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1話

短編として纏めようと思っていたのですが、なんとなく早く投稿したくなり連載小説と相成りました。まぁ10話もいかずに完結までいくとは思いますが。しっかり終わらせたいですね。出来上がり次第投稿形式であります。忙しいので頻繁には投稿できませんがご了承ください。5月中には完結まで持っていきたいと思っております。

「…………」

 昼休憩の時間の学校の廊下を一人の少女が行く。その少女が歩くと、自然と人波は割れ通り道ができる。

「ちっ」

 彼女が舌打ちをすると周囲の人は息を呑む。みんな彼女を恐れているのだ。その風貌から恐れを抱いているのだ。

 金髪。上着を肩に背負い、口に白い小さな棒を加えている。化粧は薄いが目つきは鋭く、視線を向けるとまるでメドゥーサに睨まれたかのように相手は硬直してしまう。ワイシャツは第2ボタンまで開放し、スカート丈はかなり短く、上履きもかかとを踏み潰している。

 この学校は比較的裕福な家庭な子が多く、坊っちゃまお嬢様が多い。そのため、彼女のような見た目に免疫が無いのだ。

 そんな彼女には友達がほぼいない。言葉も少ないし、若干下向き加減で歩くため声もかけづらい。まぁその前に見た目、目つきが怖いのが最大の原因か。

 そんな彼女がある教室の前で止まる。俺の教室だ。

 彼女は誰かを探すようにこそっと中を覗き込む。そして探し人がいなかったのか、扉に背を預け、足元を見ながら待つことに決めたようだ。

 ……ま、その探してる人は俺のことなんだけど。

 俺は素知らぬふりして彼女の前を通り、教室の中に入る。すれ違う瞬間、彼女が一瞬視線を上げた気がするが、まぁ気にしない。俺は席にかけてあるカバンを持ち、教室を出る。俺も親友と呼べるほどの男友達はいないため、別に一人で昼食を取ろうとしても誰かに呼び止められることはない。

 教室を出ると割れていた人波は元に戻っている。どうやら彼女がこの場所からいなくなったようだ。

 ま、行き先は分かっているけどね。今日は月曜日。向かったのは――屋上だ。



 ◇◇◇



 カンカンカン。俺の足音が響く。ガチャリと屋上へと続く扉を開け放ち、俺の視界へと入り込む陽光を片手で防ぐ。屋上へと上がると、一陣の風が吹き抜ける。思わず目をつむる。そして目を開けた先にいたのは……。

「おまたせ」

 金髪で目付きの怖いあの彼女だ。

 俺はカバンを肩に掛け直し、彼女に近づく。彼女はベンチに座っていて本を読んでいた。ちらりとその本を覗き込んで見ると、何やら難しいカタカナや数字が並んでいる。……ただの本ではないようだ。

 彼女は俺を見上げ、パタリと本を閉じる。俺はその隣に腰掛け、カバンの中から2つの弁当箱を取り出し、小さな方を彼女に差し出す。

「あんがと」

「ん」

 彼女の小さなお礼に頷き、俺は弁当箱を開け昼飯を食べ始める。彼女もまた俺に習い、昼飯を食べ始める。

「おいしい。……いつもありがとう。ほんとに」

「ん~。気にすんな」

 程なくして彼女からのお礼が再びくる。それは今の彼女の精一杯のお礼だ。それはよく分かっている。それに俺はいつも通り適当な返事をする。まぁ飯も食いながらだし、おざなりにはなるわ。

 これら一連のやり取りは学校のある平日は毎日繰り返される内容だ。

 俺は口一杯飯をもぐもぐしながら空を見上げる。雲一つない透き通るような青。その美しさにも負けないほど綺麗な隣りに座る彼女。目つきは鋭いけどな。

 口を動かしながら彼女を少し見つめていると視線に気付いたのか、彼女は俺を見つめ返してくる。一見ロマンチックな雰囲気に見えるが、やはり見つめられているというより、睨まれている、だな。基本的な容姿は綺麗なのに。勿体無い。

 俺はご飯を飲み込み終わったため、視線を再び弁当に戻し、続きを食べ始める。表情に変化の少ない彼女は何を思ったのか分かりづらいが、彼女もまた飯の続きを食べ始める。

 そんな変わらぬ日々は約2年、続いている。



 ◇◇◇



 俺の名前は柳沢新一(やなぎさわしんいち)。そして彼女の名前は黒田愛瞳(くろだまなみ)。共に15歳の高校1年生。

 俺らのような関係がなぜ2年間も続いているかというと、家が隣同士であったということ。そして、彼女の父が2年前に他界したということ。更には、俺の両親が離婚していたという事実が関係している。

 彼女の家族はまぁよくある一般的な家庭だった。3人家族で仲も良く、俺の両親のような関係など一切なかった。俺の両親は離婚したんだ。母さんの浮気。あまりに仕事で忙しい父さんに愛想を尽かしたのか、寂しかったのか。理由は分からないけど、とにかく母さんの浮気が原因で両親は離婚した。そして俺は父さんに付いていった。

 ま、俺のことはどうでもいい。彼女の家族の話だ。両親の離婚後、越してきた家が彼女の隣だった。それが彼女との繋がりの始まりだ。

 俺に母さんがいなくなったことから、家事関係は全て俺がこなすこととなった。ご近所付き合い含めて。父さんはとにかく忙しい人だったからな。

 だから俺は引っ越し当日に挨拶として彼女の家に行ったんだ。インターホンを押して出てきたのが、彼女だった。その日は休日だったから彼女も家に居たというわけだ。

 そして彼女と出会い、俺はまず思った。

 ――目つき怖っ!

 まるでギロリと効果音でも付きそうな一睨みだった。両親の離婚間もない俺の不安定な精神もビビらせるほどの目つきだった。まぁその雰囲気も一瞬。俺はそんなの気にしないことにした。「そんな人もいるだろうし、付き合いも殆どなかろう」とその時は思った。

 そして彼女の後ろから母親がやってきた。ニコニコと笑顔でやってきて、まぁとてつもない美人さんだったね。彼女の容姿に似ている箇所は多いけど、目に関してはどうやら父譲りなようだなと俺は思っていた。

 俺は簡単に挨拶を済まし、引き上げた。あまり長居する意味もないし、荷物の片付けやらたくさん残っていたから。

 そして俺は翌週の月曜から地元の中学に通い始めた。そこで転入した先のクラスに彼女が居たのだ。まぁそこでも既に彼女は孤立していたんだけど、俺は唯一の知り合いということで彼女に色々教えてもらうことにした。彼女とコミュニケーションを取るのはなかなか難しかったし、彼女と接することで俺も浮いていく一方だったため、ますます彼女と話すしかなくなっていた。

 そんな彼女も、家族といる時は楽しそうに笑ったり話をしたりしていた。開け放たれた家の窓から楽しそうな声が聞こえた時は軽くビビりましたね。思わず三度見したけど、可愛い顔して笑ってるんだもんな。

 彼女とのよく分からん関係が続いていたある休日。彼女の父親が家を訪ねてきた。何事かと思ったら、どうやら近いうちに海外へ出張するとのことらしい。最初はそんなことで? と思ったけど、出張先の国が問題だった。その国は今とても情勢が不安定で1ヶ月の期間でも何が起きるか分かったもんじゃないという状況だった。

 そのため、彼女の親父さんにもし万が一何かがあった時、娘と妻を頼むと頼まれたのだ。何故に付き合いも短い俺たちに? と聞いたが、どうやら彼女たちもこっちに越してきて間もなかったらしい。そんな中俺達が越してきて、彼女が休日の夕ご飯で俺のことを楽しそうに学校の出来事の中で話すじゃないかと。それで少しでも知っている人にと、ということらしい。その時はまぁ思ったね。「なんてめんどいことを頼まれてしまったんだ」と。「1ヶ月の間でそんなまさかの事態なんてそうそう起きやしないだろ」と。

 でも彼女の親父さんの不安は的中してしまった。世界はまさに残酷で非情だ。

 親父さんの出張先の国でテロが起きたというニュースが流れた時、俺は不安だったが次の日の学校に彼女は普通に登校していた。いつも通り変わらぬ様子で。しかし、翌週。彼女は学校に来なくなった。

 俺は学校の帰りに彼女の家へ寄った。引っ越ししてきて以来一度も訪ねていない彼女の家。それがこんな理由で訪ねることになるなんて思ってもいなかった。

 インターホンを何度か押したけど、反応はなかった。心配になって庭へと周り、家の中を除くと彼女はリビングでうずくまっていた。彼女の周りの空気はとても、暗く、重かった。

 窓をノックしてようやくこちらを見てくれた。ノロノロと立ち上がり窓を開けてくれたのでお邪魔する。家に上がったはいいけど、俺は声をかけることができなかった。しばらくすると、彼女から嗚咽が聞こえてくる。俺はどうしたらいいのか分からず、彼女の肩を抱き寄せこう告げた。「頼れ。……守るから」。彼女の涙は決壊した。

 翌週から俺は彼女の母代わりに弁当を作ってあげることにした。彼女の母親は父が亡くなってから暫くして仕事を始めた。朝早くから夜遅くまでの仕事を。幾つかの仕事を始めたようで、休みはない。

 俺は彼女の母に手紙を書いた。親父さんにもしもの時は、と二人を頼まれていたこと。俺が彼女の弁当を作ることを。

 何故俺が彼女の弁当を作ってあげようと考えたのか。それは少しでも節約してほしいことと、彼女が壊滅的に料理関係がダメだということがあったからだ。彼女の母から帰ってきた手紙には涙で滲んだあとがあった。単純だとは思ったけど、俺はその時から覚悟を決めた。

 途中彼女たちは高校への進学と同時に高校の近くにある安アパートに引っ越して行った。あぁそう。彼女は頑張りに頑張って今俺達が通っている有名高校の特待生で受かったんだ。まぁ俺は彼女がそこに行くと聞いてから猛勉強して普通に受かった程度だけど。

 これが2年間続く、俺と彼女の関係だ。



 ◇◇◇



 そんなある日。その日は雨が降っていた。午後の授業も終わり、特に部活にも入っていない俺はいつも通りさっさと帰路についていた。傘を差し、駅までの道を歩いていると、ものすごい勢いで傘を差さずに走り抜ける人を見た。愛瞳だった。

 声をかける間もなく、彼女は駅を通り過ぎ反対側へと行き、家へと走り抜けていった。

 彼女の家は高校の最寄り駅を挟んでだいぶ離れた位置にある。いつもは自転車通学で。今日の日のような雨が予想される日は徒歩で通っている。普通なら歩く距離ではなく、バスを利用したいくらいの距離だが、彼女は少しでも節約するために自転車と徒歩で通学している。

 にしても歩きで帰っているということは雨を予想していたと思うんだけど、傘はどうしたんだ? それとも雨が降ることを知らずに自転車通学して、雨が降ってたから乗らずに帰った感じか? でも愛瞳がそんなドジすることはないと思うんだけどなぁ。折りたたみくらいは持ってそうだし。

 俺は少し心配になって彼女の家に寄ってから帰ることにした。


「お邪魔するぞ~」

 俺は愛瞳の母親から貰っている合鍵を使い、彼女の家に上がる。

 安アパートなだけあり、とてもじゃないが広いとは言えない。玄関から入り、右手にトイレと風呂場が一緒になった部屋があり、その先にキッチンとダイニングがあるだけだ。リビングと呼べるスペースはなく、余分な部屋もない。それともダイニングであり、リビングでもあると言うべきか。とにかくここは二人暮らしにしても狭いということだ。

 風呂場からはシャワーの音が聞こえる。どうやら雨に濡れて帰ってきたのは間違いないようだ。その間にでも温かい飲み物でも作っておくか。

 俺は勝手知ったる台所でお湯を沸かし始める。そして俺のカバンに何故か入っている生姜湯の粉をコップに入れ、お湯でかき混ぜる。

 ちょうどよく冷めた頃になって、風呂場から愛瞳が出てきた。

「……」

「よっ。お邪魔してるぞ」

「なんでいんのよ……」

 頭にタオルを被り、ラフな格好で彼女は出てきた。無地の大きめの白Tシャツに白短パン。どうやらブラは付けてないご様子のため大きな胸が主張しております。ま、今更気にする仲でもないか。

「ほら。飲みな。生姜湯だ」

 俺は彼女の前にコップを差し出す。彼女はそれを両手で受け取り、暫くコップを見つめていた。

 俺はそんな彼女をちゃぶ台の前に座りながら見上げていた。すると、彼女の顔が徐々に歪み始める。嗚咽が漏れ始め――

「なんで来るのよ。今日に限って。来てほしくなかった!」

 彼女はちゃぶ台にコップを置きながらしゃがみ込み膝を抱えて泣き始めた。

 ――こらなんかあったな。いじめ、だろうな……。

 坊ちゃまお嬢様なあいつらに、愛瞳をいじめる度胸があったとは。

 俺は彼女の隣まで移動し、彼女を大きく抱きかかえる。頭にも手を置き、優しく撫で続ける。かける言葉はない。ただ、静かに抱きしめるだけだ。彼女の泣き声は止まなかった。


 午後7時。俺は何もない部屋で横になってくつろいでいた。俺の胸の上にはまるで赤ちゃんのように泣き疲れて眠ってしまった愛瞳がいる。彼女の髪を撫でながら、俺は変わることのない天井を見つめ続けた。

 彼女からは何も聞けていないが、なんとなく、予想はついた気がする。何故、愛瞳が傘を差さずに走っていたのか。それはおそらく、濡れている姿を雨で誤魔化すためだろう。学校のトイレかどっかで水でもかけられたか。そんな感じだろう。

 俺の胸の内にはフツフツと怒りの炎が燃え上がっていた。

 どうやって仕返しをしてやろうか。俺はそれだけを考えていた。全く同じやり方でやり返すのも味気ない。そもそも暴力やいじめで仕返しとか、頭の悪いガキのやることだ。この場合は大人に訴えるのが一番かもしれない。学校の先生にまずは伝えて、そこで何かしらの対応をしてくれたのなら、それでよし。何もしないというのなら警察にでも通報するか。こういうのは早めがいいからな。

 俺は静かなる怒りを覚えながら、金曜日の夜を愛瞳の家で過ごした。明日が土曜日でよかったよ。

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