第12話
「ふああぁ……。温かい、良いお湯だわぁ……。さすがは真弓さん、いい仕事するわねぇ」
「……うぅ。熱そう、熱そう、ですぅ……」
「ん? 何やってんの、フィオ? 浴槽の前で突っ立って」
「ナナちゃん……いえ……。お風呂っていつも熱いのです……。だから……」
「大丈夫よ、フィオ。こんなのは入ってみればどうって事無いから。ほら」
「きゃあ! な、何すんの、ナナちゃん! お風呂! や、やっぱりお風呂の水は熱いですぅ!」
「あはははは! フィオは我慢が足りないなぁ。こんなお湯であっついなんて――――あ、こら! 湯船から出たら駄目じゃないの!」
「熱い……はぁ、はぁ……な、ナナちゃんは酷いです! ふぃ、フィオが熱いのが苦手だって事、知っているでしょう? ……う、うう。熱い……熱かったですぅ……」
「だからこそよ。フィオが熱いのを克服出来るように協力してやっているんじゃない」
「嘘です! 面白がっているようにしか見えません!」
「否定はしないわ」
「ナナちゃんの馬鹿――――ッ!」
「フィオねぇ……。やかま、しい……」
「でもでもミーシャちゃん。だってナナちゃんったら酷いんだもん。しょうがないですよぉ……」
「いやいや。これはフィオの我慢が出来ないのが悪いのよ。だってあんたより下のミーシャだって普通に湯に浸かっているじゃないの」
「うん……良い、気持ち……。丁度、良い温度だ、よ?」
「そう、かなぁ……。フィオにとっては熱過ぎるように思うんだけど……。水足しちゃ駄目?」
「駄目駄目、この温度が丁度良いの! ミーシャ、協力してナナをもう一度お湯に入れるわよ!」
「……ら、じゃ」
「え? ええ!? だ、駄目……駄目ですぅ――――ッ!!」
「ええぃ、こら! 暴れないの、ミーシャ!」
「やっぱり駄目、熱いです!」
「暫く浸かっていれば慣れるから! ミーシャ、ちゃんと押さえといて!」
「大、丈夫だよ……フィオねぇ……ほ、ら」
「……あ、ん……本当です。熱いお湯が気持ち良いお湯に変わりましたです……」
「フィオは本当、我慢が足りないのよ。いい加減、手間をかけさせないでよ」
「ごめんね、ナナちゃん。お手数かけましたぁ……。ミーシャちゃんもありがとうね」
「……良い。うるさ、かっただけ。だから……」
「うるさいって……ミーシャは中々辛辣だよねー」
「そんな事、ない……よ?」
「そうかな。ま、それはそうとフィオはそうやって我慢が足りない上に暑がりな癖して、どうして服はあんなあっつそうなの着ているの? 夏なのにあのごわごわのスカート、見ているだけで暑くなっちゃうよ」
「確か、に……。暑そう……だ、ね」
「ええと……ううん、違うの。フィオは熱過ぎる水だったりは苦手だけど、別に暑がりって訳じゃ無いのです……。だからスカートは穿いていても別に暑くないの……」
「それでもあの格好が暑いのは変わらないでしょ。そもそもあたし達みたいに戦いに行く人間が着るような服じゃないよ、あれはさ。
あたしだって勿論、ミーシャだって服は当然動きやすいような服着ているじゃない? あたしはホットパンツだったり、裾の短い短パンをはく事が多いし。ミーシャは邪魔にならないような長めのズボンだったりをはいているわよ。でもフィオだけは邪魔になりそうな厚ぼったいスカートだったり、ふっわふわの服を普段か着ているじゃないの。あれ、あたしとしてはちょっとどうかなーって思うのよね。
フィオの普段の恰好にまであたしはとやかく言うつもりは無いけれども、今日みたいに戦いに行く時ぐらいは動きやすいもの着た方が良いんじゃないの? 持っていないんだったら、あたしかミーシャが貸してあげるからさ」
「えーと……あの、その……ああいう服って、えと、身体のラインが出やすいから……。あの、お兄様の前で着るのが少し恥ずかしいのです。ただでさえ最近、太り気味なのに……。だから、例え今日みたいな日であってもフィオはいつもの服を着ていきたい……な……」
「むぅ……。そんなに太ってないように見えないけれど。大体フィオは気にし過ぎなのよ。前から思っていたけどフィオって少し心配性なのよね」
「そ、そんな事無いよ。だってお腹の肉摘まめちゃうですしお胸もどんどん膨らんで……あ」
「フィオッ! あんた、こんな大きな胸持っている癖にまだ成長しているのか――ッ!! くそう、おっぱいお化けの名を欲しいままにする女の名は伊達じゃないのね……くぅー……ずるい、羨ましい……。削げ、そしてあたしに少しくらい分けろ!」
「あ! や、止めて……。な、ナナちゃんッ!」
「ナナねぇ……ま、た……ミーシャねぇのお胸……摘まんで、る……」
「くっそ――ッ! 駄肉、駄肉めぇッ! ずるいわよ、フィオだけこんなに成長して! あたしのなんて……あたしのなんてフィオに比べたら板切れも良いとこなのに!」
「や、やめ……ナナちゃ……ん……、ナナちゃん、落ち着いて! お胸なんて大きい上に嵩張るし、肩も凝るし、そもそもちょっと恥ずかしいし大きいだけ損なんです! だからナナちゃんの方が羨ましいんですよ……。だから、もう止めてぇ――ッッ」
「止めない、止めないわよ、フィオ。だってずるいんだもん。姉のあたしを差し置いてフィオだけこんなに成長するなんて……。フィオもしかして、あたしの成長する分のおっぱい奪ったわね! さすがはおっぱいお化けめ。どうしてあたしのは膨らんでくんないんだよぉ――――ッ! ほら、ミーシャも触ってみてよ、ふわっふわよ、ふわっふわ!」
「ん……本当、だ……。ふわふわして、いる……。ぼくのとも大違い……」
「ちょっと! ミーシャちゃんまで……ん! んんッ! ……いや、もう」
「ぼくも、このくらい……じゃなくても……良い、から……せめて四分の一だけでも欲しいな」
「うぅむ、確かに……」
「でもぼく……は、ナナねぇと違って今から成長期だから。そのくらいは大きく、なる……つもりだ、よ? ナナねぇは……えと、その頑張って、ね」
「……ミーシャ。あんたは賢いんだから、あたしの顔を見れば気持ちが分かるでしょう? フィオのおっぱいを揉みながらも……同じ女の子でありながらも、このおっぱいを仰ぎ見る事しか出来ないあたしの気持ちが……ッ。ミーシャはこれ以上、あたしを傷つけるつもりなの? これ以上の絶望を教えるつもりなの?」
「……ごめん、ね。ナナねぇ。だから泣かない、で……。いや、えと……ううん、湯気……に隠れて今は見えないだろう、から。泣いても良いかも、よ……?」
「二人共話すのは良いけど……。は、早くフィオのお胸から手を放して下さいですッ!!」
「あ、ごめん、ミーシャ。……つい」
「気持ち良かった……よ? ミーシャねぇ」
「まったく……まったく、まったくなのです、まったく……」
「フィオ、悪かった……悪かったからさ。無表情で足蹴にするのは止めてよ……怖い……」
「ナナちゃんは当然としてミーシャちゃんまで加わるなんて……どうかしているとしか思えなないのです! お胸だって、お腹の肉だって付けたくて付けた訳じゃありませんのに……服もスカートも好きにはかせてもらうのです!」
「……まああたし達も悪かったとは思うけれど。あの服は動きづらいんじゃないの? 仕事で着ていくのはどうかとお姉ちゃんは思う訳なのだけれども……」
「あの服は別に動きに支障はありませんし、邪魔になんかなってはいません! むしろ通気性抜群で快適! 動きやすいフォルムを追求した服こそフィオの普段着なのです! だから問題なんて全然ありませんです!」
「頑固ねぇ……。まあフィオがそこまで言うなら良いけど」
「しょうが、ないよ……。ナナねぇ。そっとし、ておこう?」
「そうね……ミーシャが頑固なのは今に始まった事じゃ無いし――――ん?」
「どうしたの、ナナちゃん?」
「いや……何か聞こえるなって思って……。これは……」
「またカルラ、じゃない……かな? 毎度懲りない、ね……」
「…………。お兄ちゃんってばあたし達が『新人類』って事、忘れているんじゃないかと時々、心配になるわ……。身体能力、感覚器官がそれぞれ発達しているって事はそれ即ち、耳も良いって事なのに……。廊下をどれだけ慎重に進んだところであたし達には気付かれるのに……。はぁ……凝り無いんだから、もう……」
「お兄様……フィオの裸が見たいなら……直接言ってくれれば……その……」
「ん……、どうした、の? フィオねぇ……?」
「……え? い、いや何でもないです! そ、それに今はお腹もたるんでいるから、やっぱり駄目ですぅ……。お兄様が覗きに来るというなら容赦する事は出来ませんです、はい」
「……それはそれとしてミーシャ。いつも通り廊下にはブービートラップやら何やら置いてはいるんでしょ? お兄ちゃんという名の変態対策に」
「う、ん……。カルラ悲鳴、上げている、から……ちゃんと機能している、みたい……だよ?」
「なら問題無いね。あたし達はもう少しのんびりとお風呂に浸かっていよー。お兄ちゃんがここまで辿り着けるとはとても思えないしさ」
「そう、ですね……。お兄様が少し可哀想ですが……。でもフィオがこんなにお肉が付いている時に覗きに来るなんて許しませんです。少しは痛い目にあっても良いかと思います」
「フィオ……。あんたは年柄年中、肉溜め込んでいるんだから、今更そんな事言っても無駄でしょうが……」
「う、ん……。それは隠せ、ないと思う、よ?」
「…………。二人共、少し言葉が辛辣ですぅ……」




