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8 ショーブ下着?

 そして翌日。

 ふわふわとした雲の上に居るような眠りから覚めると外が白じんでいた。

 起きることにして大きく伸びを一つ。

 窓から外を見ると朝焼けと川面に漂う水蒸気が幻想的な風景を形作っていた。

 昨晩泊まったこの村唯一の宿は古民家をリフォームしたB&B、ベッド・アンド・ブレックファストだ。

 宿泊と朝食付きで比較的低価格で利用できるものだった。


 廊下に出ると珍しく眼鏡アイウェアを外したユスティーナとかち合う。

 彼女はここには無い何かを見つめるような表情をしてこう言った。


「どうして朝は眠いのでしょうね」


 光妖精ハイ・エルフ特有の優美な容貌をした彼女がそう言えば、詩的にも哲学的にも聞こえるだろうが、俺には分かる。

 彼女はただ眠いだけだ。

 ユスティーナは意外にも低血圧で朝に弱かった。

 いつもはしゃんとしているのに、こういう時に見せる無防備な表情が何だか色っぽい。


「眠いならもう少し寝てたらどうだ?」

「いえ、いいです。いつだって目が覚めるときは眠いのですから」


 やはりどこか哲学めいた言葉を口にして、ユスティーナは顔を洗いに歩き出す。

 そこに、


「じゃじゃーん、何時に起きても第三時!」


 せっかくの余韻をぶち壊しやがるのは、やはり起きてきたターニャだった。

 朝っぱらからテンションがおかしい。


「大惨事なのは貴様の脳みそだ」

「そんなこと言うのはコジローだけよ。分かってる人はみんな、アタシのことを薄幸の天才美少女って呼ぶわ」

「誰が呼ぶかっ!」


 発酵の間違いだろ。

 腐ってやがる。

 アホ過ぎたんだ。


「いや、替えのパンツ忘れたんで、カヤから借りたんだけど」


 聞いてねぇ。


「これが、ものっ凄いローライズで面積狭くて履くのが滅茶苦茶恥ずかしいんだけど!」


 そう思うならスカートめくって見せんな!

 ネコだと思って遠慮がねぇな。

 アレか、この異様なハイテンションは照れ隠しか。


「あぅ? それはショーブ下着って言うんだって。戦いに出るときに履けばいい」


 ひょいと顔を出したカヤが朝から元気に尻尾を振りながら言うが、絶対意味が分かってないな。


「理解もしてないそんな戦いに、人を勝手に出さないで!」


 悲鳴混じりに叫ぶターニャ。

 やれやれだ。




 宿で出された朝飯は、何と言うか英国風だった。

 この王国では火を使わない大陸風コンチネンタル朝食ブレックファストが多いので、これは嬉しい。


「パンの上でチーズがとろけてるー」


 ターニャが歓声を上げた。

 熱々のトーストは、薄くスライスしたチーズと輪切りにしたピーマンを乗せ、蓋をしたフライパンでチーズがとろけるまで焼いたものだ。

 半分に千切ってやるとチーズが伸びる伸びる。


「ふむ、これはなかなか」


 ピーマンのような香味野菜は繊維に対して横に切ると香りが強くなる。

 その香りとかすかな苦みが、パンとチーズの旨味を一層引き立てる。


「おいしーね、コジロー」


 カヤも笑顔で食べている。

 お子様舌の彼女にはどうかと思ったのだが、口に合ったようで何よりだ。

 こんな料理が出されるなら、ピーマン嫌いの子供も居なくなるんだろうな。

 そう実感させる料理だった。


「このブロッコリーの茎のベーコン巻も素晴らしいですよ。ベーコンの塩気とカリフラワーの甘みが身体に染み通ります」


 ユスティーナも口元をほころばせながら食べている。

 素人は捨ててしまうブロッコリーの茎は皮を剥けば食べられるのだ。

 煮ずに蒸すのが旨味を逃がさないコツで、独特の甘みがあって香ばしく焼き上がったベーコンと共に美味しく食べられる。

 ワインが欲しくなるのが欠点と言えば欠点か。

 しかし、


「田舎だからこその食事だよな」

「へっ?」


 きょとんとするターニャに説明してやる。


「カリフラワーと違ってブロッコリーは日持ちさせるには冷蔵する必要がある。普通、市場にはほとんど流通しない」


 だから、この世界では採れたてを料理できる田舎でないと食べられないんだな。


 後は、はやり搾りたての牛乳を使ったミルクスープ。

 ニンジンやジャガイモが、一緒に煮込んだベーコンの旨味を含んだミルクを吸っていて、これがまた美味い。

 やはり、素材がいいと食事も豊かになるものだと実感できる食卓だった。




「ヒャッハー、見る見るうちにレベルが上がるぜ!」


 ターニャのムチによる範囲攻撃、ユスティーナのナイフによる攻撃、これらが合わさって俺たちは快進撃を続けた。

 手強い敵を倒しまくれるのでレベルの上昇も著しい。

 俺たちの場合、俺の魔力が切れた時が活動限界になる。

 しかし戦闘が短くなる分、俺の魔力消費も少なくなり休まずどんどんと進むことができる。

 この分だと今日中に回り終えるだろう。


「『あいす・ねこぱんち』を使えるようになったぞ」


 氷属性で強化したねこぱんちで、ダメージも倍増する。

 俺独自の使い勝手のいいオリジナル魔術だった。


「まぁ、チェックポイントを回ることにあまり意味は無いんだがな」

「どういうことですか?」


 首を傾げるユスティーナに説明する。


「別に実習が失敗に終わったとしても問題は無いということだ」


 この実習の一番の目玉はダンジョンクリア後に支給される武器であって、それはもう獲得している。


「だから、今やっているのはレベル上げ、俗に言うレベリングというやつだ」


 早解きをやっているとレベルが低いままで進められるため、ある段階になったら壁に突き当たる。

 そうなるとそこで、それまでさぼっていたレベル上げをしなければならなくなる。

 作業みたいになるので苦痛になるのだが。


「その点、こうやって自然にレベルを上げられるのは気分的に楽だし、チェックポイントで先生から受け取る補給物資も地味に美味しいしな」


 だからチェックポイントは前線応急救護所エイドステーション、一般にはエイドと呼ばれている。

 まぁ、ヒーリング・ポーション一個とか普通に攻略していたなら地獄に仏、涙が出るほど役立つだろうけど今更もらってもなぁ、というものもあるが。


「ううーっ、身体が痛いー」


 ターニャがスライムのようになって伸びている。


「うん? 筋肉痛か。支給された湿布薬を塗っておけ」

「あ、ありがとう」


 体内のナノマシンに作用する即効性の薬品だ。

 効果は抜群のはず。


「うう、効く効く」


 ピロリン、と拡張された聴覚に音が響き、視界にもターニャの敏捷値が上がったとメッセージが出る。

 ターニャに渡したのはただの湿布ではなく、筋肉の炎症を回復させ即座に敏捷値を向上させるドーピングアイテム、インドメタシンだった。

 そして、湿布薬に気持ち良さそうに目を細めるターニャにはこう言うしかない。


「ババくせーっ!」

「酷っ!」


 後は、


「しゃぶれよ」


 ターニャの小さな口に突っ込んでやる。


「むぐっ!」


 無理矢理突き込まれたターニャは苦しかったのか、目を白黒させながら舌を這わせる。


「どうだ、飴ちゃんは」

「最高。口の中で転がしているだけで味わえるとか、すっごく楽」


 お前の基準はそこか。

 まぁ、これも支給品の内の一つで、DHA飴という知力をアップさせるドーピングアイテムなんだがな。

 これでますますターニャは攻略のため役立つ存在になったのだった。

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