ラスヴェートにて 前編
祖父の実家に来ても、朝の日課は変わらなかった。朝早くから起き、水汲みを行い薪割りを行なった。ただ、水汲みの量は道場の分もあるので、いつもより時間がかかった。それが終わると、朝食である。量などは、自宅と変わらぬ量を食べた。朝食が始まるとヴィールヒとの修行が始まった。
「じゃあ、構えから教えて行こうか。まずは、力を抜いて肩幅に立ってくれ。目の前に棒があって、胸の前でその棒を両手で持っている様に構えてくれ。今度は、右足を半歩引いてくれ。自然と右手は好きなところに行くだろう。これが、自然な構えだ。じゃあ、このまま両こぶしをしっかりと握って、左だけを前に出してくれ。まずはこの左だけを出す事を繰り返しやっていこう。」
そう言って、まずは前拳の練習を行なった。ある程度行うと、今度は左拳を出さずに、右拳を出す練習をした。右拳を出す際は、右足の母子球を回転させ、腰を回転させ右拳に回転の力を乗せる様に教えられた。この時に、右拳を捻りがちになるのだが、拳を捻る事で1アクション多くなるとの事で、この流派は右拳を出した時は、親指が上を向く様にするのが基本である。出した拳は、捻って戻すのではなく、そのまま引くのもこの流派の特徴である。
右拳の出し方を覚えると、次に右、左と交互に出すワン・ツーを練習やっていった。これを長時間やっていると、右足の母子球に豆が出来てきて修行もままならない状態になるのだが、ブリージョが科した訓練、アクアの力がそうさせなかった。今日の午前はこの3つの練習だけで終わった。
。。。
一方、フエルサ両親はアクアを連れダンジョンに潜っていた。ダンジョンは深層に近くなればなるほど、凶悪なモンスターが存在する、その分素材などが高く売買される。フエルサ両親はアクアを連れている事と、ダンジョンに久々に潜るという事で、弱いモンスターを相手にする事とした。
「コボルトが二匹こっちに向かって来てるわ!アクアちゃん、私と一緒に一匹相手してくれる。」
『は〜い!』
アクアはそういうと、ピョンピョンとコボルトのところまで跳ねて行き、コボルトの顔に包み込むこんだ。その瞬間、食べ物を溶かす時と同じ様に、消化液でコボルトの顔をとかし出した。必死になって、引っ掻いてアクアを剥がそうと腕を上げると同時に、ブリージョがコボルトの胴を薙いで両断した。ブリージョは、絶命した事を確認しすると、コボルトの胸を切り開き小さな宝石みたいな物を取り出した。。小さな宝石みたいなものは、俗に言う”魔石”であった。
「アクアちゃん、やったね!」
『お母さん、つよ〜い!』
「おーい、俺の事忘れてないかー。」
「コボルトなんて、余裕でしょ?」
「アクアの扱いと、俺の扱い違いすぎないか?」
「そう?」
「もう、いいよ・・・グスン。」
そう言って、ビエントは自分が倒したコボルトの魔石を拾い集めた。まだ、ダンジョンの入り口なので、子供の小遣い程度にしかならない魔石である。しっかりと稼ぐには、もっと深いところまで進まないといけないが、まだ、こっちに来て一日と言う事と、久々のダンジョン、アクアを連れてと言う事なので様子を見ながら進んでいるといった状況である。
コボルトは、魔石以外何かの素材になると言うモンスターではないので、倒したあとはそのままダンジョンに残したままにし、ダンジョンの土に返すのだが、アクアは自分の種を残す事を考え、コボルトを飲み込んで栄養にしようとしていた。だが、コボルトのサイズは子供の大きさ位なので、一体消化するには時間がかかる。そこで、アクアはある程度吸収すると分裂し、分裂した分体をその場に残し、増えていく様にした。
後日談であるが、このダンジョンはスライムが今までいなかった、だが、コボルトを取り込んでは分裂しといった事を繰り返したおかげか、アクア達の後に入った冒険者たちを驚かせる事となった。ただ、消化して増えるだけのピュアスライム(アクア)なので、攻撃性がないと判断され、ピュアスライムはダンジョンの掃除屋として扱われる様になった。さらに、冒険者からは素材が取れなくなったモンスターを貰う様になり、このダンジョンでピュアスライムの楽園となっていった。
閑話休題
その日は、アクア達一行は夕方まで、ひたすらダンジョンの表層で魔石集めや素材集めをやっていった。途中まで慎重にやっていたのだが、ブリージョはテンションが上がってしまい、どんどんとモンスターを狩っていく事となった。そのおかげか、その日の稼ぎは、成り立ての冒険者が稼ぐ数倍の金額を叩き出した。フエルサが出来るまで、最前線で戦ってきた二つ名を持つ冒険者は伊達ではないという事をアクアに見せつける形となった。
。。。
昼食を食べ終ったフエルサは、休むことも修行の一つという事で一時間ほど寝る様に教えられた。その後、蹴りの練習を行う事となった。しっかりと腰を落とした状態から、左膝を腰の位置まであげそこから、正面に蹴りだす前蹴りの練習を行った。これは、相手を懐へ入れさせないための牽制の為の蹴りである。言うなれば、蹴りで行うジャブである。
これが一応のカタチになると、今度は後ろ足を正面に蹴りだす前蹴りの練習をする事をしていった。後ろ足から繰り出す蹴りは、体重が乗りやすいので重い攻撃となっていく。左の前蹴りより、丁寧に叩き込まれた。休息とこの二つをやり終えた頃には、もう日が暮れようとしていた。今日はこれでヴィールヒとの修行は終わってしまった。
フエルサは、もっと修行がしたかったのだが、ヴィールヒが槍の修行もあるという事で許してはくれなかった。祖父と入れ替わる様にして、今度はブリージョとの修行が待っていた。素振りなどは省いて、実戦形式の修行となっていった。村にいた時と変わらず、コテンパンにやられるだけであったが・・・
ブリージョとの修行が終わると、ようやく夕食となった。そこで、フエルサは今日どんな修行をしたのかを話し、アクア達はどんなモンスターと戦ってきたかを話した。そこで、アクアが意外にもモンスターと戦える事を聞き、フエルサは心をときめかせた。
夕食後、村にいた時は父によるモンスター講習会があったのだが、祖父の家にいる間はそういった事はせず、休みをしっかりと取る事を優先させられた。というより、ビエントが疲れ果て、休息を求めていたからだ。
ベットについた、フエルサとアクアはいつもの様に会話をした。
『フエルサ〜。今日はどうだった〜?』
「う〜ん。まだまだ修行できるのに、時間が足りなかったって感じかな。」
『焦らずゆっくりやるしかないよね〜。』
「そんな、アクアはどうだったの?」
『お父さん達のお手伝いしてたって感じかな〜?コボルトに巻きついて〜、ジューって溶かしたり〜、ゴブリンの鼻と口に僕の一部を突っ込んで〜窒息させようとしてたよ〜。けど、僕と一緒に戦っていたのお母さんで〜、お母さんがぜ〜んぶ倒しちゃった〜』
「ジューって・・・ところで、母さんやっぱり強かった??」
『うん!本当に強いね〜。多分、フエルサもあれくらい、いや、それ以上になるんじゃないかな〜?』
「どうだろう?他の人に比べて疲れにくいし、怪我もしないし練習できるから強くなれる要素はあると思うんだけど、今日も、母さんに一撃も攻撃当てれなかったからな〜。」
『そこも、焦らずだよ〜。気がついていないと思うけど〜、僕と出会った時よりも、フエルサ身体大きくなってるもん。そのうち、お母さん抜かしちゃうと思うよ〜』
「ならいいんだけど・・・焦らずか〜。」
『そうだよ〜』
「アクアがそういってくれるなら、一気に強くなろうと思わず、ちょっとづつしっかりと強くなっていける様に頑張るね!」
『その意気、その意気〜』
こうして、ラスヴェートでの修行が始まっていった。着実に自分の力にする為に。
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