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第10話

「カルラ様の無能さは相変わらずですね。本当、お変わりないようで私としましては喜ぶべきでしょうか、それとも悲しむべきでしょうか……。全く複雑なものです」

「真弓。もう後片付けは終わったのか?」

「ええ、一通りは」

「さすがだな」

 やはり真弓は有能と言って間違いない。まあ色々な意味で棘はあれどもそれもまた彼女の余りある高いステータスで補えるだろう。…………多分。



「しかしながらカルラ様。一つ諫言させて戴きますと……カルラ様は少女の気持ちというよりも女性の気持ちが分かっていないのかと思われます」

「女性? 一体何の事だよ?」

「私から言える事はそれだけに御座います」

 それ以降、本当に真弓は口を閉じた。……何が言いたいのだろうか、こいつは。



 ――――とは言え。


「真弓。しかしそれは――仕方の無い事だろう?」

「…………」

 彼女はやはり俺のちょっとした抗議には答えてくれない。まあ……構わないが。



「はぁ……もう。お兄ちゃんってば食後に無駄な運動させないでよね。まったく……」

 そんなやり取りを真弓としている内にコーヒーを飲んで姿を消していたナナが戻ってきた。



「おう、ナナ。お前もコーヒー飲んだ後に口を濯いてきたのか?」

「ううん」ナナはきょとんとした様子で首を振る。

「あたしは口直しに残っていた野菜スープかっ込んできた」

「本当、お前の腹は底無しだな!」

 一体その小さな身体にどれだけの消化能力を秘めているのだろうか。


 本当はこいつ、血管すらも消化器官なんじゃないだろうか……。



「それはそうと……あたしを騙すなんてやってくれるじゃないの……。お兄ちゃんってばあたしが本気出したら一瞬で地平線の彼方までぶっ飛ばせると言う事を忘れないでよ……」

「その言葉が冗談では無く本当の事なのが余計に嫌だな」

 これでナナは『新人類』の中でもより身体能力が高い部類に入るので、彼女のその言葉通り本気になれば俺を一瞬にしてバラバラに出来るくらいの力はあるだろう。


 いやはや……そら恐ろしい限りである。



「まーたそんな事言って。ナナちゃんってばお兄様をどうにかするなんて絶対にしないでしょう? 強がっちゃって可愛いです、ナナちゃん」

「ふぃ、フィオ!?」

 口を濯ぎ終わったのかフィオも帰って来た。


 苦味が残っているのかんべ、とベロを突きだしている。



「うぅ……まだコーヒーの苦みが残っているです……。そんな事よりナナちゃんってばいつもいつでも素直じゃないです……。今でも怖い事があればお兄様のベッドに入り込むくらいのお兄様の事好きでしかも頼りにしているのに……」

「そ、そんなの一ヶ月も前の話でしょう!? そんな昔の事を言うのは反則よ!」

「……いや。それ程昔じゃない上に一ヶ月前までは本当にお兄様のベッドに入り込んでいたんですか……。冗談で言ったのにナナちゃんってばやっぱり素直じゃないです……」

「は、図ったわね、フィオ! お姉ちゃんに対してそんな事して……許さないわよ!?」

「ふふん。やっぱりナナちゃんは甘えんぼさんです……」


「うう……。でもフィオだってどうせお兄ちゃんのベッドに今でも入り込んでいるんでしょ!?」

「……お兄様のベッド、とっても暖かいんです」

「それは羨まし……じゃなくて。それじゃあフィオもあたしに言える立場じゃないじゃない!」

「ナナちゃんはフィオよりも年上なんだから。いつまでも甘えんぼさんだったら駄目なのです」

「くぅぅ……。ズルいわよ、歳の事を言うなんて! で、でもフィオだってもう十一歳にもなるのに失敗ばっかりしているじゃない! あたしを馬鹿にする事なんて出来ない筈よ」

「ええー……例えばフィオはどんな失敗してるです?」

「ええと……あ、そうだ! 三か月前くらいかしら? フィオってばお兄ちゃんに美味しいモノを食べさせるんだ、って意気込んで一人街まで出かけて迷子になった事あったでしょう?」

「……あれは怖かったです。お兄様が捜しに来てくれなかったら……うう、怖かったです」

「そうでしょう! あれが失敗じゃないなんて言わせないわよ!」

「確かに沢山怒られました。けれどあの時のお兄様、すっごく格好良かったです……。泣きじゃくるフィオの元に颯爽と駆けつけてくれるお兄様……フィオを抱えてくれた格好良い姿…………あれもフィオにとっては素敵な思い出です」


「まったく……フィオはいっつも心配かけて……それでいっつもお兄ちゃんに格好良く助けられている……羨まし、……じゃ無かった。そんなんじゃ駄目じゃないフィオ! ほんっと一人だけズルい……でも無い。ほーんと抜け駆けばっかり……ええい! 羨ましいわよ、ホント!」

「…………。ナナちゃんももっとお兄様に素直になれば良いのです。ミーシャちゃんだってお兄様に対しては素直に甘えられるのに……」

「カルラ……いつ、もすっごく優しい……」

「帰って来たわね、ミーシャ。台所から聞いてたけど、あんたもコーヒー飲んだのよね? まだミーシャは子供なんだから無理しない方が良いわよ? もう大丈夫なの?」

「ナナねぇもコーヒー、飲めない、んだから……無理しない、方が良い。ナナねぇも、子供」

「あたしはミーシャ、あんたより二歳も上よ」

「二歳しか、だよ。だからナナねぇ、も……カルラにもっと甘えて、良い……。ぼく、だって雷が鳴って怖い……時……おトイレはいっつもカルラについてきて貰っている……」

「ほら! ミーシャちゃんでさえお兄様に対しては素直になれるですから。ナナちゃんも一緒に寝るぐらいはまだ許されます。一番お姉さんのナナちゃんにもそれぐらい出来るです! 今度は誰も甘えんぼとか言いませんから!」


「それじゃあ今度眠れない時に……じゃなくて! 良いの! あたしはもうそんな歳じゃないんだからね! あんた達と一緒にしないでよ!」

「ほーんと……むずかしいお年頃です……ナナちゃんは」

「強情……」


 ――――と。



 何ともまあ微笑ましいやり取りが始まったのを見計らって、俺は無言を決めこんで様子を伺う事に徹した訳だが……。やっぱり癒されるな、この頃合いの女の子というモノは……。


 コーヒーが無くなって食後の楽しみの一つが無くなってしまったのは至極残念だが、こういう光景が見られたのであれば替えどころか御釣りが来ようと言うモノだ。


 三人揃って抱き着いてしまいたいなー……ペロペロして、擦って、撫でてそれでいて……。

 などと俺が妄想逞しく脳内にロリフィールドを展開させていると真弓が弛緩した空気を絞めるようにして手を叩く。


「皆様。お楽しみのところ真に申し訳ありませんが、そろそろ入浴の時間帯で御座います。夜ももう更けておりますので出来るならお三方揃っての入浴をお願いしたいところなのですが……宜しいでしょうか?」

「おおっと……もうそんな時間帯なのか? 真弓、風呂の準備ってもう出来ているのか?」

 俺ははっと我に返りつつ真弓に確認する。



「先程沸かして置きましたので問題無いかと」

「さすがの手際だな。……じゃあ真弓もこう言っているし三人一緒に入ってきてくれるか?」

「分かりましたのです。じゃあナナちゃん、ミーシャちゃん。お風呂入ってこーです」

 俺の言葉に頷きながらフィオは自室に取って返した。ミーシャも無言でその後に続く。


 ナナもまた、二人に続くようにしてリビングから出ていこうとする最中――――振り返りつつ俺に対して訝しげな眼を向けた。


「……お兄ちゃん。絶対に覗かないでよ?」

「ナナ。それはもしかして俺に向かって言っているのか?」

「もしかしなくともお兄ちゃんに向かって言っているのよ」

「……ふッ。ナナ、お前は全く以て俺の事を分かっていない」

 俺はやれやれとばかりにオーバーリアクション気味に肩を竦めた。



「お前はどうやら俺が女の子のお風呂を覗くなんて下衆な真似をするどうしようも無い愚か者だと思っているらしい。……いやはや悲しいよ。俺がそんな単純な男だと思われている事がな」

「……よく言うよ。お兄ちゃんってば前もお風呂覗こうとしたじゃない」

 そしてその度に俺はお前らから手痛い仕打ちを受けているのだけれどもな。


 だが人間とは学習する生き物なのである。


「ナナ。男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉がある。知っているか?」

「……ええと男の子の成長は早いから三日会わないでいればそれは別人も同然で。即ち侮るなかれって事だった思うけれど。それがどうかしたの?」

「確かにナナの言う通りの意味だ。『男子三日会わざれば刮目して見よ』。詰まる所男子の過去の過ちは既に別人が行った罪も同然であり、そして現在の評価に反映させるべきでは無い。また新たに真っ直ぐな穢れなき眼で見てあげるべきだと言うありがたい教えの言葉なのだよ」

「いや、違うと思うけど……。何都合の良いように解釈しているのよ……」

「兎に角」

 俺はナナの不安を取り除いてあげる為笑顔を向ける。



 少女の不安を取り除いてあげる……それも立派なロリコンとしての務めである。


「俺は女の子の気持ちを蔑ろにして自分の欲望を満たそうとは思わない。女の子が笑顔である事、それこそが最も俺にとって嬉しい事なのだからな。そもそも俺は一糸纏わぬお前達よりも可愛くあろうとするお前達を見ていたい。恥じらいを失くした少女など最早、興味の対象にはなり得ないんだよ。分かるか、ナナ?」

「いや……分からないけれども。まあ何はともあれ覗きは駄目なんだかね、絶対! お兄ちゃんはそこんところをちゃんと分かってよね!」

「分かっているさ。このお兄ちゃんを信用しろ」

 俺は胸を張ってナナへと答えてやる。それを見てナナは口を尖らせながらも頷いた。



「……なら良いけど」



 最後までナナは得心いかぬ、と言った様子ながらも俺に背を向けた。

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