shot 027
「アンにはわたしに手を貸して欲しいの。つまり、アキと同じことをやってもらいたいのよ」
「うぇえ!?」
やっぱり! と思った。
アキと同じことをやる、ということは、学校のメインコンピューターに侵入して、生徒たちの個人情報を改ざんする、ということ。
わたしが。
予感がこんな形で当たるなんて、喜ばしくもなんともない。
どうせ当たるのなら、キャリーオーバー中のロトでも当たればいいのに、と欲望丸出しのことを考えながら、わたしは両手をわたわたと振った。
「む、無理だよそんなの。そんな技術ないって」
「大丈夫よ。腐ってもウェブ科の学生じゃない。アキからも毎日教わってるんでしょう?」
確かにご教示はいただいているが、わたしは本当に物覚えが悪くて、いつも怒られてばかりなのだ。
学校のテストでも、上位に名前があがったことは一度もない。
そんなわたしにそんな高度な指令、絶対に無理だ!
それに、ナカジマたちにあれほど酸っぱく現場に出るなと言われているのに、そんなことがバレたら大目玉どころでは済まないし、何よりシィラの悪巧みに加担したことが知れたら、それこそアキに殺されてしまう!
「嫌だよ、絶対に嫌だ!」
わたしは回れ右をして、シィラに背中を向けた。
そのまま走り去ろうとした首にチョークスリーパーをかまされ、後ろにのけぞる。
「無理無理! 絶対に無理! できない!」
苦しくて、巻き付いた彼女の腕を力任せにパンパンと叩いた。
でも、彼女は離そうとしない。
細いのに筋肉質の腕が、わたしの首をしっかりと固定して身じろぎひとつさせない。
『タバサ』の面々は銃器の扱いだけでなく、こうやって武道にも長けていたりするから、まったく感心するというか、タチが悪い。
「大丈夫よ。できるできる」
「わたしを過信し過ぎだって!」
「わたしも手伝うから」
「シィラがパソコンに向かってるところなんか見たことないよ!」
「失礼ね。わたしだって一応義務教育は受けてるんだから」
「シィラだって知ってるはずじゃんか! わたしは現場に出ることを禁止されてるんだって!」
前へ踏み出そうとする足が、エアロバイクを漕ぐようにその場で宙をかく。
「知ってるわよ。だからバレないようにやるから、大丈夫」
シィラはこれでもかと粘りを見せた。
ここまでの恨みをつのらせるほどの、いったいどんな仕打ちをアキにされたのだろうか。
「オーレに頼めばいいじゃん!」
「だめよ。もし万が一見つかった時に、彼が一枚噛んでたってわかったら、アキのことだもの、彼を半殺しにするだけじゃ済まないわ。それはちょっとかわいそうじゃない」
「わたしはかわいそうじゃないですかぁ!? わたしだって、見つかったら殺されるよぅ。嫌だよ、バージンのまま死にたくないよぅ」
「タダでとは言わないから」
「――――え?」
突然の申し出に、暴れていた両足が思わず落ち着いてしまう。
少しだけゆるんだ腕の隙をついて、そろそろと背後へ顔ごと視線を回す。
至近距離でシィラが魅惑的な表情をして微笑んだ。
「アキが呑んだバルチカの空き缶でどう?」
「の」
わたしは、自分の胸の奥でポコポコと高揚感が湧き出すのを感じた。
「乗った」