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66 このロリコンどもめ!

 妖精の鎧から放たれた壮麗な、まばゆいほどの光が大魔王の身体に注がれる。

 そうして、先ほどとは逆のプロセスで大魔王の身体が縮みだした。


「くうぅぅっ!?」


 そうして大魔王は元のお子様な姿に戻ってしまう。


「なっ、何これぇ!」


 大魔王は自身の姿を見下ろして驚きの声を上げる。

 一方、ターニャはと言うと、


「ああああっ! 胸が、胸が戻ってるぅ!」


 自分の胸に重みが戻っていることを確かめて感動にむせび泣く。


「大魔王の強力なパワーを吸収しきれなくてオーバーロードしたんだな」


 それだけ大魔王の力は強大だということだろう。

 思わぬ副産物だった。


「こっ、これが妖精の鎧の本当の力!? 大魔王の力を封じるなんて凄いっ! これは奇跡!?」


 ターニャが感動に震える声で言う。

 まぁ、奇跡っていうのはいくらあってもありがたみが薄れないもんではあるが。

 だがな、


「いや、妖精の鎧に宿る意思が、理想の体型を持つ大魔王がそこから外れることを良しとしなかったんだろう」


 この鎧、とんだロリコン野郎だった。


「何てこと言うのよあんたはっ、感動が吹っ飛んだじゃない! そもそも、そんな鎧を着なきゃいけないアタシのことも考えろっ!」


 感動から一転して滅茶苦茶嫌そうな顔をしてターニャが叫ぶ。

 まぁ、その気持ちは分からんでもないがな。


「しかし、その鎧が無かったらフルパワーの大魔王を相手にしなければならなかったのも事実」


 この妖精の鎧は、低レベルでの大魔王攻略には欠かすことのできない存在だった。


「配られたカードで勝負するしかないのさ」


 実際、手札がブタばかりという状況が頻繁に起こりうるのが現実ってやつだからな。

 だからこそ、策とか裏技とかイカサマとかはそういう状況を無理やりひっくり返すために使うもんなんだ。


「ふぅ、まぁいいわ」


 そうして、驚きが治まったのか小さくなった大魔王が肩をすくめた。


「ブーストモードだとあんまり力に差があり過ぎて、楽しめないと思っていたところだったし、それに……」


 ターニャを見て、背筋が寒くなるほどに壮絶に美しく、それでいて残酷な笑みを浮かべる。


「希望を見せた後に、それを摘み取ってやるのも面白いわよね」

「ひっ!」


 大魔王の視線が自分の胸に向いてることを知ったターニャが悲鳴と共に本能的に胸を隠すように身構える。


「それじゃあ、行くわよ」


 大魔王がゆっくりと硬質化した両手を構える。


「あんまり簡単に終わらないでね?」

「来るぞっ!」


 大魔王の硬質化した両手は輝く指と呼ばれる燐光に包まれている。

 この燐光は強力な攻撃力を秘めているだけではなく、触れただけで瞬時に魔術を分解するものだった。

 この腕の前には、魔術障壁も意味が無い。

 シールドの重ねがけによる防御が効かないのだ。

 だから、


「カース・ユー!」


 ユスティーナの呪いも腕の一振りで無効化され、


「クロウ・シャープナー!」

分身剣パラレルアタック!」


 俺の攻撃力倍加の魔術がかけられたターニャのハイスピードブレードが唸りを上げるが、


「それで?」


 大魔王は片手でそれを受け止めていた。

 ハイスピードブレードが纏っていたクロウ・シャープナーの魔力光があっさりとかき消される。


「あんまり私を失望させないでねっ!」


 剣を掴まれ動きを止めたターニャの腹部に叩き込まれる大魔王の拳!


「ゲゲボォッ!」


 強力な打撃にターニャの肺は中の空気を一シーシーも残さないほどに絞り出された。

 乙女にあるまじき悲鳴ともうめきともつかない声と共に、ターニャがスパイクを受けたバレーボールのように吹っ飛ぶ。


「夢幻の心臓よ!」


 カヤはすかさず治療を行う。


「ヒーリング!」


 ユスティーナの癒しの杖による治療を加えられ、ターニャはようやくのことで立ち直る。

 だが、


「ああっ、また胸が減ってるぅ!」


 ターニャは妖精の鎧の胸部に表示される数字を見て悲鳴を上げる。


「あははははっ、もっと必死に抵抗しないとその貧相な胸がどんどん削られて行ってしまうわよっ!」


 大魔王は心の底から楽しくて仕方が無いと言った笑顔を見せる。

 それは無邪気で純粋で、だからこそどこまでも残酷な笑みだった。


「ほら、ほら、ほら、ほらーっ」

「うぐ、うぐ、うぐ、うぐぅーっ!」


 大魔王の連撃を受けるターニャは完全な人間サンドバッグ。

 体力と一緒にその胸の数字が情け容赦なくガリガリと削られていく。


「あひーっ!」

「コレが断末魔の叫びというやつ? 実に心地良いわね」


 もう、ターニャは世紀末覇王な主人公に一方的に殴られるモヒカンザコ野郎みたいなことになっていた。

 だが、その隙に、


「地獄突き!」


 俺は鬼包丁で、防御無視のガードブレイクスキルを発動させる。

 大魔王に命中!

 しかし、


「……今のは、ちょっと痛かった」


 大魔王の視線がこちらを向く。


「ビーム・スパイク展開!」


 俺はスパイクアーマーのビーム・スパイクを展開しガード体勢に入るが、


「無駄よっ!」


 大魔王の腕の一振りで衝撃波が飛び、俺たち全員をブッ飛ばした。

 更に、その攻撃で体勢を崩した俺に魔王の拳が叩き込まれる。


「コジローっ!」


 カヤは夢幻の心臓で全体治療を施す。

 無論、その程度では治療しきれなかったが、


「ヒーリング!」


 ユスティーナの的確なフォローが入り何とか持ち直す。


「……邪魔ねぇ」


 大魔王の視線が、ユスティーナを射る。

 俺たちのコンビネーションのキーになっているのがユスティーナと見抜いたか。


 一見、全員を回復させるカヤの方が重要に思えるが、実際にはただひたすら夢幻の心臓による回復を繰り返しているだけだ。

 そこには難しい判断は要らないし、ぶっちゃけ大魔王の攻撃に倒れないだけの体力さえあれば問題ない。

 だからこそ、カヤは防御と体力特化のシールダーなのだ。


 一方で、パーティの中でも特に危険な状態に陥っている者を見抜き、大魔王の追撃より早く治療を行うユスティーナには高度な能力と判断力が求められる。

 彼女の力があってこそ、俺たちは戦える状態を維持できるのだし、彼女こそが俺たちの要だった。


「先に潰してしまおうかしら?」

「ユスティーナを守れっ!」


 ユスティーナはフルバック、俺たちに守られた位置に居るが、今この瞬間はターニャも俺も体勢を崩した状態にあった。

 カヤ一人では、ユスティーナを守り切れない!


 神速で踏み込む大魔王!

 ユスティーナはマジック・シールドを構えながら回避しようとするが、


「甘いっ!」


 大魔王の素早く重い二連撃。

 回避能力に優れたユスティーナは何とかダメージを軽減させるが、彼女は俺たちの中で一番体力が低い。


「ユスティーナっ!」


 ユスティーナの身体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

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