63 胸を削られ女と男の中間の生命体となり大魔王に支配された世界を彷徨い続けるのだ
「それじゃあ、天下一品武闘会、勝利の褒美としてこれをあげるわ」
騒動も治まったところで大魔王様が蒼く輝くこぶし大の宝石をぽんと渡してくれた。
これは……
「夢幻の心臓と呼ばれる石よ。戦闘中に使うと仲間全員の傷を癒してくれるわ」
「なっ、何でそんなものを……」
そう言うターニャに大魔王様はにっこりと笑って告げる。
「だって、簡単に死んじゃったらつまんないじゃない」
蠱惑的な微笑みを浮かべる幼女の姿をした何か。
「昨日の勇者との追いかけっこは、とっても楽しかったわ」
夢見るようにうっとりと瞳を細める、その姿が掻き消え、
「ひぁっ!?」
ターニャの背後に現れて、しなだれかかってくる。
「一息に終わらせるなんてもったいない。飴玉をしゃぶるようにゆっくりと舌の上で転がして……」
上気した表情でターニャの首筋に顔を埋める。
「胸と一緒に女の子の心が削られていく、あなたの恐怖と絶望を味わい尽くしてあ、げ、る」
ちゅっ、っとターニャの首筋を吸う。
その刺激に腰砕けになったかのようにターニャががくりと膝をつく。
「ひっ、あぁ……」
両手を床につき、エナジードレインでも食らったかのように身体を震わせるしかできないターニャ。
「あら、キスだけでイッちゃった?」
お子様の姿をしていながらエロいなぁ。
さすが大魔王様。
「その夢幻の心臓は、この城のパスポートにもなっているわ。だからいつでも着て頂戴。来てくれないと……」
満面の、最高の笑みで大魔王様は言う。
「人間たちをみなごろしにしちゃう、か、も?」
こうして天下一品武闘大会は終了し、俺たちは大魔王城への切符を手に入れたのだった。
だが、ターニャは二度と立ち直れなかった……
胸を削られ女と男の中間の生命体となり大魔王に支配された世界を彷徨い続けるのだ。
そして、死にたいと思っても死ぬ勇気が無いため、その内ターニャは考えるのを止めた。
リア充ざまぁ! ニートは廃課金なネコキャラで下克上する!!(完)
ご愛読ありがとうございました。
「勝手に終わらせるなーっ!!」
おお、ターニャが怒り狂っている。
食べていたニワトリのモモ肉を食いちぎると、残った骨を俺に突きつけた。
行儀悪いぞ。
しかし、
「こんな時でも食事ができるようなら安心だな」
俺はそう言って、ターニャの頭を肉球が付いた前脚でぽんぽんと叩いてやる。
「は? えっ?」
ぽかんとするターニャ。
そう、まずは食うことだ。
たとえ恐怖に震えながらでも食えるやつは、食べ物を受け付けなくなっている上品な連中に比べれば生き残る率が高まる。
食いもんは体力だけじゃない、気力をも支えるからな。
「ターニャ様……」
いつもはすまし顔のユスティーナの口元に少しだけ変化が見られるのは彼女なりの微笑みなのか。
「ターニャ」
カヤはというと、いつもの無邪気な笑顔でターニャの名を呼ぶ。
そうして、満面の笑みで俺は言う。
「戦わなくちゃ、現実と」
「うぐっ!」
俺は胸を押さえ後ずさるターニャの頬に大魔王城へのパスポート、夢幻の心臓をぐりぐりと突きつける。
「ほれほれ」
「や、やっぱりオチがあったよ!」
嘆くターニャ。
まぁ、冗談はともかく。
「お前が自分の胸を守るんだったら、大魔王と戦うしか無いからな」
びびって逃げ回る者に、勝利の女神がほほ笑むはずもない。
「うぅーっ、こんな鎧、無ければ……」
こんなって、止めたのに勝手に着てしまったのはお前だからな。
それはともかく、
「いや、その鎧が無かったら、大魔王はなお倒せなくなるぞ」
「へっ?」
大魔王の最速攻略に、妖精の鎧は欠かすことのできない必須アイテムだった。
詳しいことはアホらし過ぎて言ったら正気を疑われるので秘密だが。
ともかく、復活したターニャを連れて俺たちは大魔王城へと向かったのだった。
風雲大魔王城へと再び乗り込もうとする俺たち。
だが、ジャンプの魔術で跳躍した先、大魔王城の入り口には、マリヤ先生が所在無さげに立って居た。
「マリヤ先生?」
「あっ、コジロー君、遅いです」
頬を膨らませるマリヤ先生は、その正体が火竜であるにも関わらず可愛らしかった。
「そう言われても、女性を待たせるような趣味はしていないんだが?」
別段、先生と待ち合わせなどしてないし、一方的に怒られるのも理不尽だった。
「あ、その……」
それに気づいたのか口ごもり、俺の方に差し伸べた手を下しかけるマリヤ先生だったが、はっと気を取り直した様子で俺に詰め寄る。
「そうじゃないです! あの子が、オギワラ君たちが城の中に入っちゃって」
「オギワラが? あいつらにはまだ、ここに来れる手段が……」
言いかけて、自分の問いの答えと、何故マリヤ先生がここに居るのかという疑問の答えに思い至る。
「先生、あいつらを運んで来ちゃったんですか」
マリヤ先生は親から怒られた子供みたいにしゅんとなって言う。
「だってあの子、私の角でできた剣を持っていて逆らえなかったんですもん」
先生の角でできた剣といえば、先日俺が売り払った火竜の剣か。
オギワラが買い取ったとは知らなかった。
そして先生が逆らえなかったのも納得がいく。
竜の角を使った武具はドラゴンスレーヤー、竜殺しとしての力を持つ。
増してや自分の角で作った剣だ。
それで脅されてはマリヤ先生も従うほか無かったんだろう。
「だがなぁ」
今のオギワラたちに大魔王や配下のモンスターたちを倒せるとは思えなかった。
いくらVRMMOエインセルのトッププレーヤーで優れた立ち回りの技術を持っていたとしても限界があるだろう。
「追いかけるしかないか」
なるべく戦いを避けながら急ぐべく、ユスティーナの索敵スキルで先を探りながら行くことにする。
「慌てず急ぐぞ」
「難しいこと言うわね」
そう答えるターニャに言ってやる。
「光の速さで歩け」
「できるかっ!」




