ラスヴェートにて 後編
春の息吹を感じる様になってきたラスヴェートで、フエルサは祖父や母と共に修行に励んできた。立ち回りと、自分の能力の使い方を日々研鑽していった。
「打撃、動きともに良くなったな。しかも、いいタイミングで、赤眼を使う様になってきた。」
「ありがとうございます。」
「今日は、じぃじとじゃなくゴンの息子のハチと戦ってもらおうか。手加減なしでだ。」
「はい。」
「ゴン、ハチ入って来なさい。」
ゴンさんは祖父の営む道場の師範代で犬型の獣人である。その息子のハチも、当然のことの様に、この道場に通っている。ゴンさんと戦ったことのある母が言うには、脚力、瞬発力が凄まじく、気がついたら懐に入られ、攻撃されるとの事である。英才教育を受けていた母は、一度も負けたことがなかったみたいだが。
因みに、フエルサが他の生徒と戦うのは初めてのことである。今までは、第二道場で祖父によるマンツーマンでの修行をしていたからだ。今回、ハチと戦う理由は同じ歳という事と、赤眼を使ったえば、ほぼ互角といえる瞬発力を持っているからである。
「「失礼します!」」
「じゃあ、ハチとフエルサ両者向き合って!始め!」
お互い、初見という事もあり出方を伺っていた。まず先に動いたのはハチであった。
「とりゃ!!」
やはり、ゴンと同様に瞬発力を武器にしたスタイルで、フエルサの懐へ一気に入っていき、連続した攻撃を繰り出していった。だが、フエルサはその攻撃を盡く捌き、躱していった。以前のフエルサであれば、捌く事も、躱す事も出来ずに簡単にやられていたであろう。だが、祖父に鍛え上げられ、また、無駄な休憩を必要としない身体のお陰で、普通の人間に比べ長時間、修行出来たのが今成果として出ている状況だ。
盡く捌かれ、躱される事でイライラが募ったハチはギアを上げ、フエルサに迫った。自慢の脚力を使って、左右に体を振ることでフェイントを入れ、色んな位置からワンツーや回し蹴りを繰り出していった。先に動かれた事で、防戦に回ってしまったフエルサは、ギアの入った動きに対し躱す事が難しくなっていき、捌くことでなんとかダメージのある攻撃を貰わないようにしていた。
このままではマズイと思ったフエルサは、赤眼を使うことにした。
「セイ!」
赤眼を使った瞬間に、一気に横に動き、右のフックを繰り出した。明らかに動きが変わった事に驚愕したハチは、ヤバイと感じ、まっすぐ後ろに下がってしまい、それによって完全に防戦に回る様になってしまう事となった。
まっすぐ下がることは、攻撃を出す側に非常に有利な態勢となってしまう。攻撃側は回り込まれない様に気をつけていれば、背に背負うものもないからだ。そう、まっすぐ下がれば、壁を背負う事となってしまうのだ。案の定、ハチは壁に張り付く形となってしまい、逃げることが出来ず、フエルサの攻撃をまともに受ける事となった。
「それまで!!」
「「ありがとうございました!」」
フエルサにとって、初めての勝利であった。
「強いなー!お前!流石、師匠の孫だな!同い年の奴に初めて負けたよ!」
「いやいや、そんな事ないよ!始めに、懐へ入られた時はビックリしたよ!すぐにやられるかもって思ったもん。」
「あんなに捌いたり、躱したりしながらよく言うよー!まだまだ試合しよぜ!いいだろ親父!」
「道場では先生だろ!ハチ!」
「ごめんなさーい。いいだろ、先生!」
「いいですか、師匠、フエルサ君」
「構わんだろ。な、フエルサ。」
「もちろんです!やろうよハチ君!」
「やったー!次は俺が勝つからな〜!」
それから行った試合の結果は、一進一退の状況だった。疲れ知らずだが、回復するまで赤眼が使える時間が使えなくなるフエルサ。連戦するうちに疲れ出してしまうが、持ち前の瞬発力が生きるハチ。それがお互い楽しくて堪らなかった。夕食の時間が来るまで幾度も幾度も行った。拳を重ねるごとに、心を通わせていき、その日の修行が終わる頃にはまるで昔から知っていた友の様になっていた。
「今日は楽しかったな〜!フエルサ〜」
「楽しかったね!ハチ君!また、やろうね!」
「おう!またやろうな!けど、そろそろ森に帰るんだろ?」
「うん・・・いつかはわからないけど。」
「森に戻る前にさ、一緒に街の外で狩りに行かない?武器も使えるんだろ?」
「槍なら使えるよ。ところでなんでダンジョンじゃなくて、街の外なの?」
「ダンジョンは何があるかわからないからね。突然床が抜けて、下層へ突き落とさられたりもするし。それに、街の外はあまり強い魔獣も出ないし。親父いいだろ?行っても!」
「だ・か・ら先生って呼べって行ってるだろ!」
『ゴ!』
ゴンのゲンコツがハチに飛んだ。
「師匠が許してくれるなら、お嬢さんも許してくれるだろうけど・・・どうですか、師匠?」
「槍の使い方も様になってるし、いいだろ。ゴンの非番の日にでも連れて行けばよかろう。」
「はい、師匠。と、いうことだ。フエルサ君もお嬢さんに伝えておいてくれ。」
「わかりました!ありがとうございます!」
こうして、街の外での狩りの予定が決まった。
その頃、アクアを連れたフエルサの両親は。
。。。
「ソリャ!ウリャ!今よ、アクアちゃん、やっちゃってー!!」
『は〜い!酸弾行くよ〜!!』
ダンジョンに、フエルサの両親と一緒に潜るうちに考え出した、アクアの技で、体内の消化液を圧縮し、加速させ敵に飛ばし溶かす技で、リトルドラゴンのプチファイアーを真似た技である。
対峙していたオークの胸を、溶かし貫通させ、絶命させた。それまでに、ブリージョが散々痛めた後で、アクアの攻撃が通りやすい状態にしてあったのだが。
「酸弾いいね〜!破壊力抜群!」
『えへへ〜。僕も頑張って強くならないと、フエルサの力になれないもん!』
「アクアちゃん偉い!そろそろ、狩りに出る約束の時期だしね!」
アクアもブリージョ達に支えられながら、着実に強くなってた。フエルサと共に狩りに出る為に、ダンジョンで色々なモンスターと戦いながら。上層のモンスターであれば、囲まれなけれれば問題なく倒せるくらいに。
すでに、アクアもフエルサも十分な力を付けた。あとは、フエルサとアクアのコンビネーションがどの位で、どの位の敵に通用するかである。まずは、街の外での狩りがお互いの力を披露する場所だ。




