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5 低光量視野持ちだからな

「あれっ?」

「ああ、起きたか。顔洗って来い。良い攻略は早起きからだぞ」


 この国はヨーロッパやアメリカの気候に近く、日本のように雨が多く湿度が高い訳では無い。

 だから露天に焚火を囲んで毛布をかぶってごろ寝という西部劇に出てくるカウボーイスタイルでも問題なく眠ることができていた。

 枕は着替えを入れた袋だ。


「えっ、えっ? 夕食……」

「何言ってるんだ? しっかり食べて爆睡してたじゃないか」


 疲れた体に満腹、そして酒が入ったら寝落ちするに決まってるだろ。

 お蔭で慣れない野営でも十分回復できただろうし、早寝したんで早くから活動できる。

 今日中にトレーニング用ダンジョンをクリアしたいしな。

 ゲームでもワインは疲労回復アイテムだったので試してみたんだが、こういう効果を見越して設定されていたのかもしれんな。


 なお、俺はというと一日の三分の二を寝て過ごすネコのこと、どこに行こうと居心地の良い場所を見つけて丸くなれば寝れるぞ。

 暑いとだらんと伸びちまうこともあるが、弱点である柔らかい腹を晒す上、体勢を整えるのに時間がかかるから安心できる状況じゃない限りはしない。


「あう、あう……」

「何だ、時を飛ばされたような顔をして」

「ようなじゃなくて、そのものじゃない! 疲れたんだからゆっくり休みたかったのに」

「気付いたら次の日で、もう仕事ってか?」


 まぁ、気持ちは分かるがな。


「はうぅ……」


 オラッ、俺の手足になってきりきり働けっ!

 このリア充野郎!




 旅立ちの朝はやはり晴れがいい。

 そして空気は少し肌寒いくらいがちょうどいい。

 風に向かって顔を上げれば青空がある。

 その下には緑がうねる山並みが見えた。

 山の新鮮な空気が吸いたくて逸る心と胸の高鳴りを意識して抑える。

 脈拍はミドルに。

 クールになると同時にすっと身体から余計なもの、それは雑念だったり無駄な力みだったり将来への不安だったりするが、そういったものが抜けて行く気がする。


 ターニャを除いた俺たち三人はレベルが上がったので、隊列を変更する。


「ポジションは、先頭のフロントアタッカーにカヤ。回避盾としてのガードウィングがユスティーナ。攻撃主体のセンターガードが俺。後方から援護をするフルバックがターニャだ」

「あ、あたし後ろでいいの?」

「何だ、前の方がいいのか?」

「う、ううん。とんでもない」


 正直なやつだ。


「だから、お前のマントを貸せ」

「やめて!」


 抵抗するターニャから容赦なくマントを剥ぎ取り着込む。

 丈がターニャの腰ぐらいの短めのものなので、ネコビトの俺が着ても問題なかった。

 というか『長ぐつをはいたネコ』みたいでかっこいいぞ。

 守備力も上がるし。


「これで良し」

「良くないわよ! そのマントは貴族の印よ!」


 ターニャがぎゃんぎゃんわめいているが、ネコミミを背けて無視。


「泣くわよ!」

「いいんじゃないか? 涙腺もたまには洗浄が必要だ」


 そもそも、


「人に見せるために泣く訳じゃないんだから、いつだってどこでだって泣いていいんだぞ」


 お前が泣きたい時にはな。




 このトレーニング用ダンジョンは山中にあった鉱山跡を元に勇者学園が手を入れたものだ。

 山腹のあちこちに出入り口があるが、それらには対モンスター用の一方通行の結界が敷かれていて、一度迷い込んだモンスターは出られないようにしている。

 こうしてモンスターを常に補充している訳だが、当然迷宮内では食物が限られモンスターは飢えている。

 こちらを見つけたら一目散に襲いかかって来るので注意が必要だった。


「暗いわねぇ」


 携帯用ランタンを腰に下げたターニャがぶつくさ言う。

 このランタンは頑丈で少しぐらい揺れても問題ない使いやすいものなので、こうして手を塞がずに携帯ができる。


「夜目が効かないのはお前だけだからな」


 ネコビトの俺と人狼族ワーウルフのカヤは天然のスターライトスコープ、低光量視野ロー・ライトを持っているし、光妖精ハイ・エルフのユスティーナは妖精グラム視野サイトを持っている。

 だから低光度条件下ロー・ライト・コンディションには強い。


「瞳がまんまるね」


 俺の目を見てターニャが言う。

 暗い場所でも良く見えるよう、いつもは縦長の瞳孔が広がってるんだな。


「お前にも猫目キャットアイズの目薬を差してやろうか?」


 瞳孔を限界まで開いて闇を見通すという触れ込みの薬。

 つまりは散瞳薬だ。

 ただし、真の暗闇では役に立たないから過信は禁物だし、逆に光には弱くなるため保護が必要なのだが。

 サングラスはこの世界では一般的では無いのでエスキモーなんかが雪目防止に使うスリットを入れた保護用マスク、アイシェードを作らないといけない。


 そんな話をしていると、前方に気配を感じる。

 耳をそばだてながら低光量視野ロー・ライトにより索敵サーチ、敵影を視認サイト

 巨大なカエル型モンスターに遭遇エンカウントする。


「う……!」


 カヤは振り上げた警棒を目の前に居るカエルの脳天に振り下ろす。


「らああああっ!」


 ぐらっとよろけたところに、


「ハッ!」


 もう一撃。

 二発食らわせないと倒せないのか。やはりしぶといな。

 おっと、


「カヤ、右だ!」

「はあっ!」


 俺の警告に応じ、近づいて来たもう一匹に警棒を振り上げ顎を砕く。


「にゃーっ、吹き飛べ、こいつぅ!」

「無茶をしないで下さい、ターニャ様! 間合いが近過ぎです!」


 後方からのターニャと、回避盾となって彼女を援護してくれるユスティーナの声が届く。


「ターニャ様、焦り過ぎです! 間合いを取って! 打ち込みに力が入っていません」


 ユスティーナの声。

 俺は、ターニャに指示を飛ばす。


「ターニャ、間合いを取らないと後は押し合い。軽いお前じゃ押し負ける! なるべく一撃で仕留めろ!」

「一撃でって言ったって!」

「何のためにお前を後方に下がらせたと思う。渾身の撃ち込みができる間合いを取るんだ! こいつら簡単に倒せるウシガエルとは種類が違うぞ!」


 食用にされているウシガエルはこんなにエラが張っていなかった。


「駄目ですターニャ様、それは毒ガエルです! 耳の後ろには毒腺が」

「なっ!?」


 ターニャは横から撫で斬りにしようとした一撃を寸前で止める。

 危うく毒腺を斬りつけるところだった。

 この距離では飛沫で目をやられる危険性がある。

 解毒剤、アンチドーテはあるが、使わずに済むのに越したことは無かった。


「てことは、やっぱり正面からしか打ち込めないじゃないの!」

「だから脳天への一撃ができる間合いを取るんだ。それ以外のところに当たったら一旦退け!」


 俺とユスティーナ、二人の適切な助言を受けてようやくターニャは勝負を五分に持ち込む。

 それだけ相手は強かった。


「毒ガエル…… 身体に毒を持つので天敵の居ない相手。だからこそ、ここまで大きく成長ができるんですね」


 毒ガエルの攻撃を模擬戦用のバトンでいなしながらユスティーナが呟く。

 そして、


「ぶろうくん・ねこぱんち!」


 止めの一撃を俺は放つ。

 魔力で形成された猛回転するネコパンチが、毒ガエルの顎をぶちのめす。


「ふぅ、何とか片付いたか」

「お疲れ様、コジロー」


 安全を確かめてから毒ガエルの亡骸に近づくカヤ。


「肉は毒で食べられないから、皮ぐらいしか剥ぎ取る物が無い」


 眉根を寄せて言う。

 地球でも駆除した毒ガエルの皮を使った革細工があったっけ。


「毒腺は……」


 ターニャが言いかけるが、ユスティーナがそれを否定した。


「薬にもなるらしいですが、素人が手を出すのは危険です。幻覚作用があって中毒になる者も居るそうですから」

麻薬ドラッグ?」

「そのような物です。とにかく、その毒は危険です」

「あぅ、お腹を捌いたらファット・ラットの子供が出てきた」


 剥ぎ取り用の小型ナイフで毒蛙の解体を行い、皮を剥いでいたカヤが叫ぶ。


「ウシガエルもそうなんですが、カエルの類は動く物は何でも丸飲みしますからね」


 それがカエルに共通した特徴だった。

 こうして毒腺を潰さないよう気をつけなければならない毒ガエル、鋭いカミソリのような前歯で皮膚を切りつけてくるバンパイア・バット、素早く噛み付いてくるファット・ラットなどなど一癖も二癖もあるようなモンスターを倒していく。


「ファット・ラットの肉は食用として売れるしな」

「ね、ネズミの肉を食べるのぉ?」


 ターニャが退いているが、


「野生のネズミの肉は少し油っこいが美味いんだぞ。病気も持ってないしな」


 これは事実だ。

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