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56 ベ○・ジョ○ソンで証明済み

「いや、だから最強はハイスピードブレードだろう?」


 金属材料の切削を可能にする工具の材料とするべく開発された鋼、ハイスピード鋼を使って極限まで薄く作った剣で、羽根のように軽く通常の剣の倍の速度で振れる。

 素材と性質、いわゆるダブル・ミーニングな命名をされた剣だったが、


「バカな。あれは軽過ぎて攻撃力がまったく無い剣だぞ」


 オギワラが言うように打撃に重さが伴わないため、攻撃力はナイフにも劣るとされている。

 オギワラは語る。


「確かに、筋力をカンストさせて攻撃力を補うようにすれば、攻撃回数で勝るハイスピードブレードは最終的に並みの剣よりダメージを与えられるようになるが」

「何言ってんだか全然解んない」


 正直過ぎる言葉を漏らすターニャに俺は苦笑する。

 学校の勉強だけはできるくせに、こういう実用知識は全然駄目なんだよな、この残念な女は。


「そうだな、例えば極端な話、筋力による攻撃力を一、通常の武器による攻撃力を一、敵の防御力を一だとする」


 俺は分かりやすく単純化した仮定で話し始める。

 ターニャもこれぐらいなら分かるようだ。

 真面目な顔をして聞いている。


「この武器で攻撃した場合は一足す一、合計の攻撃力二から敵の防御力一を引いた一がダメージとなる」


 ここまではいいな?


「一方でハイスピードブレードでは武器による攻撃力が極小、ほとんどゼロに近いため、例え倍の回数攻撃しても、どちらも筋力による攻撃力一しか出せず、敵の防御力一に阻まれてダメージはゼロになる」

「全然駄目じゃない。使えないわよそれ」


 眉をひそめるターニャ。

 まぁ待て。話はここからだ。


「では、筋力による攻撃力を三にまで鍛えた場合はどうか?」

「同じじゃないの?」


 それが違うんだなぁ。


「通常の武器では、武器の攻撃力一と合わせて四の攻撃力から敵の防御力一を引いて、ダメージは三」


 当り前だな。


「ハイスピードブレードによる攻撃は、筋力による攻撃力三から敵の防御力一を差し引いて、ダメージは二」


 これも当たり前。


「そこで倍の回数攻撃したとすれば、ダメージも倍の四。つまり、ハイスピードブレードの方がダメージが多くなるわけだ」


 それが、攻撃力が極小なハイスピードブレードが最終的には最強になると言われる理屈だった。


「な、なるほど」


 ようやくターニャにも理解できたようだ。


「分かりやすいお話、ありがとうございます」


 ユスティーナが礼を言い。


「あぅーっ?」


 カヤが首を傾げていた。

 まぁ、ともかく、俺はオギワラに向き直る。


「だが、筋力をカンストと言うが、別にそこまで上げなくても効果はあるだろう?」

「なに?」

「さて、ここで問題だ。ハイスピードブレードの叩き出すダメージが、通常の武器の出すダメージを超えるには、使用者の筋力値がいくつ以上あればいい?」

「そっ、それは……」


 オギワラは、ここまで突っ込んで考えたことが無いのだろう。

 視線を泳がせるだけで答えることができない様子だった。


「答えは130前後だ」

「ばっ、バカな。カンストの半分に過ぎない値でだとっ!?」


 俺たちの能力値は便宜上、255を上限とした値で認識される。

 そして実は上限まで筋力を上げなくとも半分を少し上回った辺りからハイスピードブレードの叩き出すダメージは逆転していた。


「だっ、だがしかし、それでも今のレベルだとそんな値には手が届かないはず」


 オギワラが見苦しく食い下がるが、


「えっ? アタシ、とっくにそれ以上になってるんだけど」


 ターニャの言葉に目を剥く。


「ばっ、バカなっ。『完全無欠』の俺ですら、そこまで到達していないのに、『才能を打ち消すほどのアホ』の貴様にそんな力が……」


 確かに『完全無欠』の称号はオールマイティに各能力値に対する高い成長補正を持つ。

 普通であればターニャがそれを上回ることは無いが。


「集中的にドーピングアイテムを投与すれば十分可能だぞ」


 生来の素質による成長よりもドーピングによる後付の能力の方が高くなるのは、ベ○・ジョ○ソンで証明済みだ。


「なっ……」


 間違った最強理論に基づき、ドーピングアイテムの投与はレベルアップでの上昇が見込めなくなってからと信じ込んでいるオギワラには想像もつかない話だったのだろう。

 陸に上がった魚のように口をぱくぱくさせるだけで言葉が出て来ない。


「その上、ターニャは狂戦士化アドレナリン・ブースターの呪紋で筋力を一時的に底上げすることが可能だ。ハイスピードブレードの使用に何の問題も無いな」

「ばっ、バカな。そんなはずはない。そんなはずは……」


 現実が認められず、がっくりとその場に膝をつくオギワラ。

 その様子を見て、ユスティーナが眼鏡アイウェアの奥の瞳を細めて言う。


「さすがは、ご主人様。素晴らしいです」


 いや、そんなに感心されるようなことでも無いがな。


「あぅ? さいきょーぷれーやー?」


 カヤはうなだれるオギワラを不思議そうに見ていた。

 視線を受け、オギワラが背筋を震わせる。


「やめろーっ、そんな憐れむような目で俺を見るなーっ、見ないで、見ないでくれー」


 そう言ってカメのように頭を抱えてうずくまる。


「あんた、本っ当に鬼ね」


 ターニャだけが引いた様子で頬を引き攣らせているのだった。




 さすがに国宝級の品ということで、火竜の剣は神殿の主催するオークションで売却することになり……


「高値で売れて行ったなー」

「マリヤ先生が、涙目でこっちを恨めしそうに見ているんだけど」

「えっ、何だって?」


 ターニャの言葉には主人公キャラの固有スキル『難聴』で聞こえないふり、見ないふり。

 手にした金を手にマジカル・キャッスルに出向き、ハイスピードブレードと、出物のミスリル銀製のフリッツ・ヘルメットを三つ購入する。

 なぜ四つでないのかと言うと、ユスティーナがメイドの証であるホワイトブリム、フリル付きカチューシャを外すのを嫌がったためだ。

 まぁ、あれも朝露の糸で織った物だから、高い防御力を持つからいいけどな。

 ユスティーナは意外と頑固だ。


「それを言うなら、一途と言って下さい」


 言うならって、俺は一言も言って無いんだが。


「心を読むんじゃない」


 まったく、冷や汗が出るだろ。

 ネコは汗をかかないが、気分的にな。


「んじゃあ、ゲーマーズ・ランドに行くかぁ」

「げっ、あそこに?」


 ターニャは嫌そうに言う。

 道化師クラウンの遊びに巻き込まれた記憶が甦ったのだろう。


「だが、あそこで更に武装の強化をしておかないと後で詰まるからなぁ」


 いかれた道化の格好をしていても、狂気マッドネス付与魔術師エンチャンターの名は伊達ではないのだ。


「行くぞ、ターニャ」

「いーやー」


 俺は嫌がるターニャを無理やり引っ張って、ゲーマーズ・ランドに向かうのだった。

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