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58 我は大魔王様配下一の将、悪魔猫将軍コジロー! 

「とっ、とにかく、このビキニ以上の防御力がある鎧を手に入れればいいのねっ」


 ターニャがそう言って、くずおれそうな己を叱咤する。


「と言ってもなぁ。これ以上の防御力のある防具って、そうは無いぞ」


 俺はVRMMOエインセルおよびそのソーシャルゲーム版、リバース・ワールドで流通していたアイテムを思い浮かべる。


「現状で手に入りそうなのは原初はじめの森に住む森妖精ウッド・エルフたちの秘宝、妖精の鎧ぐらいか」

「行くわ!」

「簡単に言うが、原初はじめの森に行くのにどれだけ時間がかかると思ってるんだ」


 今まで行った場所では無いから、ジャンプの魔術で気軽に跳べる訳じゃない。


「ですが、手に入りそうと仰るからには、何か方法があるということですよね」


 ユスティーナはいつも通り、言葉の裏にある俺の考えまで見通したように言う。


「まぁな」


 あまり、誉められた手段じゃないんだが。


「必要な時に力を借りられるのも、当人が持つ人脈コネいう財産だとは言うがなぁ」


 仕方が無い。




「嫌ですよ。あの森に近づくと妖精エルフたちがぺちぺち魔術を撃って来るんで痛いんです」


 困った時のマリヤ先生頼みだったが、どうやら森妖精ウッド・エルフと仲が悪い様子。


「何でまた?」

「知りませんよ。私が火竜だから、森で火事を起こされたら大変とか思ってるんじゃありませんか?」


 そういう事情か。

 しかし、だな。


「言うことを聞かないとお前を取って食う、って言ってるやつが居るんだが」


 そう言ってターニャに目くばせすると、ビキニ姿のターニャは切羽詰った表情でマリヤ先生に飛びつく。


「せんせーっ!」

「ひいぃっ!」


 ターニャにひしと縋り付かれたマリヤ先生は食べられると思ったのか涙目になっていやいやっと首を振る。


「食べないでっ、食べないで下さい」


 俺は満面の笑顔でこう言う。


「先生、原初はじめの森に連れて行ってくれますよね?」


 先生はこの問いを五回繰り返すととうとう諦めたかのように首を縦に振った。

 しかし、


「そんなに食べられるのが嫌ですか?」

「いっ、嫌に決まってますっ!」


 ふむ、だがこういう場合に女性の言葉は鵜呑みにしちゃいけないって誰かが言ってたっけ。

 女の見栄を通してやりつつ、本心をかなえてやるのがいい男だとか。

 だから俺は聞く。


「……嫌っていうのは、いいってことか?」

「違いますっ!」

「でも、顔がほころんでますよ」


 口角がわずかに上がりかけている。


「これは引きつってるんですっ!」


 マリヤ先生はそう叫ぶのだった。




「妖精の鎧は、森妖精ウッド・エルフたちに伝わる古代工芸品アーティーフィクトだ。高い防御力と魔術、ブレスに対する抵抗力を秘めた品で、その力の源は着用者の無駄な肉」

「はぁっ?」


 素っ頓狂な声を上げるターニャに俺は説明する。


「敵の攻撃を防ぐ度に着用者の脂肪を燃焼させ、鎧が定めた理想の体型へと変化させるんだ」


 防犯機能の付いたサウナスーツみたいなものか。

 着用者の脂肪をエネルギーに変えるところが自然に親しむ妖精族らしくエコロジーだ。


「そ、それって女性にとって滅茶苦茶魅力的なんじゃ……」


 そんないいもんじゃない。

 俺はターニャに釘を刺す。


「ただし、一度主を定めたらその人間にしか使えない個人認証機能を備えている。だからそのロック機構を無効化するまでは迂闊に手を出すなよ」


 俺のこの言葉が後に起こる悲喜劇の前振りだったとは、この時点では俺たちの誰もが気付いていないのだった。




「我は大魔王様配下一の将、悪魔猫将軍コジロー! 我が僕の火竜よ、この森を焼き払うのだ!」

「が、がおー!」


 マリヤ先生が火事にならないよう空中に向けて炎のブレスを吐く。

 おお、森妖精ウッド・エルフたちが驚いてる驚いてる。

 必死に光の魔術を唱えて来るが、マリヤ先生には効き目が無い!


「いえ、地味に痛いです」


 マリヤ先生の苦情を聞き流し、俺は胸を張って言う。


「くくく、この心地良き闇の波動。大魔王様から賜った闇の力がみなぎっておるわ」


 森妖精ウッド・エルフたちに言ってやる。


「暗黒の力はいいぞぉ」


 スパイクアーマーのビーム・スパイクを展開しているので結構悪役っぽく見えるだろう。

 世紀末覇王な伝説に出てくるようなモヒカンを着けるというアイディアもあったんだが、さすがに自粛した。

 そこに、森妖精ウッド・エルフたちの大技が炸裂する。


「ギガ・ホーリー!」


 破邪の魔術ホーリーを集団で唱えることで威力を飛躍的に上げる森妖精ウッド・エルフ独自の儀式魔術。

 喰らえば大抵の闇のモンスターは祓われてしまうが、


「んー? 今、何かしたのかぁ?」


 俺もマリヤ先生も闇属性は持ってないし、実際には大魔王が持つ暗黒の力で操られている訳でもないので効く訳が無いのだった。

 しかし、そんなことは分からない森妖精ウッド・エルフたちは大いに動揺する。


「バカなっ、破邪の大法が効かないなんてっ!」

「これほどまでに強力な闇の力が大魔王にはあると言うのかっ!」

「もう一度、もう一度だっ!」


 二度、三度と放ってくるものの、


「効かない! 術が効かない!」


 結果が変わる訳が無い。

 だがそこに、


「待ちなさい!」

「そう言って立ち塞がったのは、ビキニ姿の痴女」

「違う!」


 真っ赤になって否定するのはビキニに剣と盾を持ったターニャだった。


「アタシは勇者ターニャ! 悪魔猫将軍コジロー、アタシが相手よっ」

「ふん、小便臭い小娘が何を言う」

「誰がおしっこ臭いか!」


 半分マジになって斬りかかって来るターニャ。

 おいおい。


「させません」


 だが、ハイスピードブレードによる斬撃を更に上回る速度で割って入ったのは、全身に刻まれた魔力強化神経ブーステッド・リフレックスの呪紋に燐光を走らせる銀の髪の女性。

 森妖精ウッド・エルフたちに皇族扱いされる光妖精ハイ・エルフとばれると面倒なので、いかにも魔族という感じに化粧をしているが、


「コジロー様の愛の僕、悪魔メイド、ユスティーナ推参」


 そう言ってユスティーナはハイスピードブレードを弾いたライトニング・マチェット+3をターニャに振るう。


「ぎゃん!」


 紫電が走り、ターニャが電撃にのけ反った。


「ふふっ、峰打ちです」


 ユスティーナはそう言い捨て、妖艶に笑う。

 それでも電撃はそのまま伝わるからスタンしてしまうがな。

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