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41 逝って来い大霊界

 俺たちは木人路への挑戦権を買ったためにすっからかんになった資金を貯める意味もあって、勇者学園の放課後の時間を利用して地下都市群キサナドゥに来ていた。

 現在はここへのゲートは閉じているが、一度到達していればジャンプの魔術で気軽に訪れることが可能だった。


「コジロー、術士に必要なものってなに?」


 戦闘の合間にカヤが聞く。


「カヤは何だと思う?」


 俺は逆に聞いてみる。

 ターニャが口を挟む。


「上級魔術じゃないのよね?」


 人の話を聞かないお前にしちゃ、よく覚えていたな。その通りだ。

 カヤは考えた末、こう答えた。


「できるだけ多くの魔力?」


 俺は首を振る。


「確かにあった方がいいが、そんなのは節約して肝心なところで十分に使えるようにリソース管理すればカバーできる」


 もっと切実なものだ。


「素早さ、でしょうか?」


 そう言うのはユスティーナだ。


「確かに先制できるのは大きいが、攻略の最大の障害となるボスキャラ戦では足を止めての殴り合いになる。先制は確かに有効だが、そこまで決定的なものじゃない」


 もっと単純なこと。


「ボスキャラ戦で術士に一番必要なもの。それは……」




 地下都市群キサナドゥには廃墟となった街がいくつか点在し、そこは魔物の巣となっている。

 内部では役に立ったり金になったりするアイテムが拾えるため、経験を稼ぐためにも順に制覇して行く。


「ふむ、金が溜まったしユスティーナ用の鎧を買うか」


 マジカル・キャッスルにてメイド服の上に身に着けることのできる胸当てを購入する。

 これ以上の品というと、メイド服と一緒には着れない物になる。

 ユスティーナのメイド服は鋼より強い絹糸を特殊な四層織りにした生地で作ってある上、魔術除けの加護があるものだったから、これを生かした武装の方が現時点では強かった。


「んっ、きつい……」


 ユスティーナの爆乳とも言うべき豊かな胸を収めるには、吊るしの鎧では駄目なようだ。


「あー、サイズ直しを頼む」


 やれやれだった。

 ついでに先のことを考え、ユスティーナのメイド服に合わせた魔導リボルバー用の隠蔽コンシールメントホルスターを注文する。

 カヤが使っていた抜き撃ちに最適化したクイックドロウ・ホルスターではメイド服に合わないということもあるが、盗賊系の職業クラスであるメイドの彼女としては隠蔽性の方を優先させたかったからだ。

 彼女は十分に素早いため、クイックドロウ・ホルスターの『抜き撃ちに対する成功率上昇ボーナス』が不要ということもあるし。


「それじゃあ今日はここまでね」


 ターニャがほっとした様子で言うが、


「お前は何を言ってるんだ?」


 俺は真顔で言ってやる。


「だ、だってユスティーナの鎧が……」

「ああ、だからお前用にとっておきの仕事があるぞ」


 俺はターニャをとんと押す。

 すると使用禁止の試着コーナーにターニャは足を踏み入れ、そして開いた落とし穴に落ちて行った。


「ひあぁぁぁぁ~」

「悪いなターニャ。そのクエストは一人用なんだ」


 落とし穴は自動的に閉じ、これ以降は落ちた者が出て来るまで入ることができなくなるのだ。


「お客さん、そこは空間がおかしくなっていて中にはモンスターが……」


 慌てる店員にはこう言ってやる。


「大丈夫ですよ。あいつもそれなりに鍛えられていますから」


 範囲攻撃が可能な女王のムチ+2と狂戦士化アドレナリン・ブースターの呪紋の組み合わせで集団の敵も処理できるし、補助的な魔術の使用も可能だ。

 俺たちの中では一番の適任者だった。

 まぁ、効率的な攻略を目指すなら、クエストの重複受付ダブルブッキングなんぞ日常茶飯事だからな。




 一時間後。


「や、やっと戻れた……」


 よれよれになったターニャが帰ってきた。


「よしよし、黄泉の鎧も手に入れてきたな」


 ターニャが行ってきた空間はマジカル・キャッスルが保有する膨大な魔力によって生まれた歪みにより、黄泉の国へと繋がっていた。

 そこでは強力な防御力を秘めた黄泉の鎧が手に入るのだ。

 俺はターニャから黄泉の鎧を受け取ると、武具屋の店員に聞いた。


「それじゃあ、これを買ってくれるか?」


 俺の申し出に、店員は驚いた様子で聞いた。


「ええっ、これを売ってしまったら二度と手に入らないかもしれない品ですよ。本当にいいのですか?」


 確かにこれはレアアイテムの一つだが、


「構わんよ」

「いやいや、構いなさいよ!」


 ターニャが叫ぶ。


「アタシがせっかく取って来たアイテムを目の前で速攻で売ろうとすんな! 大体、これって今まで手に入れてきた鎧の中でも一番いいのじゃないの?」


 気持ちは分かるが、そういきり立つな。

 狂戦士化アドレナリン・ブースターの呪紋が作動してるぞ。

 このアドレナリン中毒者ジャンキーが。


「確かに、この鎧は現時点で最強の防御力を持つ品だが」

「だったら!」

「まぁ、そう言うなって。ただ、今俺たちが使っている品のような魔術への耐性などの特殊効果を持っていないんだ」


 ターニャは目を瞬かせた。


「それでも防御力が高い方がいいんじゃないの?」


 それは素人の考えだな。


「これからは魔術やブレスなどの攻撃をかけてくるモンスターが増えて来るからな。単純に防御力が高い防具より、耐性が付いたものの方が例え防御力が低くても有利なんだ」


 黄泉の鎧はレアアイテムだけに高く売れた。


「でも、そんなにお金を貯めてどうするの?」


 カヤの質問にはこう答える。


「ああ、次のヤマを越えたら買い物しなくちゃならんからな」


 絶対ではないが、買っておくに越したことは無い買い物だった。




 翌日、再びマジカル・キャッスルを訪れた俺たちは、仕上がったユスティーナの鎧を受け取ると、マジカル・キャッスルの閉鎖区域に足を踏み入れた。


「さて、それじゃあボスキャラ戦と行くか」


 ここに巣食っているのは身長四メートルはあろうかという巨体を持つオーガロード。

 人食い鬼の王族だった。

 ダンジョンと違って入ってすぐに戦うことができる。


 ドアも壊れているため鍵開け用のピッキング・ツールや破壊侵入用のエントリー・ツール、ハンマーや手斧ハチェットなども必要ない。

 銃で鍵を破壊すれば?

 映画やマンガの見過ぎだな。

 実際には鍵は通常の銃弾程度では壊れないし跳弾で怪我をするのがオチだ。

 金属製の鍵を抜くには散弾銃ショットガンに熊撃ち用のでっかい一粒弾スラッグショットを使うことが必要で、だからそれは「ドアブリーチャー」や「マスターキー」と呼ばれるのだ。


 察知されないよう、影が入り口にかからないことに気を付け、低い位置に小さな手鏡だけを突き出して素早く鏡越しに室内を確認する。


「障害物は無し、か。なら窓から突入する必要は無いな」

「窓からって?」

「ちょっと考えたら分かるだろ。敵が室内に立てこもっているとして、真っ先に障害物バリケードを築くのはドアに決まってるんだから」


 窓からの突入、ウィンドー・エントリーは特殊部隊などでもよく使われる手段だった。


「勝てるの?」

「さぁ、神のみぞ知るってやつかな?」


 ターニャにはそう答える。

 もっとも、その神様に請われて俺はここに居る訳だがな。


「部屋に入ったら立ち止まるなよ。絶対にドアの前で止まったりドアから入った所で武器を構えたりするな」


 俺たちはチームで行動しているんだから後続の邪魔になるし、そもそも室内に居る敵が反撃する場合、まずドアの方向を狙うからだ。


 遮蔽物を利用するのも重要だが、オーガロードの投擲する石つぶての前には建物の内壁など貫通してしまう。

 視界を遮るソフトカバーにしかならないから注意が必要だ。


 そしてメインで扱う武器に問題が起こった場合に切り替える予備の武器も確認。

 戦闘中に悠長にトラブルを解決している暇は無いからだ。

 常に最悪のケースを想定しておけば、実際の行動はより簡単になる。


 こうして俺たちは作戦を立てた上、勝負を挑む。

 俺は突入前に皆にこう言ってやる。


「それじゃあ、邪魔者にはさっさと眠ってもらうことにしよう」


 永遠にな。

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