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65 今、華麗なる成長!

 魔王による高位攻撃魔術の三連撃。

 魔術に対する耐性を持った防具で守りを固めていてもなお、恐るべきダメージを被った。


「夢幻の心臓よ!」


 カヤは夢幻の心臓を掲げ、全員の体力を回復させる。


「ぬぅ、これに耐えるかっ!」


 魔王が驚愕の声を上げる。

 同じものを今すぐ喰らったらさすがに危ないが、魔王のこの攻撃はその性質上、非常に高度な集中を要し連発はできない。

 その間に俺たちは傷を治療し、魔王に対するダメージを蓄積して行った。

 そして、


「わ、ワシってこんなに弱かったっけーっ!?」


 魔王はあっけなくも倒れたのだった。

 魔力の消費を抑えるためにヒーリング・ポーションで体力の回復を図る俺たちに、魔王は言う。


「こ、こうなったら、最後の手よ!」


 魔王は双面の杖を自分の胸に突き立てた!


「何を!」


 ターニャたちが驚く中、魔王の身体が肥大化して行く。

 筋肉の塊になった魔王が叫ぶ。


「今度はこの肉体で勝負だっ!」


 俺は皆に向かって叫ぶ。


「全力防御!」


 俺は『にくきゅう・しぇーど』をユスティーナは『シールド』の魔術を、カヤとターニャはシールド・スキルを使った完全防御姿勢を取る。

 幸い、魔王のスピードは速くはなく、完全に備えを取ることができた。

 だが、


「がっ!」


 魔王の攻撃は魔術障壁を重ねがけしてくれてなお、バカみたいに重かった。

 シュバルツシルト戦でシールド・スキルを鍛えておかなかったら、耐え切れずに一撃で命を刈り取られていただろう、それだけ重い一撃だった。


「夢幻の心臓よ!」


 カヤが治療をしてくれるが、全快にはほど遠い。


「ご主人様!」


 ユスティーナが癒しの杖で追加の治療を行おうとするが、


「シールドの魔術優先だっ!」


 とっさに叫んで思い止まらせる。

『シールド』の魔術を更に重ねがけしてくれたなら、まだ一撃なら耐えることができる。

 とにかく、何とかしてこのバカげた攻撃力を抑え込まないことには危険過ぎた。


「くっ!」


『にくきゅう・しぇーど』と『シールド』の魔術を重ねること六回分、それで何とか均衡を造り出す。


「くぁっ!」


 それでもユスティーナ辺りが連撃をもらうと、危険なまでに体力が削られてしまうが。

 慌てて夢幻の心臓と癒しの杖の重ねがけで対応する。


「クロウ・シャープナー!」


 そしてようやく攻撃に振り向けることもできるようになり、ここからは一気呵成に攻めに転じる。


「ブッチャー!」


 俺はクロウ・シャープナーで強化された鬼包丁で、防御無視のガードブレイクスキル『地獄突き』を連発させる。

 ガードブレイクスキルというと格闘家の『徹し』が有名だが、俺たちのレベルではまだ鬼包丁で出せるスキルの方が有利だった。

 その上で、ターニャの連撃が炸裂し、


「ば、バカなっ」


 とうとう魔王はその場に倒れ伏したのだった。


「よっと」


 瀕死の魔王から、双面の杖を抜いてやる。


「ぐぉっ!?」


 強力な攻撃力を得る代わりに生命力を杖に吸い取られていたのが止まり、魔王はぎりぎりでその命を留める。


「なっ、何の真似だっ」

「武士の情けってやつかな」


 まぁ、気まぐれのようなものだ。


「ふん、大魔王様は広間で待たれている。あのお方を失望させるような真似だけはするな」


 そんなことを言われてもなぁ。


「生憎、自信があるのは顔だけでね」


 俺は魔王にそう言い残し、ターニャたちと共に大魔王の待つ広間へと向かうのだった。




 ヒーリング・ポーションで体力を、取って置きの魔力の指輪で魔力を回復させた俺たちは、大魔王と対峙する。


「待たせちまったかな。なにぶん道が混んでいてな」


 そう言う俺を大魔王は笑って迎えた。


「よく来たわね、勇者たち。覚悟はいい?」


 大魔王は最初から両腕を硬質化させたバトルモードだった。


「こっ、今度は仲間と一緒よ。負けたりなんかしないっ!」


 前回の戦闘では嬲り者にされた記憶が甦ったのか、ターニャは小刻みに震えながら言う。


「仲間ねぇ」


 すっと細められた大魔王の視線が俺たちを射る。

 それだけで総毛立つような戦慄が走るがしかし、


「一つだけ言わせてくれ」


 爪を一本だけ立てた右前脚を振りながら、チッチッチッと舌を鳴らして。


「こいつとは仲間でも何でも無い」

「コジローっ!?」


 この期に及んでの俺の宣言に、ターニャがムンクの叫びのような顔をして顎を落とした。

 ユスティーナは深い笑みを浮かべてこう言う。


「そうですね。言うなれば、コジロー様と愉快な下僕ども、でしょうか?」


 おいおい。そんなのでいいのか?

 いいんだろうな、ユスティーナは。

 カヤはというと、分かっているんだかいないんだか分からない笑顔で嬉しそうにうなずいた。


「げぼくー」

「それでいいのっ!?」


 ターニャが激しく突っ込むが、


「くぅ? カヤはコジローの愛の奴隷だよ?」


 カヤは心底不思議そうにターニャを見返して首を傾げる。

 絶句するターニャ。

 そうして彼女が血を吐くように叫んだのは、


「しょ、所詮、人は最後には一人っ!」


 開き直ったか。

 だが、大魔王はターニャの悲壮な覚悟を鼻で笑った。


「この大魔王様は変身する度に力が遥かに増すわ」


 その力は前回目にした通り、ターニャをまるで子供扱いにするほどのパワーだ。


「その変身が、まだ残っているとしたら…… どうするかしら?」

「まっ、まさかっ!」


 ターニャが呻くように言う。

 それを見て大魔王は笑った。


「顔色が変わったわね。そう、あなたたちを襲う恐ろしい結末に気付いてしまったようね」


 ターニャの決死の挑戦も、大魔王にとっては気に入らなければいつでも盤をひっくり返せるゲームのようなものなのだろう。

 その身体がまばゆい光に包まれる。


「ブースト・オン!」


 その身を包むドレスが光の粒子となり、露わになった輝く裸身、その手足がすんなりと伸びて行く。

 幼児体型だった身体に山ができ谷ができ見事なプロポーションへと華麗な変身を遂げた。

 最後にドレスが再構成。

 すっかり大人の身体になった大魔王を柔らかに包み込む。


「どうかしら、私の大人の身体は」


 そうして大魔王はターニャの胸元を見、鼻で笑う。


「なっ!」


 その視線の意味に気付き、かっと頬を赤らめるターニャ。

 だが、彼我の圧倒的な戦力差に何も言い返すことができない。

 反則だぜこいつぁ、勝負になりゃしない。

 元々のプロポーションでも既に負けている上、ここに至るまでの戦闘でターニャの胸は危険なまでに減っていた。

 世界はなんて残酷なのだろう。


「ふふふっ、まぁ、その貧相なものも、これからの戦闘で更に削られて、更地になってしまうのだけれどね」


 このままではその未来は確定してしまう。

 だが、その時!


「鎧がっ!?」


 ターニャの着ている妖精の鎧がまばゆいばかりの光を放ち出した。

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