ラスヴェートにて 中編
昨日、大まかな打撃の動きを教えて貰ったフエルサは、今度は複合的な動きを教えて貰う事となった。
「昨日教えたのは、どうやって打撃を繰り出すかという事だけで、それだけでは役にたたん。それらをどうやって混ぜ、扱うかというのが重要な事なんだ。それでだ、昨日教えた事を考え色々使いながら、今日はじぃじに向かって打ってこい。じぃじは、動きながら受けるから気にせずに打ってこい。」
「はい!いきます!!」
返事をするやいなや、フエルサはジャブを出し、ヴィールヒに迫り、逃すまいとワンツーや蹴りを出す。ただ、当てるという事に対しての気持ちが勝ちすぎている為、腰が浮いており軽い打撃になってしまっていた。
「フエルサ!それでは全然ダメだ!昨日教えた事、全然考えてないだろ!」
前のめりになっているフエルサの横に回ったヴィールヒは、怒気を荒げるとともに、フエルサの背中に思いっきり張り手をかまし、フエルサを押し倒した。
「腰はどんな時も、しっかりと落とした状態で戦わないといけない。ちょっと避けられただけで、隙が出来るし、少し攻撃が来れば避ける事も出来なくなる。ちゃんと覚えておきなさい。じゃあ、もう一度!」
当てるという気持ちが、どうしても勝ってしまうフエルサは上半身が浮いた状態での攻撃を何度も繰り返してしまい、その度にヴィールヒに背中に張り手を食らった。昼食までには、ちょっとずつだが繰り返し怒られる度に、マシになっていった。
昼食、休憩を取った後、道場に戻ると先ほどと同じ修行をする事となった。昼食、休憩中に頭の中で、どうすればヴィールヒに当てられるか、そして、気持ちが先行しないで動けるかを考えてたおかげか、午前中に比べ怒られるが少なくなっていった。
「さっきより、マシになったな。じゃあ次は、じぃじも攻撃をする事しようか。左ジャブしか出さんがな。」
打ち込んでいくフエルサに対して、ジャブ一つでフエルサの動きを制してしまうヴィールヒ。上半身が浮いてしまう事は多々あるが、マシになっていたフエルサであったが、直線で動いてしまう為、ジャブを出されるだけで動きを止められてしまうのだった。
「儂が、フエルサの横に回って背中を張っていた事を思い出せ!まっすぐ動くだけではダメだぞ!横にも動いて、さらには回ることもしていかきゃならんぞ!わかったか!本能で動くな、考えろ!」
「はい!」
どう動いて、どう攻撃していくかがわかっていなかったフエルサは、ヴィールヒのアドバイスをきっかけに考えながら攻撃をすることがようやくわかり、動きが良くなっていった。考えることで全体を見ることができ、隙を見つけることができる様になった。その結果、ヴィールヒはジャブだけ対処できなくなっていった、出すつもりがなかった右ストレートを出すことをしてしまった。そのつい出した右ストレートは、綺麗にフエルサの顔面を撃ち抜いた。不意に出した右ストレートは気絶させる程の明らかなクリーンヒットだった。
「ぬ!」
気絶したと思われたフエルサの眼が真っ赤になっていた。赤眼を発動させたのだった。本能的に危険と判断したのであろう。次の瞬間、フエルサのラッシュがヴィールヒに迫った。
「うぉー!!」
さすがに不味いと思ったヴィールヒは、同じ様に赤眼を働かせ、フエルサの攻撃を受け流し、右フックを顎にクリーンヒットさせ、脳を揺らした。フエルサの眼が変わり、ヴィールヒがフエルサの脳を揺らすまでの時間、約8秒。フエルサが魔力切れを起こすまでの時間、あと少しまでしかなかった。
「う、う〜ん。」
「大丈夫か?気持ち悪いとかはないか?」
「うん。ところでなんで僕、倒れてたんだろう?」
「覚えとらんか?」
「うん・・・」
「仕方ないか・・・教えないといけない事だったからな。フエルサに教えといてくれと、ブリージョにも言われてたからな。今、伝える事としよう。じぃじの家系は赤眼という力が使える。この様にな。」
そういうとヴィールヒは金色の眼を、赤眼に変えた。
「この眼になると、力、素早さは普段の3倍ほど強くなる。これは、自分の魔力を力に変える。眼が赤くなるのは、副作用みたいなものだ。じぃじや、ブリージョは多少長い時間使っても、魔力切れを起こして倒れる事は無いが、フエルサの場合、アクアと契約したせいで、魔力が小さい子供並みに少ない。ブリージョが言うには10秒ほど使うと、魔力切れを起こすみたいだ。フエルサみたいな子供が、魔力切れを起こすと2、3日寝込む事となってしまう。その前に、今回は気絶してもらった。」
「そんな力が僕にあったんだ。けど、僕そんな力使った覚えないんだけど・・・」
「今回は、じぃじのストレートでスイッチが入ってしまったみたいだな。どうやら、無意識で動いていたから、覚えていないんだろう。これからは、自分で自分の意思で使いこなせる様にしていこう。じぃじが教えていく。」
「お願いします!」
「任しておきなさい。ただ、フエルサの場合、魔力量が増えるまで、回復するまで10秒しか使えないから、ゆっくりとやっていこう。今日は、倒れたあとだ、今日の修行は終わりだ。休憩にしよう。」
「はい・・・」
フエルサはそんな能力が自分にあった事に驚いていた。同時に、その力が使える事に対し胸が躍っていた。
今はまだ、わずかしか使えない。今後この力は、ダンジョンで起死回生の一手になっていった。
。。。
「ブリージョ。」
「どうしました、お父様?」
「今日、フエルサに赤眼を使わせてしまったよ。無意識だったがな。」
「まあ!で、その事はお伝えに?」
「ちゃんと伝えたよ。今後はそれも教えていくよ。それにしても、フエルサは筋がいいな。気持ちが先に先になってしまうところがあるが、それを上回る位、飲み込みが早い。しかも、修行好きだからな。」
「私達の子供ですもの。当然です!」
「親バカだな・・・まあ、今後も任しておけ。」
「そうゆうお父様もですよ、ふふふ。フエルサの事、お願い致します。」




