45『天国と地獄』とは、右手と左手の力を合わせて放つ、ネコビト最強の必殺技だ!!
「んぅっ、我慢して下さいな。ちゃんと奥まで入らないと意味が無いでしょう?」
ユスティーナの繊手が優しく、しかし強引に俺を導く。
「放してくれ? 駄目です。ご主人様はこうしないとすぐに出ちゃうじゃないですか」
上気した表情で俺の耳にささやくユスティーナ。
「あっ、駄目っ、そんな乱暴にっ、ああっ、熱いっ!」
迸る熱い飛沫がユスティーナに注がれる!
「いや、お湯を嫌がる、すぐに出たがるコジローをユスティーナが引き止めてるだけだからね。暴れた拍子に熱いお湯がかかってしまっただけだから」
「くぅ? ターニャ、何言い訳してるの?」
「ああ、もうっ、ユスティーナ、恍惚とした表情をしてないでコジローを貸しなさいっ! 洗ってやるから!」
パン、パパンと手を叩いて広げアピール。
パスを要求するターニャ。
俺はバスケットボールじゃねぇぇっ!
「もう嫌にゃあああっ!」
ターニャの度重なるアニマルハラスメントに耐えかね、浴槽を飛び出る俺。
語尾がおかしくなっているがそれどころじゃない。
「あ、ご主人様、待って下さい」
バスタオルを巻いたままの姿で追いかけるユスティーナ。
俺はぷるぷると身体を振って水分を飛ばす。
「ご主人様、それではダメです。きちんと拭かないと風邪ひきますよ」
ユスティーナはバスタオルを俺にかぶせ、もがく俺の身体を拭こうとする。
「ふふん、しょせんケダモノねっ」
マッパで仁王立ちして俺を見下すターニャ。
少しは隠せ。
「……よくもやってくれたにゃ」
「こ、コジロー?」
俺ににらまれ、慌てるターニャ。
「アタシはあんたのためを思って……」
「ウソにゃ、絶対、面白がってたにゃ」
「う……」
「お仕置きにゃ! 天国と地獄!!」
『天国と地獄』とは、右手と左手の力を合わせて放つ、ネコビト最強の必殺技だ!!
「にゃああああぁぁっ!!!!」
両手のにくきゅうでふにふにしながら、同時にちきちきと爪を立てるというそれは、正に天国と地獄!!
「っ! っ!! ~っ!!」
声も出せずに身体を痙攣させるターニャ。
「どうにゃ、反省したにゃ!」
そんなことを言われても、返事はおろか、うなずくことすらできない様子だ。
それを見下ろしながら、興奮状態になっている俺は、獲物をいたぶるときに見せるネコ族独特の笑みを見せてやる。
「これだけしても反省しないなんて、いけない子にゃ。もっとお仕置きが必要にゃ」
「~~~~!!」
「はぁはぁ…… どうにゃ、反省したにゃ?」
息を切らしている俺。
足下では、ターニャがぐったりとのびていた。
時折、その身体にひくひくと痙攣が走る。
「も…… と……」
息も絶え絶えの様子で何事か呟くターニャ。
「何言ってるにゃ?」
ターニャの口元に耳を寄せる俺。
「……もっと」
がしっ、
「にゃっ!?」
「コジロー、もっと、してぇ」
「ふぎゃあああああっ! ターニャが変態になったぁ!」
「コジロ~」
そんな一幕もあったのだが、温泉の効能で小回復した俺たちは気を取り直して荒れ地を進む。
「また一緒におふろに入りましょうね、ご主人様」
「いやにゃああああっ!」
……気を取り直して進む。
「あれは……」
上空に巨大な影がかかる。
「隠れろ!」
俺の指示で皆が岩陰に隠れる。
見上げた視界の中、巣にしているのだろう、一番高い岩場に降り立つのは真紅のウロコに覆われた、翼を持つモンスター。
「見事なものですね」
ユスティーナが詰めていた息と共に言葉を吐き出す。
「竜だ」
カヤも興奮を隠せない様子で言う。
「ま、まさかあれと戦うなんて言わないわよね」
そう言うターニャの声は震えていたが、
「まさか」
俺のその言葉に、ほっと息をつき、
「今日は帰って十分に休み、明日改めて挑戦するに決まってるだろ」
と続く言葉に思いっきり顔を引きつらせる。
「ともかく、遺跡が管理するゲートを探そう。まだ生きていれば登録が可能なはずだ」
登録しさえすれば、今度はジャンプの魔術で一息に来ることができる。
ユスティーナの魔力の消耗も激しいこともあるし無理することは無かった。
こうしてその日の冒険は終わったのだった。
そして、翌日。
スパイクアーマーをターニャに合わせてサイズ調整し終わった俺たちはドラゴンの居る火山地帯、通称火吹き山へとジャンプの魔術で跳んだ。
「今度は火竜が相手なんだよな」
ターニャが使うシュバルツシルトは炎の吐息等、ブレスへの耐性を持つ盾だ。
ここはターニャに頑張ってもらうべきだろう。
「ユスティーナはこいつを持っていてくれ」
俺は昨日入手したばかりのライト・クリスタルをユスティーナに渡した。
「これを預けて下さるということは、今度の敵には目つぶしが効くということですか?」
さすがユスティーナ、理解が早いな。
「効く確率はそんなに高くないがな。まぁ、手隙の時にでも使えばいいさ」
その程度のものだった。
そうして準備を整えた俺たちはいよいよ敵の本拠地、竜のねぐらに足を踏み入れる。
小山のような巨体に、ぎらぎらと光る赤いウロコ。
そして鋭い牙と角。
「よくぞ来た、人の子よ……」
どのような発音器官を備えているのか重々しい声で語り始める火竜だったが、
「行くぞ!」
メッセージをスキップして俺たちは戦い始める。
「うぬっ、いいこと言ってるんだから話を聞かんか!」
あー?
弱者のたわ言など聞こえんなぁ。
「ミラージュ!」
ユスティーナが使ったのは、相手の精神に働きかけ蜃気楼のような幻を見せる魔術。
それによってこちらへの打撃を外す効果が見込める。
もっとも、炎の吐息のような広い効果範囲を持つ攻撃を仕掛けられるとどうしようもないのだが。
「にくきゅう・しぇーど!」
俺はと言うと、いつもの魔術障壁を張る。
この時点ではこの魔術さえあれば他に何も要らないくらいだった。
「ふっ!」
カヤは魔導リボルバーの連射を火竜に浴びせかける。
放たれた呪弾は火竜の強固なウロコさえ貫く。
「よくも!」
怒りのままに口から炎の吐息を放つ火竜。
燃え盛る火炎が俺たちの身体を舐めて行く。
盾をかざして何とか耐えるが、それでもかなりのダメージを受けた。
だが、ピンチな時ほど強がって見せるのが俺の流儀だ。
ブレスの残滓で口元からゆるゆると煙を漂わせる火竜に向かってこう言ってやる。
「いいことを教えてやろうか? 俺の前ではいつだってどこだって禁煙だ」
何人たりともな!
「ふざけるな!」
真剣ですが何か?




