57 パンツじゃないから恥ずかしくない
「俺はターニャの魂を賭けるぜっ!」
「グゥゥッド!」
「やめろーっ!」
という訳で、道化師との死亡遊戯を再び繰り広げる。
「残像剣!」
さすがに自分の魂が懸かっているだけに、真剣に戦うターニャ。
ハイスピードブレードを使って放つことができるスキル、残像剣は攻撃のタイミングをずらし、相手にこちらの手を読ませない攻撃だ。
ハイスピードブレードだけが可能とする速度の打ち込みで、打ち込みを遅らせた一瞬だけ残像が残ることからこの名前がある。
「分身剣!」
分身剣は高速を生かした連撃スキルで、素早さのあまりあたかも分身して同時攻撃をしてきたかのように感じられるものだった。
こうしたターニャの頑張りでクラウンとのゲームをクリア。報酬として武器、防具を魔改造してもらう。
ターニャの女王のムチはグレードを上げ女王のムチ+3に。
カヤの着ていたBDUは防御力が上がっただけではなく、魔術除けの他にブレス除けの加護を追加された。
「ターニャの魂を賭けた甲斐があったな」
「人の魂を許可なく賭けるな!」
「勝手すぎるかな?」
「当たり前よっ!」
やれやれだ。
「興奮すると身体に障るぞ」
「誰が興奮させてんのよっ!」
「そんなにカリカリするとはカルシウム不足のようだな。ニボシでも食うか?」
「何よこれ。……徳用ニボシパック? こんなものどこで」
「購買で普通に売ってるぞ」
勇者学園の購買で買ったものだ。
俺も一口齧ってみる。
うむ、美味い。
「うちの購買って一体……」
何だかターニャは黄昏ていたが、
「ニボシは栄養が高くバランスもいいんだぞ。軽く持ち運べて行動中にもつまめるから行動食にいい」
「行動食?」
「ああ、長時間、持続的に運動する際には三度の食事だけでは間に合わず、消耗する端からエネルギーを補給するためこまめに間食をとることが大事なんだ」
行動中取ることから行動食と呼ばれる間食にニボシは向いていて、だからこそ勇者学園の購買でも取り扱っているんだ。
俺の説明にターニャも納得したようだ。
そして、その手に握られていた物に気付いた様子で表情を改める。
「あと、景品としてこんなものももらったけど」
ターニャが差し出したのは、何故かビキニ水着。
何でそんなもん握り締めてるんだよ。
商人系の職業が持つ鑑定スキルで調べてみると、
「おお、これはマジカルビキニだな。俺たちの身に着けている防具の中で最強の防御力と、魔術への耐性が備わった品だ」
「ええーっ、こんな布切れがぁ?」
ターニャは懐疑的だ。
だがな、
「よし、それじゃあターニャにマジカルビキニを着てもらおう」
「はぁぁぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げるターニャ。
逃げ出そうとするが、無駄だ。
「やれ、ユスティーナ、カヤ」
「はい、ご主人様」
「あぅ」
ユスティーナとターニャにつかまるターニャ。
「はっ、放せーっ! そんな恥ずかしい格好ができるかーっ!」
抵抗するターニャの鎧と服を剥ぎ取りながらユスティーナは言う。
「大丈夫です。昔の人は言いました。パンツじゃないから恥ずかしくない、と」
「だっ、騙されないっ! そんなやつが居るかっ!」
「本当のことですのに」
カオスだな。
「ああ、ちなみに肌が露出しているほど効率よく魔力を放出できるので、衣服を脱げば脱ぐほど強くなるというビキニだから、上には何も着るなよ」
「何その罰ゲーム!」
「さぁ、ターニャ様、脱ぎ脱ぎしましょうね」
「やっ、止めっ!」
クリフティーナに鎧を外され、服を一枚一枚剥ぎ取られていくターニャを見て、カヤは言う。
「あぅ、赤ちゃんみたい」
その無垢な視線を受け、ターニャが身悶えする。
「止めてーっ、そんな目でアタシを見ないでーっ!」
赤ちゃんプレイか。
マニアックだな、ターニャ。
「あんたも、生暖かい目で見てるんじゃないっ!」
俺を気にしている暇があるのか?
その隙に、カヤがターニャのショーツを引き下ろす。
「ひあぁぁぁぁっ!」
白日の下、ターニャの裸身が露わに。
靴下は履いているところがマニアックか。
武士の情け、俺はそっぽを向いてやる。
そうしてすったもんだしたあげく、きわどいビキニ姿で貴族らしい真っ白な柔肌を桜色に染めたターニャができあがったのだった。
「本当でしょうね! 本当にこれで防御力が上がってるんでしょうね!」
恥ずかしげに身をよじるターニャに、俺は言ってやる。
「よく似合ってるぞ」
「そ、そう?」
ターニャはまんざらでもない様子で表情をほころばせる。
「ふふん、ようやくコジローもアタシの魅力に気付いたようねっ」
すぐに得意げに調子に乗るのがうぜぇ。
「街中でその格好はまるで痴女だがな」
「持ち上げておいて、落とすな!」
「そんな恰好をしていると風邪ひくぞ」
「あんたがさせたんでしょうがぁ!」
俺の言葉にターニャはぎゃーぎゃーわめき立てる。
「あぅー、ちじょー?」
カヤは意味が分からない様子で首を傾げるが、
「カヤさんは分からなくていいのですよ」
ユスティーナの言葉に、一瞬考え込んでからうなずく。
「うん」
カヤにはそのままの純粋さを保って欲しいところだな。
「ううっ、何でアタシがこんな汚れ役に…… カヤと扱いに差があり過ぎるっ」
ターニャはカヤの様子を見て己の不幸を呪っていた。
マジカル・キャッスルの街に戻り、一息つく。
ビキニ姿のターニャは街行く人々から奇異の視線を集めていた。
中には、あからさまに指をさす子供も居る。
「ママー、あのお姉ちゃん、パンツで歩いてるー」
「しっ、見ちゃいけません」
まるで変態でも居るかのように母親らしき女性は子供の手を引き足早に去って行く。
絶対にターニャと視線を合わせようとしないその姿は、ターニャの心を深く抉ったらしい。
ターニャは胸を押さえたまま固まっていた。
……ますます変な人っぽくなるから止めた方がいいと思うんだが。
「せ、せめてここが海なら、うう、海行きたい」
「海でも川でも勝手に一人で行ってくれ」
そしてクラーケンにでもオクトパスにでも巻かれればいい。
俺たちを巻き込むな。
そんな俺たちを瞳を細めて見守っていたユスティーナは、喉の奥でくすりと笑うとこう問いかける。
「ご主人様は本当に水がお嫌いなのですね。私やカヤさんの水着姿は見たくないですか?」
そうだなぁ。
「……海なんぞ行ったら、俺以外の野郎どもの視線が嫌なんだよな」
思わずポロリとこぼしてしまい、はっと口を肉球を備えた前脚で塞ぐが、
「なっ、何を仰るんですか……」
ユスティーナがメイド服のスカートをもじもじと弄びながら言う。
普段は大胆に見えて、こういうのには弱いんだよな、彼女は。
「うんっ、カヤも見せるのはコジローだけ」
対照的にあっけらかんと言うのはカヤだ。
「うふふ、それって独占欲ってやつ? 仕方ないんだからぁ」
だらしない表情でにやつくのがターニャ。
お前じゃねぇ。




