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9 ライトニング・マチェット

 引き続きチェックポイントを巡って先生からアイテムを受け取る。


「フリッツ・ヘルメットがもらえるとは、なかなかいい」


 フリッツ・ヘルメットとはドイツ風の耳元まで保護できるヘルメットで現代ではアメリカ軍などに導入されていたものだ。

 遺跡が俺たちの世界からその形を取り入れて広めたらしく木製だが存在している。

 まぁ、本物もケブラー繊維などで作られていて鉄製ではなくなっているのだが。

 木製故にモータースポーツ等で事故時に頭を守るために使われるクラッシュ・ヘルメットに近い性質のものとなっている。

 抗弾性のあるバリスティック・ヘルメットに比べ防御力は低いが、それでも低位の魔物の爪や牙、短剣程度では貫通できないし、軽量でぶつけても大きな音を立てないため隠密行動ステルス・エントリーには向く。


「あぅ、似合う? コジロー」

「ああ」


 フリッツ・ヘルメットをかぶったカヤが嬉しそうに聞いてくるので、うなずいてやる。

 体力があるために先頭に立って被弾しやすいカヤには有用なものだった。

 カヤは元から支給されていたタルのフタを加工した木の盾を身につけただけと、防具にはまったく金をかけていなかったし。

 木製なので、カヤの狼の耳を収める部分を自分たちで削ることができるしな。


「ケープももらえたしな」


 肩を覆う短い外套はネコビトの姿を取っている俺にも身につけられる。

 防御力が少々上がるし、何よりおしゃれだ。


「ヒーリング・ポーションやアンチドーテ、リターン・クリスタルなどの消耗品は取っておくとして、それ以外のアイテムは売り払うか」


 俺たちはふもとの村に戻ると、倒したモンスターの毛皮や肉と共に使わないアイテムを売り払い金を作った。


「これなら新しい武器を買えるな」


 鍛冶屋に再び向かうと、突貫で鍛え上げたのか俺たちが持ち込んだ素材で造った注文の品が仕上がっていた。


「どうだ、ユスティーナ?」

「はい、こちらですね」


 ユスティーナのために用意されたのは山刀、マチェットだった。

 ナタの一種だが、日本のナタは肉厚の刃が持つ重さで対象を割るのに対し、マチェットはそれより薄く、長くできていて振り回す遠心力で対象に斬りつけるものだ。

 比較的柔らかな熱帯、亜熱帯のジャングルを切り払うのに向いていて、ブッシュ・ナイフとも呼ばれる。


 メイドは隠密技能があるため盗賊系の職業に分類される。

 ショート・ソード程度の長さのマチェットは妥当ともいえる武器だったが、楚々としたメイド服とのギャップが凄い。

 重心が先端の方にある大ぶりの刃は勢いをつけて振るえばクリティカルも出るだろう。


「ようし、中々いい出来だ」

「ええっ、こんなザラザラの表面に穴が開いてるようなものが?」


 銀ではなく灰色に見える地肌を見せる刃にターニャは懐疑的だ。


「ああ、刃金を挟んでいる軟鉄は錬鉄だからな」


 俺はそう答える。

 日本刀や和包丁などと同じく硬い刃金としなやかな軟鉄を張り合わせて刃物を造る鍛接が行われているのだ。


「れんてつ?」


 カヤが首を傾げる。


「錬鉄は石製の溶鉱炉で還元され、石英質の還元補助剤を多く使用した鉄だ。表面に見える白い点々は石英質の介在物だな」


 俺は皆に説明してやる。


「やたらと錆に強いのが特徴でその分、メンテナンスも簡単で耐久性も高い」


 確かヨーロッパなどで古い建物に使われていたはず。

 現代でも錆びへの強さから水道管に使われていたか?


「見栄えはともかく俺たちが使う武器にももってこいだよな」


 そして鑑定して確かめる。


「ふむ、やはり小とはいえ雷属性が付いたか」


 鍛冶屋の主に断って、クリスティーナに試し斬り用の木製ポールに斬りつけてもらうとバチッと火花が散る。


「へっ、マジック・アイテム?」


 あっけにとられるターニャ。

 カヤとユスティーナも驚いている。


「この世界、エインセルでは宝石は魔力を宿すという。石英、つまり微細な水晶を鉄に練り込んだんだ。それで武器を作れば多少とはいえ魔力を持つのも道理だろう?」


 水晶は水、もしくは氷の属性を持つが、雷のダメージを出すことができるのは圧電体としての性質を持っているからだろう。

 だからこそ命中したインパクトの瞬間に電撃を発する訳だ。


 ライトニングシリーズは、ソシャゲ、リバース・ワールドでもふもとの村の鍛冶に素材を持ち込んで武器を造ってもらうとまれに出来上がる品だった。

 この武器を造るには普通なら引き取ってもらえない屑石を持ち込む必要があって、しかし持ち込んだとしても低確率でしかできない。

 俺はこの屑石の種類に秘密があるのではと思い石英を持ち込んでみたのだが、大当たりらしい。

 地球にも錬鉄を用いた武器としてクリスナイフが実在するが、これもゲーム等ではマジック・アイテム扱いされる品だしな。


「カヤにはこいつだ」


 シールダーの特性上、使える武器に制限のあるカヤのために用意されたのがスタン・バトンだ。

 一見、ただの鉄の警棒のようにも見えるが、やはり雷属性(小)が付いていて、敵を痺れさせ一時的に行動できなくするスタンの追加効果を持つ。


「ありがとう、コジロー」


 カヤは嬉しそうに柄に付けた革ひもの長さを調整し、握り具合を確かめていた。


「そ、それじゃあアタシにも……」


 自分にも武器を欲しがるターニャだったが、


「お前にはムチがあるだろう」

「それはあんたに譲るから。アタシは剣でいい」


 ムチでスキルを連発するのが大変だからというのが見え見えだった。


「ムチを使うのは一番筋力があってダメージを叩き出せるお前だ。剣なんて使わせねーよ」


 幼児みたいにしゃがみこんで駄々をこねるターニャを、無理やり立たせる。


「立てよオラッ!」

「いやあああっ」

「クックックッ、勇者になったのがお前の運の尽きだ。俺の攻略の礎になってもらうぞ、ターニャ!」

「お家に帰るー!」


 そうか、帰りたいか。


「そんなに家に帰りたいんだったら帰ってみるか?」

「へっ、いいの?」


 俺の薦めに、ターニャはあからさまに嬉しそうな顔をする。


「現金なやつだ」

「いいじゃない。いい話には即断即決ってね」

「お前のようなのは無慮短絡って言うんだ」


 やれやれだ。


「ご主人様?」


 本当にいいのかといった様子で俺の方を窺うユスティーナに、俺はこう答える。


「どうせまだトレーニング用ダンジョンの実習期間中だから、授業も無いしな」


 実習が終わるまでに養成所に戻って来れば問題あるまい。


「でもターニャ様のご実家は王都ですよね。馬車でも二日はかかりますが」

「だからトレーニング用ダンジョンの深部にあるワープゲートを使うんだよ」


 トレーニング用ダンジョンの奥には今回の実習の対象外になっている区域があり、そこには王都へのワープゲートがあるのだ。

 ただし、


「あそこには、より強力なモンスターが出ますよ」


 それが、便利なはずのワープゲートが利用されていない理由だった。


「もちろん、その辺は頑張るさ。な、ターニャ」

「えぇーっ」


 今更後悔しても遅い。

 自分の発言には責任を持ってもらうぞ、ターニャ!

 ここには貴様の『カリスマ』とかいう謎の力に操られる、リア充にかしずく下僕どもは居ないんだからな。




 今までユスティーナが使っていたハンティングナイフを売却して、ヒーリング・ポーションを買う代金に充てる。

 普通なら俺がお下がりとしてもらうところだが、俺なら戦闘中は魔術を使っていればいいから割り切って無しでもいい。

 そして、


「コジロー、今度はアユが獲れた!」


 川に仕掛け直した罠、フィッシュポットの様子を見に行っていたカヤが歓声を上げながら帰って来る。

 どうやら今度はアユがかかっていたようだ。


 そういえば川では岩に付いたコケに、アユの食み跡と呼ばれる二本の線が入っていたっけ。

 アユは川底の岩に体当たりするかのように泳ぎ、表面に付いたコケを食べるのだ。


「見事な大物だな」


 カヤが持ってきてくれたアユを見る。


「この時期のアユは塩で焼くだけでも十分美味い。捌いたら串に刺しておいて、今日の昼飯にしよう」


 日本でも初夏から始まるシーズンにはアユのために遠路はるばる釣りに行く釣りキチは多い。

 彼らは本当にアユ釣りに狂っていて、目の色を変えてアユを追うのだ。


「酒にも良く合うしなぁ」


 そう言うと、


「あぅ……」

「ううっ」


 食いしん坊なカヤはもちろん、ターニャまで目の色を変えた。


「あらあら」


 ユスティーナはそんな二人を見て相変わらず優しい笑みを見せるだけだったが。

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