまでのんびりと過ごしている方がおかしいのだろう。



「はぁー……。これで一段落。僕の仕事は暫く休憩だ」

 暫くして一人帰ってきたロンドは肩の荷を下ろしたような顔で俺の横に腰を下ろし、そして煙草を懐から取り出して吹かし始めた。



「おう、ロンド。三人娘はどうだった?」

 俺は親代わりの義務として三人娘の様子をロンドに尋ねる。



「今日は前回とは違い割とスムーズに行ったよ。指令を務めている軍部の人間も前の軍部の人間――ヒンメルさんとは違い、まあまあ新人類に対しても理解のある人だったし、そもそも今回はあちらさんから僕に新人類の傭兵を呼ぶよう頼んできたからね。これで上手く行かなかったら笑いもんだよ。お嬢ちゃん達も緊張はしていただろうけれども無下にはされてない筈だし取り敢えず大丈夫かな」

「そうか……」

 俺は胸を撫で下ろす。今回、俺はロンドに言われて三人娘と軍部の顔合わせに同行しなかったので心配で仕様が無かったが……。まずは何とかなったらしい。



「カルラ。ちょっとくらいは僕の技量って奴を信用しなよ。僕が君を呼ばない時ってのは大抵の場合に置いて顔合わせで支障が出ないだろうと判断した時だ。つまりはあちらさんに新人類に対する偏見の目が薄い時だね。ヒンメルさんみたいのは極端だとしても危なそうであれば僕は君を絶対に同行させる。呼ばないのであればどんと構えていてくれて良いんだよ」

「そうは言ってなー……、あいつらが俺の元を離れるってだけでも俺は寂しくて寂しくて堪らないんだよ。もう心臓が強張っておかしくなりそうなんだよ」


「君は少しくらい子離れしたらどうだい……」

「無理言うな。あんな可愛い娘達に想いを馳せない時間が俺にある訳無いだろう?」

「そんな事を真顔で言われても……」

 ロンドは情けなさそうな顔で煙草を吹かせた。ロンドもロンドでロリコンの筈だが今回ばかりは伝わらないらしい。どうして俺のこの気持ちが分かってくれないのだろうか。



「それに今日は戦場で例の『彼女』が相手に居るんだろう? なら幾ら心配しても足りないくらいだろうよ。……ああ。心配だ心配だ心配だ」

「まあそうなんだけど。でもだからこそちゃんと言っていただろう? 『アレ』――お嬢ちゃん達はちゃんと持って来ているんだろうね?」

「ああ、それには心配及ばねえよ」

 俺は即答する。彼女達に危険が及ばないようにするのが俺の役割だ。ならばどうして『アレ』を持っていかせる事を忘れるなんてある筈が無い。



「……なら良いけどさ。けどさカルラ、一つ訊いても良いかい?」

「何だ?」

「『アレ』――古代兵装アーティファクトってのは一体何だろうな?」

 ロンドは神妙な顔付きで訊いてくる。



「ロンド……。お前、傭兵紹介業なんて仕事をやっている癖して古代兵装も知らないって…………。そりゃあ少しどうかと思うぞ?」

 俺は呆れ顔をロンドに向ける。それを取り着くろうようにしてロンドは言葉を述べる。



「違うよ。僕は改めて古代兵装ってのが一体何なのか訊いているだけだ。この仕事をやっていて古代兵装知らないなんて事があったらそれはもう仕事を畳む以外の道は無い」

「まあそうだよな……。古代兵装ってのを俺達は当たり前のように認識している訳だが……。しかしあんなものを武器として扱っている方が普通におかしいよな」

 俺は言いながら改めて古代兵装について熟考した。



 確かに古代兵装が一体何なのだろうと問い質されると答えに窮してしまう。

 しかしながら、最も端的にあれを表すのだとすれば答えは一つしか無い。


 それは――――考える事ですら最早馬鹿らしいと言う事だ。



「古代兵装一つ所有しているだけで戦況は大きく違ってくるもんだしね。実際、『帝国』はとある古代兵装一つで近隣諸国一帯を恐怖で以て纏めていたらしいから。それを聞けばアレがどれだけおかしなものか分かろうってもんだよ」

「…………。しかし、まあ。アレは実際のところ、その辺にある古代兵装とは一線を画していたみたいだけど。本当にあるかどうかも疑わしいくらいだし……。それはそうと、ロンド」

「何だい、カルラ。今日は本当、突っかかるね」

「そりゃそうだろ。何せ『彼女』――アトレアだっけか? 彼女も強力な古代兵装を一つ所有しているんだろう? それに聞くところによると彼女も新人類だそうじゃないか。そんなんを相手にして娘達は大丈夫なんだろうか……。もう心配し過ぎてお父さん爆死しそう」

 俺は震える手で髪を掻き毟る。攪拌された脳味噌は心配事を消し飛ばすには効果を発揮するが、それと同時に正常な判断力をも失わせるように思える。



「縁起でもない事を言うなよ。仕様が無い奴だね、ホント。……まったく、こんな奴の何処にお嬢ちゃん達は惹かれているんだろうね。分かんねえもんだよ」

 取り乱す俺の横でロンドは小さく溜息を吐く。何を言ったのか聞き逃しはしたものの様子から察するに俺の悪口でもほざいているんだろう。後で一発殴っておくかな。



「大丈夫だよ、カルラ。アトレア――彼女がどれだけの恐怖だったとしても。『赤き戦鬼』として恐怖を体現する新人類だったとしても、こちら側――お嬢ちゃん達だって心優しき新人類。

 更には古代兵装所有者なんだ。負ける要素なんて殆ど無い。

 だから僕達は胸を張って待てばそれで良いんだ。何なら彼女達の活躍に期待しておくぐらいの気持ちでいないとお嬢ちゃん達にとって失礼に当たるってなもんさ」


「それがどうしたんだよ……。三人娘がどれだけ強かったところで、俺にとっては可愛い少女以外の何者でも無いんだよ。だからそれでどうして期待出来ようってもんだ。今も心配で胸が張り裂けて、それで潰れそうだ。ああああ……」

「はぁ……。少女の事になると異常な執着を見せるところは君の良いところでもあるが同時に面倒なところでもあるね、カルラ。少しは落ち着けって!」

 そう言ってロンドは俺の後頭部をガツンと殴り飛ばす。



「何すんだ、糞野郎! 少女を愛する俺の気持ちの何処が面倒なんだよ!」

「少女を愛する気持ちは僕にも理解出来るが、しかし度を越せば気持ち悪いんだよ! 少しはお嬢ちゃん達の保護者らしくちゃんとしろってもんさ!」

 ロンドは再度、俺の頭部を引っ叩いた。



「テメェ……。そう言えばさっき殴ると決めたばかりだったな。ロンド……どうやら決着を付ける時が来たようだ。腹を括って貰うぜ……」

「望むところだよ、カルラ……。本当にお嬢ちゃん達を労わっているのは誰かと言う事を思い知らせてやる。勝ってお嬢ちゃん達をこの身に抱いてみせる!」

「笑わせてくれるぜ、ロリコンが!」

「はッ! 君みたいな末期に言われるとは思わなかった! 上等だ……真のロリコンをここで決めようじゃないか!」

 そんな言葉を交わし合った後に俺達はロリ王(ロリを愛する頂点を極めし者の尊称。別名は人間失格)を決するべく殴り合いを始め、最終的に戦場に赴く前の挨拶を交わすべく俺達の元へと帰ってきていた三人娘に殴られて止められた挙句「人間とはね……、お兄ちゃん。仲良く支え合って生きるものなんだよ……」などとナナから説教を時間の許す限り受けた。



 そんな中、俺は少女の前で土下座する事に静かな興奮を覚えていたのだが……。


 やはりここは猛省しておくべきなのだろう。


 ……本当、俺は娘達を心配するよりも心配される立場にあるんだな。親として確固たる地位を獲得する為にも立派な人間にならなければ。



 ――――紐だけどね!



 ……早々に決意した目標が生涯を賭けて尚、無理な気がしてきたのはさて置くとして。


 俺は三人娘を笑顔で戦場へと送り出した。



 無傷で帰ってきて欲しい、といつも通りにして本来なら荒唐無稽なる祈りを込めて――――俺は笑顔で彼女達を戦場へと送り出したのだった。

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